たまりば

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2014年03月13日

「1万時間の法則」の夢と罠


「1万時間の法則」の夢と罠


先日、ある高校2年生と話していて、これはまずいなと思いました。
模試の結果を見て、その子が言ったのです。
「あと2点でC判定だった。今、C判定なら、受かんじゃね?」
「・・・・・・え?」

その子の論理は2段階の飛躍を起こしていました。
あと2点でC判定。
・・・・・それは、D判定のことですよね。
あと2点だろうが、あと1点だろうが、D判定は、D判定です。
それが、もう彼の中では「C判定」にすりかわっていました。
そして、それを正しても、彼は理解しませんでした。
あと2点なんだから、そんなのは、もうC判定でいいだろう。
そういう考えを変える気はないのでした。

もっとまずいのは、「今、C判定なら、受かるだろう」という謎の飛躍。
どこから湧いてきたんだろう、この飛躍は。

彼の理屈はこうでした。
今、自分は何の努力もしていない。
それで模試を受けて、C判定(正確にはD判定)だった。
だったら、努力したら、すぐにB判定にもA判定にもなるだろう。
だから、今、C判定なら、受かんじゃね?

努力したことのない子ほど、こういう論理に陥りがちです。

去年の春、私は、「英単語教室」を開講しました。
覚えてくださっている方もいらっしゃるかもしれませんが、どのような内容だったのか、当時のブログをここにコピペしておきます。

「・・・・・・・英語に話をしぼると、そういう子は、まず、単語力が中学レベルで止まっています。
高1の新出単語が、高2になっても高3になっても、身についていません。
高校生になると、新出単語の量は、中学時代とは比較にならないほど増えます。
抽象的で、長い単語が多くなります。
似ている音の単語も多いです。
定期テストのときだけは、何とか覚えますが、終わったらすぐ忘れてしまいます。
何も身につかないまま、高2、高3と進級していきます。

それでも定期テストはそこそこの点数を取っています。
しかし、全国模試を受けてみると、偏差値は良くて40台。
初見の長文が読めないのですから、当然そうなります。
大学を一般受験することは、その英語力では難しい。
しかし、指定校推薦を受けられるほどの内申はない。
結局、自己推薦かAO入試しか受けられない。
そんな子を多く見てきました。

起死回生の方法が、ないわけではないんです。
ただ、「ぬるい」勉強をしてきた子にとっては、大きな負荷がかかる勉強方法です。
こうすれば、必ず英語力は上がるよ。
そう説得し、何とか始めるのですが、多くは挫折します。
この10年ほど、個別指導で試みてきて、挫折率、約7割。

しかし、成功すれば、英語力が跳ね上がります。
学校の英語の教科書の予習も、一読でざっと意味がとれるようになります。
その長文にしか出てこないような特殊な単語というのは、どんな場合もありますが、予習を1ページするのに、辞書を引くのは、1~2回で済むようになります。
単語を覚えると同時に、英文の構造把握をする訓練を重ねていく学習方法ですので、英文の構造がわからず自力で訳せない、ということがほとんどなくなります。
英語の予習の時間的負担が減りますので、他の教科に時間を割くことができます。

初見の長文も、そんなに負担なく読んでいくことができるようになります。
模試の偏差値が上がります。
本人の地力にもよりますが、50台後半くらいはすぐに届きます。
センター試験レベルの長文は、楽に読んでいけるようになります。
そうなると、本人の英語学習に弾みがつき、英語の勉強が楽しくなりますから、あとは、どんどん伸びていきます。

良いことばかりのようなのに、なぜ、そのように挫折率が高いのか。

でも、英語学習って、社会人の方も含めて、大体そうですよね。
ダイエットと同じです。
(^_^;)

本当に英語力の伸びる学習に必要な要素は。

良い教材で
良い学習方法で
継続して学習すること。

多くの場合、このうちの「良い教材で」にばかり目がいき、何か良い教材はないか、自分はその教材を知らず損をしているのではないかと思う子が多いです。
しかし、むしろ、そんなに悪い教材を探すほうが難しいくらいで、世の中には、良い教材は溢れています。
例えば、次々と新しい英単語教材が出てくる中で、10年に一度くらいのペースで、『でる単』の評判が復活します。
新しい単語集と、何十年も前に作られた『でる単』と。
収録されている単語も、覚えやすさも、結局、あまり変わらない。
そういう意味で、見直されるんです。
問題は、教材の良し悪しではないんです。
私は、『でる単』は使いませんが、あれは良い教材の1つだと思います。

