英語の重要文を暗唱する学習法。

セギ

2024年04月18日 12:08



英語の重要文を暗唱するというのはよく知られた学習法ですし、私も教科書の重要文の暗唱は宿題に出します。
NHK「ラジオ英会話」でも、音読暗唱が推奨されています。
とはいえ、例文暗唱が効果をもたらすためには、学習のやり方を考える必要があります。
暗唱というと、お経を唱えるような暗唱をする人もいるのです。

例えば、
「今、何時ですか?」
という英文は、おそらく小学生の頃に丸暗記したのでしょう、
What time is it now?
と、すらすら口をついて出てくる子が、かつていました。

しかし、その子は、
「ロンドンではそのとき何時だったのですか?」
という英文を作ることはできませんでした。
黙りこんでしまったので、
「何時ですか?は、どういうんだっけ?」
と問いかけても、何も出てきません。

「What time でしょう?」
と言うと、
「あ。What time is it now?」
と答えました。
「うん。でも、is it now ではないよね?過去の話だね?」
と問いかけると、また無言・・・。
「is を過去形にしましょう。is の過去形は?」
「・・・did?」
「・・・」
お経のように丸暗記した英文が頭の中にあるだけで、文法を理解していなかったので、応用が利きませんでした。


あるいは、
How many books do you have?
という文は丸暗記していたのです。
しかし、
「彼は何冊の本を持っていますか」
という英文は、作れませんでした。

三単現の知識を使って、
How many books does he have?
とすればいいのですが、そういう応用が利かないのです。
この英文は、この英文で、また丸暗記しなければならないのでした。

「彼はいくらのお金を持っていましたか」
という英文も、作れませんでした。

お金は数えられないので、many ではなく、much を用いる。
今回は過去形だから、did を用いる。
そういう知識を使って、暗記した例文を応用して、
How much money did he have?
という英文を作ることは本来可能なはずなのですが、そういう発想がないのです。
だから、この英文はこの英文で、また丸暗記しなければならないのでした。

英文を暗唱する場合は、文法や、英語特有の語順や時制、意味のまとまり、前置詞や冠詞に注意を払いながら暗唱するのが効果的です。
そうすれば、1つの英文を暗唱することで、無限のバリエーションが可能です。
暗唱を推奨する側は、そういう意図で暗唱を勧めています。


暗唱を推奨する側の人は、当然ですが、英語が得意です。
どうして英語が得意なのかと言えば、今書いたように、1つの英文を暗唱すれば無限のバリエーションが可能で、応用が利くからです。
つまりは、暗記力が高いだけでなく、文法知識を活用し、応用する力が高いのです。
それが、学習能力です。

ところが、教わる側は、必ずしもそうではありません。
暗唱しろと言われたら、真面目に暗唱はするのだけれど、応用が利かない。
だから、暗唱したそのままの文しか作れない。
そういうことがあります。

文法の知識があれば応用できるのですが、文法に敵意でもあるのか、文法を学ぶことを避ける人がいます。
あるいは、文法に敵意はないのだけれど、文法用語が理解しづらく、覚えられない人もいるでしょう。
暗唱した例文と文法知識があるからこそ無限のバリエーションが可能だということが、よくわからない人もいるかもしれません。
「ただ聞いているだけで英語がわかるようになる」とか、
「でたらめでいいから、とにかく英語を使っているだけで、英語ができるようになる」とか、
そういう楽で快適な学習法に惹かれてしまい、
「自分にとって好ましいものは正しい」
という認知の歪みも作用し、嫌いな文法学習は避ける人もいるのでしょう。


例文の暗唱という学習方法が悪いわけではないのです。
ただ、それだけでは効果の出ない人もいます。
暗唱した例文をどう使うのかを教えるところまでが、英語を教えるということです。

言い換えれば、暗唱した例文をどう使うかを学ぶことが、英語を学ぶということです。
勿論、英文を音読したり暗唱したりするだけでも、何もしないよりは、少しはどうにかなるかもしれません。

あるいは、大量に英文を暗唱することで、本人の脳の中で何かが動き出し、知識の連動と分析が始まる、ということもありえます。
教えられても理解しようとしなかった文法の体系が、大量の暗唱によって脳の中で形成されるという、幸福な例もないわけではないでしょう。
ただ、それは、本当に大量の暗唱が必要なので、100の例文を覚えたくらいで「大量だ」と言っていては到達できない領域です。
1万か2万か、あるいはそれ以上の例文を脳に投入する必要があるのではないでしょうか。
こうなると、AI にデータを食べさせるのに近い感じがします。
AI は、実は何も理解していない。
ただ、食べたデータが多くなればなるほど、もっともらしいことを言うようになる。
それに近い感じがします。

しかし、私たちは人間なので、理解できますし、思考もします。
文法を真剣に学び、例文暗唱と併用したら、少ない例文で合理的に学習できます。
例文暗唱と同時に文法を理解し活用する。
単語暗記と同時の多読・多聴。
文法演習と英作文演習。
やるべきことを、やるのみ。
英語学習の王道は、これに尽きると思うのです。




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