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2020年07月05日

分数のわり算はなぜ逆数をかけるのか。

分数のわり算はなぜ逆数をかけるのか。

昔のアニメに『おもひでポロポロ』というのがありました。
27歳の女性が、小5だった頃の自分のことを思い出しながら田舎を訪れ、そこで暮らすことを決意する。
そういうストーリーでした。

そのアニメの中で重要なエピソードの1つが、「分数のわり算」。
分数のわり算は、なぜ逆数のかけ算に直すのか?
なぜそれで答が出るのか?
小5のヒロインは、それがどうしても納得できず、お姉さんに質問しますが、「そういうものなの!」と決めつけられ、むしろバカにされ、うるさがられます。
どうやら、小学校でも説明されていないことになっているようでした。
少し不器用なヒロインの性格を浮き彫りにするエピソードなのだと思います。

これは、このエピソードを作った人、すなわち原作者の実感なのだと思うのです。
けれど、私は、分数のわり算がなぜ逆数のかけ算になるのか、小学校で教わりました。
教科書にも載っていた記憶があります。
私自身が教える立場になったときにも、理由を教えています。
今も、小学校の教科書に載っています。
だから、このアニメのそこのところを見る度に、ストーリーの本筋と関係ないとわかっていても、何だかちょっとモヤモヤするのです。
算数や数学が悪者にされているようで・・・。

分数のわり算は、なぜ逆数のかけ算で計算できるのか。
この説明は、しかし、ちょっと面倒くさいのです。
小学生が理解するには難しい、段階を踏んで論理的な説明です。
順を踏んで、AならばBで、BならばCで、CならばDだから、結論として、AならばDである、というタイプの論理です。
一言で説明できることや、ひと目でわかることでないと理解しづらい、という子には向いていないかもしれません。

分数のわり算は、なぜ逆数のかけ算で計算できるのか。
私が理由を説明している間、多くの小学生は、不安そうな表情を浮かべます。
難しくて、よくわからない。
この説明、早く終わらないかな、という顔です。
そして、まとめとして計算のやり方を説明すると、ほっと安堵の表情に変わります。
何だ、簡単だ。
逆数のかけ算にするだけなんだ。
良かった、良かった。

その瞬間に、それまでの長い説明は吹っ飛んで、記憶から削除されるのかもしれません。
こうしたことは、他にも沢山あると思います。
中学生になった後も、そうです。

3-(-2)=3+2 
のように、負の数を引くことが、正の数を足すことに書き換えられるのは、なぜなのか。

(-3)×(-2)=6
のように、負の数×負の数は、なぜ、正の数になるのか。

理由は説明されているはずです。
でも、よく理解できなかった。
そして、忘れた。
理由を説明されたという事実も忘れた。
そういうことは沢山あると思います。


分数のわり算は、なぜ逆数のかけ算で計算できるのか?

代表的な考え方は2つあります。
まず、1つは、文章題から具体的に図を描いて考えていく方法。
分数を分数でわるというのは、具体的には、どんな場合でしょうか。
例えば、こんな問題を考えてみるのです。

問題 2/3dLで、3/4㎡の壁を塗ることのできるペンキがあります。このペンキは、1dLで何㎡の壁を塗ることができますか。

この説明が子どもにほとんど理解されない理由が、もうこれでわかった・・・。
そんな諦めの気持ちを抱く人もいるかと思います。
この文章題を解く式を自力で正しく立てられる小学生が、まずかなり限定されるのです。
「単位量あたり」の問題は、小学生には鬼門の1つです。

とりあえず、分数では難しすぎるので、整数で考えてみましょうか。

問題 3dLで7㎡の壁を塗ることのできるペンキがあります。このペンキは、1dLでは何㎡の壁を塗ることができますか。

・・・いいえ、これでも難しいのです。
生徒が困った顔をしているので、理由を訊くと、
「わりきれないと思う・・」
と言い出す子が多いのです。
「いや、割り切れなくても、いいでしょう。答は分数になってもいいのですから」
と説明すると、驚いた顔をします。
答えが分数になる可能性を全く考えていず、普段は整数と小数だけで計算すると決めている子が多いのです。

