たまりば

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2022年10月25日

「見つける」と「探す」の区別がつかない子もいます。

「見つける」と「探す」の区別がつかない子もいます。

今回もESAT-J に関する話から。
私は、入学試験の制度として適切ではないという点で反対なのですが、これが入試に無関係のテストだとしても、スピーキングテストというのはそもそも問題を作ることが難しいテストです。
今回は、そんな感想から。

ESAT-J はAからDまでの4部から構成されています。
Aは、英文を音読する問題。
Bは、イラストなどを見て、英語で短く答える問題。
Cは、4コマ漫画のストーリーを英語で説明する問題。
Dは、英語での問いかけに、自分の意見とその理由を述べる問題。

AやBは、わりと楽にこなせる子が多いのです。
問題は後半。
まずは、C問題。
4コマ漫画を英語で説明するのは、ESAT-Jのオリジナル問題ではなく、GTEC、いやそもそものオリジナルは英検準1級の2次面接問題の形式です。
つまり、英検では、ようやく準1級になって登場するほど、本来、難度が高いのです。
本人の英語力と関係ない要素が混ざりやすいものだからです。
多少のことでは影響されない英語力のついている人に対してでないと、小さなことが大きく影響しかねません。

例えば、昨年度の試行試験問題では。昨日の出来事について、4コマのストーリーを説明するという形式をとっています。

①私は、ピアノを弾きたいと思いました。
②ピアノの楽譜集を本棚で探しましたが見つかりませんでした。
③すると、上から1冊の本が私の頭に落ちてきました。
④それは探していた楽譜集でした。

こういう内容を英語で説明する問題です。
この問題は、微妙な要素をはらんでいます。
まず「ピアノの楽譜集」。
それは、普通の中学生の語彙にはないものです。
ここでぐっと詰まって、突破できない子が出てくる可能性があります。

a piano book あるいは、a music book で良いわけですが、それを知らない場合、「ピアノブック」は、何だか日本人が無理に作った造語みたいな印象がありますよね。
それで通じるのですが、知らないと不安になると思います。
piano も book も中学の語彙ですが、それを組み合わせるという発想はない子が多いかもしれません。
むしろ英語の使い方が乱暴な「英語蛮族」ならばペラっと口に出すでしょうが、繊細な英語秀才は、え、そんな言い方でいいのかなあと不安になるかもしれません。
神経の細い子、真面目に英語を勉強している子ほど、
「ピアノの楽譜集って英語で何て言うんだろう?知らない。どうしよう?」
とパニックを起こし、黙り込んで、時間切れ、という可能性があります。
そんな語句の出てこない問題ならば、良い成績を収められたかもしれないのに。

それは、英語力なんでしょうか?
それは「突破力テスト」のような気がするんです。
スピーキングテストというのは、そういう突破力テストの性質をどうしても帯びてしまいます。
こういう要素がある場合、当日に謎の失敗をする子は、秀才でも多いかもしれません。
大番狂わせが起こる可能性があります。
入試は博打ではなく、学力の高い子から順番に順当に合格してほしいです。


さて、ここからは、生徒側の問題。
2コマ目。
②ピアノの楽譜集を本棚で探しましたが見つかりませんでした。
生徒にテストをしてみてわかったのですが、「探す」と「見つける」を言い分けることができない子がいます。
そして、そのことを発見してから他の生徒で様子を見ていると、高校生でも、そういう子がいることがわかりました。
look for と find の意味の違いがわからないのです。
英語としてわからないのではなく、日本語の「探す」と「見つける」の違いがわからないので、英語も使い分けられないのでした。
「私はその本を探しました」と言うつもりで、
I found the book.
という英語を口にしてしまいます。
それなら、もう、その本を見つけたことになってしまい、3コマ目につながりません。
見つけた本が、なぜ上から降ってくるの?

「探す」段階では、まだ見つかっていません。
探して、その結果「見つける」のです。
そのように説明しても、目はガラス玉みたいに何の表情も浮かびません。
理解できないようなのです。

本人の中では、「探す」ことと「見つける」ことは混然一体となっていて、その2つは同じ意味なのでしょう。
探していたものを見つけたときに「探した!」とは言いません。
「見つけた!」と言うでしょう?
そのように説明すると、少しわかりかけたようですが、しかし、頭を抱えてしまいます。

生徒が黙りこんで考えている間、私も考えてみました。
でも、見つけたときに、「探し当てた」とは言う。
探すときに「見つけにいく」とは言う。
意味が接触している語ではあります。

あれ?
でも、「ファインディング・二モ」というアニメ映画が昔あったっけ?
あれは、「二モを探して」という邦題がついていなかったっけ?
あれ?
英語の find には、「探す」というニュアンスを含んでいる?
いや、あれはニモが見つけられた話でしたっけ?
私まで、混乱してきました。

しかし、テスト製作者が、そこまでわかったうえでこのテストを作っているとは思えないのです。
まったく予想しないところで生徒がつまずくことに、テストの結果で、ようやく大人たちは気づくことになるのではないでしょうか。
ペーパーテストでは大きな影響はないのに、その場の一瞬の突破力で乗り切っていくスピーキングテストは、小さなことで大きな影響が出るかもしれません。


