考え方の土台が異なると、わからなくなる。

セギ

2024年08月16日 17:20


もう10年ほど前になるかと思います。
授業料のことがよくわからない、という保護者の方が、面談にいらっしゃったことがありました。
その2か月ほど前に入会された方でしたが、度々、授業料について確認のメールが来ていました。
その都度、定額の月額の授業料をお納めくださいと連絡していたのですが、どうもそれが腑に落ちないようなのでした。

お金に関することでモヤモヤがあるのは、お互いによくないですから、入会時からの全授業を書き出して、それで説明したのですが、その方のモヤモヤは晴れる様子がなく、モヤモヤしたままお帰りになりました。
うーん。
どういうことだろう・・・。

生徒さんのほうで、あの日の分の授業をこの日に振り替えたいと希望されるのは構わないのですし、それが翌月でも翌々月になってもいいのですが、私のほうでは、そういう計算はしていないのです。
授業は、月4回分の授業料をいただいている場合は、正確に月4回保証です。
授業が実際に行われた順に、それが何月の第何週分に相当するのか記録しています。
月に1回メールで送信している学習指導レポートに、それを記載しています。

例えば、
①6月2日(月) 6月第1週分
②6月9日(月) 6月第2週分
③6月16日(月) 6月第3週分
④6月23日(月) 6月第4週分
⑤6月30日(月) 7月第1週分

というようにです。
上の例の場合は、6月は、5回授業があったので、7月第1週分の授業を早めに行った、という形になります。

続いて、7月の指導レポートでは、
①7月7日(月) 7月第2週分
②7月14日(月) 7月第3週分
③7月24日(木) 7月第4週分
④7月26日(土) 夏期講習1

というように、授業が行われた順番に記録していきます。
複数の生徒を並行して授業している私から見ると、この授業はいつのどの分の振り替え、という数え方は、むしろ煩雑でよくわからなくなります。
ときどきある第5週の処理も大変です。
実際に行われた授業から順番に番号を振ったほうが正確です。
月4回の授業は保証され、それ以上の金額を請求することはありません。
その月に5回の授業があるからといって請求額は増えない代わりに、3回しか授業がなかったからといって、月額が減ることもありません。
夏期講習、冬期講習、春期講習をお申込みの際に精算し、未消化の授業があれば、それは講習会に充当して、未消化分を差し引いた金額を講習会費として請求しています。
未消化の授業は、欠席が続いたというのでない限り、1学期で1コマ程度。
未消化なし、ということもあります。

勿論、前日までに連絡欠席した授業の振り替えはどんどん行ってくださって構わないのです。
こちらの把握の仕方が違う、というだけです。
ところが、授業を連絡欠席し、その振り替えをした覚えがないのに、授業が消えているのが腑に落ちないと、その方は思われたのかもしれません。
カレンダーによって、その月に5週目の授業があったのだということが念頭から消えていたのだろうと思います。
連絡欠席して、振り替えを保留しておいたはずなのに、いつの間にか、第5週の授業として消費されていた。
納得がいかない・・・。
全授業の実施日とそれが何月第何週分の授業であるかの記録にミスはないから、文句はつけにくい。
でも、納得がいかない・・・。

心理的なモヤモヤは晴れることはなかったようです。
それだけが理由ではなかったのだと思いますが、後日、その方は退会されました。
お金の問題は難しいです。

1年は52週間と1日。
そのうち、5週間は夏期講習、2週間は冬期講習、1週間は春期講習。
8週分が通常授業から除外されます。
52-8=44(週)
夏期講習の8月は通常授業がありませんので、通常授業は11か月。
44÷11=4
月4回の授業を、欠席なしに受けると、授業はちょうど消化されます。
連絡欠席による保留分があれば、講習会の際に精算します。
だから、1年間で考えれば、授業は消えないのですが、短期で考えると、振替できるはずの授業が、第5週分に穴埋めされた、と感じることもあるのだと思います。

「早く振替しないと、忘れられてしまう。ごまかされてしまう」
ということはなく、そもそも私は、忘れる以前に、覚えていない。
私が覚えておく必要のないシステムにしています。

