2023年01月15日
三角錐の体積。三平方の定理、三角比、あるいはベクトルを利用して。

問題 OA=OB=OC=8、AB=BC=CA=6である三角錐OABCの体積を求めよ。
これは、空間図形の計量に関する問題です。
例によって、この問題にまつわるエピソードをここから延々と書きますので、そういうことには興味ない、解き方だけ知りたいという方はずっと後ろに飛んでください。
生徒に、この問題を解いてもらったときのことです。
何段階かの過程を踏まないと体積が求められないという点では難しいですが、例題を参考に解いていける基本問題です。
大丈夫だろうと思って様子を見ていると、生徒のペンが全く動かないので不審に感じました。
「・・・どうしました?わからないですか?」
生徒はうなずきました。
「では、まず図を描いてみましょう」
「・・・」
「どうしました?」
「図が描けない」
「・・・え?」
図が描けない?
三角錐の見取り図を描けない?
どういうこと?
そんなバカなと思った瞬間、別の生徒のことを思い出しました。
その別の生徒は中1でしたが、以下のような問題を見つめて呆然としていました。
やはり、文が1行書いてあるだけの問題でした。
問題 半径6㎝、中心角135°のおうぎ形の周りの長さを求めなさい。
おうぎ形の孤の長さを求める公式を解説し、その利用の練習をした直後でした。
テキストの上部には例題解説があり、太字で公式が書いてあります。
困る要素は何1つないと思ったのに、その子は呆然としていたのです。
「・・・どうしました?公式を忘れたのなら、上の例題を見ていいですよ」
「意味がわからない」
「何の?」
「問題の意味がわからない・・・」
「え?」
こんなシンプルな基本問題のどこでつまずいているのだろう・・・。
こういうとき、言葉がとっさに出てこなくて長く黙り込む子もいますが、その子はカタコトでも何か発するタイプの子でした。
これは、教える者として非常に助かります。
「図が・・・」
「うん?」
「図・・・」
「うん・・・?」
・・・どういうことだろう?
「問題に、図がないということ?」
「はい」
「ああ。なるほど。なければ、自分で図を描きましょう」
「えっ。・・・ああ、そういうことかっ!」
その子は驚愕し、そして、私はむしろそのことに驚愕していました。
その子は、図がない問題など存在しないと思い込んでいたのです。
そう思って見直せば、その直前の問題には、確かにおうぎ形の図が添えられていました。
また、小学生向けのテキストは、図形問題ならば図が添えられていることが多いのです。
そういうものを見慣れていたその子は、問題に図が添えられていないということ自体が理解できず、混乱していたのでした。
その子の抱えていた課題もあったと思います。
文章を読むことが極端に苦手な子でした。
文字を1文字ずつ丹念に読むということが物理的にできないのだろうかと感じるほど、斜め読みや飛ばし読みをしていました。
助詞・助動詞の働きを理解できず、目立つ単語を拾って意味を想像しているだけのようでした。
中学生になっても、図やグラフが添えられている問題を解くときには、問題文など無視していました。
問題文の中に重要な情報があることに気づかず、図やグラフだけを見て、首をひねってしまうことの多い子でした。
しかし、そういう傾向は、大なり小なり多くの子に見られます。
図があるなら、そっちを見てしまう。
本を読むのが嫌いな子、文字を読むことにちょっとした苦痛のある子は、そうなりがちです。
そして、そんな傾向があるといっても、多くの子は、図が添えられていない問題ならば、諦めて問題文を読みます。
頭の中で図をイメージして考えます。
まさか、図がないことに呆然としてしまう子がいるとは。
図がない問題があることを理解していない子がいるとは。
そうした中1の子のことを思い出しながら、目の前の生徒に、私は言いました。
「まず、三角錐の図を描きましょう」
「描けない・・・」
「描けない?」
・・・どういうことだろう?
空間把握能力が低く、立体的な絵を描くことができないのだろうか?
