たまりば

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2021年02月10日

おうぎ形の弧の長さに関する問題と、割合の考え方。

おうぎ形の弧の長さに関する問題と、割合の考え方。

図形問題が苦手な中学生は多いです。
それは、中1の最初からそうです。
例えば、「空間図形」という単元で、空間の中での直線や平面の平行や垂直を把握する問題は、本人にイメージする力がないとかなり難しい場合もあります。
他人の作った動画を楽しみ、自らも動画を撮影して配信する世代であっても、頭の中で映像をイメージする力は弱い場合が多いのです。
空間の中での垂直や平行の位置取りに自由度が低く、平面的なイメージしか持てないのです。

しかし、これは、正しいイメージ、すなわち正解を繰り返し頭の中で再生するトレーニングをすれば、ある程度は解決します。
諦めずに練習することが大切です。

空間の中での垂直や平行の把握は、本質的である分だけ難解でもあります。
もっと得点しやすいところはないか。
図形の周の長さや面積を求める問題ならば、得点しやすいのでは?
そう思うのですが、それもなかなか難しい場合があります。

例えば、おうぎ形に関する問題です。
まずは、こんな問題。

問題 半径4㎝、中心角90度のおうぎ形の弧の長さを求めなさい。

「・・・わかりません」
ある年、生徒がこう言うので、びっくりしたことがあります。
「え?何がわからない?」
「・・・」
「え?」

めちゃめちゃ基本問題なんですけど?
小学校でも、学習していますよ?

何がわからないのか幾度も質問して、ようやく聴き取ってわかったのは、その子は、この種の問題で図が添えられていないものを解くのは初めてだったのでした。
問題文から具体的なおうぎ形をイメージしたことがなく、それが可能なことだという自覚がなかったのです。
問題文から自分で図をイメージするんだよと声をかけると、問題を読み直し、「あ」と声を上げていました。

その後、その子の次の質問にも衝撃を受けました。
「これ、学校でも、もう π(パイ)を使っていいんですか?」
「・・・はい?」
まだ、3.14を使わなければならない問題があると思っているのでした。
中学の先生は、塾で予習している子を嫌い、まだ学校ではπを習っていないのに勝手にπを使う子に目をつけたり、成績を下げたりするのではないか・・・。
そのような「忖度」を学んでしまっている子が現代の子には多いです。
そのとき、学校でも、随分前にπは学習していました。
本人が覚えていなかったのです。

そのようにして、多少のごたごたはありましたが、ようやくその子が立てた式は、
8π÷4
というものでした。

÷4・・・。
間違ってはいません。
しかし、これは、小学生の立てる式です。
幾分かの危惧を心の中に抱きながら、次の問題に進みました。

問題 半径5㎝、中心角135度のおうぎ形の弧の長さを求めなさい。

その子は、この問題は解けませんでした。
÷4という式を立てている子には、中心角がこの数値の問題は難しいのです。

おうぎ形の弧の長さを求める公式は、
ℓ=2πr× a/360
です。
r はおうぎ形の半径、a は中心角を表します。

中心角が90度のときに、÷4をするのは、わかる。
しかし、中心角が135度のときに、×135/360 をする意味は、わからない・・・。

今も、中学1年生の半数近くは、この公式の意味が本当はわからないまま、諦めて暗記して使っているのではないかと思うことがあります。
これは、割合の考え方を利用している公式だからです。

比べられる量=もとにする量×割合

中心角が135度ならば、弧の長さは、全円の135/360の長さになる。
だから、円周×135/360 をすればよい。
そのことが、実感として理解できないのです。
割合が苦手な子は、もとにする量に分数をかける理由が、中学生になってもわからないままであることが多いのです。

彼らの多くは、小学校の低学年の頃に、
「もとの数より小さい値を求めたいときは、わり算」
という、小学校ではそこそこ活用できるルールを身につけて、それで算数の文章題を解いてきています。
もとの数より小さい値を求めたいときにかけ算の式を立てることが、だから、できないのです。
おうぎ形の弧が、円よりも短いことは、見てわかる。
だから、わり算の式を立てたい。
中心角が90度ならば、÷4で処理できる。
しかし、中心角が135度の場合、どうしてよいのかわからない・・・。

