たまりば

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2020年09月18日

禁断の公式。


毎年のように、中3の男子の間で流行する「公式」があります。
集団指導塾の上位クラスに通っている友達あたりから教わるのでしょうか。
気がつくと使うようになっていて、そのせいで誤答が増え、私に使用を禁止される解き方です。

そうした子は、例えば、こんな誤答をします。

(2-√7)2
=-5-4√7

ノートにこれしか書いてないので、逆にピンとくるのです。
これは、あの解き方を誤用したのだな?

そんな禁断の「公式」とは、どんな公式か?
種明かしをすれば、何でもないものです。
(√a+√b)2
=(a+b)+2√ab

例えば、
(√2+√3)2
=5+2√6

1行で答が出るので、字を書くのが嫌いな子や、そういうのがカッコいいと感じる子に好評の解き方です。
この程度のことなのに、毎年ブームが起こり、男子生徒の多くがこれにカブれます。

もともとは、普通の乗法公式です。
(a+b)2=a2+2ab+b2

これが、aもbも平方根なら、平方根の中身の数字を単純に足すだけなので、(a2+b2)を先にやって、1行で済ましちゃいなよ、という解き方です。
公式とすら呼べないしろものです。
とにかく、どうでもいい。
くだらない、とすら私は思うのですが、なぜか男子の多くはこれにハマります。
男女を区別するのは今どきもう古い、ジェンダーを強化するな、というのは私もそうだと思うのですが、現実には、学習上の好みの違いは存在します。
この解き方に無駄にハマる女子を私は見たことがないのです。
使っている子もいるのかもしれませんが、使っていても確実に正答するので、使っていることを私に悟られないのが女子、ということはあるのかもしれません。
こういう解き方をすると計算ミスをしそうな女子は、最初から使わないのでしょう。
おのれの計算力を顧みず、使って失敗し、私に使用を禁止されるのが、男子。
そういう違いがあるように思います。

(√2+√3)2 のように、両方とも平方根であるなら、この解き方は魅力的です。
しかし、片方整数である場合、無駄な暗算が必要になります。
(2-√7)2 の場合は、2は2乗して4にし、それに√7の2乗の7を足さなければなりません。
=11-4√7
これを一瞬で行うことができ、精度100%であるなら、私は文句を言いません。
しかし、一度暗算した計算結果を使って、さらに次の暗算をするという二重の暗算は、精度が落ちます。
無駄に時間もかかります。
上の誤答例のように、暗算に混乱したあげく、2-7をしてしまうような精度なら、使わないほうがいいのです。
公式は、それを使うから計算が簡単になったり精度が上がったりするのでなければ意味がありません。
ケアレスミスが増えるだけの解き方など、公式ではありません。

「こんなくだらないことで誤答して、5点、5点と点を失って、それでどうやって得点を固めるの?
正答できるかもしれませんが、できないかもしれませんよね?
そんな精度のテクニックを取り込んで、それで高校に落ちたら、どうするの?
解けない問題があるのは仕方ないんですよ。
でも、こんなことで点を失ってしまうのは、私は本当に嫌なんですよ。
努力して努力して、応用問題を解けるようになっても、こんなことで点を失ったら、何も変わりませんよ。
同じ5点なんですよ?」

1回叱責すると、受験生ならば、それで治る場合が多いです。
中高一貫校の生徒は、受験が目前ではないので、この叱責ができませんし、治らない場合が多いのですが。


計算ミス・ケアレスミスに関しては、これは無理だ、これは完全には治らないだろうという場合もあるのです。

以前も書きましたが、1つには、数学の問題を解いていても、精神的にフワフワし、他のことを同時に考えているタイプの子。
目の前の数学の問題に集中することができず、問題を解きながら、常に他のことを考えているのです。
なぜ、そうなるのか、本人にもわからないし、制御することもできない様子です。
例えば、問題の解き方がわかって、計算をしながら、私に、
「今日は、何ページまでやるの?」
と質問してきたりします。
なぜ、計算しながら、そんなことを質問してくるの?
なぜ、計算に集中できないの?
そして、案の定、計算ミスをするのです。
話し相手が傍にいるからそうなるので、独りで勉強しているときには集中するのかというと、そんなことはないのです。
独りなら独りでも、問題を解きながら他のことを考えているのは同じです。
目の前の1つのことに集中することができない。
常に気が散ってしまう。
そういう性分なのでしょう。