例えば小学生に直方体の見取り図を描いてもらうと、空間の歪みを感じる不気味な図を描いてしまう子がいますが、そこから成長していないということなのでしょうか。
それを克服する練習をしてこなかった。
だから、三角錐を描けない・・・。
ただ、そのテキストには上に例題があり、三角錐の図が描いてあるのでした。
「テキストの同じページに例題の図があるじゃないですか。例題は正四面体で、全ての辺の長さが等しいですが、図は描いた者勝ちな面がありますから、そっくりな図をノートに描いて、辺の長さだけ、8とか6とか違う数字を書き込んでも、問題を解くのに影響はありませんよ」
「ああ・・・」
しかし、様子を見ていると、その子は、ノートに自分で三角錐を描くことはせず、テキストの例題の正四面体の図に、8や6といった長さを、書き込んでいました。
自分では描かず、テキストの図をそのまま利用することにしたのです。
その合理性がわからないわけではない・・・。
でも、そういうことをやっているから、いつまで経っても、三角錐を自力で描くことができないのではないのか?
できないことは練習したらいいのに、自覚があっても、なお、練習もしない。
しなくて済む方法を見つけてしまう・・・。
これまで、何度か書いてきましたが、勉強ができない子は、地頭の悪い子とは限らないのです。
むしろ、抜け道を見つけるのが上手いタイプの子に、学年が上がるにつれて成績が下がっていく子がいます。
「わり算は、問題文の中の大きい数字を小さい数字で割ればいい」
小学校低学年の頃に、誰に教わったわけではないのにそんなルールを自力で発見し、問題文を読まずに式を立てるようになります。
勉強がすべてそんなふうに抜け道の発見と作業手順の丸暗記になっていくので、気がつくと、数理の原則、数学的基盤がその子の中に存在しないのです。
数学において、何をしてよくて、何をしたらダメなのか、本人の中に判断基準がないのです。
子どもには自分の進む道の先が見えないので、その道が行き止まりであることに気づかないのです。
「・・・三角錐は自力で描けたほうがいいですよ」
「・・・」
「練習すれば、三角錐は描けるようになります。練習すればいいだけです。できないことは、できるようにすればいいだけです」
「・・・」
高校数学は、自分で図を描かなければならない問題も多いです。
例えば、以下のようなベクトルの問題です。
問題 四面体ABCDにおいて、線分BDを3:1に内分する点をE、線分CEを2:3に内分する点をF、線分AFを1:2に内分する点をG、直線DGが3点A、B、Cを含む平面と交わる点をHとする。DG : GHを求めよ。
これは、「ベクトル」の典型題です。
勿論、図など添えられていません。
自分で図を描くところから、空間ベクトルの問題を解く過程が始まります。
だから、図を自力で描けなければ、「空間ベクトル」の問題を解くことのできる可能性は、ほぼなくなります。
三角錐を自力で描けないということは、そういうことです。
図を描けないということは、絵画に関する才能がないということではないと思います。
別に下手でもいいので、とにかく描けばいいだけですから。
私も絵の才能はありませんが、数学の図は描けます。
空間把握能力が影響しているとは思いますが、それだけでもなさそうです。
その2人の生徒に共通していたのは、文字で描かれている情報と視覚的イメージが頭の中で結びついていないことだったかもしれません。
もともと、問題文を読むことが苦手で、図に頼る傾向があるのでした。
図がないと問題を解けないのです。
それは、文章だけでは映像をイメージできないということでもあるのかもしれません。
文字の読み取りが苦手なので、文字で書かれている内容を映像的に頭の中でイメージできない。
頭の中に映像のイメージがないので、それを描きおこすこともできない。
それは、やはり、読解力の問題であるような気がします。
これは、特別に低学力な子の話、というのではありません。
むしろ、本人は自分は日本中の同学年の中では学力上位層と思っているかもしれません。
