たまりば

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2020年04月17日

伝わる人には伝わり過ぎて。


もう15年も前のことになります。
その頃、私は大手の個別指導塾で働いていました。
当時の私立は、高校から生徒を入学させるところもまだ多く、その塾は、私立高校が第一志望の子も沢山在籍していました。
今と同じく、私立高校は2月中旬には入試が終わります。
しかし、中3の学年末テストは、都立の入試が終わった、さらにその後です。

すると、どういうことが起こったか?
私立高校に合格した子たちが、
「学年末テストのテスト対策をしてください」
と個別指導塾にやってくるのでした。

中3の学年末テストのテスト対策・・・?
テスト範囲が、2学期の期末テスト後の学習内容から今学習しているところまでと狭いならば対策もありますが、中学3年間の総復習、という広すぎる範囲のことが多いのです。
受験勉強の成果そのままに、実力で受けたらよいテストでした。
「いや・・・。それ、必要かなあ?」
そのように言うと、対策をしてほしい子たちは、異口同音に言いました。
「学校の先生が、3学期の成績を高校に送ることになっていると言っている。だから、対策をしてください」
「・・・・・」

そんなのは、嘘なのでした。
高校の先生の立場に立ってみたらわかります。
入試で、もう合格・不合格を決めたのです。
その後、中3の3学期の成績を中学校から送りつけられても、迷惑なだけです。
そんなデータに何の意味があるの?
その成績を見て、どうしろと?
成績が悪かった生徒を不合格にしろとでも?
そんなこと、できるわけがありません。
クラス分けなどの資料にする?
内申と入試得点という良いデータがもう揃っているのに?

また、中学にしても、生徒の進学先別に振り分けて3学期の成績を送るなどという煩瑣な事務作業を、卒業式の準備などで忙しい時期に、誰がやるんでしょう?
できるわけがないのです。
そのデータに意味があるなら、どんなに忙しくてもやるでしょうが、どこからどう考えても無意味なのです。

例えば、高校合格後、警察に補導された。
そのような事実が高校に知られたら、合格取り消しもあり得るかもしれません。
しかし、3学期の成績が悪いくらいのことで、合格取り消しなどありません。
高校側にそんな無意味なデータを送ることもあり得ません。

では、なぜ、その当時、多くの中学の先生たちが異口同音に中3の生徒たちにそのような脅しをかけたのか?
「3学期の成績を高校に送ることになっている」
と、ありもしないことを口にしたのか?
それは、高校に合格すればこっちのものと学年末テストを真面目に受けず白紙答案を出したり、学校を欠席してどこかに遊びに行ったり、ふざけて授業妨害をする生徒が存在したからでしょう。
先生たちにとっては、80年代の荒れた中学校の記憶がまだ生々しく残っていた時期だったのかもしれません。
そこまで表立った反抗はしなくても、高校に合格して以後は、それまで内申を気にして小さくなっていた分を取り返すかのように態度の悪くなる生徒がいたとも推測できます。
そういう子たちの手綱を何とか放さず、無事に卒業させなくてはなりません。
嘘の脅しでも何でもして、とにかく中学を卒業するまで、穏当に勉強し、穏当に生活していってほしい。
そういう意味で、私は、中学の先生たちの嘘を責める気持ちにはなりませんでした。

「学年末テストの対策をしてほしい」と塾にやってくる子は、毎年存在しました。
そのような子たちには、共通点がありました。
とにかく生真面目です。
良い子なのです。
学年末テストの範囲が「中学の総復習」の場合、範囲が広すぎてポイントをしぼった勉強はできません。
結果、今までの定期テストよりも20点ほど得点が下がってしまったりすると、私にそのテストを見せて涙目になっていました。

私は、その子に語りかけました。
大丈夫。
3学期の成績なんて高校に送られませんよ。
それは、先生たちが、行動が心配な子たちを牽制するために言ったのです。
あなたは、そんな脅しを受けなくても、学年末テストで手を抜いたりしないのにね。
中学の良い思い出をかみしめて、先生方に感謝して卒業していくのにね・・・。

一方、中学の先生たちが嘘をついてでも言動を抑え込みたかった子たちは、脅しが効くどころか、そもそも先生の話なんか聞いてもいなかった子も多かったのではないでしょうか。
とりあえず、入試が終わった直後の学年末テストの勉強なんか、絶対にしなかったでしょう。
いや、それはしなくても良かったのですが。

脅しをかけたい相手は、脅しの言葉など真に受けない。
一方、脅しをかける必要などない生真面目な子たちが、脅しの言葉を過剰に受け止め、必要以上に怯えてしまう・・・。


この頃の世情をかいま見るとき、こんな15年前のことを思い出しています。


行動変容、という言葉を考えています。

このブログの過去ページにもそのまま載せてありますが、3月上旬の私は、衛生面への配慮は今見ても大丈夫なものだったと思うものの、「4月になったら山に行ってみようか」と、やはりどこか気楽なことを書いています。
これほどのことになると予想していなかったのは、私も同じです。
山なんて、もう当分行けないでしょう。
高尾山の登山口には、登山自粛を呼びかける掲示がかかっているそうです。