もう1つは、数学への苦手意識が強く、過度に緊張している子です。
ミスすればするほど、不安な表情になり、さらにミスが増えていきます。
小さなことで簡単にパニックに陥ります。
問題の読み取り間違いや式の書き間違い、符号や指数の書き漏らしがとにかく多いです。
数学の問題を解いているときの精神状態が悪いのです。
あがり症の人が大舞台に立つときのような精神状態になっているのだと想像されます。
数学の問題を冷静に考えられる精神状態ではないので、テストは信じられないようなミスを連発します。

以上の2つは、心の問題が大きいので、そう簡単には治りません。
こういうケアレスミスが簡単に治ると思っているほうがおかしいとすら思います。
本人が自分の心の状態を自覚し、ミスの多さと一生つきあっていく覚悟を持つ必要があります。


しかし、そうではなく、計算のやり方や、式の書き方次第で治せるケアレスミスもあります。
上の、禁断の「公式」を使用しないことなどはその筆頭です。
正答できるかもしれない。
でも、失敗するかもしれない。
精度は人によるでしょうが、成功率70%であっても、そんなものは使用しないほうがいいでしょう。

しかし、成功率50%であっても、その解き方のほうを選んでしまう中学生もいます。
丁寧に書いていくのが嫌なのだと思います。
字を書くことが、あまり得意ではないのかもしれません。
読みやすく粒の揃った字を水平にササッと書いていくことができない子は案外多いです。
字の大小がそろわず、だんだん大きくしかも斜めになっていき、解答スペースや計算スペースがなくなってしまう子もいます。
粒のそろった字を素早く書いていくことは、授業を受けていて板書を書き写すときなどにも必要な技術なのですが、そういうことが上手くできない。
1文字1文字、字を書くのに時間がかかる。
精神的なストレスもかかる。
だから、1行でも答案を減らしたい。
楽したい。
そういうことも影響しているかもしれません。


とはいえ、私もそんなに丁寧に何もかも書けとは言いません。
意味もなくくどい書き方をする必要はないのです。
例えば、「正負の数」の学習が終わった中1ならば、もう符号は省略して書いていって良いのに、異様にくどくどとした符号の書き方が癖になって、なかなか治らない子もいます。
-3-(-7)×(-2)
といった計算問題を解く際に、
=-3+(+7)×(-2)
=-3+(-14)
=-17
と、丁寧に丁寧に書いています。
別に間違っているわけではないですが、そんなのは、
-3-(-7)×(-2)
=-3-14
=-17
で、いいのです。
符号の決定と絶対値の決定を分割して行っていくことで、計算は正確になり、かつ短時間で行うことができます。
上のようにくどくどと何行も書いたあげくに途中で符号を書き間違えている答案を見ると、がっかりします。
何行も書いていくことで、符号の書き間違いのリスクが高くなっているだけなのです。


「1次方程式」を学習すると、これも最初に学習した丁寧な解き方から脱却できず、
7x+5=2x-15
7x-2x=-15-5
5x=-20
x=-4
といった、丁寧な丁寧な答案を書く子もいます。
間違っていないからそれでも構わないのですが、上の2行目は書かなくても大丈夫です。

7x+5=2x-15
5x=-20
x=-4

という計算は、精度を保ちながら行うことができます。
しかし、計算ミス・符号ミスの多い子の中に、以下のような省略の仕方をする子がいます。

7x+5=2x-15
7x-2x=-15-5
x=-4

3行目を省略するのです。
見る度に、ぎょっとする答案です。
なぜ、2行目をわざわざ書くのに、3行目を省略するの?
加法してさらに両辺を何かで割るという二重の暗算をしたら、精度が下がって当然です。
符号ミスも多くなります。

一番上で書いた、禁断の「公式」も、平方根以外のもので使用した場合、2乗して、さらにたし算をするという二重の暗算がネックとなり、精度が下がるのでした。
大抵の人間は、二重の暗算を100%の精度では行うことはできません。
大体はできるかもしれない。
でも、間違えるかもしれない。
その程度の精度しか保てないのが普通です。
しかし、この二重暗算、やってしまう子は多いです。
移項を暗算するのは、一度の暗算ですから、移項に関する符号処理が理解できていない子を除けば、ほぼ100%の精度で行うことができます。
しかし、移項の処理を最初に学習したときから一度も省略したことがなく、もう書かないと計算できなくなっている子もいます。
それでいて、その次に二重の無理な暗算をします。
答案を見る度びっくりするのですが、こんな書き方が癖になっていて、もう直せない子もいます。

繰り返しますが、1つの暗算なら精度を保つことができても、暗算した結果を使ってさらに暗算を重ねると、普通の人間は精度が下がります。
目に見える形のもので暗算することは、暗算の精度に必要なことなのです。
そのことが理解できていない子が、不用意に二重暗算をし、自ら計算精度を下げています。


