「仮定法」の問題と「助動詞」の問題との混同から見えること。

セギ

2024年06月01日 11:24


画像は、ニオイバンマツリ。

さて、本日は英文法の話。
英文法が苦手な人は多いです。
そして、これも数学の学習と共通点があるように感じます。

算数・数学の勉強のやり方を間違えている子の話は、繰り返し書いてきました。
意味を理解しない。
考えない。
やり方だけ覚えようとする。

算数・数学は、論理を理解し、考えて解くようにするだけで、学力が跳ね上がります。
しかし、本人がそれを拒否する場合が多いです。
それが露骨に表れる例は、受験算数です。

「小学校の算数の問題をパッと見ただけで正解する頭のいい自分」という強い自己肯定感が、多くの子どもにあります。
順を追って論理的に思考するということが何をどうすることかわからないし、そんなことに価値を感じない。
そんなのは、頭が悪そう。
地味で面倒くさい。
第一、そういうことの価値を認めたら、それができない自分は「頭が悪い」ことになってしまう。
そんなのは認めない。
自分は、頭がいいんだから!
学校の算数は、できるんだから!
問題を見てパッと正解するのが、算数なんだから!
ずっと、そういうのでやっていく!
受験算数なんて、問題のほうがおかしいんだ!

・・・そこにこだわってしまう受験生もいます。
いわゆる「ボリュームゾーン」の受験生の多くがそうなのかもしれません。
受験算数ができるようには、なかなかなりません。

小学生に限った話ではありません。
中学生になって、数学を学習するようになっても、とにかくやり方だけ覚えて済まそうとします。
やり方だけ覚えて、定期テストが終われば忘れる。
その繰り返しです。
しかし、高校数学に進むと、やり方だけ覚えようにも覚えることが多すぎて、ついていけなくなります。
そうなってから、
「数学は意味がわからない」
と、ぼやくようになる子もいますが、高校数学になって急に意味を理解しようとしても、そのための土台がその子の中にないのです。

これは、数学だけの話ではないのかもしれません。
数学も英語も苦手という場合、学習姿勢に共通するものがあるのを感じます。 
英語は、数学よりも覚えることが重視される科目ではありますが、覚えるだけではなく理解することが、大きな助けになります。
英語にも論理があります。
ルールがあります。
それが英文法です。
文法を理解すれば、学習はかなり楽になるのですが、そこにアクセスできない子たちがいます。


あるとき、高校2年生から、テスト範囲に関して質問を受けました。
高校1年生のときに学校でひと通り英文法は学習済みでした。
2年生の英文法(正式な科目名はそうではなかったですが)の、そのときのテスト範囲は、「仮定法」と「助動詞」だというのでした。
唐突なテスト範囲でした。

仮定法と助動詞?

そして、本人が言うには、仮定法と助動詞の区別がつかないというのです。

仮定法と助動詞の区別がつかない?
どういうこと?

「仮定法」に対応する言葉は「直説法」であって、「助動詞」ではないです。
仮定法は、事実をそのまま語るのではなく仮定の話をするという「語り方」です。
一方、助動詞というのは品詞です。
そこは、混ざるところではないはずなのですが・・・・。

しかし、その子の学校のテキストを見て、謎が解けました。
目次を見ると、確かに第1章が「仮定法」、第2章が「助動詞」なのでした。
そのテキストは、復習用のテキストで、文法を基礎から順番に学ぶものではありませんでした。
重要例文がピックアップされていて、その簡単な解説と練習問題が載っていました。
その仮定法の例文と助動詞の例文の違いがわからない、というのでした。

例えば、こんな例文。
If I had left ten minutes earlier, I would not have missed the train.
そして、こんな例文。
She couldn't have noticed the difference.

この2つの文のどちらが仮定法で、どちらが助動詞か、わからない、というのでした。

「・・・上の文が仮定法の例文で、下の文は、助動詞の例文ですね」
「どこで見分けるんですか?」
「・・・なるほど」

私は悟りました。
この子は、文法を把握していない。
理屈を理解していない。
それでも、本人の中で独自に引っかかってくるものはあり、上の2文に共通する、
助動詞+have+過去分詞
というパーツが見えているのでした。
そこが同じなのに、片方は「仮定法」で、片方は「助動詞」と言われても、意味がわからない・・・。
そういうことなのでした。

学校側は1年かけてしっかり英文法を教えたつもりでいても、生徒は全部忘れて2年生になっていることがあります。
いや、1年生のときも、英文法の根幹は理解しないままだったのかもしれません。
理屈や論理が頭の中に残らないのです。
わざとそうしているのではなく、それが小学校からの学習習慣になっていて、本人は無自覚なのです。
例文は暗唱する。
テキストの問題の答も丸暗記する。
それで、テストはまあまあやり過ごせる。
だから、大体大丈夫なのだけれど、根本がわかっていない・・・。


