たまりば

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2022年06月29日

数A「場合の数と確率」正答と実感が一致しないとき。

数A「場合の数と確率」正答と実感が一致しないとき。

数年前、大人のための数学教室を開催していたときのことです。
こんな問題を解きました。

問題 5人が1列に並んで記念写真を撮る。並び方は何通りあるか。

シンプルな順列の問題です。
5!=5・4・3・2・1=120
答は、120通りです。

これに対して、1人の方が、
「え?そんなにある?」
と驚いてしまい、そこで授業が止まってしまいました。
たかが5人が並ぶだけの写真の撮り方に120通りもあるとは実感として信じられず、戸惑ってしまわれたのでした。

信じられないのならば、樹形図を描いてみればよいのです。
実際に描いてみれば、たいていの場合、途中で嫌になります。
いちいち描いていられないほど、樹形図の枝は広がっていきます。
最終的に枝は120通りに広がります。
ノート1ページには収まらないかもしれません。

数学を教える身としては、そういう態度を取ってしまいがちなのですが、でも、そういうことではないのだと、そのとき学びました。

その授業では、他の生徒さんが緩衝材の役割を果たしてくださって、
「ねえ、とても信じられない数ねえ」
と、驚いた方に共感することで、その場は収まったのです。

実証ではなく、共感が大切。
事実120通りであることをゴリゴリ押し付けるよりも、
「信じられないくらい多いですよね」
と言ってあげることで、相手の気持ちは安定し、納得する場合があります。

これは、中学生・高校生に教えていると、さらに気をつけなければならないことなのだと思います。
生徒は大人と違い、自分が何に驚いているのかを明確に語れません。
120通りという答が信じられない。
とはいえ、実際に樹形図を描いて確かめることも勿論しない。
しないけれど、120通りという正答を信じない。
そのまま固まってしまう。
「何がわからない?」
と私が問いかけても、それに返答することもできない。
そのまま、数学に対して違和感や不信感を抱く。
そんなこともあるように思います。

教えるほうは、このような問題は見飽きているので、120通りという答に驚きも違和感もありません。
相手が何に驚いているのか、そもそもわからない。
わかったとしても、相手の驚きは「間違った驚き」なので、共感しづらい。
事実120通りであることを証明してみせれば納得するんだろうと論理的に考えてしまう・・・。
しかし、相手の驚きは論理的なものではないですので、理詰めで説得しても、どうにもならないのです。
「120通りは、随分多い気がするねえ」
この一言がいつでも言えるようにしておくこと。
ベテランになればなるほど、気をつけて、心がけておきたいことだと思います。


とはいえ、このような基本問題では、120通りに違和感を抱くほうが悪いんじゃないのと思う人もいるかもしれません。
では、こんな問題はどうでしょうか。

問題 5本のうち2本が当たりのくじがある。1人1本ずつこのくじを引き、引いたくじは元に戻さない。2人が順番にこのくじを引く。先に引くのと後に引くのとでは、どちらが当たる確率が高いか。

この問題も、大人のための数学教室で停滞を招いた問題でした。

まず、先に引く人の当たる確率を考えてみましょう。
これは、5本のうち2本が当たりですから、当たる確率は2/5です。

では、2番目に引く人が当たる確率は?
これは、先に引いた人が、当たりくじとはずれくじのどちらを引いたかによって話が変わってきますので、その場合分けが必要です。
まず、先の人が当たりくじを引いた場合。
残りのくじは、4本のうち1本が当たりです。
その場合の確率は、2/5×1/4
次に、先の人がはずれくじを引いた場合。
残りのくじは、4本のうち2本が当たりです。
その場合の確率は、3/5×2/4
これらは、同時には起こりませんので、和の法則が成り立ちます。
2/5×1/4+3/5×2/4
=2/20+6/20
=8/20
=2/5

先に引いても、後に引いても、確率は同じ2/5。
当たる確率は同じ。
これが正答です。

これが実感とは異なるようなのです。
この答に納得しない方がいらっしゃいました。

「・・・では、先に引くのと後に引くのでは、どちらが有利だと思いますか?」
そう問いかけると、その人は黙ってしまわれました。
どちらが有利なのかは、よくわからない。
でも、多分、どちらかが有利な気がする。
そういう感覚があったのだろうと思います。

これは、しかし、
「先に引いた人のくじが、当たりかはずれか判明した後でなら、次の人の当たる確率は劇的に変わりますよ」
と説明すると、
「あ、そうよね。そうですよね」
と納得してくれました。

