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2022年08月24日

通過算と連立方程式。

通過算と連立方程式。

さて、今回は通過算について考えてみます。
通過算というのは、電車の通過に関する問題です。
例えば、こんな問題。

問題 ある電車が636mの鉄橋を通過するのに31秒かかりました。また、同じ電車が、1356mのトンネルを通過する際に電車が見えなくなっていた時間は52秒でした。電車の速さは常に一定であるとします。この電車の長さと、電車の秒速を求めなさい。

まず、受験算数として解いてみます。
電車の長さを□、電車の秒速を①としましょう。

線分図は、まず2本描くことができます。
どちらも、電車が実際に動いた道のりを描いた線分図です。
それを、1本目と2本目の2通りの表し方で表しています。

通過算と連立方程式。



電車が鉄橋を渡り終えるというのは、電車の頭が鉄橋にさしかかった瞬間から、電車の最後尾が鉄橋を出た瞬間までをいいます。
つまり、電車の進んだみちのりは、鉄橋の長さだけでなく、その電車自体の長さも含みます。
1本目の線分図は、電車の長さ+鉄橋の長さで、電車が実際に動いた道のりを表しています。
それは、また、秒速①で31秒動いた道のりですから、①が31個分でもあります。
2番目の線分図は、トンネル内で電車が実際に動いた道のりです。
トンネルの中に完全に入って見えなかったので、電車が完全にトンネルに入ってしまった瞬間から、電車の頭が出てくる瞬間までが、実際に動いた道のりです。
それは、トンネルの長さ1356メートルから電車の長さ□を引いた道のりになります。
その道のりを52秒で進んだので、それは①52個分の道のりでもあります。

線分図を使うときは、2本の線分図の差を読んでいくのが定石ですが、今回は差を読んでも、□が邪魔になります・・・。
こんなときは、2本の線分図の和を考えてみます。
それで□が消えることがわかるでしょうか。
これが発想の転換点。
これを思いつくことが、この問題の鍵です。
それが、上の3本目の線分図です。
①が83個分で、1992mであることが読み取れます。
したがって、1992÷83=24
電車の速さは、秒速24m。
では、電車の長さは?
1本目の線分図を使えば、求められます。
線分全体の長さは、24×31=744(m)
□は、744-636=108
電車の長さは、108mです。


さて、中学生になると、こうした問題を方程式で解きます。
ところが、中学生になっても受験算数から脱皮できない子がたまにいます。
方程式の文章題なのに、それでも線分図を描いて、①だ□だという記号で解こうとするのです。
どういう心理によるものなのか、個々の事情もあるのでしょうが、受験算数から脱皮できない子は、残念ですが、自分をレベルアップできない子である場合が多いです。
過去にしがみついてしまうのは、中学の数学についていけないからです。
本人は、せっかく努力して努力して努力して獲得した解き方を手放せないだけなのかもしれません。
受験算数のほうが解きやすいと本気で思っています。
しかし、受験算数そのものも、それほど卓越した能力を持っていたわけではないことが多いのです。
悲しいことですが。

受験算数が面白くてワクワクして解いていた子は、中学の数学はもっと面白く、ゾクゾクして解いていますから、右手に方程式、左手に線分図や面積図という武器を持って、縦横無尽に問題を解きます。
今まで図を使って解いていた問題が、方程式を使えば、簡単なルールでさらっと解ける。
これは衝撃であり、感動です。

一方、方程式が頭に入らない子は、受験算数も、基本の典型題しか解けません。
受験算数の解き方の手順を覚え、反復し、マスターして、基本の典型題を入試に多く出題する中学に合格したのです。
そこまでは、輝かしい努力と勝利の道でした。
しかし、そこからが続かない。
通過算でも、上のようにちょっとひねった問題は自力では解けないのです。
線分図を描いても、解けない。
でも、方程式は、わからない。
万事休すとなります。

長年個別指導をしていますと、そのような生徒に、何人か出会ってきました。
受験算数を捨てさせることが、まず、第一歩でした。
それには、逆に私が受験算数で解いてみせ、本人には解けないことに気づかせる必要がありました。
受験算数で解こうとすると、こんなに難しい。
でも、方程式なら、簡単に立てられる。
繰り返し、そう呼びかけて。

