たまりば

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2023年11月19日

高校数学と計算力。

高校数学と計算力。

数学の場合、本人の理解力の他に、計算力という課題があります。

説明されたことは理解できる。
ああ、そういうことだったのか。
疑問が晴れた。
これなら数学がわかる。
成績はきっと上がる。

そう思って頑張り始めた子の前に、すぐに壁が立ちはだかります。
正しい式を立てることができても、その後の計算が上手くいかないのです。

例えば、ある問題で、
-x^2+4kx+4k=0
という正しい式を立てることができたとします。
これを x について解くことができれば、もう正解なのです。
しかし、それが上手くいかないのです。

あるとき、

x=-2±√(16+16k)

という生徒の答を見て、私は首を傾げました。
その子は、中高一貫校に通う子で、高校生になってから、うちの教室に通い始めました。
2次方程式の解の公式の学習は入塾する1年も前に、すでに終わっていました。

「・・・解の公式の、2本目のほうを使っていますか?」
「2本目?」
「x の係数が偶数の場合の、b' を使う公式です」
「ああ・・・。使っていません」
「あれは使ったほうがいいですよ?」
「D/4は使ってますけど、あっちは別に・・・」

あっちは別に、意味はないから覚えなかったし、使ったことがない・・・。
そういうことのようでした。

数学が苦手になってから塾に通い始める子の1つの傾向として、使うべき公式を使っていないために計算がもっさりしてしまう、ということがあります。

しかし、もっさりしていても、正確に計算すれば同じ答が出ます。
まずはもっさりと正しく計算してみましょう。

-x^2+4kx+4k=0
両辺に-1をかけて、
x^2-4kx-4k=0
解の公式を用いて、
x=4k±√(16k^2+16k) / 2
=4k±4√(k^2+k) / 2
=2k±2√(k^2+k)

しかし、その子の誤答は x=-2±√(16+16k)

ノートを見ると、ミスの原因がわかりました。

-x^2+4kx+4k=0
x=-4±√(16+16k) / 2
=-4±√(16+16k) / 2
=-2±√(16+16k)


「・・・これ、式の両辺に-1をかけていないのですね」
「え?」
「x^2の係数が負の数のとき、まず、因数分解できるかどうかを見るため、両辺に-1をかけて、x^2の係数を正の数にしますが、それをやっていますか?」
「やってません。必要ですか?」
「・・・絶対に必要なわけではないんですが、x^2の係数は、正の数のほうが、扱いやすいと思いますよ。そういうことをしたことがない?」
「ありません」

中学の頃からうちの教室に通っている子では見ることのない種類のミスでした。
学校の授業でも注意はされていると思うのですが、そういう細かい注意は、口頭でなされるので、ノートに残らないことが多いです。
そのため、身につかなかったのでしょう。
あるいは、「そんなのはどうでもいい」と判断してしまったのか・・・。
それで間違えなければ別に構わないのですが、今回の符号ミスの原因は明らかにそれでした。
すべての符号を変えないまま計算しているのに、分母を-2 とするのを忘れたのだと思うのです。

方程式ならばまだましですが、2次不等式の場合は、x^2の係数が負の数のまま、その都度、放物線が上に凸か下に凸かあれこれと頭をひねって解いている子を見たこともあります。
簡単なことを複雑にしてしまっています。
どうでもいいようなことですし、それをやらなくても正解は出せるけれど、やったほうがミスはしにくいのです。
常に同じ計算方法を行うことで、計算は安定し、速くなります。

また、明らかに、xの1次の項の係数-4kの「k」が飛んでしまっていました。
解の公式を使うときに、x以外の文字はすべて係数なのですが、見落としてしまうのは、よくあるミスです。

さらに問題は、√ の中身の整理。
√ の中身を外に出す方法を知らなかったのか、それとも、うっかり忘れたのか。
間違った式とはいえ、せめて、
√(16+16k)=4√(1+k)
と直したい。
正しくは、√(16k^2+16k)=4√(k^2+k)
√16=4ですから、その部分は√ の外に出すことができるのです。
丁寧に書いていくならば、
√(16k^2+16k)
=√16・√(k^2+k)
=4√(k^2+k)
となります。
平方根を深く理解していないと、平方根が出てくる度に計算ミスをしてしまう、ということが起こります。

