たまりば

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2023年06月01日

英語長文読解。木を見て森を見ずな読み方をする子もいます。

英語長文読解。木を見て森を見ずな読み方をする子もいます。

単語力はある。
文法も理解している。
だから、難問でも正解できる。
その一方で、簡単な問題で間違える・・・。
共通テスト模試などで、最後まで解ききるスピードも読解力も持ち合わせていながら、前半の簡単なところで誤答する子がいます。

例えば、ある共通テスト模試の、大問1のポスターの内容を読み取る問題。
「ローカル・フード・フェスティバル」に参加するシェフを募集するポスターを読む問題でした。
郷土料理フェスの中で料理コンテストを開催するので、その参加者を募集中。
優勝は、当日来た人たちの投票で決める。
あわせて、フェスの設営ボランティアも募集。
そういう内容の英文でした。

設問1 The purpose of this notice is to find people from the local town to (   ).
① donate food to a school
② take cooking lesson
③ take part in an event
④ volunteer for a charity

日本語に直すと、
設問1 この告知の目的は、(  )地元の町の人々を見つけること 。
①食べ物を学校に寄付してくれる
②料理のレッスンを受けてくれる
③イベントに参加してくれる
④チャリティーのためにボランティアをしてくれる

大問1の問1ですから、正直、ポスターの1行目、太く大きい文字で書かれたところを読んだだけで正解できるレベルの問題でした。
正解は、③です。
しかし、その子は、④を選びました。

前にも書きましたが、英文が実際のところほとんど読めないので、本文と同じ単語を使っている選択肢を選んでしまう子の場合は、③は選べないかもしれません。
③は本文の内容を別の言葉で言い換えています。
take part in という熟語の意味がわからないので、正解できない、ということもあるでしょう。
本文中にある volunteer という単語を使ってある④の選択肢をとりあえず選んでしまう、という誤答パターンに陥りがちです。

しかし、その子は、そんな英語力ではありませんでした。
必要ないから英検準1級は受けないけれど、受ければ合格するでしょう。
そういう英語力で、こういうすっぽ抜けがときどきあるのでした。
共通テストの英語なんて、満点に限りなく近い点を取っておきたいのに。

その子は、③と④で迷ったけれど、④をどうしても消せなかった、と言うのでした。
「・・・でも、このポスターは、料理コンテストに参加する人を募集するのが主な目的だというのは、わかりますよね?」
「それはわかりますけど」
「それがわかるのならば、③にすればいいんじゃないですか?」
「でも、ボランティア募集って書いてあるから」

どうすれば、この子の誤解を解けるのだろう。
私は考えこみました。
どうすれば、説得できる?
「・・・このフェスは、チャリティーですか?」
「でも、ボランティアは、お金は取らないからチャリティーです」
「お金を取らないと、チャリティーなの?チャリティーは、慈善事業という意味です。このフェスは、慈善事業なんでしょうか。これは、郷土料理の振興とか拡散とか、そういうのが目的で、チャリティーではないと思いますが?」
「・・・」
「ボランティアとチャリティーは、意味が違うんですが、もしかして、そこの混同がある?」
「あ。そうかもしれない」

どこか知らない架空の町の、自治体か地元団体主催の郷土料理振興イベントはチャリテイーであるのかないのかを真剣に考えることになる。
奇妙な誤読をする子との会話は、面白いです。
私の指導力が問われ、わくわくします。


また、別の問題。
これも、共通テスト形式の模試の中ではまだまだ易しい大問3。
外国人の女性が、日本の銭湯に行く話でした。
他人の前で服を脱ぐなんて、恥ずかしいんじゃないかしら。
自分にはわからない慣習やルールがあるんじゃないかしら。
何より心配なのは、自分は肩にタトゥーがあるんだけど、それでは銭湯に入れないんじゃないかしら。
そのように心配している外国人女性に、日本人の友人がアドバイスをくれます。
タトゥーのところにばんそうこうを貼っていけば、大丈夫。
必死の思いで打ち明けたタトゥーの件を、日本人の友人が意に介さない様子に、外国人女性は驚きます。

そんなこんなで、第3段落。

In the baths a few days later, indeed I had forgotten all about my worries. I was allowed to enter the baths because I covered my tattoo with an adhesive bandage.
数日後の銭湯の中で、本当に、私は心配ごとをすべて忘れてしまった。私は、銭湯に入ることを許された。なぜなら、私はタトゥーをばんそうこうで覆ったからだ。

