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2023年03月18日

数Ⅰ「三角比」余弦定理で起こりやすいミス。

数Ⅰ「三角比」余弦定理で起こりやすいミス。

高校数学は、解説を聞けば理解できる子のほうが多いです。
特に数Ⅰにおいては、もう全く意味がわからない、もう無理・・・という子は全体の半数以下でしょう。
しかし、理解していても、実際に問題を解くと、正解できないのです。
途中でミスしてしまいます。
例えば「三角比」。
典型題におけるミスには一定の原因があります。
今回は、その分析をしてみたいと思います。

こんな問題。

問 △ABCにおいて、AB=8、AC=5、BC=7 とする。 cos Aの値を求めよ。

これは数Ⅰ「三角比」の基本問題です。

しかし、問題を見つめたまま、なかなかペンを動かさない子がいます。

「・・・わかりますか?」
と問いかけると、
「はい」
という返事が返ってきます。
わかるのならすぐに解けばいいのに、何をしているのだろう?
本人は何か考えていて、あっという間に時間が過ぎているのでしょうが、はたで見ている者からすると、不可解なほど長い時間が経っています。

・・・何をしているの?
なぜ、わかるのなら、答案を書き始めないの?
数学を教える者と、数学が苦手な生徒との、暗くて深い断絶を感じるひとときです。

彼らは、何をしているのか?
まさか、頭の中で解き方を最後までシュミレーションしているのでは?
小学生の頃と同様に、答が出るところまで確認してから問題を解こうとしているのではないか?

いや、この「まさか」、実は可能性があります。
特に、中学受験をして私立の中高一貫校に入学し、その後の勉強をサボってしまった様子の子に、こういう状態の子がいます。
数学の問題の解き方を学ぶ大切な時期に、あまり勉強しなかったので、解き方がいつまでも「受験算数」なのでしょうか。

受験算数が悪いわけではないのです。
受験算数と数学は、むしろ親和性が高い。
ただ、受験算数の本質を理解せず、解き方だけ丸暗記し、あとは反復に反復を重ねて、表面上はマスターしただけの子は、課題が多いのです。
彼らが覚えているのは「手順」なので、なぜそれで正解が出るのか、意味を理解しているとは限りません。
論理を重視していません。
答さえ出ればいいと誤解しています。

途中式や考え方を記述する問題を出題する中学もありますが、解答用紙に答だけ書く入試形式の中学のほうがまだ多いです。
私立中学入試の合否は即日発表が基本ですから、記述答案を丹念に見ている時間はありません。
解答欄に答だけ書く形式のテストが多いのも無理はありません。

また、受験生たちの学力にもよりますが、記述問題を出してもほぼ全員×で差がつかないので、記述力が合否に反映されないことも一因でしょう。
都立の中高一貫校の適性検査のように、算数はほぼすべて記述問題となると、受験生の大半が算数の得点が低いので、国語や社会や作文の得点差が合否を決めてしまうことがあります。
算数が得意な子も苦手な子も、算数の点数が低い。
国語や作文が得意な子のほうが有利。
結局、合格した生徒の大半は理数系が苦手で、国立大学の進学実績がパッとしない・・・。
算数の記述問題を入試に出すとそんなことになる、という本末転倒な結果もあり得ます。

そんなわけで、中学受験生だったからといって、数学答案の記述力が高いわけではありません。
それは、受験しなかった子たちとあまり変わりません。
中学の数学の授業で、数学の答案はどう書いていくのか、平等に基礎から学ぶことになります。
その中で、数学へのバージョンアップができない子が、中学受験生の中に現れます。

もう一度、問題を見ましょう。

問 △ABCにおいて、AB=8、AC=5、BC=7 とする。 cos Aの値を求めよ。


やっとペンが動き始めたと思って様子を見ていると、答案の1行目に、

49=64+25-56・cos A

と間違った式を書いてしまっています。

しかも、その後が、

cos A=49-64-25+56
=16

答16°

となっていて、あまりのことに息を飲む、ということもあります。
この答案は、0点です。

何がまずいのか?
解説します。

三角形の3辺の長さがわかっていて、コサインの値を求める際に使うのは、余弦定理です。
数学の答案は、まず何に着目し、どのように解いているのかを明示するのがルールです。

