たまりば

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2022年01月18日

このテストは、つらい。

このテストは、つらい。

定期テストの問題を眺めていて、
「このテストはつらいな」
と感じることがあります。
中学数学で言えば、例えば、こんな問題です。

問題1 
(1) -3-9÷1/3 を計算しなさい。
(2) 3a+5b / 10 - 8a-10b / 5 を計算しなさい。
(3) 12abx^2-3ab を因数分解しなさい。

例えば中3の定期テストで、大問1はテスト範囲とは直接関係なくこのような計算問題が出題されていることがあります。
これまでの復習も出題されるとテスト範囲に書いてありますから、それに不服があるわけではありません。
都立高校入試問題を意識しての出題だということも理解できます。
しかし、どうしてこんなに正答率の低そうな問題ばかり出題するのだろう?
中3の2学期の定期テスト。
これで内申が決まるというのに・・・。

(1) は、四則計算のミスを誘う問題です。

-3-9÷1/3
=-12×3
=-36
と誤答してしまう子がいるのです。
「・・・ひき算とわり算は、どちらを先に計算するんでしたっけ?」
とひと声かければ、自分のミスに気づく子も、何もアドバイスしないと、この間違った計算をしてしまいます。

また、
-3-9÷1/3
=-3-3
=-6
というミスをおかしてしまう子もいます。
3と9は約分しやすい、と思った瞬間に、分数計算をミスしてしまうのです。

それは、本当に気をつけなければならないこと。
でも、そういうところが直らない子は、います。
練習すればしばらくは正答できるようになるのですが、半月ほど練習しないでいると、また元に戻ってしまいます。
定期テスト前に、こんなことばかり練習している暇はありません。
その隙をつかれ、出題者の「思うツボ」通りの誤答をしてしまいます。

正解は、
-3-9÷1/3
=-3-9×3
=-3-27
=-30 
です。

・・・え?
出題者の思うツボ?


(2) 3a+5b / 10 - 8a-10b / 5 を計算しなさい。

これは、ネットでは見にくいと思うんですが、「分数-分数」の文字式です。
負の符号が、後ろの分数のそれぞれの項にかかっていくことを忘れてしまう子は多いです。
そんな子の誤答はこうです。
3a+5b / 10 - 8a-10b / 5
=3a+5b-16a-20b /  10
=-13a-15b /  10

この問題のもう1つ恐ろしいところは、方程式と混同し、式全体を10倍して分母を払う子もいることです。
そんな子の誤答はこうです。
3a+5b / 10 - 8a-10b / 5
=3a+5b-16a-20b
=-13a-15b

文字式と方程式の違いが、わかっていない。
数学においてやっていいことと悪いことの違いがわからない・・・。
数理の基本がわかっていない。
そういう子を「あぶりだす」問題です。

正解は、
3a+5b / 10 -8a-10b / 5
=3a+5b-2(8a-10b) / 10
=3a+5b-16a+20b /  10
=-13a+25b / 10
です。

・・・え?
あぶりだす?


(3) 12abx2-3ab を因数分解しなさい。

因数分解は、まず共通因数でくくれるときは、くくります。
そのことに気づき、
12abx^2-3ab
=3ab(4x^2-1)
よし、できた!
・・・と思ってしまう子は、誤答です。
これは、まだ因数分解できるのです。
=3ab(2x+1)(2x-1)
これが正解です。

1つのやり方を思いついて、それで正解と思うなんて甘いんだよっ。
ははははは。
・・・という、出題者の「高笑い」が聞こえてきそうです。

・・・え?
高笑い?


・・・そうです。
全体から感じられるのは、出題者の「意図」なんです。
生徒がどこをどのように間違えるか熟知していて、あえてこういう問題を作っている「意図」が感じられるんです。
これらの問題が正規のテスト範囲だった場合に、3問に1問くらいの割合でこうした問題を出すのは、「あり」だと思います。
これらを適切に処理できるのは、大切な数学的能力です。

間違える生徒が悪い。
それは、そうなんです。
こんなところで、間違えたらいけない。
こんな問題を間違える子は、数学が得意とはいえない。

でも、可哀相です。
中3の2学期の定期テストです。
テスト範囲を必死に勉強したはずです。
その結果、「これまでの復習」の範囲からこういう問題が出題され、それで能力を試されるのは・・・。


実は、2021年度の都立高校入試の数学問題にも、一部こうした問題が出題されました。
コロナによる休校があり、「三平方の定理」が出題範囲から除外されるという異例の措置がとられた入試でした。
三平方の定理を使えないのでは、平面図形や空間図形の問題に深みがなくなります。
「相似」と「三平方の定理」をどう組み合わせるかが、そうした問題の醍醐味です。
下手をすると、こんな出題範囲では、得点差が開かなくなります。
それほど、「三平方の定理」が含まれるか含まれないかは、大きい。
こんな範囲では、受験生の大半が、数学は80点、などということも起こりうる。
それを恐れ、基本問題に「ひっかけ」をたっぷり仕込んだのでしょう。
あまり好ましいこととは思えないです。
うちの塾生は合格しましたから良かったですけれど、これのせいで不合格になった子もいたのではないかと思います。


