たまりば

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2019年09月22日

高校数Ⅱ「式と証明」。不等式の証明その4。絶対値を含む不等式。


今回は、「絶対値を含む不等式の証明」の学習です。
「絶対値」という言葉は、中学1年生の「正負の数」で学びます。
数学学習の初期の初期に出てきます。
絶対値の定義は、「数直線上での原点からの距離」です。
だから、+3も-3も絶対値は3です。
したがって、絶対値とはその数の符号を外した数、すなわち正の数ととらえることが可能です。

ここまでならシンプルな話なのですが、絶対値に文字がからむと途端にわかりにくくなるようです。
例えば、高校数Ⅰで学習する以下の内容。

|a|≧a
|a|≧-a
|a||b|=|ab|
|a+b|2=a2+2ab+b2

パッと見て、「そりゃそうだ。当たり前だ」と感じる人と、「え?え?何?」と焦る人とがいます。
1つには、文字が正負の記号を含みこんでいることを理解しきれていないせいかもしれません。
aという文字は、a≧0の可能性とa<0の可能性とがあります。
そう説明されれば、「それは知っている。わかっている」と言うのですが、上のような等式・不等式を見るときに、いつの間にか、
aは正の数。
-aが負の数。
という認識になっていないでしょうか?

「aという文字が何なのか決まっていないのに、何で大小が言えるんですか?」
不等式の学習がここまで進んでから、突然そう質問されて、その質問がどういう意図のものかわからず、困惑したこともあります。
「不等式の証明」の学習の始まりには、そういう疑問はもたない様子で、それなりに解いていたのです。
しかし、絶対値を含む不等式になると、その質問が口をついて出てしまったようです。

絶対値がわからないのか?
最初から不等式がわからなかったのか?
aという文字の正負がわからないのなら、左辺と右辺のどちらが大きいかはそのときによるんじゃないか?
急にそう感じるようになった、ということなのでしょうか。

とりあえず、まず、上の不等式を1つ1つ見ていきましょう。
|a|≧a
これは、まずはaの正負によって場合分けして考えると理解できると思います。
a≧0 のときは、|a|=a です。
a<0 のときは、|a|は正の数、a自体は負の数ですから、|a|>a です。
それらをまとめると、
|a|≧a
となります。
≧ というのは、>であるか、または=であるか、ということですから、どちらかになれば良いのです。

|a|≧-a
これも、まずはaの正負によって場合分けして考えます。
a>0 のとき、|a|は正の数で、-aは負の数ですから、|a|>-a が成立します。
a=0 のとき、|a|=0、そして、-a=0 ですから、|a|=-aです。
a<0 のとき、|a|は正の数、-aも正の数ですから、|a|=-aです。
それらをまとめると、
|a|≧-a は、aの正負に関わらず、必ず成立します。

|a||b|=|ab|
これは、比較的理解しやすいかもしれません。
a、bの正負に関係なく、|a||b|は正の数です。
|ab|も正の数です。
よって、
|a||b|=|ab|
は、常に成立します。

|a+b|2=a2+2ab+b2
もしかしたら、これが一番理解しにくいかもしれません。
|a+b|2 が正の数であることには疑問の余地はないと思います。
問題は右辺でしょうか。
a2+2ab+b2
これが負の数の可能性があるように感じるので、たとえ絶対値が等しくても、等式は成立しないのではないか、と感じることがあるようです。
しかし、この右辺は、因数分解できます。
a2+2ab+b2=(a+b)2
a+bが正の数であっても負の数であっても、(a+b)2は正の数です。
よって、左辺も右辺も正の数で、もともと絶対値が等しいことは見ればわかりますから、
|a+b|2=a2+2ab+b2
が言えるのです。

ちなみに、上の記述は、感覚的に納得するための説明であって、証明ではありません。
証明は、もう少し細かい定義が必要となります。

これで感覚的に納得してもらえたはずだ・・・、と思っても、納得した顔をしない高校生もいます。
何か騙された気がすると言うのです。
詐欺にあったような顔をしています。
では、どこが疑問なのかと問い返すと、それはどこかはわからないけれど、何となく納得できない・・・という曖昧な答えが返ってきます。
場合分けして説明されることに、そもそも懐疑を示す人もいます。
その場合分けが全てではないような気がするというのです。
そうでない場合もあるのに、そこで騙された気がする・・・。
どこで騙されたとは指摘できないけれど、きっと騙されている・・・。

