英語長文読解。具体例から論理を推理する。

セギ

2023年10月20日 13:13


ホトトギス。都立野川公園にて。
さて、辞書を引くことができない状態で英語長文読解問題を解かねばならない機会は多いです。
入試に辞書持ち込みが許可されている大学も少数ながらありますが、いちいち辞書を引いていたら時間が足りないのが現実。
学校の定期テストや英語検定となると、辞書は持ち込めませんし。
自分の知っている単語だけで勝負していかなければなりません。
どこまで頑張っても、わからない単語が1行に1個くらいあるのは覚悟の上。
それでも英文の意味を取っていくことが必要となります。

そもそも単語力がなくて、1行にわからない単語が3つも4つもある場合、それはさすがに読み取りは無理なので、単語を覚えましょう。
それは、大前提です。
単語の覚え方については、過去にも幾度となく書いてきましたが、毎日1時間、単語を覚える時間を作って、それを半年続けて、それでも何も効果がない、ということはありえないです。
毎日1時間、半年続ける。
それさえやれば、人生が変わります。
多くの人は、それができないだけなのです。
高校の英語の授業の、週1回の単語テストのために、前日か当日にちょろちょろっと単語暗記したことを、「努力している」と誤解している人は多いです。
「やってるもん!」と口をとがらせます。
しかし、私は、それは「何もやっていない」のカテゴリーに入れます。
だって、それでは効果が表れないですから。
単語暗記は、反復するしかないのです。
覚えても、覚えても、覚えても、忘れていく。
頑張っているのに、何で覚えられないのだろう?と自分をのろい、頭を抱え、涙を流して。
それでも諦めずに頑張った人だけが、気がつくと違う地平に立っているのです。
即効性など期待できません。
まず、半年努力する。
頑張りましょう。

さて、そうやって、わからない単語は1行に1単語程度になったとして。
それで、もう楽々と長文読解問題の正答率を上げていく人もいれば、それでも、何だか英文の意味が取れない・・・という人もいます。

以下の文を読んでみましょう。
まずは、文章全体の冒頭の1文です。

Work expands so as to fill the time available for its completion.

英文の冒頭を読むとき、読みにくいなあと感じるのは、話題の見当がつかないからです。
それは、英文をかなり読み慣れてもそうなので、ここで諦めないことです。

「わからない単語はありますか?」
「あります・・・」
「どれが?」
「completion」
「・・・complete の意味は?」
「完成する」
「では、それの名詞形ですよ。どういう意味になりますか?」
「完成すること」
「・・・はい。『完成』ですね」
「ああ・・・」
「あとは大丈夫?so as to の意味は?」
「~するために」
「うん。available の意味は?」
「利用可能な」
「うん。よく覚えていますね。では、1文目を訳してみて」
「仕事は、その完成のために利用可能な時間を満たすために拡大する」
「はい」
「・・・どういう意味ですか?」
「そうね・・・」

日本語に直してはみたものの、意味がわからない・・・。
英文には、そういうことがあります。
まして、文章の冒頭となると、何が言いたいのか、本当にわからない、ということは当然あります。

こういう、作者の「論」を述べている文は、このようにとかく抽象的で意味がわかりにくいのです。
しかし、その後に具体例を述べて、わかりやすくしてくれているのが普通です。
英文は、(そして、日本文もそうですが)、1段落に1つの内容しか述べないことになっています。
だから、1つの段落のどこかで意味を理解できれば、そこから全てが氷解する、ということがあります。

続く2文目。

General recognition of this fact is shown in the proverbial phrase "It is the busiest man who has time to spare."

「わからない単語はありますか?」
「proverbial」
「proverb の意味は?」
「ことわざ?」
「そうです。それの形容詞形ではないですか?『ことわざ的な』という意味では?」
「ああ・・・」

単語暗記をそれなりに頑張っても、英文の読めない子の1つの特徴として、派生語を把握できない、ということがあります。
1文字違うと、もう把握できない。
頭が固い、と言ってしまえばそれまでですが、派生語についての理解がないということもあるかもしれません。
それは、品詞に対する知識がないことも、1つの原因かもしれません。
同じ単語の動詞形、名詞形、形容詞形、副詞形というものがあっても当然だ。
そのような認識で英文を読めば、理解できる単語は爆発的に増えます。