こんな暗算ミスも多いです。
これは「文字式の計算」。
例えば、こんな問題です。
ちょっと見にくいと思いますが、分数式です。
まずは丁寧な計算から。

4x+2 /3 - 7x-5 /2
=2(4x+2)-3(7x-5) /6
=8x+4-21x+15 /6
=-13x+19 /6

このように丁寧に通分していけば、精度を保てます。
しかし、ここで、一気に通分しながら分子もそれぞれ計算する子が多いです。
そして、後ろの分数の前にある負の符号を処理できず、計算ミスをします。

4x+2 / 3 - 7x-5 / 2
=8x+4-21x-15 / 6
=-13x-11 / 6

私は、こんな計算ミスをもう何十年も見ています。
ああ、この子もそうか、と思いながら。
通分しながら分子もかけ算した結果を書いていくという作業だけなら何とかできても、そこに後ろの分数は符号が変わるという条件まで加わると、正確に処理できなくなるのです。
人間の精度なんて、そんなものです。

そんなミスを繰り返しても、自分の精度の限界を把握できず、同じことをいつまでもやってしまう子は、数学の成績がなかなか上がりません。
それはそうです。
穴の空いたバケツで水を汲んでいるようなものですから。
解くことのできる問題が増えても、計算ミスも増えていたら、正答は増えません。


これまで、数学の成績が急上昇していった子の例を思い出すと、もともとうちの塾に来る前から計算の精度は高く、計算ミスのことをとやかく言う必要のなかった子が多いのが事実です。
考え方がよく身についていなかったり、数理の根本について何が誤解があったりして、しばらく妄言を繰り返したりはしますが、数か月後、ロケット並みの上昇をしていきました。

その他に、これは年齢的なことがあったのだと思いますが、入塾当時はおそろしいほど計算ミスをしていたけれど、中3から高1くらいの時期に、まるで脳がきゅっとしぼられたように計算精度が上がり、数学の成績が高めに安定していった子もいました。
これは、本人の脳の発達によるものだろうと推測されます。

そうして、少数ですが、私が直しなさいと言ったことは全て直し、計算過程を改善することで計算精度を上げ、正答率を高めていった子たちがいました。


同じ計算ミスを繰り返す子に尋ねたことがあります。
やり方をどう直せばいいのか、わからないの?
それとも、無理な暗算でも自分はできると思い、自分のやり方をどうしてもつらぬきたいの?
有名中高一貫校に通っている生徒でした。
理解力はあるのに、計算ミスばかりしていて、毎度毎度テストで落第点を取り、学校の補習を受けていました。
しかし、理解力があるというのはやはり物凄いことで、答など期待していなかった私の問いに、その子は答えました。

理解はしている。
直そうと思っている。
でも、実際に問題を解くときには、そのことを忘れてしまう・・・。

計算ミスをしやすい計算過程を直せない子の、直せない理由として、これ以上の説得力のある言葉を、私は聞いたことがありません。
そうなんですよね。
理解できないわけでもなく、反抗したいわけでもなく、ただ、直せないだけなんです・・・。
多分、皆、そうなんです。


先日も、高校生が、2次関数の平方完成で、こんなミスをしていました。

y=1/2x2+2x-6
=1/2(x+1)2-1/2-6
=1/2(x+1)2-13/6

・・・x2の係数が1ではないときは、いきなり平方完成するなと、もう何回言ったかわからないのに・・・。

y=1/2x2+2x-6
=1/2(x2+4x)-6
=1/2(x+2)2-2-6
=1/2(x+2)2-8

と、一度、1/2で単純にくくってからのほうが、平方完成は精度が上がるのです。
こうしたほうが頭が楽で、正確で、結局速いのです。
何度も何度もそう説明しているのに・・・。

理解できないわけではない。
反抗したいわけでもない。
ただ直せないだけ。
わかっているけれど、直せない。

きっとそうなのです。
例えば私が急に草野球のピッチャーをやることになって、投球フォームをあれこれ直せと言われたら。
言われていることは多分理解できるし、反抗したいわけではないけれど、きっと直せない・・・。
そういうことは、誰にでもあります。
そのとき、私はどのように声をかけてほしいだろう・・・。


私は、同じようなミスを何十年も見ています。
ああ、この子もそうか、と思いながら。
けれど、それでこの仕事をむなしいと思うことがないことの1つに、あの子の教えてくれた言葉があるような気がします。
そして、それを乗り越えて成績を上げていった子たちの記憶が、さらに私を支えてくれているのです。

  


  • Posted by セギ at 12:13Comments(0)算数・数学