しかし、本人が困ったときが、立ち止まる好機です。

まずは仮定法から。
仮定法は、事実に反する仮定を語るときの「語り方」です。
普通ではない時制にわざとすることで、仮定の話であることを伝えます。
仮定法過去は、現在の事実に反する仮定。
if 節の動詞は過去形。
主節は、would , could , might などの助動詞の過去形+動詞原形。
1つ古い時制をわざと使用することで、現実からの遠さを表す。
つまり現在の事実ではなく仮定の話であることを示します。
主節に用いる助動詞は、基本は would。
「~できるだろう」などの意味が加わっているときは、その意味の助動詞過去形を使います。

上の例文は、仮定法過去完了です。
もう一度例文を見てみましょう。

If I had left ten minutes earlier, I would not have missed the train.
10分早く出発していたら、私はその列車に乗り遅れなかっただろう。

仮定法過去完了は、過去の事実に反する仮定です。
過去にもしもこうだったら、こうだったろう、ということを言いたいときに使います。
if 節は、過去よりもさらに1つ時制を古くする必要があるので、大過去、すなわち過去完了形を用います。
主節は、助動詞過去形+have+過去分詞の形にします。

この「助動詞+have+過去分詞」の形は、確かに、シンプルな「助動詞」の単元にも出てくるものです。
違う単元なのだから、違う形にしてくれ、というわけにはいきません。
そこにはルールがあります。


助動詞の後ろは動詞原形。

これは、英語の根幹のルールの1つです。
助動詞の後ろの動詞を過去形にすることはできません。

中学生の頃から「助動詞の後ろは動詞の原形」というルールを何度も聞いているはずですが、そういう根幹のルールに興味のない人は多いです。
文法的な説明に興味がなく、目の前の英文だけ覚えようとしてしまうのです。
それが英語の勉強だと誤解しています。

だから、
She couldn't noticed the difference.
という間違った文を見ても、おかしいと感じない。
むしろ、
She couldn't have noticed the difference.
という正しい文のhaveの使い方のほうがよくわからない。
よくわからないけれど、とにかく丸暗記する。
他の単元にも似ているパーツの文がある。
何が違うのかわからない・・・。
そこで、混乱が起こるようです。

繰り返します。
助動詞の後ろは、動詞原形です。
他の形のものを置いてはいけません。
でも、仮定法過去完了の主節が、助動詞+動詞原形では、仮定法過去の主節と同じ形になってしまいます。
現在の事実に反する仮定なのか、過去の事実に反する仮定なのかの区別がつかなくなります。
どうすれば、時制を1つ古くできるか?

これもまた、英語の根幹のルールを用います。
have+過去分詞の形を用いることで、時制を1つ古くできるのです。
これは、不定詞でも、動名詞でも出てきた内容です。
不定詞の完了形 to have+過去分詞とか、動名詞の完了形 having+過去分詞とか。
完了形の分詞構文というのもありますね。
「何か同じようなことが出てきてまぎらわしい」
と感じるかもしれませんが、同じ根幹のルールを用いているから、似ているのです。
理屈が同じなのです。
だから、個々にちまちま覚えるのではなく、根幹のルールを1つ把握していれば、ああ今回もこれかと簡単に理解できるのです。


ところで、助動詞の例文のほうは?

She couldn't have noticed the difference.

「この文、訳せますか?」
「・・・彼女は、違いを気づくことができなかった」
「couldn't って、そういう意味?」
「・・・」
「基本の助動詞には、義務・許可系の意味と、推量系の意味と、2通りあるんだけど、それは知っていますか」
「・・・」

助動詞の2通りの意味。
これは、中学英語で学習する内容なのですが、1通りしか覚えていない人が多いです。
①義務・許可系
②推量系
の順番で記すと、

must 
①~しなければならない ②~に違いない
should
①~するべきだ ②~のはずだ
can
①~できる ②~でありうる
may
①~してもよい ②~かもしれない

さらに、それぞれの助動詞の過去形は、本当に過去の意味のこともありますが、意味をやわらかく婉曲的にしているだけの場合もあります。
これも、過去形にすることでの距離感、遠さから、婉曲的な意味を引き出しています。

She couldn't have noticed the difference.
彼女がその違いに気づいたはずがない。

must「~に違いない」の反対は、must not ではありません。
cannot です。
「~のはずがない」という意味になります。
should の「~のはずだ」もこれにからんできて混乱しやすいところです。
couldn't は、そのcannot を婉曲的にしただけで、意味は同じ「~のはずがない」です。