この問題では、△ABCしか存在しませんから、「△ABCにおいて」を割愛しても許容されるとは思いますが、
「余弦定理により」
を1行目に書くことが必要です。
しかし、これが恐ろしいほど定着しない子たちがいます。
延々と考えたあげく、1行目に、いきなり暗算した結果の式を書いてしまうのです。
何の定理を使っているのかの明示もなく、暗算ミスして間違った式を1行目に書いてしまったら、それはもう0点です。

「いや、今は練習しているだけなので、本番では書きますから」
と、変な言い訳をする子もいます。
しかし、コロナ禍以降、私は生徒に答案を音読してもらっています。
本当は必要なことなのだとわかっていたら、アドリブで「余弦定理により」を付け加えたらいいでしょう。
それをしない。
結局、「余弦定理により」と書くことの重要性がわかっていないのではないか?
本番だけはそれができると子どもじみたことを考えていても、返却されたテスト答案は、やはり書き忘れているのです。
そして、それを、本人は「ケアレスミス」として処理しがちです。
それは、ケアレスミスなのでしょうか?

「余弦定理により」を書かないことの他にもう1つ気になるのは、問題にある数値そのままを使わず、いきなり暗算した式を立ててしまうことです。
なぜ、1行目から暗算した式を書きたがるのでしょうか?

彼らは、答案というものを自分のための計算メモと誤解しているのでしょうか。
自分がわかれば、それでいい。
答が合っていればそれでいい。
そのような誤解をしているのでしょうか。
客観性が本人の中で育っていないのでしょうか。
くどくどした1行目を書くよりも、いきなり暗算した式を書くほうが、1行手間が省ける。
そのほうがスマート。
そのように誤解しているのでしょうか。

いや、そうではないのかもしれません。
式の1行目は問題文にある数を使って式を書きましょうと、繰り返し助言しても、一向に改善されないのです。
彼らは、そのようにしか書けないのではないか?
幼い時期に本人の能力を超えた過度な詰め込み勉強をやりすぎて、もう脳が疲弊して上書きできない状態になっているのではないか?
幼い頃に習得したやり方をいつまでも繰り出してくるのは、それ以外のやりかたを身につけることがもうできないからではないのか?


数学の記述答案は、何の定理を使って、どのように解いているのかを書くものです。
答案は、計算メモではないのです。
自分のためのものではありません。
答案は採点する先生に見せるためのものです。
先生が読んでわかるように書くものです。
1行目には使用した定理を書く。
2行目は一切暗算しない式。
それさえしっかり書いてあれば、その次の行はむしろ暗算した結果だけ書いてあっても、OKです。
勿論、適宜計算過程を書いて構いませんが、採点する先生はどうせそこは読みません。
計算結果が間違っているときだけ、前に戻って、どこから計算ミスをしているのか確認し、そこまでの点数をつけます。
それが数学答案の採点のルールです。
そのルールが理解できていないので、加点される行を省略し、採点されない行ばかり書いてしまう・・・。
裏・裏・裏ばかりで、無意味な答案になっています。


上の答案は、それだけではない課題を抱えています。
余弦定理を用いてコサインの値を求めるときは、余弦定理をあらかじめ変形した式を利用したほうが簡単に答が出るのです。

余弦定理の基本の式は、
a^2=b^2+c^2-2bc・cos A
ですが、それを変形した、
cos A=b^2+c^2-a^2 / 2bc
という式は、コサインを求める際に使い勝手が良く、覚えるべき式です。

ところが、数学が苦手な子は、この公式を覚えません。
これは、2次方程式の判別式Dの公式だけを覚えて、D/4の公式を覚えない子と重なります。
1つで済むものは1種類しか覚えないのです。
1つ覚えるだけで限界ならば仕方ない。
しかし、覚えようと思えば覚えられるけれど、無駄だと思って省略している子も多いように思います。
それは、無駄ではないのですが。
問題集の解答解説を読んでも意味がわからない原因の第一は、そうした公式を覚えていないことにあります。
数学がわからなくなっていく原因を、本人が作っているのです。

無駄な公式は存在しません。
使い勝手が良く、使う機会が多いから、公式になっています。
その「合理性」を理解していないから、「これは覚えなくてもいいかな・・・」と判断してしまうのでしょう。
本人の「これは覚えなくてもいいかな・・・」という判断が、合理的ではなくズレているのです。
数学センスがないというのは、そういうことの積み重ねです。