そんなにも疑い深い一方、ネットに書いてある根拠のないことや、テレビで有名人がわかったふうに喋っていることをたやすく信じてしまうのは、なぜなのでしょう。
友達から聞いた噂話を鵜呑みにしてしまうこともありますよね。
そういうことを簡単に信じないために、数学を学ぶという側面もあります。
信じるべきことと疑いを抱くべきことを自分で判断するために、「論理」を学ぶのです。
数学は、論理を学ぶことができる学問です。

ともあれ、疑いが消えないならば、そうではない例、すなわち反例を自分であれこれと考えたみたら良いと思います。
aやbを正の数にしたり、負の数にしたり、色々な組合せで考えて、実際に計算してみて、納得できるまで上の等式・不等式が成立することを確認してみてください。
それをしてみることで、正負の数に関する自分の認知の歪みに気がつくこともあると思います。
中学1年で突然習った「負の数」というものの本質をつかみきれないまま、計算のやり方だけ暗記して済ませてきたことが尾を引いているのかもしれません。
この機会に歪みを正すことができたら、この先の学習が楽になります。


さて、それでは、数Ⅱの実際の問題にあたってみましょう。

問題 |a|+|b|≧|a+b|を証明せよ。

え?
|a|+|b|=|a+b|じゃないの?
いつも等しいんじゃないの?
という錯誤が生まれてしまうことがあるかと思いますが、それは、やはり気がつくとaやbは正の数だと決めつけていることからくる錯覚です。
実際には、aやbは正の数のこともあれば負の数のこともあり、0のこともあります。
そのどの場合でも、上の不等式は成立します。
それを証明しろと言われているのですね。
不等式の証明は、左辺・右辺の両辺が正の数であることが確実ならば、2乗したもの同士で比較しても大丈夫でした。
すなわち、(左辺)2-(右辺)2≧0 ならば、(左辺)≧(右辺) です。
ここで活躍するのが、上の|a+b|2=a2+2ab+b2 などの基本ルールです。

(左辺)2-(右辺)2
=(|a|+|b|)2-|a+b|2
=|a|2+2|a||b|+|b|2-(a2+2ab+b2)
=a2+2|ab|+b2-a2-2ab-b2
=2|ab|-2ab≧0

最後が唐突な印象があるでしょうか。
では、|ab|-ab の正負について考えてみましょう。
aとbが同符号あるいは0のときは、ab≧0 です。
このとき、
|ab|=ab となり、|ab|-ab=0 です。
aとbが異符号のとき、すなわちab<0 のとき
-ab>0 となります。
|ab|-ab は、正の数と正の数との和となりますから、
|ab|-ab>0 です。
これらをまとめると、
|ab|-ab≧0 となります。
よって、2|ab|-2ab≧0 も成立します。
(左辺)2≧(右辺)2であるから、左辺≧右辺も成立し、
|a|+|b|≧|a+b|
等号はa=bのとき成立する。


続いて、こんな問題です。

問題 |a-b|≧|a|-|b| を証明せよ。

上の問題と似ているようですが、これはちょっと違うのです。
何が違うのか?
|a|+|b|≧|a+b|
は、左辺も右辺も、正の数です。
正の数での大小の比較ですから、それぞれ2乗して大小を比較することで単純に判断できました。
しかし、
|a-b|≧|a|-|b|
は、左辺は正の数ですが、右辺は、負の数かもしれません。
単純に2乗して大小を比較することはできません。
ここは、場合分けして判断していかなければなりません。
1) |a|-|b|<0 すなわち |a|<|b| のとき
|a-b|>0、|a|-|b|<0だから、
|a+b|>|a|-|b|
2) |a|-|b|≧0 すなわち |a|≧|b| のとき
(左辺)2-(右辺)2
=|a-b|2-(|a|-|b|)2
=a2-2ab+b2-(|a|2-2|a||b|+|b|2)
=a2-2ab+b2-a2+2|ab|-b2
=-2ab+2|ab|
=2|ab|-2ab
=2(|ab|-ab)≧0
ゆえに、
|a-b|2≧(|a|-|b|)2
したがって、
|a-b|≧|a|-|b|
1)、2)より、
|a-b|≧|a|-|b|
等号は|ab|=ab すなわち ab≧0 かつ|a|≧|b|のときに成り立つ。

いかがでしょうか?
この機会に、絶対値アレルギーをなくすことができると良いと思います。
絶対値がわからない、という人は、何か誤解があるのです。
あるいは、わかっているつもりで、問題を解いている最中に、ふっと混乱が起こるのです。
そこがスッキリすると、数学全体がかなりスッキリしてくると思います。


  


  • Posted by セギ at 13:16Comments(0)算数・数学