たまりば

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2024年03月26日

通過算の難問。

通過算の難問。

さて、今回は、通過算です。
通過算とは、電車の通過に関する問題。
難問、と書きましたが、順番に考えていけば、必ず正解に到達できる問題です。
たとえば、こんな問題。

問題
長さ92mの普通列車が時速57.6kmで走っています。
この列車に、その1.5倍の速さで走る急行列車が追いついてから追い越すまでに27秒かかりました。
普通列車が入り始めてから全部出るまで1分55秒かかるトンネルを、急行列車が入り始めてから全部出るまで、何分何秒かかりますか。

通過算で、基本知識としておさえておきたいことは2つあります。
①速いほうの列車は、遅いほうの列車に追いついてから追い越すまでに、2つの列車の長さの和だけ余計に進んでいるということ。
②電車がトンネルに入り始めてから全部出るまでの道のりは、トンネルの長さ+電車の長さであるということ。

この2つのことに関しては、子どもが自ら気づくことは、塾は要求しない場合がほとんどです。
それは、図に描いて、わかりやすく説明します。
これ以前の、「速さ」の基本は、この通過算を学習する前にもう十分にやっているのも前提です。

さて、それらの知識を踏まえて、この問題をどう解くか。
この問題が解けない子の多くは、この問題文の長さにまず息切れし、最後まで読み通すことができません。
問題の意味がわからない。
長くて、理解する気になれない。
第1段階で止まってしまいます。

第2段階。
解きたい気持ちはある。
最後まで読み通し、意味も一応わかった。
でも、解けない。
そういう子は、細部の分析ができません。
問題を1つのまとまりのままでしか把握できず、分割して考えることができないのです。

だから、あまり意味のないことを考えていることがあります。
「センセイ、この問題、1本の式にしなくちゃダメ?」
「・・・1本の式?」
これを?

「1本の式で答えなさい」という指示は、小学校の算数の問題で、たまにあります。
( )の使い方や、計算のきまりの学習のためです。
あるいは、受験算数でも、複雑な面積や体積の問題は、分配法則を利用して3.14でくくれば計算が簡単になるので、1本の式を立てることを勧めますが、こんな問題を1本式で解けとは、誰も要求しません。

「1本の式にする必要はないよ。部分部分で式を立てていくんだよ」
「ふうん」
問題の構造は把握できていて、あとは1本の式にならないことで悩んでいたのかと思ったら、しかし、その後も手が動きません。
部分的な式すら書けません。
やはり、考えていることがズレているのです。
この問題を自力で解くようになるまでには、まだかなり距離があります。

自分が学んでいることの複雑さが理解できていない様子の子もいます。
問題にある数値をとにかく足したり引いたりかけたりすれば偶然解けるのではないかと期待しているのです。
小学校で習う内容は、確かにそんなのが多いですから。
そういう子は、上の問題で、92×57.6といった、謎の式を立ててしまいます。

「その式、どういう意味?」
と尋ねると、
「知らない」
と言って、慌てて消します。
「意味があるなら説明して?」
「知らない」
「意味のある式を立てるんですよ?」
「・・・」

小学校で習う文章題は構造が単純なので、今は「かけ算」の勉強をしているんだから、かければいいんだろうという判断で式を立てている子がかなりいます。
今は「わり算」を習っているから、大きい数を小さい数で割る式を立てればいい、という判断だけで問題を解いてしまうのが習い性になってしまうのです。
考える習慣がありませんから、中学受験の勉強を始めると、受験算数には歯が立ちません。
小学校の算数はわりとできるほうであるのに、受験算数が全くできない子は、考えて問題を解いていない場合が多いです。
考えて問題を解いたことがないので、問題にまともに対応できないのです。
今まで通りに直観で問題文の数字をかけたり割ったりすれば答が出ることを夢見ていて、それでは正解にならないことに戸惑ってしまうのです。

「考えなさい。考えれば、わかる」
そう声をかけても、人生で考えて算数の問題を解いた経験のない子には、考えるとは何をどうすることかすら、よくわかりません。
そうした子たちにとって、問題は、ぱっと見てわかる問題か、わからない問題か。
その2種類しかないのです。
考えて正解に至った経験がないので、それも仕方ありません。

考えるとは、まずは分析すること。
上のような問題を解くためには、問題を、細部に分割できなければならないのです。
そうした考え方は、解き方をすぐ見てしまったり、教わったりしていては、身につきません。
解き方の手順を覚えて解くのでは、応用が利きません。
同じ形式で数値だけ違う問題しか解けるようになりません。

勉強のスケジュールがあるから。
1日のノルマがあるから。
そうした考えで、わからない問題はすぐに解答解説を見て、解決。
あるいは、親がさっさと教えてしまう。
それでは、結局何も身につかないことがあります。