普通の余弦定理を使用しても、まわりくどいけれど、正解にはなります。
その場合は、

△ABCにおいて余弦定理より、
7^2=8^2+5^2-2・8・5・cos A
80cos A=64+25-49
80cos A=40
cos A=1/ 2
となります。

しかし、上の答案では、
49=64+25-56・cos A
と間違った暗算をした式を書いてしまっています。
-2bc・cos A
のところを暗算して混乱したようです。
そんな暗算をせず、目に見える形にすればミスをしないのに、そこを暗算してしまう子は一定数います。
そのように脳に負担をかけたせいか、その後の計算でも混乱が起こっています。

cos A=49-64-25+56
=16

答16°

1次方程式が解けなくなっている・・・。
これは、cos Aのところをxと置き換えればわかりやすいと思いますが、簡単な1次方程式なのです。
そして、「三角比」の問題を解いているときに、1次方程式が解けなくなってしまう子は1人ではありません。

もっとも簡単な例で示せば、
6=-3x
を解くのに、
x=6+3
とやってしまうようなミスです。

文字が右辺にあるとこのようなミスをしてしまう子が中1にいますが、そうした混乱が、高校数学を学習しているのに復活してしまう様子です。
難しいと感じたら、左辺と右辺を一度ひっくり返して、自分が見やすい形にしたらよいのに、それをしない。
うんうんと頭をひねって暗算し、間違えてしまうのです。

そうやって、
cos A=16
という奇妙な値が出てしまっても、何か間違えたなと気づけば、やり直せる可能性があります。
-1≦cos A≦1
というコサインの値の範囲を知っていれば、です。

cos A=16
は、ちょっと変だなと思ったのか、思わなかったのか。
結局、最終解答を16°とすることで処理しているのを見て、頭を抱えました。
「コサインは角度のこと」という混乱も三角比が苦手な子にありがちで、何度否定しても、それが頭の中に舞い戻ってきてしまいます。
無駄な暗算に頭を使うから、混乱しなくていいところで混乱するのではないでしょうか。
頭を使うところが違うのです。

そうしたしくじりの原因は、答案を記述するルールに従って丁寧に書いていないことにあると思います。
書くことは考えること。
書きながら論理を構築していくのですが、それができない。
最後まで見通してから解こうとしているようで、自ら迷宮に迷い込む。
ナビを書いていかないから、迷ってしまうのです。

さらに、覚えるべき公式を覚えていない。
「手順」重視のわりに手持ちの「手順」が少ない。
計算ミスをしやすくなる、手間のかかる解き方しかできません。
2つの公式を覚えない。
1つでいいやと、幼い判断をしてしまいます。
小学生が高校数学を学んでいるかのようです。

彼らは、数学に対する意識が幼い。
特に中高一貫校の生徒で、記述答案が全く書けない子を見ると、考えてしまいます。
図形の証明問題なども、公立中学で数学「3」を取っている学力ならば当たり前に正解できる定型の証明問題を解けず、意味不明の箇条書きしか書けない子が、中高一貫校の子にはいます。
証明とは何をどう書いていくことであるか、根本を理解していない様子です。

幼い時期に本人の能力を超えた過度な詰め込み勉強をやりすぎて、もう脳が疲弊して上書きできない状態になっているのだろうか?
幼い頃に習得したやり方をいつまでも繰り出してくるのは、それ以外のやりかたを身につけることがもうできないからなのか?

いいえ。
人間の脳はそれほど弱くはありません。
上書きは、いつでも可能です。
それができないのは、本人の意志のはずです。

おそらく、彼らは、間違った価値観で、間違った判断をしています。
自分のスタイルのほうが正しい。
何か言われても、関係ない。
考えるに値しない。

自尊心が高い子が多いこともあって、幼い頃に身につけたスタイルを改善できない。
その愚かさに気づかない。
そうした特性があるのだと思うのです。

能力が低いわけではありません。
能力は、その子の中に眠っています。
間違った価値観を捨てられれば、再生します。

時間はかかります。
しかし、今は、どうしても大学受験に数学が必要になり、その外圧も手伝って、本当にギリギリの時期に覚醒する子が増えてきました。
絶望ばかりではありません。
そう思います。




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