その誤解を現実に変えていくのが私の仕事です。
そうなると、できることは、三角錐の見取り図を描く練習です。
「はい、まず左側に三角形を描きましょう。三角形というと正三角形か二等辺三角形か直角三角形と思い込んだらダメですよー。底辺を水平に描いてもダメですよ。こういうふうに。わかる?こういうふうに斜めに描くんですよ」
本当は、そんな練習は自力でできるのです。
しかし、自分でお手本の図を真似て三角錐を描くという過程のどこかに欠落があり、自力では練習できないとなれば、それをやるのが個別指導です。
さて、お待たせしました。
ここからは、問題の解答編です。
もう一度、上の問題を見てみましょう。
問題 OA=OB=OC=8、AB=BC=CA=6である三角錐OABCの体積を求めよ。
この問題は、三平方の定理を学習した中3ならば、高校数学の知識がなくても解くことができます。
まずは、その解き方から。
まず、図を描きましょう。
△ABCが底面で、点Oがその真上に置かれた頂点であるようなイメージで描くのが、一番描きやすく、解きやすいと思います。
底面である△ABCは、1辺が6の正三角形。
他の辺はすべて8。
これは、正三角錐です。
実際に描くか、頭の中でイメージしてください。
三角錐の体積を出すには、底面積と高さの値が必要です。
まずは高さを求めましょう。
頂点Oから△ABCに垂線OHを下ろします。
そのOHの長さが、この立体の高さです。
どうやって、OHの長さを求めましょうか?
この線分OHを1辺にもつ直角三角形があればいいのです。
△OHCが、直角三角形です。
OC=8と問題にありますから、あとは、CHの長さがわかれば、三平方の定理を利用できます。
ここで、底面が正三角形であることは、とてもありがたいですね。
正三角形ならば、外心・内心・重心が一致します。
点Hは、この三角形の重心です。
それを利用しましょう。
辺ABの中点をMとします。
線分CMは、この三角形の中線となります。
点Hは重心ですから、この中線CM上にあります。
重心ですから、CHは、CMの2/3の長さです。
では、中線CMの長さは?
これも、△ABCが正三角形であることで楽に求めることができます。
中線CMで区切ったことで表れた△CAMは、直角三角形です。
しかも、30°、60°、90°の特別な比の直角三角形です。
CA=6ですから、AM=3、CM=3√3。
CHはその2/3ですから、CH=2√3。
これで、△OHCで三平方の定理を利用できます。
OH=√(8^2-2√3^2)=2√13
これで、三角錐の高さを求めることができました。
あとは、底面積です。
これも、CMを求めてありますので、簡単です。
△ABC=1/2・6・3√3=9√3
よって、OABCの体積は、
1/3・9√3・2√13=6√39
これが答です。
以上が中3レベルの解答です。
続いて、数Ⅰ的な解答に進みます。
数Ⅰを学習していても、上の解答でも十分ですし、手順もそれほど変わりません。
数Ⅰならば三角比の公式を多少使ってみましょうか、というだけです。
頂点Oから△ABCに垂線OHを下ろすところまでは同じです。
上では、点Hを△ABCの重心として解きましたが、今回は、点Hを外心として解いてみましょう。
外心ならば、正弦定理が使えます。
あとは、上の答案では、点Hが△ABCの重心であるのは自明の理のようにして解いていましたが、高校数学ですので、外心である根拠も少し示してから解いてみます。
頂点Oから△ABCに垂線OHを下ろす。
したがって、△OAHは直角三角形である。
直角三角形で斜辺と他の1辺がそれぞれ等しいので、
△OAH≡△OBH≡△OCH
合同な図形の対応する辺は等しいので、
AH=BH=CH
よって、点Hは△ABCの外接円の中心である。
△ABCにおいて正弦定理より、
2AH=6/sin60°=4√3
よって、AH=2√3
△OAHにおいて三平方の定理より、
OH=√(8^2-2√3^2)=2√13
