たまりば

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2020年07月17日

アクティブラーニング時代の定期テスト。

アクティブラーニング時代の定期テスト。

さて、中学校の定期テストがそろそろ返却され始めていますが、予想通り、新傾向の問題に苦戦している様子が見られます。
中学の新学習指導要領施行は来年度からですが、既に移行期間に入り、昨年度あたりから、思考力や記述力を試す新傾向の問題が増えてきています。
さらにその傾向が目立ってきたのが今回のテストでしたが、作る側も解く側も、まだ不慣れで、多少疑問な点もあるのが実情です。

例えば、こんな問題。

問題 +5mが、海面から5m高いことを表しているとき、-5mは、海面からどのようであることを表すか。

正解 海面から5m低い。


これは、問題の大筋としては新傾向でも何でもないのですが、疑問だったのは、「5m低い」と書いただけでは、バツという採点基準だったこと。
△ではなく、バツでした。

勿論、「海面から」という基準を示すことは大切なことなのですが、それを必ず書くよう解答者に促すのなら、問題文の書き方がちょっと違うと思うのです。
「海面からどのようであることを表すか」と設問の中で既に「海面から」と書いてしまっている場合、解答はそれを省略してよいのです。
国語の記述問題では許容されていることです。
「海面から」と必ず生徒が書かねばならないように問題を作るならば、

問題 +5mが、海面から5m高いことを表しているとき、-5mは、何を表しているか。

とするべきです。
そうした問題文の作り方の基本が守られていないので、解答者に無理な要求をする結果となっています。
この場合、「5m低い」も正解とするべき案件です。

こういうのは、問題を作る数学の先生が、記述式の問題を作ることにまだ慣れていないことが原因のミスでしょう。
数学の先生も、国語の記述問題に多く触れて、記述式問題の作法を学んだほうがいいかもしれません。
大変な時代になりました。

入試などなら、「5m低い」と書いた人全員が正答とされるでしょう。



問題 (-15)-(-10) を、加法として計算する式に改めなさい。

これは、比較的わかりやすい問題と感じました。
(-15)-(-10)
=(-15)+(+10)

とすればよいのだとわかるのですが、ここでも採点基準に問題が生じました。

(-15)-(-10)
=-15+10

とした生徒は、バツ。
△ですらなく、バツ。
うーん・・・?

( )を外してはいけないなんて、問題に書いてないですよね?
だったら、別に、-15+10でも、十分に加法に直していますよね?
え?
このテストは、アルバイトが採点しているの?
だんだんと、不安になってきました。
結局、こういうことがあるから、大学入試共通テストで記述問題が出題されないことになったんです。
画一的な採点基準で採点すると、理解している子が得点できない変な結果になることがあるのです。

ただ、私がこの問題を解くのなら、
(-15)-(-10)
=(-15)+(+10)
という模範解答通りの答案を書くとは思います。
相手の出題意図がわかりますから、いやというほどその意図に沿って、「私は、わかってまーす」とアピールする答案を作成します。
そういう点では、私はあざといので。
しかし、実際にこれを解くのは中1ですから、そういうのはまだわからないと思います。
小学校のカラーテストしか経験したことのない子たちですから。


問題 -15+6-10+20 を、-15、+6、-10、+20とそれぞれを項と見て計算するのは、どのような良い点があるか。数学的な用語を用いて説明しなさい。

一番の難問はこれでした。
「え?どういうこと?」とペンが止まった子が大多数ではないかと思います。

模範解答は、こんな感じでしょう。

それぞれを項とし、この式を各項の加法と見るなら、
-15+6-10+20
は、交換法則を用いて、
=-15-10+6+20
となり、さらに、結合法則を用いて、
=(-15-10)+(+6+20)
=-25+26
と、同符号の計算を先に行うことで、
=1
と計算することができる。

「良い点」とはそれであり、使うべき数学用語は、「交換法則」と「結合法則」です。
数字と数字の間にある「+」「-」を、「たし算」「ひき算」の意味でとらえるのではなく、-15、-10、+6、+20と、個々の数についている+・-の符号であるととらえることは、算数から数学への大転換の根幹をなすことの1つです。
これによって、「ひき算」は存在しなくなり、各項の加法と見て計算するようになります。
加法なので、交換法則も結合法則も利用できます。
これは、とても重要なことです。

