2024年01月24日
中1数学「正負の数」。正負の数の加法・減法。

もう4年前になりますが、中1の生徒の数学の宿題の答が、こんなふうだったことがあります。
(+3)+(+5)
=(+3)-(-5)
=-2
当時は、コロナ禍が始まったばかり。
学校が突然休校になり、卒業式もなく小学校を卒業したその子は、中学に入学後も登校する機会は限られていました。
私も、リモート授業を導入した時期です。
生徒にとっては、とにかく、学習する機会が少ない。
中学の最初の学習を、自習しなければならない。
大変なハンデでした。
そうした数々の困難があったとはいえ、しかし、この宿題の出来は、ありえないんじゃないか?
これは、小学校の1年生で学習する
3+5
と同じなのに。
答は、当然、8なのに。
そう思う人もいるでしょう。
特に保護者の方ならば、この答案を見たら貧血を起こしそうになるかもしれません。
しかし、これは、そう珍しい現象ではありません。
学習の初期に、こうなってしまう中学生は、います。
そして、このまま、正負の数が全くわからなくなるのかというと、そういうことはありません。
ただ、そのままでは課題があるのも事実です。
中1「正負の数」は、数学の学習の中で、もっとも簡単なようでいて、教えるのは難しいものの1つです。
基本中の基本になるほど、それを「わからない」という子に説明するのは困難を極めます。
一応わかったのだろうと安心するのは禁物です。
「正負の数」の単元の終わりに復習すると、
(+3)+(+5)=-2
といった答案を再び目にし、愕然としました。
何で?
それは、小学校1年生で学習した、3+5よ?
答は8に決まっているでしょう。
なぜ、中学に入ったら-2になると思うの?
なるわけないでしょう?
といった「常識の押し付け」は、しかし、教える者と教わる者、両者にとって不幸です。
それは、「正負の数」の体系が、その子の中に形成されていないということなのです。
いや、むしろ、算数・数学の基盤が形成されていなかったのです。
算数の学習が、小学校の低学年からやり方の丸暗記に終始していたのかもしれません。
だから、その子にとっては、やり方をちょっと間違ったためにそんな答になっただけで、深い意味はないのでした。
そして、それは、小学校の低学年から延々と続いてきた学習習慣で、そう簡単には改められなかったのです。
(+3)+(+5)
=(+3)-(-5)
=-2
ところで、この答案の2行目は、数学的には間違っていません。
そんなことをする必要がないのにそんなことをしているから、正答が出ないだけです。
(+3)+(+5)
=(+3)-(-5)
は、正しい変換です。
「正負の数」は、まず、正負の数の意味から学習が始まります。
正の数と負の数が存在することは、大半の子が理解できます。
寒暖計の目盛りの-10℃など、負の数の存在は、幼い頃から目にしています。
そういうものが存在することは知っているのです。
しかし、次の段階で早くもつまずく子が現れます。
あることがらを、正負の数を用いて言い表す問題です。
問題 次のことがらを正の数を用いて表せ。
(1)-20㎏の増量
(2)-30万円の収入
(3)-1万人の減少
(4)-4分の遅れ
正解は、
(1)+20㎏の減量
(2)+30万円の支出
(3)+1万人の増加
(4)+4分の進み
言葉遊びのようですが、後に正負の数の減法を理解するための全てがここに詰まっています。
この言い換えが理解できないと、正負の数の減法の符号の操作は、理解できないのです。
しかし、この問題の重要性どころか、その意味すら理解できずに通りすぎていく子は多いです。
そうした子の誤答の例としては、
(1)+20
(2)+30
(3)+1万
(4)+4
と、符号を+に変えただけで、㎏といった単位もついていなければその後に続く言葉も書いていない場合があります。
問題の意味を理解していません。
「いや。そういうことではないんですよ。その後に続く言葉も含めて、このことがら全体を正の数で言い表すんですよ」
と説明しても、書き直したものは以下のような誤答ということもあります。
(1)+20㎏の増量
(2)+30万円の収入
(3)+1万人の減少
(4)+4分の遅れ
後ろにつく言葉を言い換えていないのです。
「-20㎏の増量と、+20㎏の増量は、意味が反対だと思わない?それでは、同じことを言い表したことにならないよね?」
「え?同じことを表すの?」
「・・・そうですよ」
・・・何だと思っていたの?