方程式は、求めるものを文字におき、関係を表す式を立てるだけです。
「関係を表す式」というと抽象的ですが、問題文中の何かの数量を表す式を立てればいいのです。

もう一度、上の問題を見てみましょう。

問題 ある電車が636mの鉄橋を通過するのに31秒かかりました。また、同じ電車が、1356mのトンネルを通過する際に電車が見えなくなっていった時間は52秒でした。電車の速さは常に一定であるとします。この電車の長さと、電車の秒速を求めなさい。

求めるものは、電車の長さと電車の秒速。
では、それをx、yとおきましょう。
すなわち、答案の1行目は、
電車の長さをxm、電車の速さをym/秒とおく。

この1行目は、答案を読む採点者に、自分をどのようにこの問題を解いているかを告げる大切な1行です。
それは、また、自分が途中で何をどう文字にしたのかわからなくなるのを防ぐナビでもあります。
大切な1行です。
それを書いていないと、数学の答案の体をなしていないのです。

さて、方程式を立てましょう。
何を表す式を立てるか。
ここはまず、電車の進んだ道のりを表す式を考えてみます。
通過算に限らず、「速さ」に関する問題を見たら、まずは道のりを表す式を立てられないかなと考えるのが定石です。
時間や速さを表す式を立てるのは、面倒くさいですから。
道のりを表す式でことが済むなら、ありがたい。
道のりを表す式が立てにくいとき、かかった時間を表す式を立てることを次に考えます。

まずは、鉄橋を渡ったときの道のりは。
ここで、受験算数で通過算を学んだことが役に立ちます。
この場合の道のりは、電車の長さも含む。
そのことに対して、疑問や迷いがありませんから。
受験算数を学んでいない中学生は、まず、それの理解に大きなハードルがあるのです。
電車と鉄橋の図を描いて、丁寧に考えないと理解できません。
だから、中学受験をしていない子は、このタイプの問題を最後まで自力では解けずに終わることも多いです。

しかし、受験算数では、これは常識。
受験算数で学ぶのは、線分図や面積図を描く作業手順ではないのです。
事象に対する根本の考え方を理解するということなのです。
これは、大きなアドバンテージです。
小学校の数年間、遊ぶのを我慢して勉強した成果が、こういうところに結実します。

鉄橋を渡ったときの道のりは、
x+636=31y ・・・①
続いて、トンネルの中を通ったときの道のりは、
1356-x=52y ・・・②

大切なのは、上のように意味のわかる方程式をしっかり立てることです。
ところが、頭の回転がある意味速く、その分だけ上すべりしがちで、すぐに頭の歯車が外れてしまうタイプの子は、以下のような式を立ててしまうことがあります。

x+31y=636
x-52y=1356

左辺にxとyと両方あるほうが、この後の加減法の計算がしやすいとか何とか、くだらないことを考えながら式を立てたのでしょうか。
符号がめちゃくちゃな式になっています。
今やっていることの先を考えてしまい、かえって手元がお留守。
「脳の癖」なのかもしれないですが、直したい悪習です。
余計な工夫はいらないのです。
1行目は、意味のわかる式を書くこと。
何を表しているのかがわかる式を書く。
数学の答案として、それが最善です。
計算の工夫はその後で勝手にやればよいのです。

採点者は、文字の定義と、最初の立式をまずは見ます。
それが正しければ、次は、xとyの値が出たところに飛びます。
途中なんか、正直言って読みません。
計算の結果が間違っているときのみ、目を上に戻し、どこまで正しいか、確認するだけです。
ところが、変な工夫をして答案の途中から書いたような式を1行目に書いてしまう子は多いです。
意味のわからない式を書いても、数学の答案にはなりません。
1週間も経てば本人も説明できないような式は、書かない。
それが数学の答案のルールです。

上の①、②の式は、その後の計算上も、きわめてスマートな式です。
①+②より
1992=83y
このようにすぐにxは消えるのです。
y=24
これを①に代入して、
x+636=744
x=108

電車の長さ、108m。電車の速さ、24m/s。
これで正解です。





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