1つには、小学校のカリキュラム上の問題があります。
5年生で「割合」を学ぶとき、使うのは分数ではなく、小数です。
割合の数値は、すべて小数に直して式を立てます。
分数のかけ算・わり算を5年生ではまだ学習していないからです。
6年生になって、分数のかけ算・わり算を学んだ後、「分数と割合」ということで学習し直しますが、応用的な内容と感じる子が多く、あまり定着せずに終わっていきます。
分数と割合についての感覚が鈍いまま、中学生になっています。

しかし、根本の問題は、単に小数か分数か、ということではないように思います。

彼らは、小5で学ぶ「割合」という単元で、かけ算とわり算を間違い続けたまま、中学生になっています。
もとの数より小さくしたいときは、わり算。
絶対にわり算。
その感覚が常に邪魔をし、正しい式を立てられず、「割合」の文章題を間違い続け、深い理解のないまま中学生になっています。

わり算の商が、もとの数より小さくなるのは、わる数が1より大きいときだけです。
それは、小学校の「小数のわり算」という単元で、学習しています。
1より小さい数でわれば、商はもとの数より大きくなります。
それは非常に重要なことなのですが、そのことの重要性を認識しないまま、やり過ごしてきたのです。
そういうことを面白いとも感じないし、興味も抱かなかったのでしょう。

算数好きな子にとって、そこは1つのツボです。
数って不思議だ。
数って面白い。
と感じるきっかけになることもあります。
わり算したのに、商が大きくなる。
なんでそうなるのだろう?
それを不思議に思い、その理由に気づく。
そのとき、その子の中に数理の体系が、また1つ立体的に形成されていくのです。

一方、そうしたことに全く興味をもたず、身につかない子も多いです。
算数にそもそも興味がなく、「やっつけ仕事」で問題をこなしてきた子もいるでしょう。
案外頭の回転は速いのですが、問題にじっくり真正面から向きあうことができず、問題文を読まずに済ます方法を編み出してしまう子たちです。
また、算数が苦手で、よくわからないので、わからなくても答を出せる「裏ワザ」に逃げてきた子もいるでしょう。
周囲の大人は一切教えていない「もとの数より小さい値を求めたいときは、わり算」という、自分が発見した「万能ルール」を中学まで持ち越してしまうのです。
小学校で数理の感覚を身につけることがなく、スカスカの基礎のまま、中学に進学してきます。

だから、彼らの立てる式は、中学生になっても、もとの数より小さい値を出したいときは、「わり算」です。
「割合」の考え方を用いる問題でも、比べられる量は、もとの数より小さくなるのだから、わり算の式を立ててしまいます。
例えば何かの数量を4分の1にしたいとき、分数を使うよう指示すると、÷1/4という式を立てます。
×1/4という式は、その子たちにとっては、実感としてあり得ないのです。
何が何でも、もとにする量より小さい値を求めたいときは、わり算なのです。

かけ算するのか、わり算するのかについて、それ以外の基準をもっていない。
計算の意味を理解していない。
数理の体系が、その子の中に、形成されていない。
算数・数学は、その子にとって全て「作業」であり、意味を伴っていないのです。

「割合」を学習したのは、小5の冬。
平面図形を学習するのは、中1の冬。
2年間、間違った式を立て続けた影響は大きく、修正しても修正しても、時間が経つと、また間違った認識が復活します。
結局、おうぎ形の公式の意味を実感することはないまま、公式の丸暗記と作業手順でこなしていくしかない子は多いです。

何かを4分の1にしたいときは、÷1/4ではなく、×1/4です。
何かを2倍したいときは、×2をします。
何かを1/4にしたいときも、×1/4です。
何かを135/360にしたいときは、×135/360です。

まず、このことを理解していないと、おうぎ形の弧の長さの公式の意味は理解できません。


公式の意味・・・。

しかし、小学校の算数から高校数学まで個別指導している私の実感から言えば、高校数学になれば、公式の意味を理解していない子はどんどん増えていきます。
意味がわかって公式を使っているのは中学の数学まで、という場合は多いです。
例えば、高校数Ⅱの三角関数の公式。
なぜその公式は正しいのか。
証明しなさい、と言われると絶句する子のほうが多いです。
必死に暗記して、やっと使っているのです。