やり方だけ暗記する子の多くは、また、問題文をほぼ読まないという、もう1つの習慣を持っていることがあります。
さて、問題の指示する内容がわかったとして。
ここでまた「やり方だけ暗記する」という悪い習慣を発動する子がいます。
-20㎏の増量は、+20㎏の減量と言い換えれば正答らしい。
ははあ、数字の符号を反対にして、言葉を反対にすればいいだけか。
そのように「やり方」を把握し、それでさっさと処理する子が現れます。
正解は出せるのですが、意味はわかっていません。
こんなことを、なぜ学習したのか?
なぜこんな問題が出題されるのか?
それは、理解していません。
意味を理解すると、これは面白いのです。
-20㎏の増量は、+20㎏の減量。
確かにそうだなあ。
じゃあ、体重が1㎏増えたときは、「-1㎏減りました」って言えばいいんだ。
1万円赤字のときは、「-1万円の黒字です」って言うんだ。
面白い。
ひねくれた言い方で、面白い。
そうした言い換えを面白く感じ、頭に沁みていくなら、それが頭の中の数理の体系に静かに組み込まれていきます。
とはいえ、
「-5㎏の減量」=「+5㎏の増量」
ということが、理解しづらい様子の子もいます。
説明してもポカンとしてしまいます。
それは、すんなりイコールではないのではないか?
そうとは限らない、何か余白の部分のようなものがあるのではないか?
そう感じるのかもしれません。
これが、面白い、わかる、という子と。
意味がわからない子と。
その差は、確かに大きいのです。
このことが、正負の数の減法に大きく影響してきます。
でも、まずは、「正負の数の加法」、すなわち、たし算の学習に進みましょう。
正負の数のたし算の考え方の基本は、数直線上の移動です。
正の数は、原点よりも右に移動した点。
負の数は、原点よりも左に移動した点、で表される。
(+3)+(+5)
これは、数直線上の原点から、まず右へ3移動した+3の位置から、さらに右へ5移動することを意味します。
右へ3移動し、さらに5移動。
だから、答は、+8。
(+3)+(-5)
これは、数直線上の原点から、まず右へ3移動した+3の位置から、左に5移動することを意味します。
右に3移動した後、左に5移動。
結局、原点から左に2だけ移動したことになります。
だから、答は、-2。
(-3)+(+5)
これは、数直線上の原点から、まず左に3移動した-3の位置から、右に5移動することを意味します。
左に3移動した後、右に5。
だから、答は、+2。
(-3)+(-5)
これは、数直線上の原点から、まず左に3移動した-3の位置から、さらに左に5移動することを意味します。
左に3移動後、さらに左に5。
だから、答えは、-8。
これを理解できない子は、ほとんどいません。
教科書や問題集に書かれた数直線上にペン先を立てて、一所懸命右へ左へと移動させて、答を導いていきます。
そして、これが加法の本質であり、私は今もそれを頭の中でやっています。
頭の中の数直線で数を移動させています。
いちいち数直線を描いたり、数直線の目盛りを数えたりはしないだけで、頭の中に数直線のイメージは常にあります。
やり方だけ暗記する子は、おそらく、頭の中に数直線のイメージがないのだと思うのです。
なぜ、頭の中に数直線のイメージがないのか?
次の学習段階で、この計算方法のルールをまとめてしまうことも一因かもしれません。
(+3)+(+5)=+8
(+3)+(-5)=-2
(-3)+(+5)=+2
(-3)+(-5)=-8
これからわかるルールは?
同符号のたし算の答は、その符号で、絶対値の和。
異符号のたし算の答は、絶対値の大きいほうの符号で、絶対値の差。
このルールの整理は、頭の中の数直線上の移動を円滑にするための補助に過ぎないのですが、これが学習のメインになってしまう子も多いのです。
このルールを丸暗記し、そのルール通りの操作で以後は計算しようとします。
そして、まだこの段階では、大きな問題は起こらないのです。
さて、いよいよ正負の数の減法に入ります。
ひき算です。
(+3)-(+5)
さきほど出てきた「言葉遊び」がここで生きてきます。
「+5をひく」ことは、「-5をたす」ことと同じです。
よって、
(+3)-(+5)
=(+3)+(-5)
=-2
(-3)-(-5)
「-5をひく」ことは、「+5をたす」ことと同じです。
よって、
(-3)-(-5)
=(-3)+(+5)
=+2
正負の数の減法は、すべて加法に置きかえて計算します。