その類題が、今年、中3の2学期のテストに出た学校がありました。
中3の2学期の定期テストでこれを出すならば、せめて、テスト前にこういう問題を集めたプリントを生徒に解かせてほしかったです。
どんなにできないかを自覚させて、こういう問題を次のテストに出すと予告してほしかった・・・。
何とか内申を上げようと必死な中3の2学期に、こういう底意地の悪い問題を出すのは、どうなんでしょう。
都立入試はこういう問題が出るから気をつけろと教えるのは、中3の2学期のテストという場でなくても良かったと思うのです。

変に高い内申が出てしまい、高めの志望校を選んでも、こういうミスをする子は入試で失敗する。
内申を低くして安全な学校を選ばせるのは、ある意味温情・・・。
そういうことかもしれませんが。



話は変わりますが、少し前、都立高校入試の男女別定員制に関して、世論が高まった時期がありました。
それの影響かどうかはわかりませんが、今回の入試から、緩和措置が取られます。
既に一部高校でとられていた、定員の1割を男女混合の成績順で決める緩和措置が、全校に拡大します。
以後、男女混同の成績順による割合を順次増やしていき、最終段階で男女合同定員に移行します。

都立高校は、自校作成校の場合ならば、合格最低点は男子のほうがむしろ高いこともあります。
しかし、普通の都立高校は、合格最低点は女子のほうが高い場合が多いです。
つまり、同じ点数でも、女子は不合格となり、男子は合格する場合があります。
ジェンダー平等の時代に、これはおかしいのでは?

そうした内容を特集したラジオ番組をある日聴いていました。
しかし、その特集を受けたリスナーからのメールは、予想とはかなり異なるものでした。
その男女格差は確かに格差だろうけれど、透明性があるから受け入れることができる、というのです。
それよりも、中学校による内申格差のほうを問題にしてほしい。
あれは、許せない。
そのような怨嗟に満ちたメールが何通も寄せられ、読み上げられていて、驚きました。

中学校による内申格差・・・。
東京都としては、「1」や「2」をどの生徒にも全くつけない内申を出した中学校は、全体で3校に過ぎず、大きな問題は見られない、という考え方のようです。
でも、保護者が考えている格差は、そういうレベルのものではなさそうです。
「うちの子の内申は4だったけれど、他の中学に行けば、5が取れたはずだ」
「5を乱発している中学校があって、そこにわざわざ越境入学する子もいる」
というように、高い内申レベルでの不満が募っているようです。

そういう学校間格差はあるのか、ないのか・・・。
長年塾講師をしている体感から言えば、明らかに、それはあると思います。

これは昔話ですが、以前勤めていた集団指導塾では、近隣のいくつかの中学から生徒が通ってきていました。
ところが、一番多くの生徒が通う中学校の内申がとにかくカラいのでした。
他の学校の生徒は簡単に「5」を取っているのに、その中学の生徒で「5」はほとんど見かけませんでした。
まだゆとり教育の時代でした。
他の中学のテストは、学校から渡される教科書準拠ワークの基本問題の類題が大半で、何のひねりもありません。
そんなテストでも得点できない子が存在する時代でもありました。

しかし、その学校のテストだけは、難しかったのです。
つまりは、数学で言えば、単なる計算問題でも、上のような問題。
英語は、初見の長文問題が何題も並び、しかも記号問題はほとんどなく、英問英答が基本。
テスト範囲からの出題は2割もありませんでした。
このテストで90点以上を取れる生徒はほとんどいない・・・。
だから、「5」を取れる子もほとんどいない・・・。

この学校の「4」の子のほうが、あの学校の「5」の子より、正直学力は高い、と思うことは多くありました。
他の学校は、得点分布をみると、80点台か90点台に最大のピークがあり、40点台にも1つのピークがある、ふたこぶラクダのグラフでした。
一方、その学校の得点分布は、60点台に最頻値がある、きれいなヒストグラム。
これで格差がないと言えるのか・・・。

ただ、1つ言えることは、その中学校の生徒も、私の在籍した塾からは多くの生徒が自校作成校に合格していたということです。
学校の定期テストが難しいので、日頃の学習のレベルが高かったのです。
自校作成校の問題を解いても、さほどの抵抗感はありませんでした。
何とか攻略し、内申の低さを当日の得点でカバーして合格していきました。
一方、定期テストが教科書準拠ワークの類題だった子たちは、普通の都立入試問題でも「難しい」「難しい」「わからない」と音を上げてしまう子もいました。
入試レベルの問題を解いたことがなく、解く必要があるとも思っていなかったのです。

簡単に「5」の取れる学校の中学生、ましてや定期テストのない学校の中学生の学力は、かなり低い可能性があります。
勉強に対するトラウマはないだろうし、それは大切なことだと思いますが、テストでの得点力はそういうものとはまた違います。
都立入試の7割は、当日の入試得点で決まります。
テストで得点できなければ、内申が高くても、どうにもなりません。
そういう大きな意味での「平等」は達成されているようにも思います。


中3の2学期の定期テストで、上のような「これまでの復習」の計算問題で大量失点した生徒は、2021年度の都立入試過去問を解いても、同じミスはしません。
本番の入試もこのミスはしないと思います。
定期テストという大きな場で、「教育」が達成されたと言えなくはありません。
繰り返し繰り返し注意し続けでもなかなか直らなかったミスが、手痛い失敗を経て直りました。
出題者の「悪意」のように私が感じたことも、「悪意」ではなく、「善意」だったと思うこともできるのです。

禍福は糾える縄の如し。

何でも糧にして、前に進みましょう。
頑張ろう。





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