底面積も、数Ⅰの公式を利用して求めましょう。
△ABC=1/2・6・6・sin60°=9√3
よって、求める体積は、
1/3・9√3・2√13=6√39
はい。同じ答となりました。
ついでに、ベクトルでこの問題を解いてみましょう。
ベクトルを使っても、計算はそんなに簡単にはなりませんので、今回はベクトルの無駄遣いかもしれません。
もう1つ問題があり、ベクトルには→がつくのですが、このブログ上で、文字の上に→をつける方法が見つかりません。
そこで、ベクトルなのに→がついていないという、気持ち悪いことになります。
どうか、以下の線分らしき表記の全てには上に→があり、ベクトルなのだと思ってお読みください。
また、上で解説したように、点Oから△ABCに垂線OHを下ろします。
OA=a、OB=b、OC=c とおく。
点Hは△ABCの重心であるから、
OH=1/3a+1/3b+1/3c
よって、
|OH|^2
=|1/3a+1/3b+1/3c|^2
=1/9|a|^2+1/9|b|^2+1/9|c|^2+2/9a・b+2/9b・c+2/9c・a
と、ここまで解いて、内積の値が必要だとわかります。
ここで、△OAB≡△OBC≡△OCAより、
a・b=b・c=c・a
では、内積を求めるために、コサインの値を求めましょう。
△OABにおいて余弦定理より、
cos∠AOB=(64+64-36)/2・8・8=23/32
よって、a・b=|a||b|cos∠AOB=8・8・23/32=46
すなわち、a・b=b・c=c・a=46
よって、
|OH|^2
=1/9・64+1/9・64+1/9・64+2/9・46+2/9・46+2/9・46=52
ゆえに、
|OH|=√52=2√13
さて、底面積も、ベクトル的に求めましょうか。
こちらは、ベクトルの旨味がたっぷりありそうです。
△ABCは1辺が6の正三角形ですから、
点A(0 , 0)、点B(6 , 0)、点C(3 , 3√3)とおくことができます。
よって、
△ABC=1/2|6・3√3-0・3|=9√3
したがって、求める体積は、
1/3・9√3・2√13=6√39
同じ答となりました。
これは、空間図形の計量に関する問題です。
例によって、この問題にまつわるエピソードをここから延々と書きますので、そういうことには興味ない、解き方だけ知りたいという方はずっと後ろに飛んでください。
生徒に、この問題を解いてもらったときのことです。
何段階かの過程を踏まないと体積が求められないという点では難しいですが、例題を参考に解いていける基本問題です。
大丈夫だろうと思って様子を見ていると、生徒のペンが全く動かないので不審に感じました。
「・・・どうしました?わからないですか?」
生徒はうなずきました。
「では、まず図を描いてみましょう」
「・・・」
「どうしました?」
「図が描けない」
「・・・え?」
図が描けない?
三角錐の見取り図を描けない?
どういうこと?
そんなバカなと思った瞬間、別の生徒のことを思い出しました。
その別の生徒は中1でしたが、以下のような問題を見つめて呆然としていました。
やはり、文が1行書いてあるだけの問題でした。
問題 半径6㎝、中心角135°のおうぎ形の周りの長さを求めなさい。
おうぎ形の孤の長さを求める公式を解説し、その利用の練習をした直後でした。
テキストの上部には例題解説があり、太字で公式が書いてあります。
困る要素は何1つないと思ったのに、その子は呆然としていたのです。
「・・・どうしました?公式を忘れたのなら、上の例題を見ていいですよ」
「意味がわからない」
「何の?」
「問題の意味がわからない・・・」
「え?」
こんなシンプルな基本問題のどこでつまずいているのだろう・・・。
こういうとき、言葉がとっさに出てこなくて長く黙り込む子もいますが、その子はカタコトでも何か発するタイプの子でした。
これは、教える者として非常に助かります。
「図が・・・」
「うん?」
「図・・・」
「うん・・・?」
・・・どういうことだろう?