しかし、その後、銭湯の中で日本人のおばあさんに、
「その肩はどうしたの?」
と訊かれます。
外国人女性は当惑するのですが、正直に、
「実はタトゥーがあって、それを隠しているんです」
と説明します。
すると、おばあさんは、
「そうなの。怪我をしているのかと心配しただけ。怪我でなくてよかった」
と応えます。
外国人の女性、それを聞いて、ハッピーになり、物語終了。


この種の問題の典型題として、語り手の心情を正しい順番で述べている選択肢を選ぶ問題というものがあります。
正答は、
「不安→驚き→安堵→当惑→ハッピー」
という流れです。

これを誤答した子がいました。
「不安→安堵→驚き→当惑→ハッピー」
という選択肢を選んだのです。

なぜ、その選択肢を選んだのかについて、その子は、この外国人女性は、銭湯に行く前にもう安堵していたと主張するのでした。
だから、安堵は前のほうに来ているはず。
その根拠が、上の一文、
In the baths a few days later, indeed I had forgotten all about my worries.
でした。
ここが、過去完了なので、銭湯に行く前に、もうすでに、すべての心配事は忘れてしまっていたのだというのです。
だから、「安堵」は早めに来ていないとおかしい、というのでした。

うん?
ちょっと待って。
どういうこと?

なぜ、その1文だけで、文脈を無視して、感情の流れを誤読してしまうのだろう?
その1文に、なぜ、そんなにこだわるのだろう?
同じ文章なのに、私とは見えているものが違うことに、正直、驚くのです。
何か特定の1文、あるいは1部分だけが、太字ゴシックで見えているのだろうかと思うほど、些末な1部にこだわって、前後の流れを無視します。
そういう誤読は、どういうメカニズムで起こるのだろう・・・。

「・・・文脈を読みましょう」
「でも、書いてあるから」
「この外国人女性は、銭湯に入る前に不安が消えたと思いますか?」
「でも、書いてあるから」
「確かに、書いていないことは、読まなくていいです。行間は読まなくていいです。でも、文脈は読んでください」
「でも、書いてある」
「その文は、『数日後の銭湯の中で、本当に、私はすべての心配を忘れてしまった』という意味です。湯舟につかって、ようやく安堵したんでしょう?」
「あ・・・。そうか!そういう意味なのか!書いてある!」
「うん」

そのたった1文の過去完了形のために、前後を無視して、別の意味を読み取ってしまう・・・。
こういう誤読をするから、秀才なのに案外国語が苦手。
英語も、簡単な問題で誤答してしまうのです。

木を見て、森を見ず。

1文にこだわり、そこに引き付けられ、それだけを重視した読み方をしてしまうようなのです。
なぜ、特定の1文にこだわるのか。
他の文から得られる情報との矛盾を無視するのか。
文脈が破壊されるのも構わず、その1文を誤読し、幻覚を見てしまうのか。

それで思い出したのは、国語を教えていた別の生徒のことでした。
以前に書きましたが、小説の主人公と、その父親と祖父との人間関係の読み取りができない子がいました。
写真館の一家の話で、父親と祖父が写真を撮りに行った夜のこと。
少年が父親に、
「お父さんのフィルムは現像したの?」
と尋ね、それに対して父親が、
「お父さんのフィルムは抜いておいた。お父さんのだけが撮影されていて、おじいちゃんのが撮影されていなかったら・・・」
「お父さんは、優しいね」
そういう会話部分の読み取りでした。
その会話の意味を読み取れなかったのです。

主人公は、お父さんのどういう行動を優しいと考えていますか。
そういう設問に、その子は答えられませんでした。
答は、「自分のカメラのフィルムを抜いておいた行為」です。
特に難しい設問ではありませんでした。
しかし、その子の答案は白紙で、解説しても呆然としていました。
このときも、色々と対話を重ねて、ようやくわかったことがありました。
その子は、父親のセリフの中の「お父さん」は、お父さんのお父さんなのだから、おじいちゃんのことを指すのだと思い込み、父親が祖父のカメラのフィルムを故意に抜き取ったと誤読したのです。
それは、確かに「優しい行動」とは思えない。
設問の意味も、文章の意味も、これではわからない・・・。

