たまりば

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2016年01月22日

頭の良さと学力。

頭の良さと学力。


少し前、このブログを訪問してくださった方の検索キーワードを見ていたら、
「自分より頭が悪い 成績がいい」
という検索ワードが1件入っていました。
そういうことを疑問に感じている人がいる。
そして、そのワードで私のブログがヒットする。
両方に驚きました。
それに関することは繰り返し書いてきたのですが、そんなに露骨な表現はしなかったように思うのです。

もう何年も前のことですが、こんなエピソードをここに書いたことがあります。
もう一度、以下に書いておきます。

1960年にノーベル物理学賞を受賞したドン・グレイザーという人がいます。
この人は、小学3年生のときに、学習障害児の施設に移るべきであると学校から助言されました。
簡単な足し算すらできなかったからです。
しかし、ドンの両親は断固として譲りませんでした。
そして、普通学級のまま4年生に進級すると、ドンは、わり算の筆算において誰よりも優れた能力を示しました。
ドンは、後に語りました。
低学年のバカげた明白な問題のどれにも、自分はわざわざ答える気になれなかったのだと。
わり算の筆算は、少し難しく、答えは明らかではなく、過程が魅力的だった。
だから、ドンは、解き始めたのです。

昔、私が個別指導した子にも、これに少し似たエピソードがありました。
入会時に、その子は学習障害のグレイゾーンであると、講師である私にも知らされていました。
しかし、実際に教えてみると、何がどう学習障害なのかわかりません。
その子よりも学習において困難を抱えている子をたくさん教えてきたからです。
その子は、秀才とは言わないけれど、普通の学力の子でした。
説明を少しゆっくりしてあげる必要があるかな、という程度です。
宿題等を真面目にこなしてきますので、成績は順調に上昇していきました。

その子がある日、問題を解きながら、世間話のように話し始めました。
「小学校4年生のとき、勉強って大切なんだと気がついて、泣いたんだ」
「・・・・え?」
「何か突然、ああ勉強ってしなくちゃいけないんだと気がついて、大泣きした。それまでは、勉強なんかどうでもいい、やらなくていいんだと思っていたんだけど」
「・・・・・あの、あなたのことで、多分お母さんからの話として聞いたことがあるんだけど、低学年の頃、授業を座って受けることができず、すぐ立ち歩いたり、教室を脱走したりしていたというのは・・・・」
「ああ、うん。だって勉強なんかどうでもいいんだから、座っている必要ないと思っていたんだ」
「え・・・・?」

私は医者でもないし、障害児教育の専門家でもないので、こういうことの判断は難しいのですが、あの子は本当にグレイゾーンだったのかなあと今でも懐疑的です。
子どもは、大人がびっくりするような判断を勝手にしていることがあるのかもしれません。
将来に関わることを、幼い頃に勝手に判断してしまうのです。

勉強をする必要がないなんて、そんな思い込みをしてしまうところが、やはり「定型の子」とは違うんじゃないんですかと言われると、まあそうかもしれないのですが、でも、問題にされないだけで、そういう判断はどんな子でもしている可能性があります。

比較的頭がいいと思われている子の判断も、大人から見ると恐ろしいものであることが多いです。
小学校低学年の算数は、頭の回転の速い子にとっては、考える必要もないようなレベルです。
今は足し算を勉強しているんだから、文章題は、出てくる数字を足した式を書けばいいだけ。
今はわり算を勉強しているんだから、文章題は、大きい数を小さい数で割る式を書けばいいだけ。
そういう判断をしている子は、多いです。
別に文章が読めないわけでも理解できないわけでもなく、ただ面倒くさいし、どうせそうだから、そのように処理してしまう。
そういうショートカットが常態になってしまいます。

ところが、高学年になると、そうではない単元が出てきます。
単位あたり量の問題がまずそうです。
例えば、こんな問題。
0.3Lで600円のペンキがあります。1.7Lでは値段はいくらになりますか。
ぱっと見たときに、かけ算なのかわり算なのか、わからない。
こういう問題から、文章題が全く解けなくなる子が現れます。
「考えなさい。考えたらわかるから」
と言っても、もう何年も考えることというのは「今は何の単元をやっているか」とか、「大きい数と小さい数を見つけて割る」とか、そんなことばかりでしたから、算数の問題を「考える」とは何をどうすることかわからないのです。
なまじ「頭がいい」から誰にも教わらなくても自然と身につけてしまったショートカットが、以後、永遠に本人を苦しめる可能性があります。
その後の「割合の問題」も「速さの問題」も、小数や分数が数値に含まれることもあって、見た目で判断できなくなります。
かけるのか、割るのか?
どれとどれをかけるのか、割るのか?
今まで文章を読んで関係をつかんで式を立てるということをしてこなかったので、その判断ができせん。
思考をショートカットすることに気づかなかった不器用なタイプの子に、学力で抜かれていきます。

これは「頭のいい子」だけの話ではありません。
「頭がいい」という形容からは無縁だったと想像される、勉強が苦手な子も、こういうショートカットを身につけていることがあります。
例えば、三角形の合同の証明問題の宿題を、何か一応形のついた答案として解いてきます。
理解しているのかなあと思うと、しかし、合同条件のどれを使うかで、かなりの確率で間違えてしまいます。
ここまで証明を書けるのなら、最後のそんな判断は簡単なのに、と不思議に思っていたのですか、あるとき気がつきました。
いつも、問題集の同じページの例題と同じ合同条件を使っているのです。
では例題の丸写しなのかというと、記号は問題に合わせて変えています。
うまく例題を利用する技術はむしろ高度です。
しかし、内容を理解しているかというと、残念ですが全く理解していない可能性のほうが高い。
そこまで面倒くさい模倣をするくらいなら、むしろ、真正面から理解したほうが楽だよ。
そう呼びかけても、では、真正面から理解するとは何をどうすることなのか、よくわからないようなのです。
何を説明しても、慌てて理解したふりをします。
しかし、こんな緻密な模倣ができる人を「頭が悪い」とは呼べません。
頭の使い方を間違えているだけなのです。
これは根深い。

でも、そこに光を感じてもいます。
少なくとも、そういう頭の使い方ができる。
ならば、違う頭の使い方もきっとできるようになる。

考えるということは、目に見えません。
教えることが極めて難しいことの1つです。
「自分より頭の悪い」子に、成績で負けているのだとしたら。
あなたは、考えることを学びそこねているのではないですか?
勉強することの意味が理解できていないことも含め。
努力ができないことも含め。
あなたは、考えることの大切さや面白さがわかっていないのではないですか?
もう一度同じ検索をかけてくれたなら、これが、私の1つの答えです。




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    Posted by セギ at 16:29│Comments(0)講師日記
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