先日、ネットで、2倍角の公式 sin2Θ=2sinΘcosΘ の覚え方として、「サインは錦織」というのを見つけました。
これは2倍角の公式だぞと強く念じたうえで、
サインの2倍角ならば、に・シ(サイン)・コリ(コサイン)と覚える、というのです。

・・・いや、しかし、2倍角の公式は、加法定理を使っているだけです。
sin2Θ=sin(Θ+Θ)=sinΘcosΘ+cosΘsinΘ=2sinΘcosΘ です。
だから、sin2Θというのをぼんやり眺めているだけで、2sinΘcosΘ が二重写しに見えてくるはず・・・。

そうも思うのですが、そもそも根拠となる加法定理の暗記も結構大変です。
それを活用するのもたどたどしい子はいます。
加法定理から復元していたら、1本の公式を作るのに5分、10分かかるかもしれない。
それでも復元できるだけまし、という場合もあると思うのです。

証明しろと言われたら、時間はかかるが根性でやってみせる。
公式の根拠が何であったかは、何となく把握している。
しかし、公式そのものは、丸暗記で使う。
それの何が悪いの?
そう問われたら、いや、悪くない、と思うのです。

三角関数の公式は、2倍角だけではありません。
3倍角も覚えておいたほうがいい。
半角の公式もある。
三角関数の合成は、座標平面を使って解くとして。
和積の公式と積和の公式は・・・。
暗記していなかったら、復元するのは無理ではないか?

高校の数学の先生が、
「自分はこんな公式、覚えていない。必要になったら、自分で作る」
とニヤニヤして言っていた。
生徒からそんな話を聞くことがあります。
いや、その「ニヤニヤして」は、生徒を小バカにしての笑いではないと思いますよ。
それが無理な場合もあるのはわかっているから自分の言っていることに自分で苦笑しているんですよ。
感情表現がわかりにくいんですよね、きっと。

ともあれ、高校数学の公式になったら、丸暗記して使うだけの子は多い。
ならば、中学の公式も、丸暗記して使うだけでも、仕方ないのではないか・・・?

実際、冒頭の中1の子も、中学数学の公式をそのまま使用するようになると、非常に定着が良いのでした。
円の面積の公式も、πr2という順番のまま、正確に式を立てるようになりました。
昔は、小学校で学習した円の面積の公式の記憶が強く残っている子が多く、πr2 という公式は公式として、実際に立てる式は、
半径×半径×π
だった子が多かったのですが、その子は、πr2という公式の順番のまま、立式するようになりました。
むしろ、意味がわかっていないから、公式の順番のままなのではないか?
小学校で学習した円の面積の公式を完全に忘れていて、中学で学習した文字を使った公式を新たに丸暗記しているだけなのではないか?
時間が経つと、これもすぐ忘れてしまうのではないか?
そんな不安もあったほどでした。

公式は丸暗記して使うだけ。

・・・いや、中1でそれは早過ぎないか?
見たままでわかるレベルの公式を意味もわからず丸暗記するよりも、意味がわかったほうがいいのではないか?

・・・かけ算・わり算の意味すら、本当には理解していないのかもしれないのに?
そこからの掘り返しに、どれだけの時間がかかるの?

・・・でも、それを教えるのが、私の仕事でしょうが。
諦めてどうするんですか。

そのように思い、教え続けて。
その子は、果たして、数学が理解できるようになったのか?

テストの得点は上がりました。
もとにする量×割合 の式を立てられるようになりました。
都立入試の出題形式にしぼっていえば、大問2の式による証明も、大問3の関数も全問正解できるようになりました。
大問4平面図形と大問5空間図形のそれぞれ最後の小問だけは解けない。
しかし、ケアレスミスがなければ、数学は90点取れる。
大丈夫、行ってらっしゃい。
そうやって送り出し、無事に都立高校に合格しました。

質問できる子であったことは、圧倒的な強みだったと思います。
「π を使っていいんですか?」
など、何だそれ、と思うようなことも、恐れず口にする子でした。
対話が可能でした。
対話が可能である限り、その子が、今、数学的にどのような状態であるかの判断が可能だったのです。
私からのアクセスも、だから可能でした。

都立高校合格とともに、塾は卒業。
高校数学が全くわからない、というSOSは、以後、受け取っていません。
大丈夫だったのかな。
大丈夫だと、いいな。
そんなふうに思います。
少しの不安も抱えながら。




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