また、分母を払うならば、分子の2つの項は平等に2で約分しなければならないのですが、整数の部分のみ約分し、√ のほうは放置してしまっていました。
このあたりも、間違えてしまう子が多いです。

中学1年生の計算問題で言えば、

4+3a / 8
=1+3a / 2

というように、4と8だけ約分し、3aはそのままにしてしまうミスをする子は多いです。
解説するとそのときはわかった顔をするのですが、「作業手順」として覚えようとするだけで、なぜそうしてはいけないのか、本質は理解しなかった様子で、しばらく経つとまた同じミスをしてしまうのです。

前にも書きましたが、小学校の頃だけ計算重視の塾に通っても、中学で十分に計算練習をしなかったため、小学校では学習しない種類の計算に弱い子は多いです。

上のような文字式の約分。
文字式の通分。
負の数の計算。
式の変形。
指数計算。
平方根の計算。

中学で学習する計算内容に習熟していないと、高校の数学で計算力不足が大きく足を引っ張ります。
そもそも小学生の頃から計算が苦手という場合もありますが、
中高一貫校の生徒で、中学進学後に気持ちが緩んで、あまり勉強しなかったために、中学数学がよく身についていず、正しい計算ができない、という場合も多いです。

特に指数計算は深刻で、2^3=6 としてしまう癖が、なかなか治らない・・・という子がいます。
累乗が理解できないほど理解力のない子ではないのですが、学習した最初に間違えて覚えてしまったため、その記憶を修正するのが難しく、直しても、直しても、少し時間が経つとまた誤解が復活していました。
時間が経つと、またふっとわからなくなるのです。
指数に対するその認識で、高校数学の「数列」や、「指数関数・対数関数」を学習するのは、本当に大変でした。

小学生のときだけでなく、中学の時期にも、数学的に重要なことを学ぶのですが、高校受験がないので定着しない・・・。
これは、中高一貫校の最大の欠点で、意識して練習しないと、数学で浮上できなくなります。
中1・中2とずっと勉強をさぼって、中3になってから、そろそろ・・・と重い腰を上げたものの、そうやって高校数学を学び始めても、中学数学の基礎がないので、何をやっても脆弱な計算力が障害となるのです。
数学は、積み上げ科目なので、中学受験に成功したと気を抜いていると、後で苦しむことになります。

「わかる」ことと「できる」ことは違うことです。
解き方が理解できても、自分で実際に正答できるとは限りません。

やり方がわかるだけで済むのなら、例えば誰でもピアノは弾けるでしょう。
やり方は、見ていればわかります。
鍵盤を叩けばいいんでしょう?

スポーツだってそうです。
バスケなら、ボールを持ったままにしないように注意しながら、シュートすればいいんでしょう?
やり方は、見ていれば、わかります。

でも、そんなものではない。

わかっていても、できないのです。
芸術やスポーツに限りません。
勉強もまたそうです。
わかるだけでは無理なんです。
できるようになるには、練習が必要です。

しかし、そのことに対して無自覚な人は多いです。
勉強だけは、「わかれ」ばすぐ「できる」と思ってしまうようなのです。

「わかる」ことを「できる」ことに変えるためには、練習が必要です。
素晴らしい授業を聞けば魔法のように成績が上がる、というわけにはいきません。
授業を聞く時間の何倍も自分で努力する時間が必要となります。

高校生になって、数学が苦手になって、塾に来る。
さて、そのときに、それでも、「わかる」ことだけを重視して「わからない難しい問題」の解説だけを聞きたいのか?
それとも、スポーツ的に言えば、「フォーム」を改良し、数学答案の書き方と計算処理の合理的なやり方を身につけ、さらには問題文の分析の仕方、何をどのように考えるかを学ぶか?
前者ではダメなことは、冷静に考えれば理解できると思うのです。

幸い、そのことを理解してくれる生徒は、順調に成績が上がっています。
本人が何年も続けてきた、もっさりした計算を改良するのは、癖になってしまっている分だけ難しいです。
最初からスマートな計算方法を身につけるよりも大変です。

さらに、何でも作業手順で暗記しようとする癖。
複雑なことを単純化しようとする癖。

こうした癖は、高校数学の問題を解く際に、大きな障壁となります。

しかし、改善していくことは、不可能ではないのです。




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