「他にわからない単語は?」
「ぷれーず?」
「ぷ?phrase ですね」
「ああ」

その前のプロバービアルの読みに引きずられたのだろうとは思うのですが、ph は f の音、と把握できていると読むのが楽になります。
スペルを覚えるためにローマ字読みを優先してきた「ペーパーテスト系の子」に、このように、もう既に日本語になっている英単語の存在に気づかない子がいます。
これは、「フレーズ」。
「句」という意味です。
「あの歌の歌詞はいいフレーズが多いよね」
などと、日本語でも使います。
もう日本語になっている英単語は多いので、それを認識できると理解できる単語はさらに増えます。

「では、訳してください」
「この事実の一般的な認識は、ことわざ的なフレーズに示される。『それは、割く時間を持っている最も忙しい男だ』」
「・・・意味、わかりますか?」
「わかりません」

"It is the busiest man who has time to spare."

「it の中身は何ですかね?」
「the proverbial phrase ?」
「でも、この文はSVCですから、it =the busiest man の構造ですよね。だったら、it の中身は人間のはずです」
「ああ・・・」
「これは、強調構文なんですよ」
「ああっ」
「では、日本語にしてみて」
「割く時間を持っているのは、もっとも忙しい男だ」
「わかりますか?」
「わかりません・・・」
「では、続きを読んでみましょう」

さらに具体例が続きます。

Thus, an elderly lady of leisure can spend the entire day in writing and dispatching a postcard to her niece in London. An hour will be spent in finding the postcard, another in hunting for spectacles, half an hour in a search for the address, an hour and a quarter in composition, and twenty minutes in deciding whether or not to take an umbrella when going to the mailbox in the next street.

お気づきの方も多いと思いますが、この文章、書かれたのが20世紀なので、今のジェンダー平等的な観点からいえば、言葉遣いに難があります。
人間のことを man と呼ぶのは、今の英語ではありえない。
悪い例に「おばあさん」と性別を指定するのもダメです。
今、イギリスの新聞にこんなエッセイが掲載されたら炎上するでしょう。
いや、そもそも掲載されないと思います。
しかし、長文読解問題としては解く価値のある英文なので、遺憾ながら使用しています。
具体例から、著者の「論」を推理する基本問題として、良い英文なんです。
ちょっと古いともう価値がないと誤解する今どきの高校生をなだめながら。

勿論、それと並行して、最新の大学入試過去問も使用していますが、Facebook やAmazon の経営者の言動がやたらと出てくるだけで、あまり読む価値のない文章もあります。
新しい文章であることは間違いないのですが。
アップデートしているイメージを保つため、そして生徒の興味を引くためには有効。
1種の息抜き問題と言えるかもしれません。

それはともかく。
さて上の例は、言葉遣いも易しいので、上記の生徒も内容をよく読み取れました。
「このおばあさんの行動を、簡単に述べてください。正確な訳でなくて構いませんから。ざっくりと」
「おばあさんが、姪に、ハガキを送る」
「うんうん」
「まず、ハガキを探すのに1時間かけて」
「はい」
「眼鏡を探すのに、1時間。住所を探すのに30分。文章を書くのに、1時間15分。ポストに入れるために外出するのに傘を持っていくか決めるのに、20分」
「素晴らしい。よく意味が読み取れています」

Work expands so as to fill the time available for its completion.

ここで、この冒頭の英文に戻りました。
「仕事は、利用可能な時間を満たすために拡大する。この意味がわかりましたか?」
「・・・わかりません」

"It is the busiest man who has time to spare."

「割く時間があるのは、もっとも忙しい人だ。この意味がわかりましたか?」
「わかりません」

・・・うーん。

ということで、その次の文を読んでみます。

The total effort that would occupy a busy man for three minutes all told may in this fashion leave another person prostrate after a day of doubt, anxiety, and toil.

さて、設問は、この文に下線が引かれてあり、これとほぼ同じ意味の英文を選ぶ4択問題になっていました。
この英文を解釈するのは、単体では、難しいかもしれません。
でも、今までのところを理解していれば、大体の意味は取れるので、正解できるのです。

「さあ、この文で、第1段落が終わります。今まで著者が言っていたことを繰り返しているだけです」
「わからないです」
「・・・何が?」
「all told とか、in this fashion とか、prostrate とか、toil とか、わからない・・・」
「大丈夫ですよ。些末なところは無視しましょう。和訳しろと言われているわけじゃないんです。文意が取れればいいんです。大体どういう意味ですか?」
「わからない・・・」

