たまりば

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2021年12月18日

中学数学 三角形の合同の証明。

中学数学 三角形の合同の証明。

問題 AB=BCである△ABCの頂点Aを通り辺BCに平行な直線を ℓ とする。AP=AQとなる2点P、Qをそれぞれ辺AB、直線 ℓ 上にとるとき、CP=CQとなることを証明しなさい。

三角形の合同の証明問題は、穴埋め問題はできる子が多いです。
根拠が「仮定」「仮定」「共通」で済む基本的な証明問題もできるでしょう。
だから自分は証明問題は解ける、と思っていると、上のような問題で大きくつまづくことになります。
証明問題を学習し始めたばかりの中学生にとって、上の証明問題は、難問の部類です。

何が難しいのか?

根本的な課題として、証明問題の構造を理解していない子が案外多いということが、まずあげられます。
自分が何のために何をしているのか、ほとんど理解しないまま、解答例にならって、それらしい答案を書いているだけなのです。

そして、「証明とは何か」を教えようにも、そうした論理的な日本語を聴き取ることに多少の困難を伴う子もまた多いです。
それは、学習障害といったことではなく、普通の子が、普通に、論理的な話を聴き取れないのです。
では、文字なら読み取れるのかというと、文字情報は「目が滑る」様子で、正確に1文字1文字読む習慣がなく、読み取れません。
では、何なら伝わるのか?

・・・動画?

確かに、大人でも、口頭の解説や書面では理解してくれない人が多くなったからなのか、動画による解説が増えている時代です。
話は聞かない。
文字は読まない。
となれば、動画で説明するしかないのでしょう。

しかし、スマホの契約条件や棚の組み立て方なら動画による解説が便利でも、授業動画は、本質的には学校の授業と同じです。
それが理解できるのなら、学校の授業が理解できるはずです。
ちょっとびっくりするくらい、学校の授業を理解できずに塾にくる子たちがいます。
授業動画は、有料・無料のものを含めて流行していますし、有料であっても比較的安く済むのが利点ですが、人の話を聞く基本的な力がないと、効果は限定的です。
何回巻き戻して動画を見ても、わからないものはわからない。
言葉を変え、説明を変え、わかるまで噛み砕いて説明することが必要な子たちがいます。
証明の本質が理解できない子たちは、多くは、そういう子たちです。


前述のように、根拠が「仮定」「仮定」「共通」で済んでしまうレベルの証明問題なら、理解しないまま模倣しても正答になってしまうこともあるので、それ以上には理解が進みません。
全くわかっていないのに、本人は、そこそこわかっているつもりになっています。

まだ大手個別指導塾で働いていた頃、上の問題を宿題に出したときも、ある中学生が、やはり解くことができず、白紙にしてきました。
私は解説を始めました。
「CP=CQとなることを証明しなさい、とあるね。それが結論だね。その結論を言うためには、何を言えばいいんだろう?」
「・・・」

このように、結論から逆に考えていくことが、この場合、どうしても必要なのですが、そのように論理的に物事を考えたことのない子は多いです。
まず、これが最初の障壁です。
その子も、結論から逆に考えていくということが、理解できない様子でした。
証明問題に限らず、数学の問題を解く際に、この考え方は必要なのですが、そういうふうに問題を見る習慣がないのです。
本人の中に論理の筋道というものがなく、頭の中で、全てが漠然と対等に浮かんでいるような状態なのだろうと想像されます。
結論から逆算して物事を考えていくのは、特に難しいことはない、普通の論理。
しかし、論理的にものを考える習慣のない子は、何を言われたのか、理解できないことが多いです。
知らない外国語を聞くほどに、理解できない様子です。

少し話が逸れますが、そういう子は、
「二等辺三角形の底角は等しい」
と、
「2角の等しい三角形は二等辺三角形である」
の違いが理解できないことも、はっきりと目に見える特徴です。
同じことであるように思う様子です。
「え?二等辺三角形なんでしょう?だったら底角は等しいでしょう?」
「・・・いや、だから、まだ二等辺三角形であることを証明していないんです」
「でも、二等辺三角形なんでしょう?」
「いや、そうだけれども、それをこれから証明するんだよ」
「でも、二等辺三角形だから底角が等しいんでしょう?」
「いいえ、2角が等しいから二等辺三角形なんです」
「・・・?」

