たまりば

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2023年11月03日

高校数B 数学的帰納法の問題を解きながら。

高校数B 数学的帰納法の問題を解きながら。

数学的帰納法。
数学B「数列」の単元の最後に登場するのが、これです。

問題
数学的帰納法を用いて、すべての自然数nについて、
1+2+3+・・・+n=1/2n(n+1)
が成り立つことを証明せよ。


かつて、この問題を見つめたまま凝固していた子がいました。
「どうですか?」
と声をかけても、無言。
「何がわからないですか?」
と問いかけても、やはり、無言。
言葉が上手く出てこない子で、わからないことがどのようにわからないのか、説明できないようでした。
それでも、辛抱強く聞き取って、その子の疑問がわかりました。
その式は、今まで普通に使ってきたものなのに、なぜ証明しろと言われるのか、まずそれがわからない・・・。
その違和感に凝固していたのでした。

公式や定理を使って何か別のことを証明する問題と、公式や定理そのものを証明する問題と。
中学生の頃から、そのあたりでモヤモヤしてしまう子は多いです。
公式や定理を証明しなければならないのなら、証明の中で公式や定理を使ってはいけないのではないか?
でも、解答を見ると、普通に定理を使っている証明問題も多い。
じゃあ、何で、定理の証明をする必要があるのだろう?
そういう、わかるようなわからないような迷宮に迷い込んでしまうのです。
定理は一度、しっかり証明する。
証明できた定理は、その後は、別の証明問題で、普通に使っていいんですよ。
そう解説するとすんなり理解する子も多いのですが。

上の問題は、初項1、公差1の等差数列の和の問題とみれば、等差数列の和の公式を使って簡単に右辺のように整理できます。
それをなぜ今さら証明しろと言うのか?

証明方法は他にもあるけれど、数学的帰納法という新たに学習した証明方法で、この公式を証明する問題なのです。
これは、そういう問題です。

そう説明すると、一応は理解したのか、笑顔を見せたのですが、やはり少し難しかったようでした。
例題の模範解答を見ながら書いた、その子の答案は、以下のようなものでした。

1+2+3+・・・+n=1/2n(n+1) ・・・①
[1] n=1のとき
左辺=1+2+3+・・・+1
右辺=1
よって、①は成り立つ。
[2] n=kのとき、
1+2+3+・・・+k=1/2k(k+1)
n=k+1のとき、
1+2+3+・・・+k+1=1/2n(n+1)
よって、①は成り立つ。
[1]、[2]より、①は成り立つ。


数学の答案の「形骸化」というものを生徒の答案から感じることがあります。
何をどのように解いているのか、意味はわからないけれど、例題の模範解答を真似て何か書いてみる。
しかも、例題の模範解答は、解説が多めだと感じるので、そこは本人の判断で適宜省略する。
そうした結果、上のような形骸化した答案が出来上がるのでしょう。

この答案、1行目から、大きな課題を感じます。
1行目に、結論を書いてしまっているのです。
本人は、問題に書いてある「与式」をそのまま書き写しただけのつもりだと思うのですが、証明ではそれはまずいのです。
この式は、まだ証明していない式。
これから証明する式。
だから、結論をするっと書いてはいけないのです。

1+2+3+・・・+n=1/2n(n+1) ・・・① を証明する。

このように書けば、読む者に、これが結論であることが伝わります。

しかし、そうした証明文の「文脈」を、理解しない子たちがいます。
言われていることの意味がわからないようなのです。

あるいは、
「そんなことは、どうでもいいことだ」
と思ってしまうのかもしれません。
書いて何が悪いのか?
いつもは与式を書け書けとうるさいのに、こういうときだけ書くなと言う。
見やすいように書いただけで、それ以外の意味はないんだから、文句言うな。

・・・という気持ちなのかあ?と想像します。
本人は、それほど重要なことだとは感じていないので、するっと書いてしまいます。
なぜ書いてはいけないのかと、反論してくるわけでもない。
指摘されれば、笑顔でうなずきます。
しかし、宿題は、また全部同じように書いてきてしまいます。
定期テストでも、同じように書いてしまい、学校の先生に赤ペンで指摘されてしまいます。
答案を見ながら、
「これは、何回も注意しましたよね?」
と悲しい気持ちで私が言うと、防衛的な笑顔を見せます。
この子の笑顔は、一種の拒絶なのかもしれない・・・。

