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2024年11月17日

中学数学・方程式。新傾向の文章題。

中学数学・方程式。新傾向の文章題。

画像は、先月の都立小金井公園で撮影。十月桜の一種のようです。

さて、今回は、中学の文章題が難しいという話。
公立中学の数学の定期テスト問題は、私立中学のテスト問題と比べてかなり難しい問題が出る傾向があります。

例えば、こんな問題。
中1の数学。
単元は「1次方程式」です。

問題 ゆうさくさんはなおきさんと昼休みに校舎の周りで鬼ごっこをしています。ゆうさくさんは昇降口の前から校舎を左回りに秒速8mの速さで、鬼のなおきさんから逃げました。それを見たなおきさんは、6秒後に同じ昇降口から右回りに秒速5mの速さでこっそり回り込みました。校舎の1周の道のりは360mです。次の問いに答えなさい。
(1) ゆうさくさんが走り始めてx秒後に出くわすとおく。2人の走った道のりの関係から方程式を作りなさい。
(2) (1) の方程式を解いて、2人が何秒後に出くわすかを求めなさい。
(3) 2人が出くわしたところで、鬼のなおきさんを避けて再び逃げるために、ゆうさくさんは秒速7mの速さで右回りに走り始めた。そのようすを昇降口で見ていたたかひこさんは、秒速17mの速さで右回りにゆうさくさんを追いかけました。たかひこさんは走り始めてから何秒後にゆうさくさんに追いつきますか。ただし、なおきさんはゆうさくさんを追いかけるのを諦めてもう関わらないものとする。

自分で解きたい方は、ここでいったん、ブログを閉じてください。
とはいえ、これ、読むだけで疲れて、解く気が失せませんか?
数学が相当好きな私ですら、そうです。
何か読みにくいですよね。
どうしてでしょう?

これ、数学の問題としては「要らない情報」が入っているのが、ノイズとなって、わずらわしいのです。
問題の分析の邪魔なのです。
「昼休み」「校舎」「昇降口」「鬼のなおきさんから逃げました」「それを見たなおきさん」「こっそり回り込み」「鬼のなおきさんを避けて再び逃げるために」とか、数学的には、全部、必要ない情報なんです。
そもそも、名前が全部ひらがなであるのも、読みにくい。
「ゆうさくさん」「なおきさん」「たかひこさん」。
なぜ、これはA君、B君、C君、ではダメなのでしょう。

そして、最近の数学の定期テストには、こういうわずらわしい問題が出るのです。
新傾向のような姿をしています。
応用問題のような見た目をしています。
しかし、実際の構造は、応用でも何でもないのです。
従来の考え方で解ける問題です。
ただ、文章が長く、余計な情報が多くてわずらわしい。
大学入試共通テストがそうであるように、不要な読解を強いられる文章題が中学まで降りてきています。
そういうのが今の文科省の意向なので、私立よりも公立の学校のほうがそういうことの影響が強いということかもしれません。

問題自体は、昔からある、追いかけと出会いの問題。
池の周りを追いかけたり出会ったりする問題と構造は同じです。
中学受験の受験算数でも典型題ですし、中学数学の方程式の文章題としても典型題です。
以下、従来の典型題を書きます。

問題 周囲が2700mある池のまわりを、兄と弟が同じ地点から反対方向に向かって同時に歩き始めた。兄は分速90m、弟は分速60mで歩くとき、2人がはじめて出会うのは、歩き始めてから何分後か。

きわめてシンプルです。
一番上の問題は、出発時間にズレがあるという点で、これよりも一段難しい要素は加わっていますが、その点を差し引いても、一番上の問題の解きにくさの正体は、文章の読みにくさであり、共通テストの数学問題が苦手な人の多くが、それで苦労しています。

一番上のような問題が作られるようになった背景には、2つの考え方があります。
1つは、数学と現実の事象とを結びつければ、生徒たちは、数学をもっと身近なものに感じるだろうという考え方。
もう1つは、定型の数学の問題では、文章をろくに読まず、手順だけで解く生徒が多いため、それらの「本当に学力があるわけではない生徒」に考えを改めさせ、本当に学力のある生徒を評価するために、こうした問題をテストに出す、という考え方。