最悪の場合、今日の勉強はこれ1問でも構わないという覚悟が大人に必要です。

上の問題に戻りましょう。

分析の仕方には2つの方向があります。
①今、何の数値を求めることができるか。
②答を求めるためには、何の数値が必要か。

算数・数学の問題を自力で解くことに慣れている子は、①を自信をもって行うことができます。
今求めるられる数値があるなら、それは必ず後で使う。
だから、求めてしまおう。
そういうことに対して、自信があるのです。

問題を解き慣れていない子は、
「そんなの答じゃないんだから、求めても意味がない。関係ない」
という誤解をしがちです。
あるいは、面倒くさいから、そういうことをやる気がしない子もいるでしょう。
答が出るという確証がない限り、何もしたくないのかもしれません。
算数・数学の問題に対する認識に誤解があるのです。
求められるものを求めていけば、新しい地平が開けて、必ず、正答に至るのですが。

さらに、今、何を求められるのか、それすらわからない、という場合もあるかもしれません。
基礎力不足です。

通過算は、速さに関する問題の応用です。
速さの3公式を使うのが基本です。
「速さ」「時間」「道のり」
この3つの要素のうち、2つがわかっていれば、残る1つを求めることができます。
そのことを、理解しているのが、大前提です。


この問題、まずは、単位がズレでいて、扱いにくいのです。
普通列車の長さは、92m。
時速は、57.6㎞。
追い越すまでに27秒。
これでは、上手くいきません。
扱いやすいように数字を整理しましょう。

どうしましょうか?
使う単位は、㎞と時間ですか?
本当に、それでいいですか?
このあたりは、ひと目で「違う」とわかる子と、そう言われても何のことかわからない子と、多少はセンスの問題が影響します。
以前に他の問題で正解できたときに使った単位は㎞/時だったから、それが好きだ、といったつまらない理由で時速にこだわる子もいます。
そういう子には、説明が必要です。
通過算で使う単位は、mと秒です。
その単位のほうが計算しやすいように問題が作られています。

だとすれば、普通列車の時速を秒速に直しましょう。
この問題は、まず、そうした単位換算ができるかどうかを試しています。
57.6㎞=57600m
1時間で57600m進むのならば、1秒ではどれだけ進むのか?
それが、秒速ということです。
1時間=3600秒 ですから、
秒速を求めるには、
57600÷3600=16(m/秒)
普通列車の速さが、これで随分わかりやすくなりました。
さて、問題によれば、急行列車は、その1.5倍の速さで走ります。
急行列車の速さを求めましょう。
16×1.5=24(m/秒)

問題によれば、急行列車が、普通列車に追いついてから追い越すまでに27秒かかります。
このことから、急行列車の長さを求めることができます。

え?どうやって?
ここで、上に上げた、通過算の基本知識が生きてきます。

急行列車が普通列車に追いついてから追い越すまでに、急行列車は、2つの電車の長さを足した分だけ、普通列車よりも多くの道のりを進んでいるのです。

この場合、「追いつく」とは、急行列車の先頭が、普通列車の最後尾に追いついたことを意味します。
「追い越す」とは、急行列車が普通列車を抜き切った状態。
すなわち、急行列車の最後尾が、普通列車の先頭をまさに離れていく瞬間のことです。
その間、急行列車は、「普通列車の長さ+急行列車の長さ」の分だけ、普通列車よりも頑張っています。
勿論、その間も、それぞれの列車は走っていますから、単純に道のりが「普通列車の長さ+急行列車の長さ」なのではありません。
2つの列車の「道のりの差」が、「普通列車の長さ+急行列車の長さ」なのです。
急行列車は、普通列車が動いている道のりの分は勿論、2つの列車の長さの和の分も、頑張って進んでいるのです。
ここのところが理解しづらい子には、電車の図を描き、さらには、マーカーやペンを電車に見立てて、目の前で動かしてあげながら説明したりします。
考える習慣がなく、頭が錆びていてよく動かない子は、そこで苦しそうに顔を歪めたり頭を抱えたりします。
難しいから、理解するのは嫌だ、となってしまう子が、受験生の中にもいます。
まだ、受験に対して実感がないので、
「難しいことは嫌い」
「嫌いだから、理解しない」
で済ませたいのです。
6年生も秋になると、さすがに、受験した結果が悲惨なものになることに実感が芽生えてきますので、学習も真剣になります。
この時期に伸びる子が多いのはそういう事情です。
逆に言えば、理解しようと思えば、5年生のときでも理解できたはずなのです。
時間を戻せないのが、もどかしい。
大人の目からみると、本当に歯がゆい。
でも、本人はただ一度の人生を初めて生きていますので、仕方ないのです。

問題に戻りましょう。
急行列車の長さをどうやって求めるのか?