この世にひき算は存在しない。
全て、たし算なのだ。
そのように意識を切り替えるのです。
理解していれば、何も問題はないのです。
しかし、丸暗記で済ませている子にとっては、そろそろ重荷が増してきています。
上のような符号の操作も、丸暗記で済まそうとします。
-+は、+-に書き換える。
--は、++に書き換える。
というように。
だから、ミスが絶えません。
(+3)-(+5)
=(+3)-(-5)
=(+3)+(+5)
=+8
という謎の二度手間の誤答をする子もいます。
(-3)-(-5)
=(-3)+(-5)
=-8
というミスも多いです。
やり方を丸暗記しようとして暗記できずに起こった操作ミスです。
意味がわかっていたら、こんな誤答はしないのですが。
冒頭の宿題の誤答は、この時期に起こりやすいミスです。
減法を学んだ後で加法の復習をすると、全部、減法のように符号を変えるのだと勘違いしてしまうのです。
(+3)+(+5)
=(+3)-(-5)
これ自体は確かにイコールで結ばれる正しい変換ですが、こんなことをする必要はありません。
もともと、与式が加法なのですから、そのままで計算できます。
でも、減法の記憶が強く、加法も減法のように符号を変えてしまったのでしょう。
ただの操作手順でやっているから、そういうミスが起こります。
こんな簡単な正負の数の計算で誤答していると、多くの大人はこれを見て驚いてしまいます。
でも、その驚きは不毛です。
誤答しているから驚いているだけではないかと思うのです。
単なる手順の丸暗記で解いていても、正答していれば、驚かない。
手順をミスしているから、驚く。
それだけのことかもしれないからです。
やり方だけ覚えて正しい答が出せればそれでいいのなら、そんなのは、大抵の子は、いずれ出来るようになります。
中3になっても、正負の数の計算でしくじる・・・という子は少数です。
やり方だけなら、いずれ身につきます。
4年前の子も、すぐにそんなミスはなくなりました。
ただ、意味を理解する学習は、その後も本当に大変でした。
意味がわかっていないまま、ただ手順を暗記しようとしていると感じる度に、それを阻止し、意味に戻りました。
それでも、本人は、作業手順を暗記するだけのほうが楽なので、どうしてもそちらのほうに行こうとしました。
先回りして、それを阻止する。
その繰り返しでした。
意味がわかっていないのに、正答だけ出ていても、それではダメです。
高校数学に進めば、確実に挫折します。
それは、
(+3)+(+5)
=(+3)-(-5)
=-2
と誤答してしまう状態と、そんなに違わない、と私は思うのです。
数学は、丸暗記で済ませているといずれ限界がきます。
意味を理解しなければ、先はありません。
「正負の数」という単元で、何よりも学んでほしいのは、このことです。
意味を理解して学んでください。
頭の中に常に数直線をイメージし、実感で計算してください。
(+3)+(+5)
=(+3)-(-5)
=-2
当時は、コロナ禍が始まったばかり。
学校が突然休校になり、卒業式もなく小学校を卒業したその子は、中学に入学後も登校する機会は限られていました。
私も、リモート授業を導入した時期です。
生徒にとっては、とにかく、学習する機会が少ない。
中学の最初の学習を、自習しなければならない。
大変なハンデでした。
そうした数々の困難があったとはいえ、しかし、この宿題の出来は、ありえないんじゃないか?
これは、小学校の1年生で学習する
3+5
と同じなのに。
答は、当然、8なのに。
そう思う人もいるでしょう。
特に保護者の方ならば、この答案を見たら貧血を起こしそうになるかもしれません。
しかし、これは、そう珍しい現象ではありません。
学習の初期に、こうなってしまう中学生は、います。
そして、このまま、正負の数が全くわからなくなるのかというと、そういうことはありません。
ただ、そのままでは課題があるのも事実です。
中1「正負の数」は、数学の学習の中で、もっとも簡単なようでいて、教えるのは難しいものの1つです。
基本中の基本になるほど、それを「わからない」という子に説明するのは困難を極めます。
一応わかったのだろうと安心するのは禁物です。
「正負の数」の単元の終わりに復習すると、
(+3)+(+5)=-2
といった答案を再び目にし、愕然としました。
何で?
それは、小学校1年生で学習した、3+5よ?
答は8に決まっているでしょう。
なぜ、中学に入ったら-2になると思うの?
なるわけないでしょう?