1つ目の考え方については。
数学と現実の事象を結びつけたところで、数学に興味のない生徒は、徹底して数学には興味を持ちません。
その程度のことで子どもが数学が好きになると思うほうが、甘い。
追いかけっこという遊びに数学が関係すると気づいて、
「わあ、面白い。数学って面白いな」
と思う生徒は、そもそも、最初から数学が好きです。
数学が嫌いな子は、そんなことには興味を持ちません。
こんな文章題は、むしろ、小手先のやり方で生徒に余計な負担をかけてしまう可能性のほうが高い。
それでも、そういうことをやってみたいなら、授業で扱ったらいいのです。
グループでわいわいと話しあって、結論を出すのは、面白いかもしれません。
そうした授業を受けての類題をテストに出すのならばわかります。
授業は普通の問題を扱っているのに、テストだけ新傾向というのは、いただけない・・・。

2つ目の考え方については。
「学力」とは何なのかによります。
一番上の文章題を正答できる生徒は、確かに学力が高いと私も思います。
ただ、それには文章読解力がかなりの割合で含まれます。
数学力って、読解力なのでしょうか?
数学センスは物凄くあるのに、読解力の低い生徒を、こういう問題ではじき飛ばしていませんか?

高校3年生の理系の生徒で、例えば数Ⅲ「積分法」を学習しているときに。
積分の問題なんて、1行か2行で問題文は終わる場合が大半です。
要するに、積分しろと要求しているだけです。
しかし、普通に積分しようと思っても、できない問題のときに。
置換積分するとして、どの部分を t に置き換えるか?
定石をどれだけ知っているかにもよれば、センスにもよります。
むしろ定石に縛られている私とは異なり、嘘みたいな置換をして、力技で正答を出す子もいます。
そういう子と話し合うのは、手応えがあり、面白い。
その同じ子が、共通テストの文章題は苦手だったりします。
では、その子は、数学が苦手な子なのでしょうか?
・・・あり得ないです。
センター試験だったら、高得点が確実だったのに、生まれた時代が悪かった・・・。
そんなふうに思うことがあります。


もう一度、従来型の問題文を見てください。

問題 周囲が2700mある池のまわりを、兄と弟が同じ地点から反対方向に向かって同時に歩き始めた。兄は分速90m、弟は分速60mで歩くとき、2人がはじめて出会うのは、歩き始めてから何分後か。

確かに、この問題は、あまりにも機械的で無味乾燥で、何でこの兄弟は一緒に歩かないんだろう、という疑問が生じます。
なぜ、わざわざ別の速さで、反対方向に歩くのだろう?
仲が悪いのならば、なぜ同じ池にやってくるのだろう?

そういうツッコミは昔からあるのです。
一番上の文章題は、そういう点はクリアしています。
追いかけっこをしているのならば、走る速さも違うだろうし、反対方向にも進むでしょう。
状況に説得力があります。

しかし、数学の文章題に、そんな「物語」は必要なのでしょうか。
設定に説得力をもたせるために、数学的には不要な情報を大量にまぶした問題を、生徒は喜ぶでしょうか。

一番上の文章題は、読みやすいですか。
楽しく解く気になりますか。
余計に面倒くさいだけではないですか。
読む気も解く気も失せる文章題は、本当に生徒のためになっているのでしょうか。
そういう疑問もあるのです。

とはいえ、世の中の流れがそうなのですから、対応しないわけにはいきません。

まずは従来の定型の問題で、解き方の確認をしましょう。

問題 周囲が2700mある池のまわりを、兄と弟が同じ地点から反対方向に向かって同時に歩き始めた。兄は分速90m、弟は分速60mで歩くとき、2人がはじめて出会うのは、歩き始めてから何分後か。

池の周りを反対方向に歩いている場合、出会うまでで、二人の進んだ道のりの和は、池1周分になります。

歩き始めてから x 分後に、2人が初めて出会うとすると、
「道のり=速さ×時間」ですから、
兄の道のりは、90x m
弟の道のりは、60x m
その和が、池1周 2700m ですから、式は、
90x+60x=2700
これを解きます。
150x=2700
x=18
この値は、問題に適しているので、
答えは、18分後 です。

