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2019年10月16日

高校数Ⅱ「式と証明」。恒等式。

高校数Ⅱ「式と証明」。恒等式。

今回は「恒等式」の学習です。
恒等式とは、その名の通り、常に成り立つ式のことです。
「xについての恒等式」でしたら、xにどのような値を入れても常に成り立つことを意味します。
これも、
「そんなの何に使うの?」
という疑問がわくかもしれませんが、後になって別の単元でそれを利用して解く問題が出てきますから、ここでしっかり身につけたいところです。

問題 次の整式がxについての恒等式となるように、定数a、b、cの値を定めよ。
x2+2x+3=a(x+1)(x-1)+b(x-1)+c

問題文中にある「整式」とは、「xの係数が整数の式」という意味ではありません。
分母にxがある「分数式」ではないという意味です。
xの係数やxの値は整数である必要はありません。

さて、この問題の解き方は2つあり、それぞれ「係数比較法」「数値代入法」という名前がついています。
まずは係数比較法から考えてみましょう。
とりあえず、右辺を展開します。
a(x+1)(x-1)+b(x-1)+c
=a(x2-1)+bx-b+c
=aX2-a+bx-b+c
これをxについて降べきの順に整理します。
=ax2+bx+(-a-b+c)
右辺をこの状態にしてから、もう一度左辺と等号で結びます。
x2+2x+3=aX2+bx+(-a-b+c)
この左辺と右辺の係数を比較します。
これがxについての恒等式なのですから、左辺・右辺それぞれの係数や定数項は等しいです。
よって、
1=a
2=b
3=-a-b+c
の3本の式が得られます。
わからない文字が3つあるとき、式が3本あればその文字の値を求めることができます。
連立方程式ですね。
a=1、b=2を-a-b+c=3に代入して、
-1-2+c=3
-3+c=3
c=6
よって、a=1、b=2、c=6です。

もう1つの解き方が「数値代入法」。
xに適当な値を代入して、式を解いていく方法です。
やはり、わからない文字が3つあるので、式は3本用意します。
xにどんな値を代入した式でも良いのですが、どうせなら計算しやすいほうがいいです。
x2+2x+3=a(x+1)(x-1)+b(x-1)+c
という式から、x=0、1、-1の値を代入すると判断します。

どういう基準で、それらの値を代入すると判断するのでしょうか?
x=0ならば、左辺の2つの項が0になり、計算が楽です。
同様に、x=1ならば、右辺の2つの項が0になり、その後の計算が楽になります。
x=-1ならば、右辺の第1項が0になり、その後の計算が少し楽です。
少しでも楽をするために数字を選んでいるだけで、別の他の数字を代入したからといって間違っているわけではありません。

では、やってみましょう。
x=0を代入すると、
0+0+3=a・1・(-1)+b・(-1)+c
すなわち、
-a-b+c=3 ・・・・①
x=1を代入すると、
1+2+3=a・2・0+b・0+c
すなわち、
c=6 ・・・・②
x=-1を代入すると、
1-2+3=a・0・(-2)+b・(-2)+c 
すなわち、
-2b+c=2 ・・・・③
0には何をかけても0になるので、消えてしまう項が多いですね。
だから、xそのものが0になる値や、(x+1)や(x-1)が0になる値を用いています。

この3本を連立方程式として解いていきます。
②を③に代入して、
-2b+6=2
-2b=-4
  b=2 ・・・④
②、④を①に代入して、
-a-2+6=3
-a+4=3
-a=-1
 a=1

先程の係数比較法と同じ値が出ましたが、数値代入法の場合、このまま解答してしまうわけにはいきません。
なぜなら、x=0、1、-1のときにそれが成立することしか今のところわかっていないからです。
xがいくつかの値に対して成り立つようにa、b、cの値を決定したに過ぎません。
これは、xについての恒等式であるための必要条件であって、十分条件ではありません。
そこで、a=1、b=2、c=6をもとの式に代入して、本当に大丈夫なのか確認します。
すなわち、「十分性を示す」のです。
a=1、b=2、c=6を与式に代入すると、
右辺=1・(x+1)(x-1)+2(x-1)+6
   =x2-1+2x-2+6
   =x2+2x+3
よって左辺=右辺 となり、与式は恒等式となる。
ゆえに、a=1、b=2、c=6

数値代入法は、このように最終確認をしなければならないことが答案的には難しく、しかもわかりにくいかもしれません。
「必要条件」「十分条件」という言葉の意味も忘れかけていた頃に突然これが出てくるので、戸惑う高校生は多いです。
必要条件と十分条件は、数Ⅰの最初の頃に学習した内容です。
pならばqであるとき、pをqであるための十分条件、qをpであるための必要条件という
上の問題でいうならば、「a=1、b=2、c=6ならば、与式はxがどのような値でも成立する」
ということを示さなければなりません。
「x=0、1、-1ならば、a=1、b=2、c=6である」
では、矢印の方向が逆ですね。
必要条件であるというのはそういう意味です。
ですから、逆方向の矢印でも大丈夫であること、すなわち「十分性」を示すことが重要です。