こういう出題は、しかし、中学生の立場からすると、どうなんだろうなあと思わないでもありません。

こういう記述問題が全く解けない子には、大きく2つのタイプがあると思います。
まずは、根本的に数学が苦手な子の場合です。

-15+6-10+20
=-15-10+6+20
と、交換法則を用いて項の順番を変えることは、そういう子が自ら発案することではありません。
普通の中学1年生は、まだ小学生の尻尾を引きずっていますから、ほおっておけば、
-15+6-10+20
=-9-10+20
=-19+20
=1
と、前から順番に計算してしまいます。
それを、
「同符号から先に計算しなさい。そのほうが楽でミスが少ないから」
と教え込んでいるのが実情です。
何度教えても、時間が経つとまた前から順番に計算してしまうので、さらに助言を繰り返し、何とか同符号から先に計算することを徹底させるだけでもひと仕事です。

なぜ、そこまで繰り返さないと、そんなことすら定着しないのか?
彼らは、同符号から先に計算することを、良いことだとは感じていないからだと思います。
同符号から先に計算しても、前から順番に計算しても、計算ミスをしてしまうのは同じことで、ちっとも楽でも正確でもないからです。
計算前に順番を変えるといった手間は、むしろ心の負担なのかもしれません。
何でも前から順番に計算するほうが、覚えることや判断することが少なくて頭が楽だ、と思っている可能性もあります。

「いや、同符号の計算なら絶対値のたし算になるでしょう?
たし算のほうが楽ですよ。
異符号の計算は、絶対値のひき算です。
ひき算って面倒くさいですよね。
ミスも多くなりますよ」
と、私が説得しても、あまり表情に変化が見られない子は多いです。
たし算でも、ひき算でも、計算ミスをしますから。
そもそも、計算自体が苦手なんですから。

それぞれを項と見て計算するのは、どのような良い点があるか?
・・・良い点なんて、別にない。
良いと思ったことなんてない。
ただ、そうしろと言われたから、そうしているだけ・・・。

そういう子たちが失点してしまうのは、仕方ないかなとも思うのです。


一方、-15、-10、+6、+20と、それぞれを項と見ていくことの本質を理解している子でも、こうした記述問題には答えられない子もいると思います。
問いかけが漠然としているので、何をどう答えていいのか、わからない。
良いとか悪いとか、そういう観点で数学の問題を見たことがない。
それぞれを項と見ていくことは、当然のことだと思う。
それは、良いとか悪いとか、そういう観点のことだろうか?
いったい、この問題は、何を答えさせたいのだろう?
自分は、何につきあわされているのだろう?
そんな感想の子がいても当然ですし、その子が数学が出来ないとは限らないのです。
今は苦労しても、高校数学で抜群の才能を発揮する可能性もあります。


なぜ、このような記述問題が出題されたのでしょうか。
前から順番に計算するよりも、各項の加法と見立て、同符号から先に計算するほうが良い件について、アクティブラーニングが行われたのではないか?
教室全体で、あるいはグループに分かれて話し合い、項と見立てて計算することの良さ、同符号から先に計算することの良さについて議論がされたのではないか?
それがあっての出題なのではないと想像されます。
わざわざ1時間なり2時間なりかけて話しあったことの意味を問う出題なのでしょう。
「それだけの授業時間をかけたことはテストに出る」
ということがあざとくピンとくる子ならば、この問題への備えはしたと思います。
しかし、子どもは、そんな判断はせず、もっとのほほんと授業を受けていることが多いです。

項と見て計算することの良さについて、テストに出します。

その一言があったほうが、初心者の生徒たちには良かったかもしれません。
記述問題を作る数学の先生も、それを解く生徒たちも、初めてのことで、まだまだ不慣れ。
それを補助する塾も、「何だこれ?」と毎回首をひねることが、まだしばらく続くと思います。
それでも、この試みが良い方向に向かいますように。
そう願わずにいられません。




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