高校数学。問題集の解答を見ても意味がわからない。
画像は、都立神代植物公園水生植物園。
さて、まずはこんな問題から。
これは数Ⅱ「式と証明」の中の、2次方程式の解の存在範囲に関する問題です。
問題 2次方程式 x^2-2px+p+2=0 の2つの解がともに1より大きいときの定数 p の値の範囲を求めよ。
典型題です。
数Ⅰで学習したやり方でも解けますが、数Ⅱで新たに学習した解と係数の関係を用いることもできます。
今回は、そのやり方で、解答しましょう。
実数解が存在するのですから、答案の書き出しは、
この2次方程式の判別式をDとすると、
D≧0
D/4=(-p)^2-(p+2)
=p^2-p-2
=(p+1)(p-2)≧0
よって、p≦−1, 2≦p ・・・①
ところが、ある私立高校で、数学の先生がここまで板書したとき、生徒たちはざわめいたというのです。
生徒たちは、板書の意味がわからなかったのでした。
わからないはずがないのです。
判別式の公式を使っているだけです。
2次方程式 ax^2+2b'x+c=0 の判別式をDとすると、
D/4=b'^2-ac
です。
x の1次の項の係数が偶数のときに使えて、計算が簡単になる、素敵な公式です。
その私立高校の先生が、その解説をすると、生徒たちは主張したそうです。
「それは、覚えなくていいと言われた」と。
私立中高一貫校は数学の進度が速いです。
中1で、本来の中1・中2の内容を学習します。
中2では、中3の内容。
中3では、高1の内容。
学校によって多少のズレはありますが、概ねこの進度の学校が多いのです。
しかし、生徒は数学が得意な子ばかりとは限りません。
まだ頭が幼いのに、中3で高1の内容を学習するのは少し苦しい。
そこで、教育内容の簡略化が行われることがあります。
この場合は、中3の先生の判断で、
「今は、判別式Dの公式だけ覚えて。それだけでいいよ」
という指示がなされたのだろうと想像されます。
当然、生徒たちは判別式D/4の公式は覚えなかった。
ところが、高等部に進学し、数学の先生が変わり、数ⅡBの学習が始まると、D/4の公式は知っていて当然の形で授業が行われた。
生徒たちは、板書の意味がわからなかった・・・。
そういうことのようでした。
その話をしてくれたのは、うちの塾に通っている生徒でしたので、中3のときから、D/4の公式は覚えて、活用していました。
それは、生徒の学力にもよります。
その子は、当然D/4を活用できるし、しなければならない学力でした。
「学校の先生が覚えなくていいと言った」
と、中3のときに言っていたような気がしますが、そんなことは関係ありません。
「いいえ、覚えましょう。これを使えば計算が簡単になってミスが減る。問題集の解答解説だって、当然この公式を使っています。覚えなさい。覚えなさい。覚えなさーい」
としつこく強調したので、その子は、中3当時からD/4の公式を使うことができ、上の板書の意味もわかりました。
むしろ、「わからない」という同級生たちの様子に驚いたのでした。
こんなことは、特定の私立高校だけに起こっていることではありません。
高校からうちの教室に通うようになった生徒には、D/4の公式を使えない子がこれまでも結構いました。
中3の先生の配慮もわかるのです。
判別式の公式は、今後も多用する重要な公式。
せめて、Dの公式だけでも、完璧に使えるようになってほしい。
D/4と一緒に覚えようとして混線する子が多いことが、心配。
だから、まずDだけ覚えなさいと、指示するのです。
しかし、その指示は、いずれはD/4も使えるようになってほしい、という意味の指示のはずですが、生徒は、その後も覚えないのです。
Dだけでいいと言われたら、それが永遠の約束であるかのように判断して、覚えない。
D/4の公式を覚えるように言う人を「悪者認定」するほどに、覚えない。
楽したいのでしょうか・・・。
同じ使い途の公式を2本も覚えるのは不合理に感じるのでしょうか。
D/4を使えるところでDの公式しか使わず、計算が複雑になったあげくにミスしている答案を見ると、それこそが不合理だと思うのですが。
こんなことは、数学では他にも沢山あります。
公式が2つあるとき、1つしか覚えない子は多いです。
例えば、三角比の余弦定理の公式は、cos θ=・・・の形に変形した式も覚えておけば、そこにいきなり代入できるのに、覚えていないのです。
