線分の比と面積の比。連比か分数か。
問題 図のように、平行四辺形ABCDがあり、BE : EC=CF : FD=3:2である。
対角線BDと線分AE、AC、AFとの交点をそれぞれG、H、Iとする。
(1) GH : HIの比を求めなさい。
(2) 四角形GECHと平行四辺形ABCDの面積比を求めなさい。
中3数学「相似」という単元の典型題ですが、受験算数でもおなじみの問題です。
おなじみのわりに、定着しない問題でもあります。
まずは受験算数らしく解いてみましょう。
(1)から。
GH : HIは、すぐに求められそうにありません。
これは、順を追って求めていかなければならない問題。
まずは、わかる比を書き込んでみましょう。
平行四辺形の対角線は、それぞれの中点で交わります。
すなわち、BH : HD=1:1
あとは?
図の中に相似な三角形があります。
「砂時計型」または「チョウチョ型」と呼ばれる、向かいあった相似の三角形が見えるでしょうか。
上下に位置しているものしか見えない、左右に位置しているものしか見えない、あるいはどちらも全く見えないなど、ここでも「目の癖」が大きな課題として立ちはだかってきます。
同じ問題を繰り返し解く、あるいは類題を沢山解くことで、見えるようにしていくことは可能です。
1組目は、△EGBと△AGD。
上下に羽を開いたチョウチョが見えます。
相似比は、3 : 5。
よって、対応する辺であるBG : DG=3 : 5 です。
もう1組。
左右に羽を広げるチョウチョが見えます。
△ABIと△FDI です。
相似比は、5 : 2。
よって、B I: DI=5 : 2 です。
ここまで、個々の線分の比を求めることまでは何とかできても、ここからどうしていいのかわからないという場合も多いです。
連比が組めないのです。
こんなときは、全体がいくつであるかで考えていきます。
最初の対角線で考えたときは、全体BDは1:1の合計ですから、2です。
次に△EGBと△AGDの相似で考えたときは、全体BDは、3 : 5の合計ですから、3+5=8です。
最後の△ABIと△FDIの相似で考えたときは、全体BDは、5 : 2の合計ですから、5+2=7です。
同じBDが、2であり、8であり、7である。
これを2と8と7の最小公倍数にそろえます。
56です。
全体BDを56として、比を直します。
BA : AD=28 : 28
BG : DG=3 : 5=21: 35
BI : DI=5 : 2=40 :16
比の1にあたる量が同じになるようにこれで整えることができました。
同じ比なので、足したり引いたりしても大丈夫です。
GH=BH-BG=28-21=7
HI=BI-BH=40-28=12
よって、求めるGH : HI=7 : 12 となります。
中学受験経験があるのに、この解き方が身についていない子は案外沢山います。
連比というと、例えば、AB : BC=2 : 3 , BC : CD=6 : 7 といったタイプの連比の解き方はマスターしていても、全体をそろえて比を整理していくことがあまり身についていなかったのだろうと思います。
だとすれば、比を使って解く方法には限界があります。
もう中学生になっているのであれば、こういう解き方はもう忘れていいのではないかと思います。
中学受験をしていない公立中学の生徒にこの「線分の比と面積の比」を教える場合、連比で教えようとしても基礎知識がないのでマスターはかなり困難であることが多いです。
「相似」を学習するのも生まれて初めて。
比を使った経験もあまりない。
そもそも、〇だ□だと、比の1にあたる量が異なるときには違う記号を用いて図に書き込みましょうと言っても、それが定着せず、すべてむきだしの数字を書き込んでしまう子のほうが多いのです。
比なのか実数なのかすら、よくわかりません。
比の1にあたる量が異なる比は区別しなければならないことがわかっていないふしがあります。
こちらの3:2と、あっちの3:2は同じであるとする、雑な考え方で比を扱ってしまいます。
それだけでなく、チョウチョ型の相似を発見することも、つい最近学習を始めたばかりなので、どこまでできるか心もとないのです。
平行四辺形の対角線がそれぞれの中点で交わるという中2で学習した知識も、見事に抜け落ちている場合もあります。
それだけ、こうした問題に対するハードルは高くなります。