細かいところがわからないと、不安になって、意味がとれない。
高校生としては十分な単語力がもうついているのですが。

ここからは、独学では難しい領域です。
独学では、ここで全訳を見てしまい、何だそういう意味かと安心して、終わってしまうのです。
all told 、in this fashion 、prostrate、toil の意味をそれで覚えるのなら、それもまた何か少しは意味があるでしょうが、大学受験にはそれでは間に合わない。
それらの単語・熟語がわからなくても、設問には正解できる。
そういう学力が必要なのです。
それが実践力です。

もう一度、英文を見てみましょう。
The total effort that would occupy a busy man for three minutes all told may in this fashion leave another person prostrate after a day of doubt, anxiety, and toil.

「訳せるところだけ、訳してみて。わからない部分は英語のままでいいし、無視してもいいよ」
「・・・忙しい男に3分を占領させる全体の努力が、別の人は1日。疑って、疲れて」
「素晴らしい!それで十分。つまり、どういう意味?」
「・・・わからない・・・」
「第1文に戻りましょう。『仕事は拡大する』。次の文は、『割く時間があるのは、もっとも忙しい人だ』。どういうことでしょうか?」
「・・・わからない・・・」
「どんな人と、どんな人が比較されていますか?」
「忙しい人と、別の人」
「別の人。例えば?」
「おばあさん」
「そうそう。忙しい人と、おばあさん。ここで例として出されている仕事の内容は?」
「・・・ハガキを書くこと」
「その仕事にかかる時間は?忙しい人は?」
「3分」
「おばあさんは?」
「1日」
「そう。つまり、仕事は、膨張する」
「・・・わからない・・・」
「大丈夫。もうわかっています。選択肢を読んでみて。答がわかったら、言って」

選択肢を日本語に訳すと。
1 . 暇な人は、1つの仕事を、さまざまに考慮して丁寧に行う。
2 . 仕事は時間をかけただけの効果がある。
3 . 同じ仕事が、人によってかかる時間が違う。
4 . 忙しい人に仕事を頼むのは、その人をわずらわせることだ。

「答は?」
「3?」
「はい、正解」
「えー・・・。あ。ああ!そういうことか!」
「はい。読解とは、そういうことなんですよ」

下線を引いてある英文は、難しい文だから引いてあるのです。
そして、重要だから、引いてあることも多いです。
その2つを兼ね備えているこの設問の作り方は、惚れ惚れするようです。
そして、下線部に多少わからない単語・熟語があっても、そこまで読み進めることができたのなら、正解できるのです。
良問です。

論でわからないことは、具体例で読み取る。
少しくらいわからない単語があっても、わかる部分をしっかり読んでいく。
つまりどういうことなのか、常に考えながら読んでいく。
1つの段落には、1つのことしか書かれていない。
その1つを読み取るだけでいいのですから。
そういう読み方は、体得するまでには補助が必要です。
そのように文章を読んだことのない子が、自力で体得するのは、相当に難しいと思います。

「仕事は、忙しい奴に頼め」
日本でも、そのようなことわざ的なものは存在しますね。
暇な人間に、暇だからできるだろうと仕事を頼んでも、いつになっても出来上がらない。
忙しい人のほうが、時間を捻出して、さっとやってくれる。
仕事の質も高い。
そういう考え方があります。
高校生にはなじみのない考え方かもしれません。
それを知るという意味でも、現代に通用する良問だと思います。

私見を言えば。
悪い例として出ている、姪に葉書を書き送るのが1日仕事になっているおばあさん。
私は、何だかチャーミングだなあと思うのです。
そして、忙しい人が3分で送信したメールは、受け取った姪は読み終わって返信したら消去するかもしれないけれど、おばあさんの1日仕事の葉書は、しばらくボードにピンで止めておき、後には文箱に保管すると思うのです。

ラジオで聴いた好きなエピソードがあります。
あるラジオパーソナリティが、久しぶりに帰省したら、新聞から顔を上げたおじいさんが言ったというのです。
「恐ろしいことだよ。朝刊を読んでいると、もう夕刊が届くんだよ」

タイパもいいですけれど、ゆったり時間を使うことの中にも、価値のあることがきっとある。
そんなことも考えてしまうのです。
私自身は、今年度、大学受験生が今までで最多の人数になり、タイトなスケジュールの中、過去問分析に時間を使い果たす日々なのですが。


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