次に、[1] の部分。

[1] n=1のとき
左辺=1+2+3+・・・+1
右辺=1
よって、①は成り立つ。

1+2+3+・・・+n
という左辺は、nが十分大きいときの書き方です。
nが1ならば、この左辺は、1です。
ここでは関係ありませんが、n=2ならば、左辺=1+2=3となります。
1+2+3+…と、順番に n までたしていくのが左辺なので、n=1ならば、1だけで終わるのです。
でも、そのことが、呑み込めないのでした。
説明すると笑顔でうなずくのですが、
左辺=1+2+3+・・・+1
と、何度でも書いてしまうのです。

そのように書いたら、左辺は最低でも、7より大きくなりますよ?
それでは、左辺=右辺にはならないですね。

そう問いかけても、反応はありません。
そのことには疑問はないようなのです。
いや、正確には、そんなところは気にしていないので、本人にとっては、どうでもいいのかもしれません。
模範解答を真似て書いているだけなので、左辺=右辺になってもならなくても、知ったことではない。
でも、例題ではイコールになっているのだから、なるんでしょう?
そんな、他人ごとのような感じが漂います。

左辺は、変な代入をしているのに、右辺は、
右辺=1
と、やけにシンプルなのも不可解です。
これは、
1/2n(n+1)に、n=1を代入し、暗算したのだろうと思います。
こういう代入のときは、なぜか暗算するのもその子の特徴でした。
右辺=1/2・1・2=1
と書いていくことがありません。

高校数学がほとんどわかっていないのではないかと思われる子の中に、そのように、暗算だけはやたらとする子たちがいます。
暗算する力があることに、プライドがあるのかもしれません。
そこが拠り所になっていて、高校数学の成績が悪いのは、今たまたまそうなのであり、本当は自分は数学はできるのだと思いたい気持ちが強いのだろうかと想像してみることがあります。
暗算を褒められた小学生の頃は、それだけで算数が得意のような気が自分でもしたし、他人もそう思ってくれた。
だから、今も、暗算できるときは、すぐやってしまう・・・。
ほとんどは、中学受験をした、中高一貫校の生徒です。

しかし、それだけではないのかもしれません。
単純に、文字を書くことに抵抗が強いので、できるだけ字を書きたくない。
暗算で済むところは、暗算で済ませたい・・・。
そういうことなのかもしれません。

数学的帰納法をよく理解している子が、

左辺=1
右辺=1
よって、n=1のとき、①は成り立つ。

と書いている場合は、わかっているのだろうから、まあいいかと、実は私もスルーしがちです。
だとしたら、数学が苦手な子に、どうでもいいところでケチをつけているだけなのだろうか?

いいえ。
そうではないのです。

左辺=1+2+3+・・・+1

と変なことを書いてしまっているため、わかっていないことがバレてしまっているのです。
明らかに1より大きい左辺を書いていながら、
左辺=右辺で、①は成り立つ、と書いてしまったら、それは、バレます。
イコールの意味をそもそも理解していないのではないか?と疑われます。
そのため、右辺に関しても、何だろうな、これはと、採点者は注目してしまうのです。

さて、上の答案の続きを見ます。
[2] n=kのとき、
1+2+3+・・・+k=1/2k(k+1)
n=k+1のとき、
1+2+3+・・・+k+1=1/2n(n+1)
よって、①は成り立つ。
[1]、[2]より、①は成り立つ。

何を書いているのか、本人にもわからないし、読む者にもわからない・・・。
例題の模範解答をかいつまんでまとめてみました、という答案になっています。
数学的帰納法が、本当に本当にわからないのだなあと悲しく感じます。
説明したのだけれど。
その子は、笑顔で聞いていたのだけれど。
この断絶は、どうすれば解決するのだろうか?
突破口はどこにあるのだろうか?

数学的帰納法による自然数に関する等式の証明問題は、ほぼすべて同じ構造です。
まず、[1] で、n=1のときに証明したい式が成り立つことを示します。
それは、単純に代入して、左辺=右辺になることを示すだけで大丈夫です。

次に、[2] で、n=kのときに、証明したい式が成り立つと仮定します。

え?
何で?