中学受験を経験した生徒が、正答には至らないまでもとにかく何かやろうとしているのと比較すると、公立中学の生徒の答案はおおむね白紙です。
やはり、学習は相当遅れていると思わないわけにはいきません。
仕方ないです。
そんなに勉強しなくていい、楽しい小学生時代を満喫したのですから。
週4日、夕飯のお弁当を持って塾に通い続け、土日はテストを受けるか、親の徹底監督のもとで1日中勉強。
そんな経験を積んできた子たちよりも勉強が遅れているのは仕方ないと思います。
とはいえ、では中高一貫校の生徒が全員公立中学の生徒より学力は上かというと、そんなこともないのです。
中学入学後、びっくりするくらい勉強するのをやめてしまう私立中学の子たちもいます。
もうゴールテープを切ったと誤解しているのか、あるいは、もう余力はなく、燃え尽きてしまったのか。
中学の数学はあまり理解していないし、受験算数は錆びついているし、こりゃあ大変だという私立の生徒はたくさんいます。
一方、公立中学の生徒で、中学生になってからしっかり勉強するようになり、頭角を表してくる子たちは、中学生になっている分だけ小学生よりも脳が発達していて思考が複雑ですから、一気に飛躍していくことができます。
どちらの道を選んでも、利点は勿論ある一方、それに伴う困難もあるのだと思います。
学問に王道なしは、やはり本当のことなのでしょう。
これだけが正解という道はないのだと思うのです。
では、中学生ならば、どう解くのか。
今更、連比のマスターなど不要です。
すべて分数で処理していけばいいのです。
小学生は、分数に対する理解が脳の発達上追いついていかない子が多いので、何でも整数に直して考えるのです。
しかし、中学生ならば、分数で処理していけます。
つまり、比ではなく、割合でみていきます。
比と割合は本質は同じものですが、割合ならば、常に全体が1です。
直接、比較できるし、たし算も引き算もできるのです。
途中までの考え方は同じです。
平行四辺形の対角線はそれぞれの中点で交わるので、
BH=1/2BD
△EGBと△AGDの相似より、BG=3/8BD
△ABIと△FDIの相似より、BI=5/7BD
よって、
GH=BH-BG=1/2BD-3/8BD=1/8BD
HI=BI-BH=5/7BD-1/2BD=3/14BD
よって、
GH : HI=1/8 : 3/14=7 : 12
となります。
次の問題。
(2) 四角形GECHと平行四辺形ABCDの面積比を求めなさい。
相似な四角形というのは、問題にはほとんど出てきません。
四角形同士の面積は比べにくいです。
基本は三角形で比べるということをまず認識しておくと、解きやすくなります。
四角形GECHは、三角形から三角形を引いた残りとして考えられないだろうかという発想で図を見ます。
△BHC-△BGE で求められます。
ここで、底辺が一直線上にあり、高さの比も底辺と垂直ではなくても一直線上で見ることができれば、
(三角形の面積の比)=(底辺の比)×(高さの比)
で求めることができるという知識があれば、簡単に解くことができます。
「比の積」「比の商」は、受験算数でも難しい単元で、身につかない子が多いです。
1にあたる量が異なる比は足したらダメ、引いたらダメと散々言われてきたのに、突然かけ算とわり算はOKと言われても、そりゃあ理解を超えていますよね。
ここがピンとくる子と、何を言っているのが全然わからない子とで、こうした問題が解けるか解けないか、大差がついていきます。
ともあれ、△BHCと△BGEは、
底辺の比が、5 : 3
高さの比が、4 : 3
よって、面積の比は、20 : 9 です。
ということは、
四角形GECH=△BHC-△BGE=11/20△BHC
さらに、△BHC=1/4平行四辺形ABCDですから、
四角形GECH=11/20×1/4平行四辺形ABCD=11/80平行四辺形ABCD
よって、四角形GECHと平行四辺形ABCDの面積比は、11:80 です。
これも、小学生ならば、
△BHCと△BGE=20:9 がわかったところで、
四角形GECHは20-9=11
平行四辺形ABCDは、20×4=80
と求めることで、 11:80 という正解に至ります。
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