たまりば

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2023年05月15日

数学。ノートが悪いために、答案を正確に書けないこともあります。

数学。ノートが悪いために、答案を正確に書けないこともあります。

都立神代植物公園水生植物園のアヤメと奥にキショウブ。

さて、今日は数学の話です。
例えば、こんな問題。
数Ⅱ「式と証明」という単元の中の、分数式の計算の問題です。

問題 次の計算をせよ。


 x+4   -    x-8
x^2-4     x^2-8x+12


数Ⅱの問題としては簡単なものです。
数Ⅱ最後の憩い、と呼んでいいかもしれません。
考え方も意味もよくわかる問題だと思います。
ですが、こういう問題で誤答を繰り返してしまう子もいます。

もっと易しい、中学1年生が学習する分数の文字式でも、分数の前に-の符号があると、毎回必ず間違えてしまう子は、います。
あまりにも誤答が多いので、そういうことだろうかと推測しながら、その子のノートを見て、私は衝撃を受けました。
以下のような答案になっていたのです。


 x+4      -   x-8
(x+2)(x-2)     (x-2)(x-6)


x-^2-2x-24-x^2-6x-16


 -8x-40
(x+2)(x-2)(x-6)

・・・何だろう、これは・・・。
こんなのは、数学の答案ではありません。
計算メモです・・・。

こういう答案を書く子を見るのは、しかし、初めてではありませんでした。
高校の数Ⅱを学習するような段階に至っても、このような「計算メモ」を答案だと思っている子は、ときどきいます。
私の知る限りでは、中高一貫校の、しかも、男子生徒ばかりでした。
個別指導をしている私が知る限りで今までに、4人・・・。
世間には、もっとたくさん存在するかもしれません。

このような「計算メモ」の内容自体、大きな課題ですが、もう1つ気になったのは、これが、ミミズがのたくるように波打って書かれていることでした。
そして、そのノートは、小学生向けの「学習帳」でした。
1センチ四方の水色のマス目が描かれた学習帳で、高校数学を解いています。
そして、そのマス目を無視して、数式が波打っているのでした。

「小学生向けの学習帳を使っているのは、中学受験の勉強をしていたときにまとめ買いしたノートが、まだ余っているということですか?」
「そうです」
「それで、そのノートの広いマス目が使いにくいわけですか?」
「そうです」
「マス目の縦の線は確かに邪魔ですが、横だけを罫線として使用すれば、そんなに使いにくいことはないと思いますが・・・」
「・・・」

縦線は無視して横線だけを罫線として使用することが、頭の中で上手くできず、結果、横線も無視して、全体に波打ってぐちゃぐちゃになってしまうようでした。
マス目のノートは、中学・高校の数学では、確かに使いにくいです。
上手く使える子もいますが、その子は使えないのでした。
でも、学習帳が家に余っている。
さすがに学校では使えないけれど、塾のノートなんか何でもいいから、塾で使うことにしているのでしょう。

思い返すと、中高生なのに学習帳を使っていた子は、記憶の中で何人かいて、いずれも中学受験をした子でした。
学校では使えないから、家庭学習に使う。
そういうことで、学習帳を個別指導塾に持ってくるのだと思います。
それが、中2になっても中3になっても、高1になってもなくならない・・・。
どれだけ大量買いをしたのだろう・・・。
ノート大量買いは、中学受験のトレンドなのでしょうか・・・。

余った学習帳の使用が、必ず学力に影響するというわけではありません。
学習帳の縦線を無視して横線だけを罫線として使用できる子のほうが多いです。
それで特に問題なく数学の答案を書いていけるのなら、中学進学後も家庭学習には学習帳を使って構わないと思います。
しかし、縦線がどうしても脳に影響して、上手く答案を書けない子もいます。
視覚的なことに少しだけ得意不得意のある子なのだと思います。

思い返せば、その子は、三角錐の見取り図を描けない子でした。
描き方がわからず、三角錐の見取り図を描くことができなかったのです。
三角形は、底辺を水平に描くもの。
そういう思い込みが強いため、三角錐の側面の三角形を上手く描くことができず、結果、歪んだ不気味な図しか描けませんでした。
それは、練習することにより、克服できました。

そうした、縦・横・斜めの直線の感覚に対して多少の偏りのある子に、中学入学後もマス目の学習帳を数学で使用させるのは、苦痛が大きいのかもしれません。
常に、何かを我慢しながら数学の勉強をしていることになります。
ストレスが強いです。
そうでなくてもあまり得意ではない数学で、さらにストレスの強い学習を常に行っている。
やめたほうがいいでしょう。

