たまりば

地域と私・始めの一歩塾 地域と私・始めの一歩塾三鷹市 三鷹市

2022年05月09日

英語。三単現のSをつけ間違える原因は、ケアレスミスばかりではない。

英語。三単現のSをつけ間違える原因は、ケアレスミスばかりではない。

英語が苦手な子の多くは、少なくとも中学生の間は、そんなに何もかもがわからないというわけではありません。
そこそこわかるような気がするが、定期テストでは何となく失点が多く、成績はパッとしない、という場合が多いように思います。

定期テストでのミスというと。
多いのは、現在形にするか過去形にするかといった時制ミス。
名詞を単数形にするか複数形にするかのミス。
冠詞や前置詞の書き忘れ。
そうしたものが積もりつもってテストの得点はパッとしないけれど、本人は英語ができないことが自覚できていない場合もあります。
全部、ケアレスミスだから。
ちょっと不注意なだけだから。
そのように本人も保護者も思ってしまうのでしょう。

しかし、それは本当にケアレスミスなのでしょうか?
根本的に理解できていない可能性はないですか?
ケアレスミスと理解不足の境界は、きわめて曖昧です。

例えば、以下のような問題

問題 次の( )内の動詞を必要があれば適切な形に改めなさい。
(1) My father (like) to play baseball.
(2) They (visit) Hokkaido every summer.

これを、
(1) My father likes to play baseball.
(2) They visits Hokkaido every summer.
と答えてしまう子は多いです。

(1)は正解。
(2)は、不正解。
正しくは、
(2) They visit Hokkaido every summer.
です。

こういう問題で間違えてしまう原因は何なのか?
それには様ざまな可能性があります。

一番最初に考えられるのは、英語の問題をなめてしまっている場合。
いや、本人には「なめている」という自覚はなく、問題というのをそういうものだと誤解しているといったほうがいいのかもしれません。
(1)が三単現のsをつける問題ならば、それに続く問題も全部そうだと思ってしまうのです。

小学校の計算ドリルのように、大問まるごと、あるいは下手をすると問題集の1ページ全部が同じパターンだと思っているのでしょう。
いまだに小学生から脱皮できていない子、勉強を全部「単純作業」に置き換えてしまおうとする子によく見られる現象です。
英語の問題の場合は最初から、そして、数学の問題も学年が上がれば、小問1問ごとにパターンは変わり、作業手順で済ますわけにはいかなくなるのですが、そのことがわかっていないのです。

これは、無論、学力的に精一杯なところがあり、1問1問、ちゃんと頭を通して考えるのがつらいので、そのような作業手順にすぐに変えてしまう子もいますが、そうした子ばかりではありません。
案外学力のある子や中高一貫校に通う子にも見られる傾向です。
学校の勉強は簡単なはずなので作業手順でやれる、と誤解している可能性があります。
自分の学力に妙な自信があり、もはやそのようなレベルのことを学んでいるわけではないという現実に気がついていないのです。


しかし、1問1問、真剣に考えてもなお、
(2) They visits Hokkaido every summer.
としてしまう子もいます。
三単現について、変な覚え方をしてしまっている子たちです。

三単現。
三人称・単数・現在。
主語が三人称で、単数で、時制が現在のとき、動詞はsまたはesをつける。

こんなルールは日本語にはないので、英語をどうしても日本語的に理解したいと思っている子にとっては、ちょっと理解を超えた存在であるのが、三単現です。
一人称、二人称、三人称ということが、そもそもよくわかっていない場合もあります。
「三人称単数とは、代名詞に置き換えたときに、he , she , it になるものです」
といった説明が意味をなすのは、それを理解できる子たちだけです。
どんな場合に he , she , it になるのか、わからない子は沢山います。
そんな子たちの救世主が、
「I でも you でもないのが、三単現」
という、雑な覚え方です。

教科書によっては、三単現の学習は複数形の学習よりも前にきます。
主語が複数形になることは、まだありません。
そのため、この雑なルールがある程度有効になってしまうのです。

それで何とか定期テストもクリアできたので、このルールが万能だと思い込んでいると、(2)の問題は、
(2) They visits Hokkaido every summer.
と誤答してしまいます。
確かに、主語は、I でも you でもない。

ただ、この覚え方には捨てがたい魅力もあります。
代名詞に置き換えたときに、he , she , it になるもの、という説明ではわからない子たちにとっては、特に。
「単数形」ということに重点を置けば、これはなお有効です。
主語が、I でも you でもない単数形のときは、三人称単数。
それは、事実です。

英語に一人称単数は I しかなく、二人称単数は you しかありません。
一人称、二人称、三人称とは何であるかをしっかり説明したうえで、単数であることを特に強調して、主語が、I でも you でもない単数形のときは、三人称単数と理解するのは、間違っていません。
これで、my mother は一人称だとか、your dog は二人称だとかいったミスから逃れることができます。

しかし、複数形は、三単現の対象ではありません。
三単現は、三人称・単数・現在ということです。
単数ではないのなら、該当しません。

そう説明することで解決することもあります。
雑に覚えた雑なルールが、しばらく経つと舞い戻ってきて、一生その子を苦しめる、ということもありますが。


中学三年生になっても、三単現のミスを繰り返す子がいました。
「これは、三単現ではないですよ。主語が複数だから。三単現。わかりますか。三人称・単数・現在」
そういった声かけを繰りかえしても、正答率は変わりませんでした。
相変わらず、(2)のような問題は、
(2) They visits Hokkaido every summer.
と書いてしまっていました。

こういうミスは、もうなくならないのかなあと諦めかけたある日のこと。
その子が、私に質問しました。
「we のときは、動詞は複数形にしますか」

・・・え?
動詞の複数形?
この子は、何を言っているの?