さらに興味深いのが、試験D。
英語で質問されて、英語で答えるものですが、試験Bとは内容が大きく異なります。
試験Bは、イラストに描いてある通りの情報を読み取って答えれば正解ですが、試験Dは、自分の意見とその理由を述べなくてはなりません。
昨年度の試行試験問題では、
「自分の国では、学校の掃除は業者がやる。日本では、生徒たちが掃除をすると聞いた。あなたは、どちらがいいと思いますか」
というものでした。
ある生徒の答えは、
「生徒が学校を掃除するほうがいいと私は思う。なぜなら、日本ではそうするから」

・・・いや、採点するのはフィリピンの人ですよ。
何の説得力もありません。
日本人が採点するのでも、勿論ダメですが。
一番ダメな理由ですよ、それ。

スピーキングテストのもう1つ難しい点は、問われているのは、発音なのか、文法なのか、語彙なのか、内容なのか、という点です。
そのすべてが一度に問われるから、難しい。
非常にきれいな発音で流暢に上のようなことを答える子と、
かろうじて聞き取れる程度の発音ながら、
「生徒が学校を掃除するほうがいいと私は思う。自分たちで掃除すれば教室を大切にする気持ちが生まれるし、共同作業を通して学べることがある」
と答える子とで、得点にどのような差が生じるものなのか?
観点がいろいろあるので、難しいのです。
どんなスピーキングが良いスピーキングなのか?
そのことについて、採点者たちには、確固たる哲学があるのでしょうか。
あるかなあ。
年に一度しかないテストです。
採点するのも、バイトではないでしょうか。
これが本業では生活できないでしょう。

意見を述べる。
中学生にとっては、日本語でも難しい課題です。
どちらが好きかといった好みの問題ならば即答できでも、意見は述べられない。
それが、現代の多くの中学生が抱えている課題です。
こういうテストのときだけ、「自分の意見を持つことが大切」みたいな感じになるのですが、では、現実生活で、彼らは意見を求められているのでしょうか?
何の意見ももたない従順な子どもが理想なのでは?
少なくとも、子どものほうでは、大人のことをそのように見ているのではないでしょうか。
どうせ大人は、意見をいう子どもよりも、おとなしく従う子どものほうが好きでしょう?
アンケートによればスピーキングテストに反対の子どものほうが圧倒的に多いのに、それでもやる気でしょう?
そのくせ、自分の考えを持てとか、言うだけは言うんだよね?

先日も、同じく中3の子に、公民について質問されて、「え?」と思ったことがあります。
学校の授業は例によってアクティブラーニング。
グループ学習で、先生の作ったプリントを埋めるのでした。
それが埋まらない、というのです。
その中の1問。
「民主主義と政治の課題とは何か。またその課題を解決する方法は」

・・・はあ?

それ、最低1000字は書く小論文のテーマですか?
しかし、スペースは3㎝×5㎝程度。
しかもあまり長く書かないようにという注意書きすらありました。

・・・何これ?

びっくりしました。
テーマが大きすぎる。
漠然としすぎていて、何を問われているのか、焦点が定まりません。
小論文ならば、だからこそ書く者の観点が光るテーマ設定ですが、これはそういう課題ではないでしょう。
こんな小さな解答欄。
先生の頭の中には「模範解答」があるのです。

種明かしをしますと、「民主主義と政治」というのは、教科書の小見出しなのでした。
「現代の民主政治の仕組み」という単元の、小見出しです。
1.民主主義と政治
(1)政治
(2)民主主義
(3)多数決と少数意見の尊重
2.選挙の仕組み
(1)政治参加の方法
(2)選挙の基本原則
・・・といった内容です。

ですから、1000字の小論文を書く必要はないのです。
民主主義と政治の課題は「少数意見をどう扱うか」が正解。
解決方法は、「結論を出す前に少数意見も十分に聞き、できる限り尊重する」です。
これなら、3㎝×5㎝に収まりますね。

教科書に全部書いてあるのです。
しかし、教科書を読む習慣がないので、プリントは白紙。
自分の考えもないので、どうしていいかわからない・・・。
アクティブラーニングのマイナス面が突出していた場面でした。

「これは、考えを問われているわけではないですよ。社会科ですが、教科書の読解問題みたいなものです。教科書の本文から答を探すんです」
そう説明しましたが、そういう説明が理解できたかどうか・・・。
グループ学習だから、グループで議論を深めると誤解していたのではないでしょうか?

「民主主義と政治の課題」なんて、中学生に議論させるテーマではないでしょう。
政治について何も知らず、だから、これから学習するのですから。
でも、意見を問われることが本当に苦手なので、そこらへんの混同もあるのではないかと思います。
意見を要求されているようで、実は正解を教科書から探すだけのアクティブラーニング。
公民の先生も、やりたくてやっているわけではないから、アクティブラーニングがこんなことになってしまうのだと思います。

公民のプリントですら正解がある。
「民主主義と政治の課題」にすら、正解がある。
そんな勉強をしているのに、突然意見を要求してくる科目もある。
これは混乱します。

大切なのは、根拠のある意見を言うこと。
中学生は、そんなことも学んでいる途中です。
日本語でも意見を言うのは難しい。
まして英語で意見を言うのは、ハードルが高い。
そして、それは、スピーキングテストを実施さえすれば解決できる課題ではないと思います。





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