この構造を忘れずに、では、一番上の文章題を見てみましょう。

問題 ゆうさくさんはなおきさんと昼休みに校舎の周りで鬼ごっこをしています。ゆうさくさんは昇降口の前から校舎を左回りに秒速8mの速さで、鬼のなおきさんから逃げました。それを見たなおきさんは、6秒後に同じ昇降口から右回りに秒速5mの速さでこっそり回り込みました。校舎の1周の道のりは360mです。次の問いに答えなさい。
(1) ゆうさくさんが走り始めてx秒後に出くわすとおく。2人の走った道のりの関係から方程式を作りなさい。
(2) (1) の方程式を解いて、2人が何秒後に出くわすかを求めなさい。

校舎1周は、360m。
これが、従来型の問題の「池1周2700m」にあたります。
1周の長さが規定されて閉じていれば、池だろうが沼だろうが、運動場のトラックだろうが、校舎1周だろうが、同じことなのです。
左回りとか右回りといった情報もわずらわしいですが、要するに、同じ地点(昇降口)から、反対方向に走っているだけです。
ゆうさくの速さは秒速8m。
なおきの速さは秒速5m。
必要なデータはそろっています。
ただ、注意すべき点は、出発が同時ではなかったこと。
なおきの出発は、6秒後なのです。

(1) で、xが指定されています。
出会うまでにゆうさくが走っている時間が x 秒。
では、なおきは、何秒走るのか?
6秒後に出発しているのですから、6秒少なくなります。
なおきの時間は、(x-6) 秒です。
二人の道のりの和が、1周分であることは変わりません。
したがって、方程式は、
8x+5(x-6)=360

これが(1) の答です。

さて、(2) は、この方程式を解くだけです。
解きましょう。
8x+5(x-6)=360
8x+5x-30=360
13x=390
x=30
この値は問題に適しているので、
答えは、30秒後、です。

さて、次は。
(3) 2人が出くわしたところで、鬼のなおきさんを避けて再び逃げるために、ゆうさくさんは秒速7メートルの速さで右回りに走り始めた。そのようすを昇降口で見ていたたかひこさんは、秒速17mの速さで右回りにゆうさくさんを追いかけました。たかひこさんは走り始めてから何秒後にゆうさくさんに追いつきますか。 

問題の最後の、鬼のなおき云々は、もうどうでもいいので割愛しました。
今度は、ゆうさくをたかひこが追いかけていくだけです。
2人とも右回りなので、同じ方向です。
これは、「追いかけ」の問題です。
「追いかけ」は、2人の間に距離があるのが前提です。
その距離を、速い人のほうが、徐々に縮めていき、最終的に追いつきます。
これも、道のりで考えれば、
逃げている人の道のり+2人の間の道のり=追いかけている人の道のり
という関係が成り立ちます。

同じ問題の中の (3) なので、同じ x という文字を使うのは、はばかられるところではありますが、まだ中1で、x が y になった途端に方程式が解けなくなる子もいる時期ですから、ここはもう一度 x でいきます。

たかひこが追いかけ始めてから追いつくまでの時間を x 秒とおくと、

しかし、ここまで書いて、「2人の間の道のりは?」という疑問が生じます。
そうだ。
まずは、2人の間の道のりを求めましょう。
それには、(2) で求めた値を用います。
ゆうさくが、なおきと出会った瞬間に、この追いかけっこが始まりました。
それは、出発から30秒後でした。
つまり、ゆうさくは、秒速8メートルで30秒走っていましたから、走った道のりは、
8×30=240 (m)
1周は360m
したがって、あと、
360-240=120 (m) で、昇降口に戻ってくる位置にいました。
これが、(3) の、新しい追いかけっこが始まった瞬間の、ゆうさくとたかひことの間の道のりです。
この瞬間から、ゆうさくの速さも変わりました。
新しい速さは、秒速7m。
たかひこの速さは、秒速17m。
よし、わかりました。

たかひこが追いかけ始めてから追いつくまでの時間を x 秒とおくと、
7x+(360-8×30)=17x
解きましょう。
7x+120=17x
-10x=-120
x=12
この値は問題に適しています。
したがって、答えは、12秒後、です。





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    Posted by セギ at 13:04│Comments(0)算数・数学
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