ここで「旅人算」の考え方を使うことになりますが、旅人算も、公式の丸暗記で実感のない子は、今は旅人算ではないのだから関係がないと杓子定規に判断してしまいます。
丸暗記しているだけでは、旅人算のテストが終われば公式は忘れてしまう、という残念なことにもなりがちです。
出会いの場合は、速さの和。
追い越しの場合は、速さの差。
それは確かにそうなのですが、そういうことは実感をもって理解していると、使いまわしが利きます。
今回は、列車は同じ方向に走っています。
それなのに、急行列車が追いつき、追い越していくのは、速さに差があるからです。
普通列車もそれなりの速さで頑張っていますが、急行列車がそれ以上の速さで頑張っているからです。
速さの差が重要であることに、そこで気づきます。

普通列車の速さは、16m/秒
急行列車の速さは、24m/秒
24-16=8
速さの差は、1秒あたり8m
この速さの差を使って、少しずつ少しずつ、急行列車は普通列車を追い越したのです。
27秒かけて。
では、2つの列車の道のりの差は、
8×27=216(m) です。

この道のりの差が、2つの列車の長さの和でした。
普通列車の長さは、問題によれば、92m。
では、急行列車の長さは、
216-92=124(m)

慣れてくると、ここまでは何を求めるかなど意識せずに、一直線に求めるようになります。
求められるものは、とりあえず、求めてしまうのです。
それは、必ず使うから。
算数・数学の問題を解くうえでの鉄則です。

繰り返しますが、算数・数学の問題のこうした構造がわかっていない子は、答以外は求めようとしません。
一度で答が求められると思い込み、その式を作ろうとし、そんな式は作れるわけがなく、あきらめてしまいます。
できるはずのないことをやろうとしているから、一歩も先に進みません。
それは、主に経験不足からくるものです。
自力で問題を解いた経験が足りないので、こうした問題は、求められるものをとりあえず求めないと先に進まないということを知らないのです。

さて、普通列車と急行列車の秒速と長さがわかったので、この先はもう何でも求められます。
もう一度、問題を見ましょう。

問題
長さ92mの普通列車が時速57.6kmで走っています。
この列車に、その1.5倍の速さで走る急行列車が追いついてから追い越すまでに27秒かかりました。
普通列車が入り始めてから全部出るまで1分55秒かかるトンネルを、急行列車が入り始めてから全部出るまで、何分何秒かかりますか。

これも繰り返しになりますが、算数・数学の問題は、
「今、何が求められるか?」
「答を求めるために必要な数値は何か?」
この2方向から考えます。
今、何が求められるかがピンときたら、それはとりあえず求めておきます。
そのうえで、ちょっと行き詰まったら、答を求めるために、必要な数値は何かを考えます。
この問題では、最終的に時間を求めます。
それには、道のりと速さの値が必要です。
速さは既に求めてあります。
では、あとは道のりです。
急行列車がトンネルに入り始めから全部出るまでの道のり。
それを求めるには、トンネルの長さが必要です。
列車がトンネルを通過する場合の全体の道のりは、「トンネルの長さ+列車の長さ」だからです。

では、トンネルの長さを求めましょう。
問題によれば、普通列車が入り始めてから全部出るまず1分55秒かかるそうです。
普通列車の速さは、16m/秒
それで1分55秒、すなわち115秒かかるのですから、道のりは、
16×115=1840(m)
そのうち、92mは、列車の長さですから、トンネルの長さは、
1840-92=1748(m)

よし。
トンネルの長さがわかったので、いよいよ、最後の計算に入ります。
急行列車が入り始めてから全部出るまでの、列車の進んだ道のりは、
急行列車の長さが124mでしたから、
124+1748=1872(m)
これを、24m/秒で進んだのですから、かかった時間は、
1872÷24=78(秒)

よって、正解は、1分18秒 です。

ご家庭でお子さんの勉強を見ていらっしゃるお母様から、
「私が教えると喧嘩になってしまって」
という相談をいただくことがありますが、もう1つ、難しいのは、すぐに何でも教えたくなってしまう気持ちをどう抑えるか、ではないでしょうか。
子どもの手が止まっていると、つい、どんどんヒントを出して、結局何もかも教えてしまいます。
子どもは、全部教わって式が立ち、答えが出れば、それでわかったような気になります。
しかし、教わって解いた問題は、それを応用することはできない可能性のほうが高いんです。

今、未消化の問題があるのは、仕方ない。
解けない問題があるのは、仕方ない。
ノルマがこなせないのも、仕方ない。
少しでも、自分で考えた経験を増やすこと。
良問を時間をかけて考えることで、貴重な体験を積んでいけます。





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    Posted by セギ at 17:35│Comments(0)算数・数学
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