うちは個人でやっている完全1対1の個別指導で、いわば「会いに行ける家庭教師」ですから、「3密」の1密もありません。
規模が小さ過ぎて、休業要請の対象でもありません。
逆に言えば、勝手に自粛しても、支援金はもらえません。
自力で何とかやっていかなければ。
一方、万が一これで感染者が出たら塾は終わります。
全ての意味で。
決して失敗できない闘いの中にいると感じています。
リスクは極めて低いと判断してのことであり、無謀な闘いではありません。
繰り返す除菌と手洗いと換気。
それが生徒を守り、塾を守り、私を守ります。

営業する以上、最大限の注意を払っています。
そんな中、大きめの長机の対角線上に私と生徒が位置して授業をしている際、私が端によけて距離を取ろうとすればするほど、生徒は、空いた机のスペースの真ん中をのびのび使うという事態が発生しました。

以前は、私が生徒のノートを覗き込もうと近づけば近づくほど、生徒のほうがどんどん端に逃げていき、最終的に2人で机の端っこで向かい合い、
「これ、バカバカしいと思いませんか?なぜ、2人でこんな隅っこに寄っているの?」
と諭す、ということも起こりがちだったのです。

ところが、距離を保とうと私が端に引っ込むと、生徒はのびのびと机の真ん中にノートやテキストを開き始めたのです。
あんなに端に寄りたがっていた子が。
ノートを机の隅に押しやって書いていた子が。
しかも、ノートがその子の左手、テキストが右手って、それ、位置が逆でしょう?
その分だけ、身体が机の中央にきていますよ?
なぜにそれほど机の真ん中を使いたいの?
押さば引け、引かば押せ?
・・・柔道?
柔道なの?

これでは、ソーシャル・ディスタンスを保てない。
そんなわけで、私と生徒との間に机を2つ置くことにしました。
つまり、私と生徒との間を長机2つで隔て、さらに、生徒側には「それ以上は中央に寄ってはいけない」という印の椅子をもう1つおいてブロックしています。
ブロックのための椅子をどけて、机の真ん中に移動しようとする子には、
「ダメです。自分の椅子を端にさらに10cm移動してください。ソーシャル・ディスタンスを保ちましょう」
と、さらに端に寄ることを要求すると、ようやく事の次第を理解してくれる子もいます。

ソーシャル・ディスタンスは2m。
しかし、子どものパーソナル・スペースは、半径30cmから50cm程度なのでしょう。
私がそれ以上近づくと遠ざかっていた子も、50cmの距離が保たれるなら、机の中央によってくる。
勉強に夢中になると、距離なんかその程度で良くなってしまうのが子どもです。
「おしゃべりに夢中」や「遊びに夢中」のときは、もっと寄ってしまうでしょう。
これでは、学校再開は当分無理だと感じます。


私個人の話に戻れば、もう20年も続けていたスポーツジムも、先日退会しました。
3月からエアロビクスクラスがなくなっていたので、休会手続きをとっていました。
4月第1週に、1クラス限定30名で再開していましたが、たとえ30名でも、その呼気と汗と密室であることなどを考えると、行く気にはなれませんでした。
そして、1週間後、そのジムは休業に入りました。
3月分も4月分も、使用料は5月分・6月分に先送りにするという話はそれで良いけれど、では、いつ再開できるのか?
再開したとして、私は30名参加のエアロビクスに参加するのか?
そんな無責任なことが、できるのか?
私が感染したら、どこまで広がるかわからないのに。
これは、退会以外の選択肢がありませんでした。
20年通い続けたジムでしたが。
コロナが収束したら、また通う?
その頃、もうジムはなくなっているかもしれません。
好きなインストラクターは、仕事を続けられず辞めてしまっているかもしれません。
それくらいのことだよ?
それでもいいの?
そう自問し、でも仕方ないと決断しました。
その決断は、全て我が身に跳ね返ることでもあると自覚しながら。


遊びに出かけられないからと、スーパーや商店街に家族で出かけ、人口密度を高めてしまう人たち。
買い物は1人で行くのが、お互いのためです。
ドライブならば大丈夫だろうと、観光地に車で出かけ、途中でトイレに行きたくなって、無防備にトイレの行列に並んでしまう人たち。
混雑している観光地で飲食してしまう人たち。
コロナのないところに行きたいと、ウィルスをその地に持ち込んでしまう人たち。
それをやったら何が起こるか、一歩先を考えたら、変えられる行動があると思います。

その一方で、家から一歩も出られなくなってしまう人もいます。

行動変容が必要な人たちには届かず、もう必要のない人がさらに生真面目に怯えてしまう・・・。
生真面目な人たちは、テレビやネットから少し距離をとったほうがいいかもしれません。
根拠の不確かな話に怯えてしまうだけです。
「3学期の成績を高校に送ることになっている」みたいな話は、いい加減なことをやっている人たちに向けてのもので、生真面目な人たちに向けてのものではないのです。


さらには、そもそも、これ以上の行動変容などできるはずもなく、全てわかったうえで、生活のために今まで通りの行動を続けている人たちも大勢います。
大げさに言えば命がけの注意を払って、日々を生きている人も多いはずです。
電車がどんなに怖くても、電車に乗って出勤しないわけにはいかない人のほうが、まだ大多数です。

わかっていることは、これはゴールデンウイークで終わるような種類のものではないということ。
5月も6月も、この状態はおそらく続くのだということ。

  


  • Posted by セギ at 13:32Comments(0)講師日記