高校数Ⅱ「三角関数」弧度法について。
さて、今回から「三角関数」です。
数年前の数学のセンター試験数ⅡBで、「三角関数」の大問のうちの1問に、「ラジアンで表せ」という問題があり、その「ラジアン」がわからず、そこを空欄にした生徒がいました。
基本も基本、誰でも得点できるように作られていた問題が、基本過ぎて意味がわからないことがある・・・。
「ラジアン」という言葉は、「三角関数」の冒頭に出てくるけれど、その後使うことがないので、忘れてしまっていたのです。
ラジアンというのは角度の単位なのですが、たいてい省略するので、名称を忘れてしまうのです。
ラジアンは、角度の単位です。
ラジアンという単位で角の大きさを表す方法を弧度法といいます。
それに対し、小学校から使っている角度の表し方が「度数法」。
30°、60°というように角度を表します。
小学校からずっとそのように角度を表してきて、まさか今更、高校2年にもなって、急に角度の表し方が変わるとは思いませんよね。
高校の数Ⅱ「三角関数」の学習の、最初の衝撃はそれだと思います。
恐ろしいほどの違和感と抵抗感。
「三角関数」は、学習の始まりから嫌な予感に満ちています。
とはいえ、今までの度数法も、子どもの頃からそういうものだと刷り込まれているから不思議に思わないだけで、よく考えたら変な話なのです。
1回転が360°って、どういうこと?
何で、そんなに半端な数字なの?
この360°、メソポタミア文明の頃から使われていたということです。
メソポタミア文明!
四大文明の1つ。
ティグリス・ユーフラテス川流域。
今のイランのあたり。
くさび形文字。
ハンムラビ法典。
そうそう。
そのメソポタミア文明です。
「ゆとり教育」時代に中学の歴史の学習内容から消えたけれど、後にまた復活した、あの四大文明の1つ、メソポタミア文明です。
でも、そういうのをあまり丁寧にやっていると、中3の2学期になっても歴史の学習が終わらない、あのメソポタミア文明です。
メソポタミアの人々は、1年が大体360日であることを知っていたそうです。
星や太陽の位置が前と全く同じ状態に戻るのに360日かかる。
そこから生まれたのが、1周を360°とする度数法。
そのように言われています。
しかし、不便なものなら、そんなものが現代に残っているわけがないのです。
この360という数字がとても便利だったのです。
360は、約数を沢山もっている数です。
2でも、3でも、4でも、5でも、6でも、8でも、9でも、10でも、12でも、割り切れます。
全部書くのは面倒なので、途中でやめてしまいました。
1から12までで、割り切れない数は7と11しかない。
これは便利です。
1周360°を2分割したら180°。
3分割したら、120°。
4分割したら、90°。
きれいに割れて、見やすい。
この数字は、使い続けますよね。
そのように圧倒的なパワーを持っている度数法。
だったら、全部度数法でいいじゃないか。
何で今更別の単位を使うんだろう?
今までの算数・数学では、特に不便はなかったのです。
しかし、これから、三角関数を学習していく中で、度数法は扱いにくい。
度数法は、10進法ではないので、10進法の他の数との計算ができないのです。
度数法は、10進法ではない?
え?
10進法じゃないの?
1°が10集まって10°になって、10°が10集まって100°になるんだから、10進法でしょう?
・・・そう思うのも無理はないのですが、1周が360°というだけで、すでにかなり変な感じです。
しかも、「度」より小さい単位を意識したことがないから気づかないのですが、度数法は、実は60進法なのです。
1度=60分、1分=60秒です。
・・・はあ?聞いたことないし。
そう思うでしょうか。
いや、聞いたことはあると思います。
大きな船の出てくる映画などで、
「東経140度23分!」
などと叫んでいる乗組員がいなかったでしょうか。
地球くらい大きなものの中での角度を表すとなると、度だけでは粗いので、その下の単位が必要。
それは、60進法で定められています。
10進法の数と、60進法の数とを、足したり引いたりすることは、できません。
角度を10進法の数と簡単に計算できる10進法の数にすれば、この先、便利です。
それが、「弧度法」です。
ということで、「弧度法」の定義を。
半径 r の円弧の長さが ℓ のときの中心角を θ とすると、
ℓ / r=θ (ラジアン)
これはどういうことなのか。
まず、すべての円は相似なのだということ。
円であれば、どんな円でも、すべて他の円と相似です。
円周を直径で割った値は、常に一定で、それを円周率というのでした。
当然、円周を半径で割った値も常に一定です。
ということは、どういうことか?