数学の学習で推奨するのは、中学生の間は、やはり大学ノートです。
分数の計算をすることも多いので、罫線の幅は広い「A」のほうがいいですが、分数のときには2本分使うことに決めているのなら、いっそ罫線の狭い「B」のノートでもいいでしょう。
数式を横にまっすぐに書けるようになったら、白ノートもいいと思います。
高校数学になると、式は分数だらけなので、横罫も邪魔になっていきます。
数列のシグマ、積分のインテグラルや、極限のリミットを記入していくのに、横罫は基本的に邪魔です。
ただし、横にまっすぐに書いていかないと、数式は波打ち、ミスの原因となります。
また、字のサイズをコントロールできず、だんだん字が大きくなってしまう子もいます。
粒の揃った字を横にまっすぐに書いていけること。
数学の答案を書くための基本技術の1つです。

ルーズリーフに憧れる中学生は多いですし、管理できるのならば別に止めませんが、通しナンバーを打っていくか、あるいは、紙が変わるごとに、何のテキストの何ページの何番を解いているのかを確実に書いていけるようでないと、あとでグチャグチャになります。
ルーズリーフに宿題を解いてきた子が、答え合わせをしようとすると、どこに解いたのかわからず、ルーズリーフの整理に何分もかかる、というのはよくある話です。
大人ならば当たり前にできることでも、中学生・高校生にはまだ無理なことが沢山あります。
身体的には成長し、家庭内のルーティンばかりの生活の中では言動がしっかりしているように見えるので、家族は「この子はもう大人だ」と誤解しがちですが、事務的なことはほとんどできない子も多いのです。
それも経験、ということでやらせているのなら構わないのですが。


しかし、上の答案は、そうした「ノートが悪い」というだけではない課題も感じるものでした。
もう一度、見てみましょう。


 x+4      -   x-8
(x+2)(x-2)     (x-2)(x-6)


x-^2-2x-24-x^2-6x-16

 -8x-40
(x+2)(x-2)(x-6)

まず、与式の分母を因数分解することは理解しているのです。
この分数式は、そのまま互いの分母をかけて通分するのでは、次数が高くなり、計算が煩雑になります。
因数分解することにより、共通因数を見つければ、次数はできるだけ低くして通分することが可能です。
そうして、1番目の分数式の分母は(x+2)(x-2)、2番目の分数式の分母は、(x-2)(x-6)と因数分解した。
そこまではわかります。
与式を書き写していないこと、イコールをつけていないことは気になりますが・・・。

問題は、次の行です。
これは、何をしているのでしょう?
ここで計算ミスをしているので、何をしているのか他人にはよくわからないですし、本人に解説を求めても、こういう答案を書く子は、自分で書いた答案を後になって自分で説明することもほぼできないのですが、おそらく、これは、分子だけを書いているのだと想像されます。
そして、通分した結果の分子を、しかも( )をつけた形ではなく、展開しながら書いているのだと思います。
そんなことをすれば、計算ミスをする可能性は極めて高いのですが。

分母を(x+2)(x-2)(x-6)という形に通分したのであれば、1番目の分数式の分子には、(x-6)を、2番目の分数式の分子には、(x+2)をかけることになります。
同じ分母を何回も書くのはうんざりだというのであれば、
ここで、(分子)=・・・
という書き方も可能です。
すなわち、
ここで、(分子)=(x+4)(x-6)-(x-8)(x+2)
=x^2-2x-24-x^2+6x+16
=4x-8
=4(x-2)

と、最低限これくらいのことは書いたほうが自分も見やすく、さっさと書いていけば頭の中でうんうんうなりながら暗算するよりもむしろ速いのです。

よって、
(与式)=4(x-2) /  (x+2)(x-2)(x-6)
=4 / (x+2)(x-6)

という正解に至るまで、3分とかからないはずですが、暗算する子は、下手をすると10分くらいかかりますし、そのうえで、計算ミスをしてしまう可能性が高いです。
書いたほうが速いのです。

ところが、この「書いたほうが速い」を実感できない子は多いです。
本人の実感とは違うので、どれだけ助言されても、受け入れない。
心の奥に深く染み入って、その助言に従おうということには、ならない。
次のときは、また暗算してしまいます。
反抗心でやっているのではなく、単純に、忘れてしまうようです。