「問題に、図がないということ?」
「はい」
「ああ。なるほど。なければ、自分で図を描きましょう」
「えっ。・・・ああ、そういうことかっ!」
その子は驚愕し、そして、私はむしろそのことに驚愕していました。
その子は、図がない問題など存在しないと思い込んでいたのです。
そう思って見直せば、その直前の問題には、確かにおうぎ形の図が添えられていました。
また、小学生向けのテキストは、図形問題ならば図が添えられていることが多いのです。
そういうものを見慣れていたその子は、問題に図が添えられていないということ自体が理解できず、混乱していたのでした。
その子の抱えていた課題もあったと思います。
文章を読むことが極端に苦手な子でした。
文字を1文字ずつ丹念に読むということが物理的にできないのだろうかと感じるほど、斜め読みや飛ばし読みをしていました。
助詞・助動詞の働きを理解できず、目立つ単語を拾って意味を想像しているだけのようでした。
中学生になっても、図やグラフが添えられている問題を解くときには、問題文など無視していました。
問題文の中に重要な情報があることに気づかず、図やグラフだけを見て、首をひねってしまうことの多い子でした。
しかし、そういう傾向は、大なり小なり多くの子に見られます。
図があるなら、そっちを見てしまう。
本を読むのが嫌いな子、文字を読むことにちょっとした苦痛のある子は、そうなりがちです。
そして、そんな傾向があるといっても、多くの子は、図が添えられていない問題ならば、諦めて問題文を読みます。
頭の中で図をイメージして考えます。
まさか、図がないことに呆然としてしまう子がいるとは。
図がない問題があることを理解していない子がいるとは。
そうした中1の子のことを思い出しながら、目の前の生徒に、私は言いました。
「まず、三角錐の図を描きましょう」
「描けない・・・」
「描けない?」
・・・どういうことだろう?
空間把握能力が低く、立体的な絵を描くことができないのだろうか?
例えば小学生に直方体の見取り図を描いてもらうと、空間の歪みを感じる不気味な図を描いてしまう子がいますが、そこから成長していないということなのでしょうか。
それを克服する練習をしてこなかった。
だから、三角錐を描けない・・・。
ただ、そのテキストには上に例題があり、三角錐の図が描いてあるのでした。
「テキストの同じページに例題の図があるじゃないですか。例題は正四面体で、全ての辺の長さが等しいですが、図は描いた者勝ちな面がありますから、そっくりな図をノートに描いて、辺の長さだけ、8とか6とか違う数字を書き込んでも、問題を解くのに影響はありませんよ」
「ああ・・・」
しかし、様子を見ていると、その子は、ノートに自分で三角錐を描くことはせず、テキストの例題の正四面体の図に、8や6といった長さを、書き込んでいました。
自分では描かず、テキストの図をそのまま利用することにしたのです。
その合理性がわからないわけではない・・・。
でも、そういうことをやっているから、いつまで経っても、三角錐を自力で描くことができないのではないのか?