論理は、どうやって人の中で培われていくものなのか。
それは、やはり、数学や国語や、その他の学習をすることで獲得していくものだと思います。
生まれながらに論理的思考をする人は、おそらく原始人の中にもいて、どうすれば獲物をもっと多く取れるか、どうすればもっと収穫を増やすことができるか、論理的に考えたのだろうとは思いますが。


問題に戻ります。

図のCP=CQを証明するには、何を証明すればいいのか?
全く動きがないので、私はヒントを出しました。
「三角形の合同を使うんじゃないのかな?CPとCQを対応する辺として持つ三角形の合同を証明すれば、その結論が言えるよね?」
「・・・」
理解できないのなら、どこがどのように理解できないのかを質問できると良いのですが、どこがどのように理解できないかを説明するというのもかなり論理的な作業なので、そういうことも、またできない。
多くは、黙り込むか、わかったふりをするか、の二択となります。
上の二等辺三角形の子のように、非論理的ではあっても、私と議論を始める子は、後に飛躍的に伸びますが、黙るかわかったふりをする子も多いです。
その子は、わかったふりを始めました。

その子が理解した顔でうなずくので、私は、説明を先に進めました。
「CPとCQをそれぞれ1辺としてもつ、合同な2つの三角形を見つけようよ」
しばらく考えた後、その子が言ったのは、
「△APCと、△PBC」
でした。
「・・・いや、CPと、CQをそれぞれ1辺としてもっていないと、意味がないよね。△APCは、確かに、CPという辺があるけれど、△PBCは、CQという辺を持っていないよね?」
「・・・」
「△CPナントカと、△CQナントカ、というふうに考えるとわかりやすいよ。ちょっとマーカーで塗っていいかな?」
私は、ピンクのマーカーで線分CPを、水色のマーカーで線分CQを塗りました。
「このピンクの線分と水色の線分をそれぞれ1辺としてもつ、合同っぽく見える三角形を2つ発見しよう」
しばらく考えた後、その子が言ったのは、
「△CPBと、△CQA」
でした。
うーん・・・。

これは、多分、本人の目の癖のようなもので、△CPBは、「底辺」がテキストと水平で、その子の思う三角形らしい見た目のため、どうしてもそれに目がいってしまい、それを除外して考えることができなかったのだと思います。
優先すべきは、そういう見た目のことではない・・・。
しかし、数学の問題を解いていても、そういうことがまず優先されてしまう子もいるのです。

「問題文の中に仮定が書いてあるし、図にも、等しい印がつけられてあるよね?これから合同を証明するのだから、そういう等しい印の入っているところに注目するほうが、合同を証明しやすいんじゃないかな?」
「・・・」
しかし、沈黙の数分が経過しても、その子からは、2つの三角形について、ついに答はでませんでした。

なぜ、発見できないのでしょう?
1つの答を思いつくと、そのイメージで図が固定されて、他のことが見えなくなってしまうのだと思います。
つまり、頭が固い。
別の考え、というのをもつのが難しいのです。
上の図は、私の手書きですから、ちょっと見えにくいですが、実際はテキストに印刷されている図ですから、もっとはっきりと合同な三角形は見えているのです。
それでも、一度誤答すると、そこからのリカバーが、難しい・・・。

「・・・答を言いましょう。△CPAと、△CQAです。これなら、CPとCQは、対応する辺でしょう?」
「・・・ああ。そういうことか」
「ね?」

言われれば、わかる。
でも、自力では発見できない・・・。
こういう目の癖のようなものは、図形学習の障壁として立ちふさがります。

ともあれ、着目する2つの三角形が決定したので、そこからの証明はできるかなと尋ねると、やってみるということでした。
時間をかけて、その子は証明を書き上げました。
以下のような。

△CPA≡△CQAにおいて。
仮定より、
AP=AQ・・・①
AQ∥BC・・・②
CP=CQ・・・③
①、②、③より
1組の辺とその両端の角がそれぞれ等しいので、
△CPA≡△CQA