問題 4dLで2㎡の壁を塗ることのできるペンキがあります。このペンキは、1dLでは何㎡の壁を塗ることができますか。

これなら、割り切れるから大丈夫でしょうか?
いいえ。
生徒の2人に1人は、間違った式を立てます。
式 4÷2=2 答2㎡

・・・いや、違います。
正しい式は、2÷4です。

何で4÷2という式を立ててしまうのかというと、「わり算は、文章の中の大きい数を小さい数で割ればいい」というとんでもないルールを低学年の頃に発見して、以後、それで文章題をやり過ごしている子が多いからなのです。
低学年の頃、最初にわり算を学習したときは確かにそうだったのでしょう。
小数も分数もまだ学習していないので、答を整数にするためには、大きい数÷小さい数の式しかない。
問題を作る側のそうした都合を、自分のルールに取り込んでしまっている子が多いのです。
そんなルールで文章題を解いているために、問題文を読まない習慣がつき、高学年になると、正しい式を立てることができなくなるのです。

問題 2dLで4㎡の壁を塗ることのできるペンキがあります。このペンキは、1dLでは何㎡の壁を塗ることができますか。

これなら、安心。
4÷2 という式を立てられる子が多いでしょう。
整数で考えたときに立てた式は数字が分数になっても同じ構造のはず。
では、一番上の問題は?

問題 2/3dLで、3/4㎡の壁を塗ることのできるペンキがあります。このペンキは、1dLで何㎡の壁を塗ることができますか。

式は、3/4÷2/3 ですよね?
単位量あたりの数値を出すときは、その単位の数値で割るんですよ。
1dLあたりを求めたいなら、dLのついている数値で割るんです。
これなら、安心。

・・・いえ、何も安心ではないでしょう。
もう既に、この段階で、子どもの気持ちはついてきていないです。
この式を実感できる子は、ほとんどいない。
こんな理解できない式を使ってそれから分数のわり算を逆数のかけ算で解く意味を説明されても、モヤモヤしてしまう・・・。

それでも、何とかここまで理解してくれた子に向けて、説明を続けます。
まず、縦1m、横1mの正方形の壁の図を描きます。
それを横に4つに区切って、下から3つ分まで薄く色を塗ってみましょう。
3/4㎡の壁に塗られたペンキの図をこれで描けました。
これが、2/3dLで塗った分です。
これを1dL分にいきなりするのは難しい。
でも、まずは、1/3dL分ではどれだけ塗れるか考えて、それから1dL分に直すことならできそうです。
さきほどの、3/4㎡の薄く色を塗った壁を今度は縦に2つに切り分けましょう。
今回は縦に切るのがコツです。
そのほうが切り分けやすいですから。
図から、1/3dLで塗れる壁は、3/8㎡であることが見てとれます。
では、1dLで塗れる壁は?
3/8㎡の3つ分であることが、これも図から見て取れます。
つまり、9/8㎡です。

これを途中式を加えて書き記していくと、
3/4÷2/3
=3/4÷2×3
=3/(4×2)×3
=(3×3)/(4×2)
=9/8

文字で一般化しましょう。
a/b÷c/d
=a/(b×c)×d
=(a×d)/(b×c)

おや?
これは、a/b×d/c=(a×d)/(b×c)と同じです。
つまり、分数のわり算は、÷の後ろの数を逆数にしたかけ算と計算方法は同じなのです。

これが、分数のわり算が、逆数のかけ算で計算できる理由の説明の1つです。
ネットだから説明しにくかった、ということもありますが、実際に図を見せたり、もっと見やすい分数の式を書いて説明しても、やっぱりわかりにくいのです。
しかも、これは、結果として同じ計算になりますね、というだけです。
なぜ逆数にするのかその理由を知りたいという気持ちに真正面から答えるものではないような気もします。
例えば「三角形の面積を求めるときは、平行四辺形の面積を求めて2で割る」というような、真正面からの理由ではありません。
その意識のズレも「理由を説明してもらえなかった・・・」という気持ちを引きずる子がいる原因なのかもしれません。


