たまりば

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2022年05月31日

英語学習と、愚直であること。

英語学習と、愚直であること。

先日、NHKの「ラジオ英会話」を聴いていましたら、本文の中に「考古学者」 archaeologist という単語が出てきました。
その単語について、講師の大西先生が熱弁をふるっていました。
こういう単語こそ、皆さん、覚えましょう。
こんな単語は使わないから覚えない、とは思わないで。
こういう単語を覚えていることこそが英語力ですよ、と。

それを聞いて、数年前の塾生を思い出しました。
高校の多くはそうですが、彼女の通う高校でも、英語の授業で週に1度単語の小テストがありました。
しかし、彼女は、前日に一夜漬けをすればよいほうでした。
下手をすると、テスト前の休み時間に単語集を見て覚えるだけで小テストをやり過ごしていました。
そんなある日の休み時間、廊下で、友達と、
「単語テストの範囲が100個もあるのに、テストに出るのは10個だけなんだから、覚えても無駄だよね」
と話していたら、ちょうどそこを英語の先生が通りかかり、注意されたというのです。
塾で私に、それを笑って話すのでした。

彼女としては楽しいエピソードトークなのでしょうが、私は全く笑えませんでした。

週1回の単語テストの準備をしっかりやれない高校生は多いけれど、それはついつい面倒でとか、やっているんだけど覚えられなくてといった理由なのだろうと思っていました。
実際、多くの生徒はそうなのだろうと思います。
まさか覚えても無駄だと思っていたとは・・・。

いや、それが本音とは限りません。
実際は、覚えようとしても覚えられない。
覚えようとしても単語を覚えられなくて、つらい。
あまりにも覚えられないので、だんだん、まともに単語集に向き合えなくなったというほうが本音だったのかもしれませんが。

その子は、その後、唐突に英検2級を受けて、当然ですが落ちて、それをきっかけに塾をやめていきました。
学校の教科書の予習だけしたい、学校のプリントの答を教えてほしい。
そのために個別指導塾に通っている。
今はうちの塾にはいない、そういうタイプの生徒でした。


学校が行っている週1回の単語テストは、単語を覚える目安として設定してくれているものです。
目標は、単語集の単語をすべて覚えてしまうことにあります。
学校によって生徒に渡す単語集は色々ですが、どの単語集も大同小異です。
つまりはどれでもいいから1冊マスターすれば、大学入試にそこそこ対応できます。
単語力と文法力があれば、あとは練習すれば長文は読めます。
リスニングも聴き取れます。

大学入試にこだわった言い方になりましたが、つまりそれは、そのレベルの英語が読めて聴き取れる、そういう英語力がつくということです。

でも、漠然と単語集1冊を覚えなさいといって渡したところで、覚えるわけがありません。
1週間に100個の単語を覚えなさいと指定し、週に1回テストをすることで、学習のリズムを設定してくれている。
それは、英語の先生の温情です。

本当は、それだけでは、100個覚えても翌週にはその大半を忘れてしまうから、もっともっと回転率を上げてほしい。
毎日最低50個覚えて、回転させましょう。
単語集は何周でもやりましょう。
本気の英語学習は、そういうものです。

しかし、そうであるのに、現実には、週に100個のノルマすらこなせない高校生は多いです。
こなせないのは仕方ない面もあるけれど、
「10個しかテストに出ないのに100個覚えるのは無駄」
などと、覚えない言い訳をしてしまう。
それでは、英語ができるようにはなりません。


これはまた別の生徒の話。
中高一貫校に通う中学生に定期テスト対策をしていたときのことです。
教科書本文の確認や文法テキストの演習はひと通り終わったので、
「あとは、テスト範囲のこの問題集ですね。これは何ですか」
その問題集を見せてもらったことは一度もありませんでした。
テスト範囲に唐突に入ってきた印象が私にはありました。
「あ、それはいいです。配点は8点なので」
「は?」

見せてもらうと、それは教科書や文法テキストと比べると数段上のレベルの問題が並んでいました。
中高一貫校にしては教材のレベルが学年相当で、普通過ぎる・・・と思っていた謎が解けました。
難しいこともやっているのに、その子はそれを切り捨てていたのでした。
テストに出ても、配点は8点分だから、と。

「配点が8点だからといって捨てたら、あなただけ92点満点のテストを受けることになるんですよ。その中で、初見の長文問題もあるんですから、あっけなく80点台になり、ケアレスミスをしたら、簡単に70点台になるでしょう。それでどうやって上のクラスに上がるつもりなんですか」

中高一貫校の生徒にしては学力はきわめて普通の子でした。
基本的なことはできるのですが、ある水準を超えると、全くできないのでした。
とはいえ、基本的なことは、本当に良く身についているのです。
それが本人の学力の限界ならば、基本問題でも解けない問題はあるものです。
そういうことはないのでした。
ある水準を超えると、センサーでもあるかのように解けなくなる。
何だこれは・・・と思うことの多い子でした。

まさか、基本問題しか解かないことを本人が決めてしまっていたとは・・・。
自分の通う学校はレベルが高いから、その中で基本だけ身につけておくのでも、全体から考えればかなりレベルが高いはず・・・。
そのような誤解があったのでしょうか。

しかし、それも、難しい問題は、難しくてつらいから、それを避けてしまう言い訳を本人が見つけてしまっていただけなのかもしれません。
努力をするのは、つらい。
そんなのは徒労だと喝破して、切り捨てたい。
無駄な努力をしない自分のほうが賢いのだということにしたい・・・。


いいえ。
英語学習は徒労に見えることの積み重ねです。
テストに出るとは限らない単語を覚え、テストには出ない長文を読み、テストには出ないリスニングを繰り返す。
テストに出ない文を暗唱し、テストに出るとは限らない英作文を書いてみる。
そうした徒労に見えることの果てに、初めて聴くリスニング問題を正確に聴き取り、初めて読む長文を速読し、初めて与えられた課題でまとまった英文を書く力が養われます。
さらにその先に、仕事で使える英語力への道が開かれています。


「考古学者」 archaeologist
実は、これは受験という観点からもきわめて有用な英単語です。
英検でも、大学入試問題でも、学者が何か論を立て、実験や観察をしている文章は多く出題されます。
単語力がないから、その英文で説明されている論の内容を読み取れず、実験のほうが具体的だからそこから読み取りなさいと促してもそれも読み取れず、そもそも、その学者の専攻がわからないので、何の話をしているのかわからない。
1つの単語の意味がわからないだけで、もう全部わからない気がして、英文を読み通すのがつらくてたまらない。
そんな中で、この「考古学者」という単語を読み取れたら。
おそらくその文章は、考古学に関するものでしょう。
それがわかるだけで、気持ちが落ち着き、もっと他にわかることはないかという意欲が生まれます。
わからない単語もあるけれど何とか大意は取るぞというメンタルを維持するには、でも、わかる単語も多いぞという支えが必要です。

そもそも、大学受験用の単語集の単語を覚えることは、徒労ではありません。
辞書の1ページ目から順に全部覚えろと言っているのではないのです。
必要な単語が難度の順に、あるいは重要度の順に掲載されている単語集を1冊覚えることすら徒労だと感じてしまう、その意識が英語習得の障害なのです。

徒労に見えることにも愚直に取り組むこと。
教養は、そうした先に獲得されるものだと思います。
最小の努力で最大の効果を上げる。
それも結構ですが、そんなことばかり主張している人が絶望的に無教養に見えることにも、少し目を向けてほしいと思うのです。




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