良い学習方法で。
これは、非常に重要です。
ところが、その「良い学習方法」を伝授しても、それが、苦しい学習方法ですと、本人にとっては、「良い学習方法」に思えないようです。
何か、もっと楽で、聴き流しているだけ、あるいは、テキストを眺めているだけで、びっくりするくらいに英語が身につく学習方法が世の中にはあるんじゃないか。
そういう幻想を抱いている子は、苦しい学習方法や面倒くさい学習方法を「良い学習方法」とは思いません。

私の推奨する学習方法は、CDを使うことが欠かせません。
音声教材は、英語学習に不可欠です。
しかし、どれだけ強く命じても、CDを聴かない子は多いです。

どうしてCDを聴かないのか。
「いや、何となく必要じゃない気がするから」
・・・・・・何でそんなことを、やる前に判断するの?
「うちには、CDプレイヤーがないから」
iポッドに落とせば、いいよね?
あるいは、プレイヤーを買えばいいよね?
1万円以下で買えますよ?
それで、英語力がつくなら、安いよね?
「つまらないから」
・・・・・・最初から楽しさだけを追求するのは、やめましょう。
わかれば、楽しくなりますから。
「時間の無駄な気がする」
・・・・・・CDによる英語学習が時間の無駄?
これが効果的だと言っているのに、結局、信じてないですよね?

こと細かに効果的な学習方法を指示しても、なぜか勝手にアレンジする子がいます。
しかも、効果がなかった自分のそれまでの学習方法寄りのアレンジをするので、効果は激減します。
他人の言う通りにするのではなく、自分流にアレンジするのが正しい。
そういう感覚なのかもしれません。
でも、本人は、それでも、私の助言は十分に聞き入れてやったつもりらしいんです。
「言われた通りにやったのに、効果がなかった」と言います。
・・・・・・言われた通りには、やっていないですよね?
効果的な学習方法を、似て非なる形骸化したものにしたのは、あなたですよね?
でも、それを言っても、意味はありません。

つらいといっても、成功率3割が示すように、不可能なほどつらいわけではないんです。
具体的には、とにかく最初の5週間は、1日に1時間、その学習に集中することが必要です。
最初の5週間を乗り越えれば、その後の負担はかなり軽くなります。
でも、多くの場合、その5週間を乗り越えられません。
その単語学習は、学校の勉強の邪魔にならないように、3月後半から始めるのが通例です。
4月中で最初の5週間が終了します。
学校の勉強は、一番楽な時期です。
大きなテストもありません。
だから、この時期をあえて選んでいるのに、それでも、学校の勉強を理由に、単語学習をさぼる子がいます。
毎日毎日1時間、英単語の勉強に時間を割くことが、無駄なことに思えてくるらしいんです。
自分は、もっと他にやるべきことがある。
こんなことをやっている場合ではない。
そう思えてくるようです。

それは、明らかに逃避なんですが、すっかりその考えに凝り固まってしまった子は、もう説得不可能です。
「単語の勉強は、学校の単語集でやっていくことにします」
勝手に結論づけてしまいます。
・・・・・・・・いや、だから、学校の単語集で、小テストに合わせた、ちまちました勉強をしてきた結果が、今だよね?
両方やったほうが、効果的だという話は、したよね?
そういう心理になることは、初めから予想されるから、自分で、その心理を自覚し、そういう気持ちになったら、ああ逃避だなと自覚して、ばっさり断ち切れと言ったよね?
そう説得しても、もう自分の考えに凝り固まって、聞く耳をもってくれません。
結局、何も身につかないまま、挫折していきます。

良い教材は、世の中にたくさんあります。
良い学習方法も、私の示すものだけではなく、たくさんあると思います。
ただ、継続して学習していくことができない。
諦めて、やめてしまいます。
英語が身につかない原因は、結局、英語学習が続かないことにあります。