戦慄が走りました。

この子は、三単現のsを「動詞の複数形」だと思っているのか!

動詞の複数形って何?
そんなものはこの世に存在しないよ。
何を言っているの?
どこでどう混線したの?


教える者はとかく、一度教えたことは定着していると思い込んでしまいます。
一人称、二人称、三人称とは何なのか、下手なイラストまで描いて、あんなに丁寧に説明したのですから。
主語が、I でも you でもない単数のときは、三人称単数。
こんなにクリアな判断基準も示したのですから。
あとは「三単現」というキーワードだけで大丈夫。
しかし、私がその都度口にしていた「三単現、三人称単数現在ですよ」という言葉を全く理解しないまま、その子はそれまで笑顔でやり過ごしていたのでした。
動詞の複数形だと誤解したまま。

生徒の中には、一度は理解したことも、時間が経過すると、特に定期テストが終わると、きれいさっぱり忘れてしまう子もいるのです。
理解は遅くても、一度理解すれば忘れない子もいます。
しかし、理解の早い遅いに関係なく、何でもすぐに忘れてしまう子もいます。
頭の中に残さず、全て消去してしまうのです。

何でも暗記するだけの勉強もつまらないですが、三単現すら覚えていないのでは、学力があるとは言わないです。
勉強は、外付けのデバイスに知識を記憶させておけば大丈夫というわけにはいきません。
覚えないとどうにもならないことが、沢山あります。

三単現の学習の後、名詞の複数形の学習に入った時点で、三単現の記憶は吹き飛び、三単現の動詞のsは「動詞の複数形」としてその子の記憶に残ったのかもしれません。
だから、主語が複数の文では、常に動詞にsをつけていたのでした。
主語が複数ならば、動詞も複数形にするのだと誤解して・・・。

では、主語が he のときは、なぜ動詞にsをつけるのか?
そういうことに矛盾は感じてこなかったのか?

それがわからないからモヤモヤし、今回はsをつけておこうか、やめておこうかと、勘で解くようなことになっていたのかもしれません。
思い切って質問しても、先生に、
「・・・何を言っているの?」
と理解不能の顔をされてしまう可能性が高いですし・・・。


英語が苦手な子の頭の中にある、奇妙な「謎ルール」はいくつもあります。
①1つの文で、to は1回しか使えない。
②ing は続けて使ってはいけない。
I am enjoying listening to music.とかは、ダメ。
③have は続けて使ってはいけない。
現在完了のI have had dinner. とかは、ダメ。
④主語が複数形のときは、動詞に複数形のsをつける。

全部、間違っています。
・・・何でそんな愚かなルールを自分で作って誤解しているのか。
それは、正しい文法は覚えられないけれど、それでも、人は何か法則性を指向するものだからなのでしょうか。

それにしても、よく質問してくれたものでした。
「動詞の複数形」という一言の破壊力は、その子が何をどう誤解しているのかをすべて説明してくれました。
よく勇気を出してくれました。
「動詞の複数形」という言葉を聞いたとき、私は驚愕の表情を浮かべてしまったかもしれません。
それによく耐えてくれたと思います。
それで解決がつき、その子は、三単現のミスだけは、それ以来しなくなりました。
ちなみに、上の①②③の間違ったルールも、それを質問してくれた生徒がいたので、そういう誤解があると把握できたことでした。
以後の生徒にそのようなミスや、それのせいで正解が書けない迷いが感じられたときに有効でした。
1人の生徒だけの特殊な思い込みではなく、つまずきやすいところのようです。




  • 同じカテゴリー(英語)の記事画像
    英語の重要文を暗唱する学習法。
    誤読のメカニズム。主観で文章を読む子。
    質問しても、しなくても、大丈夫。
    共通テストで失敗したと感じたら。2024年1月。
    「覚える」ということが、何をどうすることか、わからない。
    英語長文読解。具体例から論理を推理する。
    同じカテゴリー(英語)の記事
     英語の重要文を暗唱する学習法。 (2024-04-18 12:08)
     誤読のメカニズム。主観で文章を読む子。 (2024-03-20 10:57)
     質問しても、しなくても、大丈夫。 (2024-02-25 14:59)
     共通テストで失敗したと感じたら。2024年1月。 (2024-01-16 14:24)
     「覚える」ということが、何をどうすることか、わからない。 (2023-11-24 12:15)
     英語長文読解。具体例から論理を推理する。 (2023-10-20 13:13)

    Posted by セギ at 16:47│Comments(0)英語
    ※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
    上の画像に書かれている文字を入力して下さい
     
    <ご注意>
    書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

    削除
    英語。三単現のSをつけ間違える原因は、ケアレスミスばかりではない。
      コメント(0)