文字が読めないわけではない。
読み飛ばしているのでもなさそうです。
でも、読み方が奇妙なのです。
何か偏っています。
「お父さんのお父さんは、お祖父ちゃん」ということ自体は間違っていません。
でも、ここで用いることではありません。
そういうことを、なぜか唐突に用いてくるのです。
前後とつながらなくても、そのことを優先します。

根本的には、文章の流れを読まず、1文1文で意味が区切れてしまうことが影響しているのだろうと思います。
独りで読んでいては、これは解決しない。
どういう読み方をしているのか、丹念に分析する個別指導が必要になります。

会話が可能な子であれば、修正は早いのです。
自説にこだわる分だけ言葉数が多い子なら、変化も速いです。
対話が可能であり、説得が可能なのです。
対話する中で、読み方の奇妙な癖が明らかになります。
自分の読み方の癖を理解できれば、それにより、修正が可能です。

四択問題で誤答したときに、なぜ、その誤答を選んだのか?
私のその問いかけに、何か説明できる子です。
話す内容は、たどたどしくてもいいのです。
単語だけでも、何か伝えようとしてくれれば、その言葉を私が拾っていけます。
対話が可能であれば、私が分析でき、それを本人に説明することができます。
本人が、自分の「読み癖」のようなものを意識すれば、変化が起こります。

一方、黙り込んでしまう子は、伸ばすのが難しく、苦労が多いです。
なぜ黙り込んでしまうのか。
誤答したことを責められているように感じるのでしょうか。
責めているのではない。
ここで原因をはっきりさせておけば、次は正解できるでしょう?
そのように言っても、反応は薄いです。
音声言語を理解する力も、不足しているのだろうか・・・。
いや、言われたことは理解しても、なお自分の思いを優先したいのかもしれません。

大人との距離の取り方が防衛的な子もいます。
何だかよくわからない小さな嘘をつくことがあるので、そういうことなのかなと想像します。
最近は、教室に入ってきて、洗面所で手を洗うふりをする、という小さい嘘を見て、何だろうなあこれは、と思ったことがありました。
ハンドタオルを忘れたことを知られたくなかったようです。
タオル忘れたから、ティッシュ貸してください。
たったそれだけのことが言えない。
手を洗うふりだけする、という方向に逃げてしまう。
そのとっさの判断ミスは、テストでの間違い方に似ている気がするのです。

黙り込んでしまう子は、あるいは、選択肢を選ぶときの根拠を言語化できないだけかもしれません。
何となく選んでいるだけだから。
何となく、これが正解のような気がしたから。
その「何となく」を言語化できない。
それができると、自分が陥りやすい過ちが分析できるようになります。
何となく、その選択肢を選んでしまう理由は何なのか。
私も必死に考えます。
私が正確に言い当てることができれば、その子の信頼を獲得できるかもしれないのです。



以前も書きましたが、算数の割合に関する文章題で、
「色紙でつるを600羽折りました。赤い色紙のつるは全体の30%にあたります。赤いつるは何羽でしょう」
という問題にある「全体の30%」の「全体」が600羽であることが読み取れない小学生がいました。

あるいは、
「めぐみさんの学校では、今日は18人休みました。これは学校全体の4%にあたるそうです。今日出席しているのは何人でしょう」
という問題の「これ」が18人を指すことも読み取れませんでした。

また、空所補充問題では、
「2は8の(  )です」
「8は2の(  )です」
のどちらに約数を、どちらに倍数を入れたらいいのかわからず、正解を教えても首をひねっていました。

文章を読んでいて、句点、最悪の場合は読点ごとに意味が区切れてしまうようなのです。
その都度意味がリセットされてしまって、つながりが理解できないようでした。
また、特に、助詞の機能を理解していない傾向を感じました。
助詞を読み飛ばし、目立つ単語しか目で拾っていないので、文意を取れないのです。

それでも、読解力不足は、諦めてしまわなければならない課題ではありませんでした。
解決の道はあります。
読み方の癖を分析し、修正していくことは可能です。
ただし、それはかなり時間のかかることです。
10何年もかけて育ってしまった誤った読解の癖を修正していくのは、ひと月やふた月では不可能です。
年単位での地道な対話が必要となります。

本人の中に、文章を読むことへのモチベーションが生まれると、それはさらに効果的です。
割合の文章題の読解ができなかった小学生は、その後、高校受験でついに覚醒し、最終的に、都立高校入試本番、国語の四択問題は満点を取りました。





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