分数のわり算は、なぜ逆数のかけ算で計算できるのか?
説明の仕方は、もう1つあります。
これは、分数×整数と、分数÷整数の計算の仕方はしっかり身について、それに対しては疑問はないという前提で説明が始まります。

分数×整数の計算は、大丈夫でしょうか?
2/5×3=(2×3)/5=6/5
これも、基本は面積の図を描いて説明します。
1×1の正方形をまず描き、それを横に5つに分けます。
1つ分が、1/5です。
下から2つ分に薄く色を塗りましょう。
それが、2/5です。
2/5×3は、2/5が3個あるということ。
同じ図を横に3個書き並べます。
3個分に薄く色を塗ります。
1/5が何個分でしょうか?
6個分ですね。
だから、答えは、6/5です。

一般化すると、分数×整数は、分母はそのまま、分子に整数をかければ答になります。


分数÷整数の計算はどうでしょうか?
2/5÷3は、どう計算しましょう。
これも、面積の図を描いて考えます。
1×1の正方形を描き、それを横に5つに分けます。
1つ分が1/5です。
下から2つ分に薄く色を塗りましょう。
それが、2/5です。
それを3つに分けます。
図を縦に3つに切り分けましょう。
横に5つに分け、縦に3つに分けたことになります。
1つ分は、15に分けた1つ分だということが、図から見てとれます。
すなわち、1つ分は、1/15です。
2/5を3つに分けた1つ分は?
1/15が2つ分であることが図から見てとれます。
だから、2/5÷3=2/15です。

一般化すると、分数÷整数は、分母にその整数をかけて、分子はそのままでよいことがわかります。

さらに、ここで、確認しておくことがもう1つ。
わり算の性質です。
わり算は、わられる数とわる数の両方に同じ数をかけても、または、同じ数でわっても、商は同じになるのでした。
例えば、
0.8÷0.2=4 です。
筆算で、小数点を移動して計算するのは、わり算のこの性質を利用していたのでした。
8÷2=4 と商は同じだということを利用しているのです。
わられる数とわる数を10倍しても、商は変わらないのです。
別に10倍でなくても、何倍でも商は同じです。
8÷2=4 のわられる数をそれぞれ3倍して、
24÷6としても、商は4です。
また、8÷2のわられる数とわる数のそれぞれを2で割って、
4÷1としても、商は4です。

分数×整数、分数÷整数、さらにわり算の性質。
この3つを利用して、分数÷分数の計算をやってみましょう。

3/4÷2/3

わる数が分数なので、このままでは計算できませんが、わる数を整数にすれば、分数÷整数にできます。
では、どうすれば、わる数を整数にできるでしょうか。
わる数の分母を払う、すなわち、2/3を3倍すればよいのです。
わる数だけ3倍するわけにはいきませんが、わられる数も3倍するなら、商は同じままです。

だから、(3/4 ×3)÷(2/3 ×3) とします。
=(3×3)/4 ÷2
分数÷整数をするのですから、分母に×2をすればよいです。
=(3×3)/(4×2)

これは、3/4×3/2=(3×3)/(4×2)と同じですね。

だから、分数のわり算は、逆数のかけ算に直して計算できるのです。

こちらのほうが、面積の図を描くよりもわかりやすいと言われることがあります。
しかし、分数÷分数の説明をするまでに遠い道のりを経なくてはならないということでは、同じです。
しかも、なぜ逆数のかけ算になるのかを真正面から説明したわけではありません。
そのせいか、記憶にも残りにくいようです。


分数のわり算は、なぜ逆数のかけ算になるのか?
・・・もういいから、やり方だけ覚えます。
そんな声も聞こえてきそうですが、今年はアクティブラーニング元年。
やり方だけ覚えるのではなく、理由を考え、説明できることが大切です。
意味がわかっていないことの上に学習を積み上げていくと、中学のいつか、あるいは高校のいつか、全崩壊します。
何をやってよくて、何をやったらダメなのか。
自分の中に根拠がないまま、とぼとぼと歩く数学学習の道は、暗く長いです。
1つ1つの霧を晴らしていきましょう。





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