恒等式で難しいのはそこだけだと思うのですが、実際の計算で苦労する高校生もいます。
3元1次方程式の解き方がわからないわけではないのに、正しい答えを出せない子は案外多いのです。

中学2年の「連立方程式」の学習のとき、「代入法は嫌い」と言って加減法しかやらない子がいます。
代入法で簡単に解ける見た目になっている問題も、わざわざ加減法にふさわしい形に式を変形して解いています。
そういうことも少し尾を引いているのかもしれません。
代入法が嫌いというのは、代入法の理屈が上手く理解できず、加減法のように手順を把握しやすいほうに逃げているのかもしれません。
あるいは、2通りの解き方があるなら、1つしか覚えないという学習姿勢がその子にあるのかもしれません。
解き方を覚える・・・。
つまり、理解しているわけではなく、作業手順を覚えるだけなので、2通りも覚えられないから加減法しか覚えないということになっている可能性があります。
型通りの加減法の連立方程式なら解けるのですが、手順を覚えているだけで、なぜそれで解けるのか理解していないのかもしれません。
しかし、高校生になって使うのは、加減法よりも代入法のほうが多いのです。
2つの解き方があるとき、1つのやり方しか覚えないのは危険です。
というよりも、解き方を理解せず、作業手順だけ暗記しようとする姿勢そのものが危険です。
数学は、論理を理解する科目です。

理解するのではなく作業手順を暗記する子は、中学からではなく、おそらく小学校の低学年からそういう学習姿勢が始まっています。
算数の問題を解くときに頭を使っている気配が見られない子は、小学校の算数の成績の良い子にも見られます。
理解できないから頭を使わないのではないのです。
「え?その式、どういう意味?ちゃんと考えている?」
そう呼びかけるだけで、ハッと目が覚めたようになり、問題を解き直す子もいます。
算数の問題を考えずにパターンで判断して解く習慣がついてしまっているのです。
おそらく、低学年の頃についた癖なのでしょう。
しかし、高学年になるとそのパターンが通用しない単元もあり、とんでもない式を立ててしまうようになります。
「これはわり算だな」と判断すると、問題文の中の大きい数を小さい数で割る式を立てて済ませてしまうのが典型的な例です。
問題文の中の数値の関係性の把握をしている様子がありません。
低学年の子どもがパターンを読んでしまい、そのパターンに当てはめて解くようになってしまう背景は、慎重に考えなければならない課題だと感じます。
国語が苦手で、文章の読み取りに苦しさが伴うことも一因なのかもしれません。
努力すれば読み取れるけれど、その「努力」には頭に一定の負荷がかかるので、できれば避けたい。
それは文章の読み取りだけでなく、「考えること」で頭に負荷がかかることをそもそも避けている可能性もあります。
以前も書きましたが、息が切れて苦しいのが嫌で運動嫌いになる子がいるように、頭に負荷がかかるのが苦しくて考えることが嫌いになる子もいます。
「考えると脳細胞が潰れる」
と本気で口にする子たちです。
実際、何かを考えようとして頭に負荷がかかることが、その子たちにとって本当に苦しくて嫌なことのようなのです。
必ずしも学力が低いわけではありません。

パターンで済んでしまう小学校の教科書やカラーテストにも問題はあるのかもしれません。
あまり難しい問題を解かせていると、小学校低学年で学ぶことを諦める子も出始めるでしょうから、それも大きな問題ですが。

小学校の算数の成績の良い子が、中学受験を目指したときに、受験算数で信じられないほどに伸び悩むのは、よくあることです。
受験算数は「大きい数を小さい数で割る」というような安易なパターンは通用しません。
公式もありますが、それよりも、問題文に書かれてある内容を自力で線分図や面積図に書き起こすことができ、その関係を読み取って立式する能力が必要です。
あるいは、「速さ」や「時間と水量」などのグラフを読み取る力。
図形を読み取る力。
それは読解力と分析力と思考力。
つまり「学力」が問われています。
塾のテキストの基本問題は式も答えも暗記してしまうため、基礎力があるように見えても、それは暗記しているだけで、理解はしていない子が案外多いのです。
そのため、テストは壊滅的な得点となります。
あの問題もこの問題も本当は理解していなかったんだね、と露呈しますが、では復習しようとなっても、またその問題の式と答えを暗記するだけです。
暗記するのではなく理解するんだよと教えても、それは何をどうすることなのか本質が理解できないので、何をどうして良いか本人にはわからないことがあります。
覚醒には時間がかかります。

問題文を内容を理解して読むことのできる子は伸びる。
自力で考えることのできる子は伸びる。
きわめてシンプルですが、最も教えにくいことの1つです。




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