たまりば

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2018年04月18日

自宅では勉強しない主義?

自宅では勉強しない主義?

数年前、高校3年生の女子生徒が、とにかく授業を増やしたい、空いているコマに全部入りたいと言い出したことがありました。
そのとき、コマは全て埋まっていましたので、そもそも無理な話ではあったのですが、違和感もあり、よくよく話を聞いてみると、『ビリギャル』に影響を受けてのこととわかり、さらに複雑な気持ちになってしまいました。

学年ビリのビリギャルが、偏差値30上昇して有名大学に合格した話。
そういえばそんなのがあったなあ、と思い出される方も多いと思います。
の舞台となった塾は、講師を何人も抱えている個別指導塾のようです。
システムの詳細はわかりませんが、自習ブースが沢山あり、そこで勉強して疑問点があると講師に質問したり、自習の前後に、あるいは途中に講師と学習内容を打ち合わせたり確認したりする様子です。
つきっきりの完全1対1の個別指導ではないようでした。
その自習が「授業」ということで、1コマあたりの授業料が設定されているのですが、年間200万円払うと通い放題なんだとか。
彼女は、その「通い放題」に憧れたようなのです。

「また、ビリギャルですか」
ため息をついた私に、彼女は言いました。
「ビリギャルはお母さんが200万円出してくれたんだよ。いいなあ。うちなんか・・・」
「あの本を読んだ最終的な感想が、それですか?」
「別に、それだけじゃないけどさ・・・。家だと勉強できないんだよ」

ビルギャルの本に影響を受けて、自分も頑張ればできるようになると思ってくれるのは良い影響です。
しかし、200万円で塾に通い放題なら自分も勉強ができるようになると思うようでは、がっかりしてしまいます。
200万円出してくれたお母さんは、良いお母さん。
あれは、そういう話なんでしょうか?

その子は、私の提示する英単語暗記1週間分を塾に来る30分前に慌ててやっていました。
当然、ほとんど暗記できず、
「無理だ」
を連発していました。
家で勉強できないなら、確かにそういう結果になるのです。
しかし、なぜ家で勉強できないのでしょう?


今年、高校3年生の女子生徒が、コマを20:00からのに変更したい、空いていないかと問いあわせてきました。
20:00からのコマは、部活のある中高生に人気の時間帯で、そのコマからほぼ埋まっていきますから、そのときは空いていませんでした。
それにしても、高校3年生ならもう部活もないので、むしろ夕方明るいうちのコマに変更しても良いと思うし、今までの高校3年生はその方向で時間帯を変更することが多かったのです。
なぜ夜遅くのコマに変更したいのかと問うと、学校が8時まで自習可能なので、できるだけ学校に残って自習し、その後で塾のほうが都合が良いというのでした。

学校が夜8時まで自習可能・・・・。
生徒がそんな時間まで学校に残っているということは、学校の先生たちもそんな時間まで残っているということ。
学校の先生たちの労働条件はどうなっているのだろうと心配になってしまうのですが、それはともかく、ここでも、自分の家で勉強できず外で勉強する今の高校生の一端が見えたような気がしました。
そういえば、「自分の部屋では勉強するな」とアドバイスをしている受験マンガもあります。