半径の異なるおうぎ形においても、中心角が等しければ、弧の長さを半径で割った値は等しくなります。
また、中心角の大きさが2倍、3倍になれば、弧の長さを半径で割った値も2倍、3倍になります。
すなわち、中心角の大きさと、弧の長さを半径で割った値は比例します。
ならば、その値を、中心角の大きさを表すことに利用できます。
弧の長さを半径で割った値、すなわち、ℓ / r を、おうぎ形の中心角の角度として用いたものが、弧度法です。
単位は、「ラジアン」を用いますが、通常、その単位は省略されます。
それは「割合」であるので、特に単位を表記する必要はなく、しかも、他の数値と直接かけたり割ったりできるのです。
弧度法を使う理由が納得できたところで、まずは基本問題を解いてみましょう。
問題 次の角を弧度は度数に、度数は弧度に直せ。
(1) π/3
(2) 5/4 π
(3) 150°
(4) 270°
まず、全円の場合で考えてみましょう。
全円の中心角は360°。
全円の弧すなわち円周を直径で割ったものが、円周率πです。
よって、円周を半径で割ったものは、2π、となります。
だから、
2π=360°
π=180°
度数のほうから考えると、
1°=1/180 π
です。
参考書などに、
弧度を度数に直すには、180/πをかける。
度数を弧度に直すには、π/180をかける。
と書いてあることがあります。
紛らわしいので覚えられず、いつもそれを見ながら問題を解き、いざテストになると、覚えていないのでどうしていいのかわからない、という人がいます。
こんな「解法」なんて覚えなくていいのです。
π=180°
これだけを覚えて、あとはそれを活用してください。
とはいうものの、このアドバイスが明確に伝わり、効果があるのは、ある程度の数学センスが必要なのかもしれません。
数学センスというよりも、「割合」や「比例」を自在に活用できる、というほうが正確でしょうか。
上の問題の (1) π/3 から見てみましょう。
π/3 とは、πの3分の1。
すなわち、180°の3分の1。
それは、60°です。
単位円を頭の中でイメージするのがコツです。
180°でπなのだから、それを3分割したら、1つ分は、60°です。
イメージできれば簡単です。
決して、180÷3の筆算などはしないことです。
単位円のイメージから、感覚としてつかむことが大切です。
「〇〇の何分の1」といった感覚を、小学校・中学校でついに形成できずに高校生になってしまった場合、最初は苦しいかもしれません。
ですが、このやり方をマスターすると、学習がこの先に進んでいったときに、弧度を具体的にイメージし、単位円に動径を書き込んでいくのがとても楽になります。
π/3×180/π という計算をしないと弧度を度数に直せないようだと、時間がかかり、しかも混乱しやすいのです。
それは、小学生時代の「やり方だけ覚える算数学習」の末路です。
小学生のときは、そうするしかなかったかもしれない。
でも、高校生になった今なら、割合の考え方を使えるかもしれません。
あの頃より、脳は発達しました。
今なら、わかるかもしれないのです。
(2) 5/4 π
5/4πというのは、π+1/4πということです。
単位円で1/4πをイメージします。
π=180°
1/4πは、その4分の1ですから、45°
半円に45°加わったイメージを映像的に直接把握すると効果的です。
単位円では第3象限に動径があるのがイメージできます。
180+45=225
答は、225°です。
(3) 150°
これも単位円をイメージします。
π=180°
150°は、それより30°小さい。
第2象限に動径があります。
30°は、180°の6分の1。
つまり、πの6分の1。
だから、150°=5/6π
これが答です。
(4) 270°
270°というのは、90°×3。
直角3個分。
動径は、第3象限と第4象限の間の、下向きにまっすぐ。
90°は、1/2π。
だから、270°=3/2π
これが答です。
「秒でわかる」とはいかないけれど、何となくわかる気がする・・・。
そういう人は、この把握の仕方を練習してください。
あとになるほど、役に立ちます。
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