「取っておいたはずの授業がなくなった」
という保護者の方の感覚のどこかに誤解があったはずなのですが、それは何だったのか?
どういう説明や説得なら、ご理解いただけたのか。
今も心残りです。


人の感覚というものは、最も説得が難しいものなのかもしれません。
数学の学習でも、感覚が優先されて、奇妙な誤解をすることがあります。

ある年、高校生と数Ⅰ「三角比」を学習していたときのこと。
その子は、直角三角形で、底辺の右側が直角、左側が θ の角となっている問題の三角比は正しく把握していましたが、直角三角形が回転された位置にあったり、裏返っていたりすると、必ず不正解になってしまいました。
sin30°=√3 / 2
cos30°=1/2
としてしまうミスを繰り返していたのです。
解説しても、腑に落ちない表情のままでした。
サインとコサインを取り違えて覚えてしまったのか?
でも、きちんと整地されている直角三角形ならば正解できるのです。
なぜなのか?

あるとき、本人が叫びました。
「ああ!θ の角って移動させたらダメなんだ!」

・・・何ですと?

その子は、直角三角形を見やすい位置に向け直す際に、図形を回転させたのだから、θ の角も別の位置に回転させるべきだという謎の誤解をしていたのでした。
三角形を回転させたときは、角の位置も移さなければならない、と思い込んでいたようです。
だから、θ ではなく、90°-θ のサインやコサインを求めてしまっていたのでした。

こういう誤解は、他人には理解できなくても、本人の中では整合性が取れているらしいのです。
本人が気づいて、心から納得するのでない限り、晴れ晴れとはしないのでしょう。
その子は、途中で気がついて、しかも、それを言語化できました。
それ以降は、もう大丈夫でした。


またあるとき、数A「場合の数と確率」の問題で、こんな混乱がありました。
2個のサイコロを振るとき、目の和が4になる確率を求める問題で、答を1/9 としていた子がいたのです。

全体の場合の数は、36通り。
目の和が4になるのは、1と3の目のときと、2と2の目のとき。
さいころは2個あるので、互いの目を取り換えるため、それぞれ2倍して、4通り。
だから、4/36=1/9。

いやいやいや。
それは、和が4になる目を全て書き出したとき、
(1,3),(3,1),(2,2),(2,2)
としていることになります。
目が両方とも2である場合は、1通りしかないのに、2回数えています。
和が4になる目の出方は、合計3通り。
確率は、3/36=1/12 です。

しかし、一度誤解してしまった子は、正解を解説しても、なかなか理解できませんでした。
もう1つの幻の(2 , 2)を心の中で消せないのです。
「サイコロにA、Bと名前をつけたとき、Aのサイコロの目が2でBのサイコロの目が2なのは、1通りですよ」
と説明しても、
「Aが2でBが2のときと、Bが2でAが2のときは違う。学校でそう習った」
というのでした。
この誤解を解くのは、本当に大変でした。

そもそも、互いの目を取り換えるために2倍するという考え方を学校で教えているとは思えないのです。
A、Bの目の順に、Aが小さいほうから、
(1,3),(2,2),(3,1)
と数え上げるのが標準的な解き方です。
Aのサイコロの目に注目して、1、2、3まで、と考えれば、書き出さなくてもすぐに数えられます。
2倍するのは、本人が独自の工夫として行ってしまったことだと思います。
学校の授業中にその工夫を思いついてしまったために、学校でそう習ったというように記憶の塗り替えが行われたのかもしれません。

土台の考え方が誤解しやすいものであるのに、そこから離れられない。
より合理的な考え方を示されて、それはそれとして理解はしても、
「でも、自分の考え方では、それはどうなるんだ?」
という疑問から解放されない。
説明を聞いても理解しづらい。
そして存在しない幻を見てしまう・・・。
場合の数や確率の問題で誤答の多い人は、このタイプの誤解が多いように感じます。

土台の考え方を合理的にすれば、ものごとは、もっとシンプルになります。
数学は、そのために学ぶものでもあるのかもしれません。


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