といった「常識の押し付け」は、しかし、教える者と教わる者、両者にとって不幸です。
それは、「正負の数」の体系が、その子の中に形成されていないということなのです。
いや、むしろ、算数・数学の基盤が形成されていなかったのです。
算数の学習が、小学校の低学年からやり方の丸暗記に終始していたのかもしれません。
だから、その子にとっては、やり方をちょっと間違ったためにそんな答になっただけで、深い意味はないのでした。
そして、それは、小学校の低学年から延々と続いてきた学習習慣で、そう簡単には改められなかったのです。
(+3)+(+5)
=(+3)-(-5)
=-2
ところで、この答案の2行目は、数学的には間違っていません。
そんなことをする必要がないのにそんなことをしているから、正答が出ないだけです。
(+3)+(+5)
=(+3)-(-5)
は、正しい変換です。
「正負の数」は、まず、正負の数の意味から学習が始まります。
正の数と負の数が存在することは、大半の子が理解できます。
寒暖計の目盛りの-10℃など、負の数の存在は、幼い頃から目にしています。
そういうものが存在することは知っているのです。
しかし、次の段階で早くもつまずく子が現れます。
あることがらを、正負の数を用いて言い表す問題です。
問題 次のことがらを正の数を用いて表せ。
(1)-20㎏の増量
(2)-30万円の収入
(3)-1万人の減少
(4)-4分の遅れ
正解は、
(1)+20㎏の減量
(2)+30万円の支出
(3)+1万人の増加
(4)+4分の進み
言葉遊びのようですが、後に正負の数の減法を理解するための全てがここに詰まっています。
この言い換えが理解できないと、正負の数の減法の符号の操作は、理解できないのです。
しかし、この問題の重要性どころか、その意味すら理解できずに通りすぎていく子は多いです。
そうした子の誤答の例としては、
(1)+20
(2)+30
(3)+1万
(4)+4
と、符号を+に変えただけで、㎏といった単位もついていなければその後に続く言葉も書いていない場合があります。
問題の意味を理解していません。
「いや。そういうことではないんですよ。その後に続く言葉も含めて、このことがら全体を正の数で言い表すんですよ」
と説明しても、書き直したものは以下のような誤答ということもあります。
(1)+20㎏の増量
(2)+30万円の収入
(3)+1万人の減少
(4)+4分の遅れ
後ろにつく言葉を言い換えていないのです。
「-20㎏の増量と、+20㎏の増量は、意味が反対だと思わない?それでは、同じことを言い表したことにならないよね?」
「え?同じことを表すの?」
「・・・そうですよ」
・・・何だと思っていたの?
やり方だけ暗記する子の多くは、また、問題文をほぼ読まないという、もう1つの習慣を持っていることがあります。
さて、問題の指示する内容がわかったとして。
ここでまた「やり方だけ暗記する」という悪い習慣を発動する子がいます。
-20㎏の増量は、+20㎏の減量と言い換えれば正答らしい。
ははあ、数字の符号を反対にして、言葉を反対にすればいいだけか。
そのように「やり方」を把握し、それでさっさと処理する子が現れます。
正解は出せるのですが、意味はわかっていません。
こんなことを、なぜ学習したのか?
なぜこんな問題が出題されるのか?
それは、理解していません。
意味を理解すると、これは面白いのです。
-20㎏の増量は、+20㎏の減量。
確かにそうだなあ。
じゃあ、体重が1㎏増えたときは、「-1㎏減りました」って言えばいいんだ。
1万円赤字のときは、「-1万円の黒字です」って言うんだ。
面白い。
ひねくれた言い方で、面白い。
そうした言い換えを面白く感じ、頭に沁みていくなら、それが頭の中の数理の体系に静かに組み込まれていきます。
とはいえ、
「-5㎏の減量」=「+5㎏の増量」
ということが、理解しづらい様子の子もいます。
説明してもポカンとしてしまいます。
それは、すんなりイコールではないのではないか?
そうとは限らない、何か余白の部分のようなものがあるのではないか?
そう感じるのかもしれません。
これが、面白い、わかる、という子と。
意味がわからない子と。
その差は、確かに大きいのです。
このことが、正負の数の減法に大きく影響してきます。
でも、まずは、「正負の数の加法」、すなわち、たし算の学習に進みましょう。
正負の数のたし算の考え方の基本は、数直線上の移動です。
正の数は、原点よりも右に移動した点。
負の数は、原点よりも左に移動した点、で表される。
(+3)+(+5)
これは、数直線上の原点から、まず右へ3移動した+3の位置から、さらに右へ5移動することを意味します。
右へ3移動し、さらに5移動。
だから、答は、+8。
(+3)+(-5)
これは、数直線上の原点から、まず右へ3移動した+3の位置から、左に5移動することを意味します。
右に3移動した後、左に5移動。
結局、原点から左に2だけ移動したことになります。
だから、答は、-2。
(-3)+(+5)
これは、数直線上の原点から、まず左に3移動した-3の位置から、右に5移動することを意味します。
左に3移動した後、右に5。
だから、答は、+2。
(-3)+(-5)
これは、数直線上の原点から、まず左に3移動した-3の位置から、さらに左に5移動することを意味します。
左に3移動後、さらに左に5。
だから、答えは、-8。
これを理解できない子は、ほとんどいません。
教科書や問題集に書かれた数直線上にペン先を立てて、一所懸命右へ左へと移動させて、答を導いていきます。
そして、これが加法の本質であり、私は今もそれを頭の中でやっています。
頭の中の数直線で数を移動させています。
いちいち数直線を描いたり、数直線の目盛りを数えたりはしないだけで、頭の中に数直線のイメージは常にあります。
やり方だけ暗記する子は、おそらく、頭の中に数直線のイメージがないのだと思うのです。
なぜ、頭の中に数直線のイメージがないのか?