図書館などに行って勉強する習慣というのは、私が高校生の頃からありましたから、そのこと自体は特別新しいことではありません。
私も気分を変えて図書館に行くことはありましたが、そうやって外で勉強するのはイベント感が強く、たまにやることで、普段は自分の部屋で勉強していました。
中学生くらいまではリビングで勉強したりもしましたが、高校生になると、自室で集中したい。
正直、私は自分の部屋で勉強するのが一番集中できます。
外で勉強するのは、どうしても時間が限定されますし。
自分の部屋で集中できるなら、時間は無尽蔵です。
受験のために毎日5時間勉強するのだとしたら、学校の図書室や自習室で2時間プラス自分の部屋で3時間くらいが良いバランスと感じます。
自分の部屋では勉強できないとなると、学習時間の総量がどうしても減ってしまう懸念があります。
外だけで毎日5時間は確保しづらいです。
それに、自分の部屋はいろいろと便利です。
わからない問題があったとき、これはあの参考書に類題が載っていた気がすると、すぐに手を伸ばして調べられます。
自分の部屋以外で勉強するときは、手元には持ち運べる分の勉強道具しかありません。
重い辞書の変わりに電子辞書を使うようになったりと、勉強道具はかなり軽量化されたけれど、良い参考書は今も重いし、使う参考書は1冊ではありません。
自室は誘惑が多いとはいうけれど、誘惑にそんなに毎度毎度負けないでしょう?
目標があるとき、人間は、そんなに負けないです。

とはいえ、そういう精神論で済む話でもないのでしょう。
どうも、近年の高校生は自室では勉強に集中できないらしいのです。
どういうことだろう?

それで思い出したことがあります。
数年前、高校生の男子生徒に授業をしていたときのこと。
定期テスト直前の授業だったのですが、英語のテスト範囲をその子は把握していませんでした。
人なつっこい性格で、学校でも人気のある子だろうと想像されましたし、数学は抜群にできたのですが、そういう雑なところもある子でした。
テスト範囲がわからない?
どうするの?
と問いかけると、その子は、ちょっと待ってと言って、メールを打ち始めました。
そして数分後、テスト範囲の詳細を記した返信が届いたのです。
ともかくテスト範囲がわかったので、その範囲の勉強を始めました。
「コミュニケーション英語」の本文の和訳で、学校の先生はここをどう訳していたの?と私が問いかけると。
その子はまたメールを送り、数分して、該当部分の授業ノートを撮影した画像が届きました。
女の子のきれいな文字で記されたノートでした。
こうしたことが日常で行われているのだとしたら、これは・・・。

テスト前ですから、その女の子も勉強していたでしょう。
それでも、その男子生徒からのメールに最優先で応じていました。
その時間、彼女は自分の勉強を放棄しています。
これは、ちょっと問題だぞ・・・。
そういうことはやめなさいと注意し、以後、私の前でそれをすることはなかったのですが、何が問題であるのか、その男子は問題の根本を理解したかどうか・・・。
「えー?邪魔なら、無視すればいいじゃん」
要求するほうは、その程度の気軽さなのです。

そのことと考えあわせると、例の「200万円通い放題」をうらやましがる女の子から、そういえば以前こんな話を聞いたことがあったのも思い出しました。
毎朝、Twitterで「おはよう」とフォロワー全員に挨拶するのに20分かかるというのです。
Twitterって、朝の挨拶が必要なツールでしたっけ?
インターネットの利用の仕方は、世代によって全く異なります。
身近な友人や知り合いよりも、顔も名前も知らないネット上のつながりのほうが優しくて切実で他に変え難いところもあると、わからないわけでもないのです。
でも、それは幻想でもあります。
青い鳥の寓話を待つまでもなく、幸せは身近なところにあるよ。
本当にあなたを心配している人は、あなたの近くにいるよ。
そのことも含めて、ネットにのめり込む子は心配になります。
しかも、その子がやっているのはTwitterだけではありませんでした。
LineはLineで、現実の顔見知りと、もっと頻繁な、ほぼ1日中のコミュニケーションが必要とのこと。
つまり、1日中、スマホに触わっているのが日常なのでした。
塾での授業中も、机の上にスマホを置き、返信まではしないものの、誰かから連絡が入る度に確認することはやめられない様子でした。