そして、推量系の意味の助動詞の後ろに have+過去分詞を置くのは、そこに書かれた事実は過去のことだからです。
過去の出来事について、今、推量的な判断をしているのです。
「違いに気づいた」のは過去のこと。
それを、「はずがない」と現在の時点で判断しています。

助動詞+have+過去分詞の文として、「助動詞」の単元で整理されている重要文法事項です。

must+have+過去分詞 ~したに違いない
may+have+過去分詞 ~したのかもしれない
should+have+過去分詞 ~するべきだったのに
should+have+過去分詞 ~したはずだ
cannot+have+過去分詞 ~したはずがない
need not+have+過去分詞 ~する必要はなかったのに 
などなど。

ここで、なぜ助動詞の後ろがhave+過去分詞になるのか?
理屈は、仮定法過去完了の主節の場合と同じです。
助動詞の後ろは動詞の原形。
でも、今回は、過去の出来事を表したい。
時制を1つ古くしたい。
そのときに使うのは、いつも、have+過去分詞です。
have なら一応原形なので、助動詞の後ろは動詞原形という原則に抵触しないのです。

そうした原則をもとに英文法が構成されていると知ると、英語は随分シンプルだと気づきます。
世界の公用語である理由は、ネイティブの人数の多さや、それを母国語とする国の国力のみとは限らないのです。
学びやすさ。
簡単さ。
英語は、ルールが簡単なのです。
誰でも学べるのです。

個々の例文を覚えるだけでなく、その根幹の理屈を理解すると、英語はわかりやすくなります。
文の構造がわかるようになれば、あとは単語と熟語を覚えるだけ。
どんなに長い文になっても、構造は同じです。
それに気づき覚醒した人から、英語は得意科目になっていきます。

根本のルールを理解しないまま、例文だけ覚えて済まそうとしても、人の脳というのはそれほど愚かではないので、何か規則性を探らずにいられません。
そこで、「仮定法」と「助動詞」の区別がつかないという、文法体系を把握する者からすれば予想外の癒着が起こってしまったのでした。
そして、その癒着は、言われてみれば、確かに類似性があってのことでした。
というよりも、まさに同じルールで動いているものなのだから、それは似ていて当然の内容でした。

重要例文をピックアップする復習が意味をなすのは、英文法の体系が頭の中にあってこそです。
大半を忘れている状態で、重要例文だけを見ても、何がどう重要なのか、よくわからない。
何の文法事項のどこを重要視しているのか、わからないのです。
これは学校にも責任のあることです。
重要例文のピックアップよりも、1年で学習したテキストをもう一度そのまま復習するほうが、生徒の理解は深まるのではないかと思います。
1年のときは意味がよくわからなかった「5文型」も、一応全ての英文法を学習した後に復習すると、意外にすんなりとその重要性がわかる、ということもあると思います。
復習は何度やっても効果があります。

重要例文をピックアップする学習は、その例文の何がどう重要かを解説する伴走者がいてこそ成り立ちます。
独学するなら、まずは、体系的な総復習が必要です。
大学受験生で、市販されている重要例文ピックアップ型の参考書や問題集をこなそうとして苦戦してしまう人がいますが、その前に、学校から高校1年生のときに配布された文法テキストと姉妹品の参考書を熟読し理解するほうが効果的です。
学校で購入させられたわりに1回も使わなかったので新品同様の分厚い参考書が、書棚に眠っていないでしょうか?
あれを読んで、目から鱗が落ちて文法的に覚醒したという秀才を何人か知っています。
わからなかったこと、知りたかったことが、全部書いてあった。
早く読めばよかった、というのです。

手元になかったら、書店にも売っています。
購入前に、必ず目次を見てください。
「仮定法」の次が「助動詞」になっているような参考書ではだめです。
第1章「文の種類」
第2章「文型」
第3章「時制」
第4章「態」
第5章「助動詞」
というふうになっている参考書がお薦めです。
問題集ではないので、問題など載っていてもいなくても構いません。
今どきの文法参考書は意外に読みやすく、例文も易しく、フルカラーで、時制や態を図やイラストで示してくれたりもしていますので、文法が苦手な人はそういうものをまずは通読するのが英語が得意になる近道です。
回り道のようでいて、それが近道なのです。

解き方を覚えるのではなく、理屈や意味を理解すること。
それは算数・数学だけの話ではなく、英語学習もまた、それが出来るのと出来ないのとでは、大きく違ってきます。
理屈や意味を理解する勉強を小学校で学び損ね、やり方を覚えるだけの勉強になってしまうと、苦労が多いわりに成果がなく報われないことになりがちです。
数学だけでなく、英語でも。
でも、気づいたときから、やり直せます。



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