たまりば

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2022年02月16日

説明を聞き取れない子、読み取れない子。

説明を聞き取れない子、読み取れない子。

学力の高い子と、そうではない子で、最も表面的ですぐわかる違いは、言葉が通じやすいかどうかです。
話が通じるかどうか。
その生徒に他人の話を理解する力があるかどうかは、学力に大きく影響します。

ある日、自校作成校に通う高校生が、体験授業を受けにきたことがありました。
数学の「微分法」が、よくわからない、というのです。
微分のやり方そのものはわかっている子でした。
手順は、知っているのです。
でも、何のために何をやっているのか、わからない・・・。
だから、ただ微分するだけの計算問題は解けるけれど、応用問題になると、解説を読んでも、何で唐突に微分を始めるのか、わからない・・・。

「微分法」を学習していて、陥りがちな状態でした。
「微分法」がテスト範囲の場合、多くの定期テストは、
「次の式を定義にしたがって微分せよ」
とか、
「定義に従い、次の式の導関数を求めよ」
といった問題が最低1題は出されます。
これが解けない子が多いのです。
作業手順だけの微分をしてしまい、0点となってしまいます。
微分の作業手順を覚えた瞬間に、その前に学習した、訳のわからないリミットだの平均変化率だのは、忘れてしまうのです。
しかし、そこを忘れてしまうと、微分の意味がわからなくなってしまいます。

微分はその曲線の接線の傾きを表します。

なぜ微分することで、接線の傾きを表すことができるのか?
その解説を定義に戻って5分ほどすると、その子は目を輝かせ、全ての謎が解けたという顔をしました。
微分をすることで、接線の傾きがわかれば、その曲線の概形を知ることができる。
増減表は、傾きがゼロになる箇所、すなわち極値を調べている。
そういうことが、全てつながったのでした。

「わかった!じゃあ、これはこういうことですか?」
持参の学校の問題集の印をつけた問題を自分で解き始めました。
「そうそう。そういうことです」
「じゃあ、次のこの問題は、こういうことですか?」
「そうですね。曲線上の点(t , f(t))における接線の方程式を求めよという問題ですから、まさにそういうことですね」
「接線の公式って、そういう意味かあ」
「そうです。微分で傾きを求めて、あとは、1点を通る直線の方程式の求め方で求めているだけですね」
「何だ、そうか」

わずか90分で、謎は解決しました。
その後入会したその子は、前の定期テストよりも30点ほど一気に上昇しました。
むしろ、その子がなぜ数学が苦手だったのか、私にとっては、そのほうが謎でした。


しかし、同じように、微分の作業手順は知っているけれど応用問題が解けないというある子に解説したときのこと。
私は、全く同じように、適当な曲線の一部を描き、x=aの点と、x=a+hの点を記入し、その2点間の平均変化率を考えるところから解説を始めました。
勿論、図を示しながらの解説です。
しかし、話が通じませんでした。
「x=a の点と、x=a+h の点とを結んだ直線の傾きは・・・」
「え?x=a とx=h の点?」
「違います。x=a と、x=a+h の点です」
「x=a と、x=a?」
「・・・違います。よく見てね。x=a と、x=a+h です」
ボードを指さしながら、解説を続けると、一応、それは理解したようでした。
「・・・ああ」
「この2点間の『平均変化率』、中学の数学で言えば『変化の割合』は、この2点を結んだ直線の傾きになりますよね?」
「平均の割合?」
「違います。高校数学では、『平均変化率』。でも、中学の頃に習った言葉は、『変化の割合』」
「変化のはぶあい?」
「変化の割合、です」
ボードに文字を書き、指さしました。
「・・・ああ、変化の割合」
「変化の割合は、直線の式では傾きと等しいですね?」
「変化の割合は、直線の割合と等しい?」
「・・・違います。変化の割合は、直線の式では、傾きと、等しいですよね?」
「・・・そうなんですか?」
「・・・」

それならばと、中2の「1次関数」の基本に戻って、直線の傾きは変化の割合と等しいというところを復習した後、微分に戻りました。

「・・・そして、x=a と x=a+h を考えた場合に、hが限りなく0に近づくならば・・・」
「え?x=a+hが限りなくセロリ近づく?」
「違います。野菜の話はしていません。hが限りなく0に近づくときに」
「x=a+hが0に近づく?」
「違います。それでは、いつでも、xはほぼ0になってしまいます。0に限りなく近づくのは、hだけです」
「・・・何で?」
「・・・」

さらに説明を続けて、
「・・・というわけで、微分は、その点における接線の傾きを表すことになります」
「てっぺんのからぶき?」
「・・・違います。その点における、接線の、傾き」
「・・・わからない」
「・・・」
「接線って何ですか?」
「・・・」

これは、微分を学習できる状態ではないのではないか?
中学数学も高校数学も、ほとんど何も覚えていない可能性がある・・・。
この状態で微分を理解するのは、さすがに無理だ・・・。

