数Ⅱ「高次方程式」。ωの計算。
画像はワレモコウ。都立野川公園で撮影しました。
ようやく秋ですね。
さて、今日は、ω の話。
まずは問題から。
問題 x^3=1の虚数解の1つを ω とするとき、以下の式の値を求めよ。
(1) ω^12+ω^6+1
(2) ω^10+ω^5+1
(3) ω^7+ω^8
高次方程式に関する問題の1種です。
しかし、混乱する高校生が多いのが、この ω に関する問題です。
あまりにも唐突に出てきて、違和感が強すぎる。
意味がわからない、ということのようです。
そもそも、読み方すらわからない、という声さえ聞きます。
間違えて「シグマ」と読む子もいます。
シグマは Σ。
「数列」の学習で出てくる記号です。
ω は「オメガ」と読みます。
ギリシャ文字です。
数学にギリシャ文字が出てくることに違和感があり、迷惑に感じる高校生もたまにいるようです。
α、β 程度でも、慣れない様子で、a , b と読み間違えてしまう子もいます。
覚えることが1つ加わって、ハードルが高くなってしまうようです。
以前も書きましたが、
「文字を沢山使っているのは、数学としては邪道。傍流の問題。計算問題こそが、数学の本流」
という謎の思い込みの強い子もいます。
おそらく、小学生の頃から、計算問題こそが算数・数学だという謎の思い込みをしていて、そして、計算は比較的得意だったのでしょう。
自分が得意なものの価値が目減りしていくのは、確かにつらいですよね。
文字が含まれると、答が1つにはっきり定まらないことがあるので、
「こんなのは、数学じゃない。こんなのではない数学の問題を解きたい」
という気持ちが強くなってしまう子もいます。
しかし、数学は、高度なものになればなるほど、文字ばかりです。
計算すら正しくできないのは論外だが、計算だけ出来ても仕方ない。
そういうふうになっていきます。
そこへの気持ちの切り替えがまず必要です。
とはいえ、ギリシャ文字は、普段使わない文字なので、その違和感は理解できます。
書き慣れていないので、書きにくいですし。
ω は小文字で、大文字は Ω です。
Ω は、「オームの法則」で有名な、電気抵抗の単位を表す記号です。
この説明をすると、高校生の顔が微妙に和らいだりします。
Ω は許容範囲なのでしょう。
要するに、慣れの問題なのだと思います。
さて、本題。
x^3=1 の虚数解の1つが ω です。
ところが、ω=1であるという誤解をして、上の問題を異様に簡単に解いている子がいました。
(1) ω^12+ω^6+1=1+1+1=3
(2) ω^10+ω^5+1=1+1+1=3
(3) ω^7+ω^8=1+1=2
というふうに単純に解いていました。
これ、解き方は間違っているのですが、実は、答だけなら、(1)は正解です。
そのことが、その子の誤解をさらに深めてしまったのかもしれません。
たまたま答が当たっていたことで、
「何だやっぱり自分のやり方で正しいんじゃないか」
と自信をもってしまったのでしょう。
わざわざ面倒なことをしなくても、ω=1を代入すれば正解が出ると誤解したのだと思います。
そうするうちに、「虚数解」という言葉は吹き飛び、1の3乗根 ω=1、という誤解が固まったのでしょう。
その子は、ものごとをひどく単純化してしまう癖がありました。
複雑なものごとをまるっと丸めてしまうのです。
そんなに簡単にできるのならば、最初から簡単に説明します。
そうはいかないから、こうして複雑なままなのですよ?
そう話すと、にこにこ笑ってやり過ごす。
またその次には、まるっと丸めて、誤答。
そういうことを繰り返してしまう子でした。
しっかり教えたはずなのに。
授業中は正解していたのに。
学校でも授業を受けているはずなのに。
宿題は、全て、ω=1で解いて、大半は不正解となっていました。
多くのことを勝手にまるっと丸めてしまう子は、こういうことの繰り返しです。
一歩進んで、三歩後退。
そして、次の授業で二歩前進。
さらに次の授業でやっと一歩前進。
習得まで、他の子の3倍の時間と手間がかかります。
ω は、1の3乗根のうちの、虚数解です。
ω といういう文字で表していますが、虚数単位 i を用いて表すことも可能です。
試しに、3次方程式として、解いてみましょう。
x^3=1
x^3-1=0
因数分解の公式を使えます。
(x-1)(x^2+x+1)=0
x^2+x+1=0 のとき、
x=-1±√1-4 /2
=-1±√3i /2
共役な2つの複素数の解が得られました。
え?それのどっちが ω なの?
と高校生に質問されることがあるんですが、結論としては「それはどっちでもいい」となります。
ここも高校生には理解しづらいところのようです。
どっちでもいいわけないだろうと思うらしいのです。
でも、本当にどっちでもいいのです。
解答に影響しないのです。
上の問題では、x^3=1の複素数の解の1つを ω とする、としてあるだけです。
どちらと限定していません。
それは、どちらでも同じ結果が得られるからです。
ω=-1+√3i /2 としてみましょう。
ω^2=(-1+√3i /2)^2
=1-2√3i+√3^2i^2 /4
=1-2√3i-3 /4
=-2-2√3i /4
=-1-√3i /2
お?
ω^2 は、ω と共役の複素数、-1-√3i /2 となりました
今度は、ω=-1-√3i /2 としてみましょう。
ω^2=(-1-√3i /2)^2
=1+2√3i+√3^2i^2 /4
=1+2√3i-3 /4
=-2+2√3i /4
=-1+√3i /2
あ。
やはり、ω^2 は、ω と共役の複素数、-1+√3i /2 となりました。
つまり、ω が1の3乗根ならば、ω^2 も1の3乗根なのです。
なぜω^2 にそんなこだわって説明しているか?
上のx^3=1に戻って考えましょう。
x3-1=0
(x-1)(x^2+x+1)=0
でした。
x-1=0 のとき、x=1。
これは、1の3乗根の1つが1であることを表します。
そして、もう1つの( )の中身、すなわち、X^2+x+1=0 の解 が、x^3=1の虚数解 ω です。
すなわち、x=ω を代入すると、
ω^2+ω+1=0
この式は、ω^2 と ω を入れ替えても、関係は変わりません。
どちらがどちらでも、同じことなのです。
そして、上のような問題を解くときに、この式は使い道が多いのです。
ここまでのところをまとめます。
ω は1の3乗根ですから、
ω^3=1 です。
そして、
ω^2+ω+1=0
この2つのことを使って、問題を解いていきます。
(1) ω^12+ω^6+1の値。
ω^3=1ですから、
ω^12+ω^6+1
=(ω^3)^4+(ω^3)^2+1
=1+1+1
=3
(2) ω^10+ω^5+1の値。
ω^10+ω^5+1
=(ω^3)^3・ω+ω^3・ω^2+1
=ω+ω^2+1
=0
(3) ω^7+ω^8 の値。
ω^7+ω^8
=(ω^3)^2・ω+(ω^3)^2・ω^2
=ω+ω^2
うん?
これは、これで終わり?
いいえ。
ω^2+ω+1=0 より
ω^2+ω=-1
よって、
ω^7+ω^8=-1
です。
ω がどちらの虚数解であるかは、やはり何も影響しませんでした。
ω に関する問題は、このような知識を利用するだけの問題。
わかってみれば得点源です
もしもテスト中に忘れたら、x^3=1 を自分で解き直せば、ω^2+ω+1=0の式は復元できます。
関連記事