単語を覚える才能に恵まれている人は、確かにいます。
1~2度、ちょろちよろっと単語集を見ただけで、覚えてしまえる記憶力の持ち主は、います。
そういう人たちに比べると、1つの単語を覚えるのでも、多くの努力が必要な場合はあります。
でも、覚えることができないはずはないんです。
覚えるのが苦手なら、他人の2倍、3倍、努力すればいいんです。
続けていけば、今よりは先に進めます。」


ここまでが、去年の3月のブログからコピーした内容です。
これ、相当に悲観的な内容で、私が言いたかったのは「良い英語学習法はありますが、挫折しますよ」ということでした。
そうであるにもかかわらず、塾生の保護者の方から、多くの問合せをいただきました。
努力すれば済むもんなら大丈夫だろう。
うちの子も、英語が得意の子に、生まれ変わるだろう。
そういう夢をみさせてしまう要素が、私の文章のどこかにあったのだろうと思います。


マルコム・グラッドウェル『天才!成功する人々の法則』という本、またはその内容である「1万時間の法則」について聞いたことのある方は多いと思います。
ある分野で一流、または天才と呼ばれる人は、センスや才能とは関係なく、凡人をはるかにしのぐ練習をしている。
彼らに共通しているのは、1つのことに打ち込んできた時間。
そこで浮上してくるのが、1万時間という数字。
まるで脳がその時間を必要としているかのように、1万時間を超えると、人は、一流に変貌する。

この話を聞いたとき、私は、以前に見たテレビのトーク番組のことを思い出しました。
日曜日の早朝、山に行く支度をしながら、時計代わりにつけていたテレビで、各分野で才能があると言われているらしい人たち3人が話していました。
漠然としているのは、私が、その3人のことをあまりよく知らないからです。
3人とも、30代から40代くらい。
1人は小説家らしく、あとの2人も、何かのクリエイターだと思うのですが、何だかよくわからなかったです。
(^_^;)
「誰じゃ、こいつらは?」
と心の中でつぶやきながら、何となく見ていたテレビでした。
その中の1人、小説家が、言いました。
「だって、10年毎日書けば、誰でも小説は書けるようになるから」
それに対して、他の2人も、
「あー、そうだよね。何でも10年毎日やれば、プロになれるよね」

・・・・・・・日曜日の早朝の番組って、凄いな。
自分の中の違和感に名前をつけられず、そんな感想でごまかして、とりあえず、山に行きました。

「1万時間の法則」。
1日3時間練習して、1年で約1000時間。
それを10年続ければ、1万時間。
「何でも10年毎日やればプロになれる」発言と、それは根の同じものであるように思います。
そして、私は、それを否定する気持ちはないのです。
それは、そうだろうなあ。
1万時間もやれば、あるいは10年毎日やれば、形はつくだろうなあ。
できる人とできない人との違いは、やるかやらないかだけだよ、うん。

では、私は、何に違和感を抱いているのだろう。

どうしてそういうことを、
「今、C判定なんだから、受かんじゃね?」
という発言を聞くと、思い出してしまうんだろう。
そして、なぜ、暗い気持ちになるのだろう。

それは、結局、英単語教室の挫折率7割が示すように、努力するだけのことができない子どもをたくさん見てきたせいなのかもしれません。
ただ努力するだけ。
でも、それが最も難しいこと。
ただ継続するだけ。
でも、それが最も難しいこと。

ただ努力するだけのこと。
でも、それこそが、才能なのかもしれません。
努力することができるという才能を持って生まれてきた。
それが、天からもらった万能の贈り物。
何かを成し遂げることのできる人は、努力する才能を持っている人なのかもしれません。

最初に書いた高校2年生は、学校の英語の先生に励まされたようです。
励まされた、その言葉の中の、自分に都合の良い部分をつぎはぎしたのかもしれません。
「だって、オレは、英語なんか、もう伸びしろしかないんだからさ」
「・・・・・・」

彼は、去年の英単語教室に参加し、挫折した生徒です。
挫折は珍しいことではありません。
7割は挫折するのです。
でも、そのことに、なぜ挫折感を抱いていないのだろう。
自分は努力できないかもしれないと、なぜ恐れないのだろう。


私は、言うべき言葉を失っています。


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    Posted by セギ at 13:53│Comments(0)講師日記
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