その子がしばしば聞き間違えたのは、私の滑舌が悪いからでしょうか?
しかし、他の子には通じるのですから、私の滑舌がきわだって悪いとは考えにくいのでした。
思うに、その子の語彙にない言葉が連続するので、意味をとりにくかったのだと思うのです。
「接線」も「接点」も「傾き」も、その子の語彙にはなかったのでしょう。
予期せぬ数学用語は聴き取りにくい。
聴き取れたとしても、そもそも基本的な数学用語を理解していない。
言葉がわからないので、解説が聞き取れないのでした。

もう1つ言うならば、音声の聞き取りに多少の弱点がある可能性も考えられました。
それは生まれつきの場合も考えられますが、潜在的な能力はあるのに、それを伸ばしていないだけという場合も考えられます。
長年個別指導をしていると、音声だけでは通じない子が多くなってきた、と感じます。
話が通じにくい。
こんなこと、いちいち書かなくても・・・と思うようなことも、書かないと通じなくなってきました。

個人差は大きいですが。



話は変わって、ある年の中3の話。
都立高校の国語の入試問題は、200字の課題作文が出題されます。
読み取った評論に沿ってテーマが与えられ、それにまつわる具体例と自分の意見を述べます。
その練習をしていたある日のことです。

課題となった評論は、イメージの伝達に関するものでした。
例えば、犯罪を報道する際に、「犯人は入口をバールのようなものでこじあけたもようです」といった表現をします。
「バール」と断定するのではなく、「バールのようなもの」と表現するのには意味があります。
そう表現することで、使われた道具の情報がむしろ正確に伝達されるのです。
そうした内容の文章でした。
それを読んで、「イメージを伝える」という課題作文を書いたところ、その子は興味深い作文を書きました。
学校の先生に、
「おまえの説明は、名詞を並べているだけで、何も伝わらない」
と言われたことがある、というのです。
おおっ。
良い例を持ってきましたね。
そう思い、私は期待して続きを読みました。
「だから、比喩を使うことが大切だ。『青い』とか、『トゲトゲした』といった表現ではダメで、比喩を使うとよく伝わる」

・・・違いますよ。

青いも、トゲトゲしたも、優れた形容ですよ。
しかも、「バールのようなもの」は、例示であって、比喩ではありません。
これは参ったなあ・・・。

私は、作文を読んだ後、その子に尋ねました。
「学校の先生に、『おまえの説明は名詞を並べているだけで何も伝わらない』と言われたのは、本当のことですか?」
その子は頷きました。
「どういう状況でそれを言われましたか?」
「・・・」
難しい質問だったのか、その子は黙り込んでしまいました。
私は解説を始めました。
「・・・例えば、学校の校庭に犬が入ってきたとして、それを学校の先生に伝えるとします。『犬!犬!』だけでは、情報としては、あまりよく伝わらないのです」
その子は、顔を上げました。
私は話を続けました。
「『薄茶色の中くらいの大きさの犬が、校庭に入ってきて、うろうろしています』というほうが情報量が多いです。『薄茶色の』や『中くらいの大きさの』という表現が情報を詳しくしています。これらは、別に比喩ではありませんよね。だから、君が否定した『青い』や『トゲトゲした』は有効な表現方法なんですよ。様子がよくわかります」
「・・・」
「さらに、さっきの犬の説明に『柴犬のような』という表現を付け加えたら、たとえ純血種の柴犬ではなくても、そのように見えるタイプの犬全般をイメージできるので、わかりやすいのです。『バールのような』は、そういう表現方法です。これを例示といいます」
「・・・」
「もし『ドーベルマンのような黒い犬が校庭に入ってきて走り回っています』とあなたが言えば、先生は、網を持っていこうか、警察に連絡するか、いや、生徒に校庭に出ないように放送するのが先かと考えるでしょう。先ほどの『柴犬のような』とは対応が違ってくると思います。正確なイメージが伝わったからです」
「・・・」
「イメージを伝える方法は、比喩だけではありません。だから、あなたのこの作文は、本文の内容を読み取れていません」
「・・・」
「面白いんですけどね。高校の国語の先生が興味を持って読んでくれそうな具体例です。着地さえ良ければ、満点が取れるんです」

・・・しかし、学校の先生の言葉の意味も、この評論の意味も、その子は理解できていませんでした。
むしろ何も理解していないことが読み手に伝わる作文なので、私は、ヒヤっとしたのでもありました。
0点にはしないだろうけれど、かなり得点は低い・・・・。
書いてあることを理解できない、他人の話を理解できない生徒を、入学させたいかさせたくないかと言ったら・・・。


他人の話をスルッと理解する子と、簡単な説明もなかなか理解しない子と。
中間層が存在しないように私が感じるのは、個別指導の特性だとは思います。
学校には、普通に大多数の中間層が存在しているでしょう。

言葉を聞き取る力が弱いのは、生まれつきの傾向もありますが、本人の言語生活が痩せたものであることも大きいでしょう。
そこを踏まえた授業をしなければと思います。

一方で、わかりやす過ぎる説明をしてしまったり、
「聴き取れました?」
といちいち確認したりして、当たり前に聴き取れる秀才に変な顔をされてしまうこともあります。
個別指導の個別性が今こそ発揮されるべき時代なのでしょう。
腕の見せどころです。




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