本人にも自覚はあり、勉強に集中するためにTwitterはやめるLineをやめるとアカウントを消すのですが、ひと月も経つと復活しているのでした。
一種の依存症だったのかもしれません。
スマホの習慣性の怖さ、それで失われる時間の長さについては近年よく言われるようになりましたが、他人事でなく、ごく身近に迫っている課題となっています。
顔も名前も知らないTwitterのフォロワーに朝の挨拶をするのに毎日失われる20分。
それは、本当に必要な人間関係なのだろうか・・・・。
それが必要な人もいると思います。
世界とのつながりがそれしかない人もいるでしょう。
それが命綱の人もいると思います。
大切な人間関係かもしれません。
しかし、彼女は果たしてそうなのだろうか・・・。

スマホのことをあわせて考えてみると、高校生が自分の部屋で集中して勉強できないのは、つい勉強以外のことをしてしまうというだけのことではなさそうです。
何より、スマホが集中の妨げになっているのかもしれません。

勉強を始める。
数分で友達からLineに連絡が入る。
スマホを手に持つ。
友達に返信する。
それだけでは済まず、つい、Twitterやインスタグラムなどひと通り見て回る。
勉強しなくちゃと思い、再び勉強をする。
友達からLineに連絡が入る。
その返信をする。
つい、Twitterやインスタグラムをひと通り見て回る。
あまり時間が経っていないので大きな変化はない。
物足りないので、ついでに動画を見てしまったり、ゲームをしたり。
ひと通りやって、勉強しなくちゃと思い、再び勉強をする。
友達からLineに連絡が入る・・・。
この無限ループにはまって、自分の部屋では勉強できなくなっている高校生はいないでしょうか?
いや、これは大人もそうかも・・・。

学校の自習室や塾の最大の利点は、そこがスマホ禁止だからでしょうか。
スマホの電源を切り連絡を絶つ大義名分があるから。
人間関係を壊さずにスマホから離れることが可能です。
実際、テスト前の貴重な時間に、テスト範囲がどうのノートがどうのと問い合わせを受け続けて自分の勉強ができない、お人好しで真面目な女の子は、スマホから避難せざるを得ない状況があると思います。
問い合わせではなくても「勉強してる?」といったどうでもいいLineの会話にもつきあわなければならないでしょう。
勉強しているのにいちいち集中を削がれる。
これはかなり問題です。

賢い子は、そのあたりも上手にさばいているかもしれません。
でも、上手くさばけない子も、いるでしょう。

それを早めに察した保護者の方は、高校生にもスマホは与えず、インターネットに接続できない設定にしたガラケーしか持たせない場合も目にするようになりました。
インターネットは、タブレットやパソコンを親の管理下で使用。
自室には持ち込ませない。

親の独断でそれを行うと反発される場合も多いでしょうが、お人好しの高校生で、友達に何かと重宝され、見方によれば善意を「搾取」されている子は、もしかしたら、自分からは言い出せないだけで、スマホを手放すことを望んでいるかもしれません。
「親に取り上げられた」
と友達に言い訳できるのなら、むしろそのほうがいい。
そのほうが自宅での自分の時間を有効に使えます。

一方、人間関係はそれで大丈夫なのか、不安もあります。
1日中Lineでつながっているというのは、凄まじい相互依存です。
それは、相手への依存なのかスマホへの依存なのか、既に判然としませんが、一方的に断ち切った場合、その後の人間関係に影響しないわけがありません。
高校3年生になって、既にこの人間関係はあと1年。
お互い、自分の進路のことで頭がいっぱいで、つまらないゴタゴタには関心が薄くなっている。
人間関係が切れたら切れたで、それまでのこと。
そう思いきれる時期でないと難しい決断かもしれません。

スマホを長時間使用する子の成績は全体に低く、スマホの使用をやめればそうした子の成績は上がっていくという調査結果も出ています。
スマホのせいで睡眠不足になるといった要因よりも、学習時間の質がスマホのせいで悪化しているのが何より大きいというのです。
スマホがある限り集中して勉強できないのですから、それも自然なこと。
塾などのために夜は音信不通になるのが常態の子のほうが、依存症になりにくいと言えるかもしれません。

とはいえ、便利なはずなのに、生きにくい時代になったものです・・・。




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