できないことは練習したらいいのに、自覚があっても、なお、練習もしない。
しなくて済む方法を見つけてしまう・・・。
これまで、何度か書いてきましたが、勉強ができない子は、地頭の悪い子とは限らないのです。
むしろ、抜け道を見つけるのが上手いタイプの子に、学年が上がるにつれて成績が下がっていく子がいます。
「わり算は、問題文の中の大きい数字を小さい数字で割ればいい」
小学校低学年の頃に、誰に教わったわけではないのにそんなルールを自力で発見し、問題文を読まずに式を立てるようになります。
勉強がすべてそんなふうに抜け道の発見と作業手順の丸暗記になっていくので、気がつくと、数理の原則、数学的基盤がその子の中に存在しないのです。
数学において、何をしてよくて、何をしたらダメなのか、本人の中に判断基準がないのです。
子どもには自分の進む道の先が見えないので、その道が行き止まりであることに気づかないのです。
「・・・三角錐は自力で描けたほうがいいですよ」
「・・・」
「練習すれば、三角錐は描けるようになります。練習すればいいだけです。できないことは、できるようにすればいいだけです」
「・・・」
高校数学は、自分で図を描かなければならない問題も多いです。
例えば、以下のようなベクトルの問題です。
問題 四面体ABCDにおいて、線分BDを3:1に内分する点をE、線分CEを2:3に内分する点をF、線分AFを1:2に内分する点をG、直線DGが3点A、B、Cを含む平面と交わる点をHとする。DG : GHを求めよ。
これは、「ベクトル」の典型題です。
勿論、図など添えられていません。
自分で図を描くところから、空間ベクトルの問題を解く過程が始まります。
だから、図を自力で描けなければ、「空間ベクトル」の問題を解くことのできる可能性は、ほぼなくなります。
三角錐を自力で描けないということは、そういうことです。
図を描けないということは、絵画に関する才能がないということではないと思います。
別に下手でもいいので、とにかく描けばいいだけですから。
私も絵の才能はありませんが、数学の図は描けます。
空間把握能力が影響しているとは思いますが、それだけでもなさそうです。
その2人の生徒に共通していたのは、文字で描かれている情報と視覚的イメージが頭の中で結びついていないことだったかもしれません。
もともと、問題文を読むことが苦手で、図に頼る傾向があるのでした。
図がないと問題を解けないのです。
それは、文章だけでは映像をイメージできないということでもあるのかもしれません。
文字の読み取りが苦手なので、文字で書かれている内容を映像的に頭の中でイメージできない。
頭の中に映像のイメージがないので、それを描きおこすこともできない。
それは、やはり、読解力の問題であるような気がします。
これは、特別に低学力な子の話、というのではありません。
むしろ、本人は自分は日本中の同学年の中では学力上位層と思っているかもしれません。
その誤解を現実に変えていくのが私の仕事です。
そうなると、できることは、三角錐の見取り図を描く練習です。
「はい、まず左側に三角形を描きましょう。三角形というと正三角形か二等辺三角形か直角三角形と思い込んだらダメですよー。底辺を水平に描いてもダメですよ。こういうふうに。わかる?こういうふうに斜めに描くんですよ」
本当は、そんな練習は自力でできるのです。
しかし、自分でお手本の図を真似て三角錐を描くという過程のどこかに欠落があり、自力では練習できないとなれば、それをやるのが個別指導です。
さて、お待たせしました。
ここからは、問題の解答編です。
もう一度、上の問題を見てみましょう。
問題 OA=OB=OC=8、AB=BC=CA=6である三角錐OABCの体積を求めよ。
この問題は、三平方の定理を学習した中3ならば、高校数学の知識がなくても解くことができます。
まずは、その解き方から。
まず、図を描きましょう。
△ABCが底面で、点Oがその真上に置かれた頂点であるようなイメージで描くのが、一番描きやすく、解きやすいと思います。
底面である△ABCは、1辺が6の正三角形。
他の辺はすべて8。
これは、正三角錐です。
実際に描くか、頭の中でイメージしてください。
三角錐の体積を出すには、底面積と高さの値が必要です。
まずは高さを求めましょう。
頂点Oから△ABCに垂線OHを下ろします。
そのOHの長さが、この立体の高さです。
どうやって、OHの長さを求めましょうか?
この線分OHを1辺にもつ直角三角形があればいいのです。
△OHCが、直角三角形です。
OC=8と問題にありますから、あとは、CHの長さがわかれば、三平方の定理を利用できます。
ここで、底面が正三角形であることは、とてもありがたいですね。
正三角形ならば、外心・内心・重心が一致します。
点Hは、この三角形の重心です。
それを利用しましょう。
辺ABの中点をMとします。
線分CMは、この三角形の中線となります。
点Hは重心ですから、この中線CM上にあります。
重心ですから、CHは、CMの2/3の長さです。
では、中線CMの長さは?