こういう感覚は人によって偏りのあるものです。
ジャンケンの手ですら、勝つ確率にばらつきがあると何となく思っている生徒もいます。
グー、チョキ、パーのうち、勝てる確率の高い手があると思っているのです。
だったら、勝てる確率の高い手をいつも出せばいいのに。
でも、どの手が強いのかよくわからないし、咄嗟のことなので、そういうことはできないそうです。
また、勝つ確率と負ける確率とあいこになる確率は等しいですよと話しても、そんなことはない、という子もいました。
じゃあ、どの確率が高いと思いますかと問いかけると、不機嫌になってしまいました。
これも、相手の感覚を正すことよりも、共感することのほうが大切なのでしょう。


さて、最後に、もっとも実感しにくい問題を。
これは、「モンティ・ホール問題」という名称で有名な問題です。
モンティ・ホールという人が司会を務めたアメリカのクイズショーから生まれた問題です。

クイズの解答者は、賞品を選ぶ際に、3つのドアから好きなものを1つ選ぶことできます。
3つの閉じたドアのいずれか1つに当たりが入っています。
解答者がドアを1つ選びます。
すると、司会者は、選ばれたのではないドアのうちの外れのドアを1つ開けてみせます。
残りのドアは2つ。
当たりのドアと外れのドアが1つずつ残っています。
司会者は、ここで言います。
「選ぶドアを変えてもいいですよ」
さあ、この場合、選ぶドアを変えたほうが当たる確率は上がるのか?

この正答は、「選ぶドアを変えたほうが当たる確率は上がる」です。

うそー。
変えても変えなくても、当たる確率は同じじゃないのー?
と、感覚的に納得できない人が非常に多い問題です。

具体的に考えてみましょう。
ドアにA、B、Cと名前をつけましょう。
解答者は、Aのドアを最初に選ぶとします。
(1)Aのドアが、当たりのドアであるとき
司会者がBのドアを開けた場合。
残るドアはAとC。
もともとAが当たりなのですから、選ぶドアを変えて当たりになる確率は0
司会者がCのドアを開けた場合。
残るドアはAとB。
もともとAが当たりなのですから、選ぶドアを変えて当たりになる確率は0
(2)Bのドアが、当たりのドアであるとき
司会者は外れであるCのドアを開けます。
残るドアはAとB。
選ぶドアを変えて当たりになる確率は1。
(3)Cのドアが、当たりのドアであるとき
司会者は外れであるBのドアを開けます。
残るドアはAとC。
選ぶドアを変えて当たりになる確率は1。

これらは同時には起こりませんので、和の法則が成り立ちます。
それぞれのドアを選ぶ確率は1/3
(1)の場合、司会者が開くドアを選ぶ確率はそれぞれ1/2
(2)の場合、司会者が開くドアを選ぶ確率は1
よって、
1/3×1/2×0+1/3×1/2×0+1/3×1×1+1/3×1×1
=1/3+1/3
=2/3

これは、解答者がどのドアを選んだ場合も同様です。
よって、選ぶドアを変えて当たりになる確率は、2/3。

変えたほうが当たる確率が上がります。

ところが、このように解説してもなお、
「そんなはずがない!選ぶドアを変えても、当たる確率は同じはずだ!」
と感じる人が多く、その感覚を、モンティ・ホール・ジレンマあるいは、モンティ・ホール・パラドックスと呼ぶそうです。

場合の数や確率の問題は、結局、どこかで実感から乖離するのかもしれません。
だとすれば、一番上のシンプルな順列の問題で120通りという正答に納得しない人のことをとやかく言う必要はない。
ジャンケンはどれかの手が実は絶対に有利だと思っている人がいても、それはそれでいい。
ことに、「心理学的に、人はパーの手を出しやすい」などの言説があり、それを信じるのならばなおさらに。
だったら、それを知る人がチョキを出すようになり、それを見越した人はグーを出すようになります。
だから、多くの試行の中でそうしたものはいずれ平らにならされていくと私は思いますが、そんなこともどうでもいいのでしょう。
共感することが大切。

特に自分の気持ちや自分の考えを言葉で表現する力が鍛えられていない子が多くなってきたと感じる昨今では、理屈は理屈として、共感することが大切なのだと思います。




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    Posted by セギ at 13:06│Comments(0)算数・数学
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