2024年09月14日
中学数学「1次関数」変域と1次関数の式。
さて、2学期からは多くの中学校で関数の学習が始まります。
高校数学になると、数学は大半が関数という印象になるので、しっかり基礎を身につけておきたい単元なのですが、中学生の多くが、関数から数学嫌いをこじらせていきます。
先日、NHK「3か月でマスターする数学」という番組でも関数が取り上げられ、例によってブラックボックスが登場していました。
ブラックボックス。
文字通りの黒い箱です。
その箱そのものが、関数の機能を表しています。
入口から何かを入れると、それが半分になって、出口から出てくる。
つまり、その箱の機能は、y=1/2 x
私自身が中学校で受けた授業そのものです。
それが、まるで新しい授業の工夫であるかのように語られるところが、数学教育がこの数十年、そこから先に一歩も進んでいない証拠であるような気がして、がっかりしました。
昭和の数学の先生たちも、そういう授業をしていたのです。
私も、若い頃は、一所懸命、このブラックボックスを使って教えていました。
それでも、生徒は、関数がわかる子とわからない子に、はっきりと分かれました。
原因は、授業のわかりにくさではないのではないか?
徐々に、そう考えるようになりました。
生徒の数学に対する姿勢がそもそも違うのではないか?
すなわち、関数を理解できる子は、小学生の頃から、算数・数学を理解しようとしてきた子。
関数が理解できない子は、問題の解き方や手順だけ覚えようとしてきた子。
問題の解き方や手順だけ覚えようとする子を跳ね返し、
「あなたは、数学ができるようにはならない。考え方を改めない限り」
と宣告するのが、関数という単元なのではないか?
問題の解き方しか覚えない子にも、2通りあります。
小学校の低学年の頃に、算数の問題があまりにも易しかったので、
「こんなのいちいち考える必要はない。手順だけ覚えればいい」
と判断してしまった子。
同じく低学年の頃に、問題の意味がわからなかったので、手順を覚えることに活路を見出してしまった子。
これは、小学校の高学年以上になると、ほぼ合流します。
解き方や手順だけ覚える数年を過ごした子は、なぜそう解くのか、なぜそれで解くことができるのか、意味を理解することができなくなってしまうことが多いからです。
解き方や手順だけ覚えようとする子をいさめても、もう、本人には、それ以外やりようがなくなっています。
数理の重要な法則を理解していないからでもありますし、そのほうが本人にとっては楽なので、頑なに自分のやり方を変えない場合も多いです。
そのまま、数学が全く理解できなくなって終わっていく子もいますが、中学数学あるいは高校数学で奇跡の復活を果たす子もいます。
意味を理解することができるようになるのです。
意味を理解できるほど十分に脳が発達してきたところに、何かのきっかけがあり、「理解する」ということに覚醒するのだろうと思います。
そのきっかけが「ブラックボックス」であるのなら、確かにその授業も意味があるのです。
ともあれ、問題を解いてみましょう。
問題
1次関数 y=ax+b において、x の変域を 1≦ x ≦4 とすると、y の変域は 1≦ y ≦7 である。 a <0であるとすると、x=3のときの y の値を求めよ。
前にも書きましたが、中学数学では、「定義域」「値域」という言葉は使いません。
x も y も「変域」と呼びます。
この問題、簡単そうに見えて、正答率は低い問題です。
中学生で、これを正答できる子は、数学が得意な子たちです。
何問か類題を演習して、解き方を「覚えた」子は、そのときは正解できますが、定期テストが終わってひと月ほどすれば、解けなくなってしまいます。
理解したのではなく、解き方の手順だけを覚えたので、記憶が長持ちせず、忘れてしまうのです。
さて、どう解きましょうか。
x=3のときの y の値を出すためには、まず1次関数の式を求めなければなりません。
目標は、この1次関数の式を求めること。
すなわち、一般式 y=ax+b の、a と b を求めることです。
それがピンとこなくて、いきなり答えを出す方法をうんうん考え込んでしまう子がいます。