これも、△ABCが正三角形であることで楽に求めることができます。
中線CMで区切ったことで表れた△CAMは、直角三角形です。
しかも、30°、60°、90°の特別な比の直角三角形です。
CA=6ですから、AM=3、CM=3√3。
CHはその2/3ですから、CH=2√3。
これで、△OHCで三平方の定理を利用できます。
OH=√(8^2-2√3^2)=2√13
これで、三角錐の高さを求めることができました。
あとは、底面積です。
これも、CMを求めてありますので、簡単です。
△ABC=1/2・6・3√3=9√3
よって、OABCの体積は、
1/3・9√3・2√13=6√39
これが答です。
以上が中3レベルの解答です。
続いて、数Ⅰ的な解答に進みます。
数Ⅰを学習していても、上の解答でも十分ですし、手順もそれほど変わりません。
数Ⅰならば三角比の公式を多少使ってみましょうか、というだけです。
頂点Oから△ABCに垂線OHを下ろすところまでは同じです。
上では、点Hを△ABCの重心として解きましたが、今回は、点Hを外心として解いてみましょう。
外心ならば、正弦定理が使えます。
あとは、上の答案では、点Hが△ABCの重心であるのは自明の理のようにして解いていましたが、高校数学ですので、外心である根拠も少し示してから解いてみます。
頂点Oから△ABCに垂線OHを下ろす。
したがって、△OAHは直角三角形である。
直角三角形で斜辺と他の1辺がそれぞれ等しいので、
△OAH≡△OBH≡△OCH
合同な図形の対応する辺は等しいので、
AH=BH=CH
よって、点Hは△ABCの外接円の中心である。
△ABCにおいて正弦定理より、
2AH=6/sin60°=4√3
よって、AH=2√3
△OAHにおいて三平方の定理より、
OH=√(8^2-2√3^2)=2√13
底面積も、数Ⅰの公式を利用して求めましょう。
△ABC=1/2・6・6・sin60°=9√3
よって、求める体積は、
1/3・9√3・2√13=6√39
はい。同じ答となりました。
ついでに、ベクトルでこの問題を解いてみましょう。
ベクトルを使っても、計算はそんなに簡単にはなりませんので、今回はベクトルの無駄遣いかもしれません。
もう1つ問題があり、ベクトルには→がつくのですが、このブログ上で、文字の上に→をつける方法が見つかりません。
そこで、ベクトルなのに→がついていないという、気持ち悪いことになります。
どうか、以下の線分らしき表記の全てには上に→があり、ベクトルなのだと思ってお読みください。
また、上で解説したように、点Oから△ABCに垂線OHを下ろします。
OA=a、OB=b、OC=c とおく。
点Hは△ABCの重心であるから、
OH=1/3a+1/3b+1/3c
よって、
|OH|^2
=|1/3a+1/3b+1/3c|^2
=1/9|a|^2+1/9|b|^2+1/9|c|^2+2/9a・b+2/9b・c+2/9c・a
と、ここまで解いて、内積の値が必要だとわかります。
ここで、△OAB≡△OBC≡△OCAより、
a・b=b・c=c・a
では、内積を求めるために、コサインの値を求めましょう。
△OABにおいて余弦定理より、
cos∠AOB=(64+64-36)/2・8・8=23/32
よって、a・b=|a||b|cos∠AOB=8・8・23/32=46
すなわち、a・b=b・c=c・a=46
よって、
|OH|^2
=1/9・64+1/9・64+1/9・64+2/9・46+2/9・46+2/9・46=52
ゆえに、
|OH|=√52=2√13
さて、底面積も、ベクトル的に求めましょうか。
こちらは、ベクトルの旨味がたっぷりありそうです。
△ABCは1辺が6の正三角形ですから、
点A(0 , 0)、点B(6 , 0)、点C(3 , 3√3)とおくことができます。
よって、
△ABC=1/2|6・3√3-0・3|=9√3
したがって、求める体積は、
1/3・9√3・2√13=6√39
同じ答となりました。
Posted by セギ at 16:59│Comments(0)
│算数・数学
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