次の学習段階で、この計算方法のルールをまとめてしまうことも一因かもしれません。
(+3)+(+5)=+8
(+3)+(-5)=-2
(-3)+(+5)=+2
(-3)+(-5)=-8
これからわかるルールは?
同符号のたし算の答は、その符号で、絶対値の和。
異符号のたし算の答は、絶対値の大きいほうの符号で、絶対値の差。
このルールの整理は、頭の中の数直線上の移動を円滑にするための補助に過ぎないのですが、これが学習のメインになってしまう子も多いのです。
このルールを丸暗記し、そのルール通りの操作で以後は計算しようとします。
そして、まだこの段階では、大きな問題は起こらないのです。
さて、いよいよ正負の数の減法に入ります。
ひき算です。
(+3)-(+5)
さきほど出てきた「言葉遊び」がここで生きてきます。
「+5をひく」ことは、「-5をたす」ことと同じです。
よって、
(+3)-(+5)
=(+3)+(-5)
=-2
(-3)-(-5)
「-5をひく」ことは、「+5をたす」ことと同じです。
よって、
(-3)-(-5)
=(-3)+(+5)
=+2
正負の数の減法は、すべて加法に置きかえて計算します。
この世にひき算は存在しない。
全て、たし算なのだ。
そのように意識を切り替えるのです。
理解していれば、何も問題はないのです。
しかし、丸暗記で済ませている子にとっては、そろそろ重荷が増してきています。
上のような符号の操作も、丸暗記で済まそうとします。
-+は、+-に書き換える。
--は、++に書き換える。
というように。
だから、ミスが絶えません。
(+3)-(+5)
=(+3)-(-5)
=(+3)+(+5)
=+8
という謎の二度手間の誤答をする子もいます。
(-3)-(-5)
=(-3)+(-5)
=-8
というミスも多いです。
やり方を丸暗記しようとして暗記できずに起こった操作ミスです。
意味がわかっていたら、こんな誤答はしないのですが。
冒頭の宿題の誤答は、この時期に起こりやすいミスです。
減法を学んだ後で加法の復習をすると、全部、減法のように符号を変えるのだと勘違いしてしまうのです。
(+3)+(+5)
=(+3)-(-5)
これ自体は確かにイコールで結ばれる正しい変換ですが、こんなことをする必要はありません。
もともと、与式が加法なのですから、そのままで計算できます。
でも、減法の記憶が強く、加法も減法のように符号を変えてしまったのでしょう。
ただの操作手順でやっているから、そういうミスが起こります。
こんな簡単な正負の数の計算で誤答していると、多くの大人はこれを見て驚いてしまいます。
でも、その驚きは不毛です。
誤答しているから驚いているだけではないかと思うのです。
単なる手順の丸暗記で解いていても、正答していれば、驚かない。
手順をミスしているから、驚く。
それだけのことかもしれないからです。
やり方だけ覚えて正しい答が出せればそれでいいのなら、そんなのは、大抵の子は、いずれ出来るようになります。
中3になっても、正負の数の計算でしくじる・・・という子は少数です。
やり方だけなら、いずれ身につきます。
4年前の子も、すぐにそんなミスはなくなりました。
ただ、意味を理解する学習は、その後も本当に大変でした。
意味がわかっていないまま、ただ手順を暗記しようとしていると感じる度に、それを阻止し、意味に戻りました。
それでも、本人は、作業手順を暗記するだけのほうが楽なので、どうしてもそちらのほうに行こうとしました。
先回りして、それを阻止する。
その繰り返しでした。
意味がわかっていないのに、正答だけ出ていても、それではダメです。
高校数学に進めば、確実に挫折します。
それは、
(+3)+(+5)
=(+3)-(-5)
=-2
と誤答してしまう状態と、そんなに違わない、と私は思うのです。
数学は、丸暗記で済ませているといずれ限界がきます。
意味を理解しなければ、先はありません。
「正負の数」という単元で、何よりも学んでほしいのは、このことです。
意味を理解して学んでください。
頭の中に常に数直線をイメージし、実感で計算してください。