・・・これは何だろう?
「形骸化」という言葉が当てはまる答案を、以後もよく見ましたが、その典型でした。
証明の文体を一応真似ているけれど、証明とは何をどうすることか本質を理解していないことが、答案からありありと見てとれました。

まず、1行目。
まだ合同を証明していないのに、△CPA≡△CQAと書いてしまっていました。
これは、よく見るミスですが、その1行目を見た瞬間に、この子は「証明する」ということが本当はわかっていないのではないかと不安にかられます。
論理が理解できていない兆候なのではないかと、教える者は感じてしまうのです。
「二等辺三角形の底角は等しい」という定理と、「2角の等しい三角形は二等辺三角形である」という定理の違いが、理解できないのと同様に、仮定と結論の違いが理解できないのではないか?
単なる書き間違いともとれますが、本質が理解できていれば、その書き間違いはしないのです。

仮定より、
AP=AQ・・・①

ここは、正しいです。
しかし、次の、

AQ∥BC・・・②

は、このままでは、三角形の合同を示す要素にはなりません。
この仮定は使いますけれど、そのまま番号を振って事足りるというものではないのです。
では、どう使うのか?
それが、この問題で、もっとも難しいところです。

CP=CQ・・・③

・・・これは、結論です。
証明の途中で、もう言えることであるかのように使うことはできません。
それが最初から言えるのなら、証明の必要はないわけですから。
そうした論理性がその子の中に育っていない・・・。
問題文に書いてあれば、仮定も結論も区別なく使ってしまうのです。

①、②、③より
1組の辺とその両端の角がそれぞれ等しいので、

・・・これも、数学があまり得意ではない子によく見られる答案です。
そこまで書いたことと、三角形の合同条件が連動していないのです。
そこに因果関係があると理解していないのだと思います。
何かとりあえず3つ書いて、合同条件は3種類の中のどれかを勘で選んで書いておけば、正答になるんじゃないかなあと夢見ているような不可解な答案を書く子は、意外に多いです。

そうした点を正し、解説し、一応の理解を得たとして。
しかし、この先を自力で証明できるようになるまでには、さらに多くの課題があります。
証明は「仮定」と「共通」を根拠にすれば済むような基本問題ばかりではありません。
定理を活用して証明することも多いのです。
都立高校の入試問題は、多くの場合、そのレベルです。
自分が、都立高校の入試問題を解けるレベルに到達していないことに初めて気づいて、青ざめる。
ここはもう得点できないところなのだと諦める。
そんなことにならないよう、証明を学習する中2の頃から意識しておきたいところです。

証明は、定理を使えるようになってこそ、一人前です。
学習した定理をいつでも使える状態で頭に入れておく必要があります。
定期テストが終われば忘れてしまうという学習姿勢が、いかに非効率なものか、理解してほしいのです。
必要なことは、頭に入れておきましょう。
外付けの記憶媒体は、入試では使えないのです。

以下、模範解答です。

△APCと△AQCにおいて、
仮定より AP=AQ ・・・①
共通な辺だから AC=AC ・・・②
AB=BCより、二等辺三角形の底角は等しいから
∠PAC=∠BCA ・・・③
AQ∥BCより、平行線の錯角は等しいから、
∠BCA=∠QCA ・・・④
③、④より
∠PCA=∠QCA ・・・⑤
①、②、⑤より
2組の辺とその間の角がそれぞれ等しいから
△APC≡△AQC
合同な図形の対応する辺は等しいから
CP=CQ

このようになります。
①から⑤まで、助言し書き上げた上で、
「このうちのどの3つを使って、三角形の合同を言うのかな?」
と問いかけても、正しい選択をできない子も多いです。
やっぱり、何もわかっていないのだなあと、呆然としてしまいます。
証明ということがわかっていない。
論理ということがわかっていない・・・。

この先、何をやっても、無駄なのか?

いいえ、そんなことはありません。
都立入試は、このレベル。
それを理解した子に、このレベルの証明問題を繰り返し解いてもらい続けると、あるとき、覚醒します。
何がきっかけなのか、それは、その子によるのですが、ある日、何かが頭の中でつながるのです。
回線が通じます。
そうした例をたくさん見てきました。
必要なのは、適切な教材と助言。
そして、教える者も教わる者も、決して諦めないことです。




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