普通の余弦定理の式に代入して、方程式として解こうとし、符号ミスをする子は多いです。
そもそも、そんなまわりくどい解き方をしていては、テストでは時間が足りません。
時間が足りないと焦るから、変なところで暗算するようになり、さらにミスが増えます。
数B「数列」の等比数列の和の公式もそうです。
分母が 1-r の式と、r-1 の式とがあります。
これを1種類しか覚えない人がいます。
そのため、解答解説が理解できない。
1-r のほうの式しか覚えていないためです。
確かに、1-r のほうの式だけでも、計算は可能です。
ただ、r が1より大きいときは、r-1 の計算のほうが符号ミスが少なく、簡単です。
公式は、計算を簡単にするために2本存在するのです。
簡単であれば、計算ミスをしにくいからです。
ところが、計算ミスをしやすい人ほど、公式を1本しか覚えない傾向があります。
計算ミスをしやすいため数学に苦手意識があり、だから公式は1本しか覚える気がせず、それで計算が複雑になってさらに計算ミスが増える・・・。
解答解説を読んでも意味がわからず、苦手意識がさらにつのる・・・。
まさに負の連鎖です。
そういう公式があるのは知っているが、自分はあえて覚えないのだと判断しているうちはまだましなのです。
いずれ、自分が覚えなかった公式の存在そのものを忘れてしまいます。
そうなると、学校の問題集でも、市販の問題集でも、解答解説を読んでも意味がわからないことが多くなります。
模範解答では当たり前のように公式を使っているのだが、その公式を知らないので、意味がわからない・・・。
その公式を習い始めたばかりの頃なら、丁寧な解説がありますが、次の単元、まして次の年度に移っていたら、いちいち公式の解説などされません。
数ⅡBの問題集で、D/4の公式の解説を、欄外にであれ、丁寧にしてくれているわけがありません。
知らなかったら、意味がわからないのです。
こうしたことが増えていき、独学ができなくなっていきます。
もう数学を勉強するのが、本当に苦しい。
数学を入試に利用するつもりはない。
単位だけ取れればいい。
そう思っている子に無理強いはしません。
Dだけ覚えればいいのです。
余弦定理の公式も、1本だけでいいです。
その代わり、丁寧に正確に解いて、基本問題は必ず正答しよう。
とにかく、数学の単位を落とさないようにしよう。
そういう指導もありえます。
しかし、理系に進学するつもりである。
あるいは、文系だが、共通テストで数学を受験する。
そういう人は、同じ使い途の2本目の公式も覚えましょう。
公式は、使い途があるから、公式として固定化されています。
それをさらに独自の判断で数を絞るのは、判断ミスです。
必要だから存在するので、全部覚えましょう。
公式は覚えないのに、問題の解き方の手順は1問1問覚えようとする人がいますが、方向を誤っています。
そんなことを覚えるつもりがあるなら、まず公式を全部覚えましょう。
個々の問題に対しては、なぜそうやって解くのか、意味を理解してください。
公式がどれほど心強い武器であるか。
頼りになるか。
それを実感するようになれば、公式を覚えることにためらいはなくなります。
万能な魔法の呪文のようなものですから。
さて、上の問題。
例によって、解くのを途中で放棄していました。
もう一度、問題から。
問題 2次方程式 x^2-2px+p+2=0 の2つの解がともに1より大きいときの定数 p の値の範囲を求めよ。
この2次方程式の判別式をDとすると、
D≧0
D/4=(-p)^2-(p+2)
=p^2-p-2
=(p+1)(p-2)≧0
よって、p−1 , 2≦p ・・・①
この2次方程式の2つの解をα , βとすると、
解と係数の関係から、
α+β=2p
αβ=p+2
また、
α>1 , β>1より、
α-1>0 , β-1>0
よって、
(α-1)+(β-1)>0
α+β-2>0
α+β=2pを代入して、
2p-2>0
p>1 ・・・②
また、
(α-1)(β-1)>0
αβ-(α+β)+1>0
α+β=2p , αβ=p+2 を代入して、
p+2-2p+1>0
p<3 ・・・③
① , ② , ③ より、
2≦p<3
これが解答です。
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