そういう子は、数学は、そんなにいきなり答えが出るものではないという前提を、まず理解する必要があります。
小学校の算数の尻尾をいまだにひきずる中学生は、いきなり答えを求める式を立てるものと思い込んで、途方に暮れてしまうのです。
数学は何段階も手順を踏んで解くもの。
まずは、関数の式を求めます。
「でも、どんな式なのかわからない」
と言う子が、かつていました。
問題に書いてなくても1次関数の式は、y=ax+b だし、そもそも今回は書いてあるし、と説明しても、釈然としない顔をしていました。
「本当に?本当に、いつも、y=ax+b を使っていいの?」
「1次関数なら」
「どんなときが1次関数なの?」
「問題に1次関数と書いてあるときが1次関数です」
「・・・・・・」
「・・・今、あなたは、文章題か何かの心配をしていますか」
その子は、驚き、そして、うなずきました。
「そう。文章題、苦手」
今、この問題とは関係のないことでモヤモヤして、それで不安になっているのでした。
数学に苦手意識のある子で、そういう子は多いです。
数学が苦手な子は、苦手意識だけは強いものの、過去に何をどう間違えたか、自分は何がわかっていないか、といったことを正確に把握していません。
常にモヤモヤと苦手意識にとりつかれています。
そのため、今考えても混乱するだけのことを一緒に考えてしまう傾向があります。
文章題のことは、文章題のときに考えたらいい。
文章題は、アプローチがまた違ってきます。
文章題のときは、自分で関係を表す式を作りますから、1次関数かどうかは式が出来てから判断します。
それは、今回の問題を解くときに考えることでないのです。
そうした意識の上での分割が上手くできない子が、数学が苦手になる傾向が強いような気がします。
不安が強いから先回りしてものを考えてしまうのだとは思うのですが、結局、今解いている問題の理解が曖昧な結果に終わってしまうことにもなりますので、不安の先回りは止められるといいですね。
「目の前の問題のことだけ考えましょう。今は問題に1次関数と書いてあるから、1次関数です。1次関数ならば、使う式は、y=ax+bです。y=ax+b の形で表される関数を1次関数と呼びます。これは定義なので、理由は必要ないのです。大丈夫?」
「多分・・・・・」
さて、問題に戻りますと、a <0 とありますから、この1次関数は、グラフにすると右下がりの直線となります。
これのせいで、この問題の正答率は低いのです。
y=ax+b の a は、「傾き」とも呼ばれ、名前の通り、グラフの傾き具合を表すものです。
a が正の数ならば、グラフは右上がり、a が負の数ならば、グラフは右下がりになります。
今回は、右下がりのグラフ。
x が大きくなれば、 y は小さくなるという関係です。
x が最小のとき y は最大。 x が最大のとき、 y は最小。
ですから、今回の変域の中では、 x=1 のとき、 y=7 であり、 x=4 のとき、 y=1 という関係が読み取れます。
ここの理解が最大のヤマ場です。
「a<0のとき、グラフが右下がりになる」という意味がどうしてもわからない子もいます。
グラフが右下がりになると、xの最小値のときyが最大値になり、xの最大値のときyが最小値になる、ということがわからない子もいます。
右下がりのグラフを実際に描いてみせても、わからないものは、わからない。
そうした概説は、こういう問題を解くずっと前に学習しているのですが、問題を解くのに直接関係のないそういうことは、すべて聞き流すのが、解き方だけ覚えようとする子たちです。
実際にグラフを描いて、a との関係を調べて確認する学習を、学校の先生たちは工夫しているはずなのに、そういうものは無視。
大切なことだと思えないようなのです。
問題を解くことに直接関係のないことには関心がなく、それが自分の首を絞めていることに無自覚です。
だから、解き方の意味がわからないのですが、わからないから、手順だけ覚えることになります。
悪循環です。
「a<0なら、xが大きいときyは小さくて、xが小さいときyが大きい」
「a>0なら、xが大きいときにyは大きくて、xが小さいときにyも小さい」
教わったことを、理解し、復唱したくてそう言っているのか?