繰り返しますが、上のような答案を書いてしまう子は、私の知る限り、中高一貫校の男子生徒ばかりでした。
公立中学出身の生徒で、そういう子を見たことはありません。
勿論、私の知る範囲のことなので、存在するのかもしれません。
低学力で、しかもそれが貧困や教育放棄に由来するものである場合は、塾に通うこともなく、だから私が見ることもない、ということはあり得ることです。
しかし、少なくとも大人の言っていることが理解できる子で、高校入試を多少は意識している公立中学の生徒の場合は、中学の数学の先生が教えることには絶対服従の子が今は多いのです。
過剰なほどに。
「先生に目をつけられたら、内申が低くなり、高校入試に影響する」
と過度に恐れているのです。
学校の先生が、
「このように答案は書いていきなさい。このように書いていない答案は0点です」
と授業中に一言言うだけで、成績を多少は意識している子たちは、全員、途中式を丁寧に書いていくようになります。

公立中学のそういうところが嫌で、中高一貫校を受けた。
そのように言う保護者の方は多いでしょう。
中学の3年間、内申だけを気にして、学校の先生にこびへつらっていかなければならないような生活はさせたくない。
だから、中高一貫校を受けたのだ。

それも1つの考えだと思いますが、内申を恐れての絶対服従が、逆に、正しい数学の答案を書いていくことにつながっているのだとすれば、皮肉な話です。
中堅私立の中高一貫校に通う生徒が、のびのびと、
「うちの数学の先生、おかしいんですよ。答案はこう書けとか、いちいちうるさくて」
などと、陽気に不満を言うので、何ごとかと思えば、それは、ごく普通に数学答案として要求されていることだというのはよくある話です。
「数学の答案として、それは普通のことですよ」
と私が説明しても、えー、とさらに不満顔だったりします。
私立の子は確かにのびのびしています。
のびのびと、頓珍漢な「答案」を書き続けてしまうことがあるのです。
基礎を学んでいる段階では、正しい形式、スポーツでいうフォームを学ぶことが大切であるのに、その段階で自我が優先され、型を学び損ねてしまうことがあります。

不満はあっても、学校の先生の指示通りの答案を書いていける子は、数学のできる子です。
高校数学に進めば、そのような答案を作成していかなければならない理由も徐々に理解していきます。
自分の書いた省略だらけの答案が、1週間も経てば、自分でもどうやって解いたのか、意味がわからない。
それでは、採点する先生に意味が通じるわけがない・・・。
意味の通じない答案では部分点すらもらえないのは、当たり前です。

しかし、要求されていることの意味がよくわからず、一方、内申に対するプレッシャーもないので、のびのびと暗算ミスばかりの計算メモを答案のつもりで書き続けていく子もいます。
この子は、公立中学に通えば、少なくともこうはならなかったろうなあと思うことがあります。


なぜ男子生徒ばかりで女子生徒でこうした子に出会うことがないのか?

それも、たまたまなのかもしれませんが、文字を書いていくことについて、女子は男子ほどには抵抗感がないのが1つの原因かもしれません。
暗算するより、丁寧に書いていきたい。
そのような志向の子が女子には多いように思うのです。
今は、女子も字の汚い子が多いですが、それでも、書くことそのものが嫌いという子は、男子ほどは多くないように思います。

男子生徒の中には、「暗算するより書いたほうが速い」が通じない子がいるのです。
文字を書くことに、余程の抵抗があるのでしょうか。
不器用で、字を書くことそのものが上手くできないし、苦手だ。
上のように、学習帳に縦線が入っているだけで混乱して、横線と平行に文字を書いていくことにも困難があるようですと、文字を書くことにはさらに苦痛があるかもしれません。
できるだけ、書く文字数は少なくしたい。
そのために暗算している。
自分の暗算力を過信しているわけではなく、文字を書くのがただ嫌なだけということもあるのかと思います。

手書き入力した文字が画面上でたちまちきれいな数式に変わるデバイスを、生徒全員が持つような時代になれば、また状況は変わるのでしょうか?
しかし、タブレット画面は画角に限界があり、数学答案の始まりから終わりまでを俯瞰するのが難しいので、数学答案は手書きのほうが利点が多いように思います。
やはり、手で文字を書いていくことに苦痛のないように育つことが、学力を高める1つの条件のように思うのです。





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