ここの違和感が強いようなのですが、後でわかってきますから、ここはとにかく、n=kのときに、成り立つと仮定しましょう。
その次に、その仮定を使えば、n=k+1のときも、その式が成り立つことを示します。
ここが頑張りどころです。

n=kのときに成り立つならば、n=k+1のときも必ず成り立つことを示せたら、
n=1のときに実際に成り立っていたのですから、それより1大きいn=2のときにも成り立つことを示せたことになります。
n=2のときに成り立つのですから、n=3のときにも成り立つことを示せます。
ここは芋づる式です。
そのようにして、すべての自然数で成り立つことを示せるのです。

この理屈が、わかるかどうか・・・。
数学的帰納法が理解できるかどうかは、そこにかかっています。

実はそんなに難しい理屈ではありません。
でも、話の通じにくい子はいます。
論理的な話が、理解できない。
音声は耳を素通りし、意味をなさないようなのです。
文字なら理解できるのかというと、それは目が滑る様子で、やはり理解できない・・・。
その子が、理屈を理解するすべがないのです。

おそらくは小学生の頃から、音声による説明が上手く理解できなかったのだと思うのです。
文字による説明も、うまく読み取れなかった。
そこで、本人は、とにかく作業手順を真似るという方法を編み出した。
それは案外上手くいき、受験算数すら、反復を重ねることでクリアできた。
しかし、意味はわかっていない。
論理にアクセスする手段がない・・・。
それでは、高校数学はわからない。
もう、無理なのか?

無理なら無理で、もう仕方ないのでは?
数学を使って受験しなければいいのだから。
少なくとも、数ⅡBを使わなければいいのだから。
高校数学なんかわからなくても生きていける。

そう思うこともありますし、そういう選択をする子もいます。
しかし、その子は、そういう選択をしませんでした。
こんなにも数学がわからないのに。
それでも、数ⅡBまでが試験科目にある学部を一般受験したい。

それも、推薦入試などでは面接試験があるので、それが嫌だったからなのかもしれません。
あるいは、進路について考えること自体が嫌で、自分で調べたり学校の先生に相談したりするのを後回しにし続けた結果、一般受験をするしかなくなったのかもしれません。

高校三年生の秋。
受験校の過去問をやってみましょうと話すと、その子の表情に明らかな拒絶が浮かびました。
「え?過去問をやりたくないの?」
私が問いかけると、うつむいてしまいました。
「・・・過去問をやっても、合格点を取れる気がしないから、やりたくないんですか?」
「やった・・・」
「やった?過去問をもう解いたの?全部?」
「1回」
「1回分だけ?1年分だけ?」
その子はうなずきました。
「・・・それが最悪だったということ?」
それにも、その子はうなずきました。

仕方ないじゃありませんか。
今まで逃げてきたんだから。
理解することから逃げ、考えることから逃げ、頭を使うことから逃げ、逃げて逃げて、ここまで来たんだから。

そう思わないでもありませんでしたが、
ここより始まる。
そうも思いました。

もう逃げられない。
逃げ場はもうどこにもない。
それを理解したら、この子は、どうするのだろう?


問題
数学的帰納法を用いて、すべての自然数nについて、
1+2+3+・・・+n=1/2n(n+1)
が成り立つことを証明せよ。

その子の受験校の1つの過去問に、数学的帰納法による証明問題が出題されていました。
最初にそれを解いたときは、またも上のような答案でした。
しかし、実際に出題された過去問に対しては、意欲や粘りが違ってきます。
数学的帰納法とは何をどうすることであるか、その子は、私の解説を真剣に聞いていました。
話を理解しようと思えば理解できる子なのか?
首を傾げ、考え込み、長い時間をかけた後、その子は納得した様子でうなずいたのです。
その類題として、上の問題を宿題に出したところ、以下の答案を書き上げてきました。

[1] n=1のとき
左辺=1
右辺=1
よって、成り立つ。
[2] n=kのとき、
1+2+3+・・・+k=1/2k(k+1) が成り立つと仮定する。
n=k+1のとき、
1+2+3+・・・+k+(k+1)
=1/2k(k+1) +(k+1)
=(k+1)(1/2k+1)
=1/2(k+1)(k+2)
=1/2(k+1){(k+1)+1}
よって、成り立つ。
[1]、[2]より、成り立つ。

かなりきわどい省略もされていますが、後半、式の変形の部分で、本当に理解して答案を書いているのが感じられます。
仮定を利用して、式の一部をまず置き換えて。
それを、証明したい式の右辺に、似せていく努力をする。
その流れを理解している答案でした。

ついに覚醒した。
数学は、本当に必要に迫られた子が、受験までもうギリギリの時期に、突然覚醒することがあります。
考えることを拒絶していた子が、考えることを始めると、頭の中でこれまでのすべてがつながるのかもしれません。
待って、待って、待った甲斐があった。
ついに来た。
「正解ですよ。凄いです」
感心する私に、相変わらず言葉は少ないものの、その子は防衛的ではない笑顔を見せました。




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