わからないから、手順だけ覚えようとしているのか?
生徒のつぶやきに、私は首をかしげます。
このあたりが、微妙な場合が多いのです。
それ、丸暗記するのは、むしろ面倒くさくない?
理解したほうが楽じゃない?
でも、彼らにとっては、そうではないらしいのです。
ともあれ、具体的な x と y の値の組が2組見つかれば、それを代入することで、 a と b が何であるか求めることができます。
一般式 y=ax+b に代入して、
7=a+b
1=4a+b
これは、 a と b の連立方程式として、解くことができます。
今回、解き方は省略して、 a=-2 , b=9
もうかなり解答に近づいてきました。
しかし、ここまで夢中で求めて、「あれ?ここから何だっけ?」となる中学生もいます。
何のために、何をしていたのか、ふっとわからなくなってしまうようです。
作業手順だけ暗記して数学を乗り切ろうとする子に多いです。
作業手順の暗記じゃなくて、意味を理解しよう、と繰り返し励ましたいところです。
1次関数の式を求めようとしていたんですよね。
a=-2、 b=9 なのだから、 y=ax+b の一般式にこれを代入して、この1次関数の式は、
y=-2x+9
となります。
それでも、まだ最終解答ではないです。
求めたいのは、 x=3 のときの y の値ですから、この式に、 x=3 を代入して、
y=-2×3+9
y=3
これが、この問題の解答です。
この手順、覚えきれないでしょう?
だから、定期テストが終われば、すぐ忘れてしまうのです。
でも、理解していれば、忘れないのです。
さらに難問になると、
問題
1次関数 y=ax+b において、x の変域を 1≦ x ≦4 とすると、y の変域は 1≦ y ≦7 である。 x=3のときの y の値を求めよ。
という問題もあります。
これは、まず、a=0を否定したうえで、a>0、a<0の場合に分けて、それぞれの答を求めていかなければなりません。
発展的な問題集には載っている問題ですが、中学生でこれを自力で完答できる子は、相当に数学的な才能がある子です。
そもそも、答案の書き方がわからないでしょう。
そういう答案の「ひな型」を学んでいない時期ですし。
しかし、高校数学になると、当然のようにそれを要求されることになります。
中学の難問が、高校では、基本問題になるのです。
解いてみましょう。
1)a=0 のとき
y=bとなり、yの値は常に一定なので、1≦y≦7という値域と一致せず、不適。
2)a>0 のとき
y=ax+bのグラフは右上がりとなり、xが最小のときyは最小、xが最大のときyは最大となるから、
x=1のとき、y=1
x=4のとき、y=7
高校数学として解いているので、1次関数の式の求め方も、中学の求め方ではない、高校数Ⅱで学習する「図形と方程式」で学習した直線の式の求め方でいきましょうか。
すなわち、点(x1,y1)を通り、傾きmの直線の式は、
y-y1=m(x-x1)
という式です。
これでさらに、今は、(1 , 1) , (4 , 7) という2点がわかっているので、この2点から傾きはサクッと求めることができます。
変化の割合=yの増加量 / xの増加量
という、中学で学んだ公式をそのまま活用すればよいのです。
というわけで、代入するのに使う点を(1 , 1)とするなら、
この1次関数の式は、
y-1=6/3(x-1)
y=2x-2+1
y=2x-1
したがって、x=3のとき、y=5
3)a<0 のとき
y=ax+bのグラフは右下がりとなり、xが最小のときyは最大、xが最大のときyは最小となるから、
x=1のとき、y=7
x=4のとき、y=1
よって、この1次関数の式は、
y-7=-6/3(x-1)
y=-2x+2+7
y=-2x+9
したがって、x=3のとき、y=3
1)~3)より
a>0のとき、y=5
a<0のとき、y=3
これが、最終解答となります。
Posted by セギ at 14:09│Comments(0)
│算数・数学
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