たまりば

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2019年02月17日

受験後、燃え尽きないために。


「燃え尽き症候群」といった言葉は聞いたことがあると思います。
長年個別指導をしていますと、それなのかなと感じる生徒に出会うことは日常茶飯事です。

無論、それには個別指導の特性も影響しているのでしょう。
中学受験を経験した子が、中学に入学後、家でほとんど勉強しなくなり、それを心配した保護者の方がお子さんを個別指導塾に連れてくるというパターンが多いのです。
中高一貫校の指導上の特色から、集団指導塾、特に高校受験塾に通ってもカリキュラムが合いません。
中高一貫校に通っていて、学習上、困った事態に至った場合、まずは個別指導塾を考えるでしょう。

中高一貫校に通っているということは、以前は、中学受験の勉強をしています。
だから、基礎学力はある場合が多いです。
それで学習上困った事態に至っている原因の第一は、家庭学習をほとんどしないことです。
だから、個別指導をしていると、中高一貫校の生徒は家庭学習の習慣がない子が多いようにすら感じます。

一方、中学受験をしない子は、小学生でも中学生でも高校生でも、個別指導を受けに来る子の場合、家庭学習の習慣のある子が大半です。
今よりもさらに高い学力をつけるべく、個別指導を受けに来ます。
受験学年ではなくても意欲的で、宿題もきちんとやってきます。

せっかく受験して合格したのに、なぜ学習意欲を失ってしまうのか?
彼らは、中学を受験し、合格したのです。
受験勉強をした経験者です。
努力をしてきた子たちです。
中高一貫校に合格したのに、なぜそんなにも学習意欲が低いのか?
今通っている中高一貫校に、無試験で入学できる大学は存在しないというのに。
あるいは、あっても、行きたい大学ではないだろうに。
自分が大学受験をすることになるのは、わかっているはずなのに。
それなのに、何でそんなに勉強しないでいられるのだろう?

大学受験まで6年間あるのだから、まあ中学生の間はのんびり遊んでいてもいいのでは?
保護者の方がそのように考え、そのように本人に言っているのなら、個別指導など受けに来ないでしょう。
中学に通い始めたら、全く勉強しないので、学校の授業についていけなくなった。
保護者の方が心配になって塾に連れて来た。
そういう場合が多いです。

数学の場合、中1の1学期でもうついていけなくなることがあります。
中高一貫校は、6年間で学習すべき学習内容を5年で消化します。
しかし、高校数学は、そんなに時間短縮はできません。
圧縮するのは中学数学です。
中1で、普通の中1・中2の内容を終わらせます。
学校によっては、中1の3学期には中3の内容に入るところもあります。
だから、授業スピードがとにかく速いです。

公立中学ならば、中1の1学期と言えば、「正負の数」「文字式」の単元が終わり、「方程式」の途中まで進んでいれば進度は順調です。
一方、中高一貫校の場合、数学の授業がそもそも代数と幾何に分かれているため、それぞれの授業時間は半減しているというのに、代数の1学期の進度は、「正負の数」「文字式」「1次方程式」「連立方程式」が終わり、「関数」に入っています。
幾何は独自テキストの学校も多く、味も素っ気もない体裁のテキストに、公理やら定理やらがズラズラと並んでいます。
中1の1学期で「図形の移動」「平面図形の求積」「空間図形の求積」「平行と合同」「三角形」まで終わっている・・・。
恐ろしいスピードで授業が進んでいます。

学校側も、その進度で授業を進めるリスクは理解しているのです。
入試に合格した子たちとはいえ、算数・数学が得意な子ばかりではありません。
受験算数はあまり得意ではないまま、他の科目でカバーして何とか合格した子もいるでしょう。
それはわかっているので、数学は学力別のクラス編成を行っている学校がほとんどです。
下位クラスの生徒たちには応用問題の演習を減らし、基本の解説を重視してはいるようです。
授業中に小テストが多く実施され、基準の得点を満たさない生徒には放課後の補習と追試を行っている学校もあります。

しかし、学校側がどれほどフォローしても、家庭学習の習慣のない子がこの進度の授業についていくのは難しいです。
そうした生徒に個別指導を始めると、代数は方程式の基本も理解していないことがありました。
3x-8=5x+7
といったレベルの1次方程式の計算も、解き方がわからないのです。
むしろ公立の中学に通っている子でこの問題を解けない子を探すほうが難しいというのに。
方程式の計算問題ならばどうにか解ける子も、文章題になると、受験算数の解き方で何がごちゃごちゃ解いてしまうこともありました。
そういう子は、式を立てず、暗算し、筆算し、答えだけを書きます。
しかも、その答えが間違っています・・・。
「式を書いて」
と言っても、式を書く意味が理解できないのか、表情のない目で私を見返してきたりしました。
「その答え、間違っていますよ」
と言うと、目に少し表情が現れます。
そうした子に、いきなり方程式を利用した解き方を説明しても理解してもらえません。
もう中学生なのに、受験算数の解き方でいったん教え、どうして答えがそれではないのかを説明した上で、方程式で解く方法を教える。
そういう二度手間が必要でした。
方程式で解けばどれほど簡単であるか、本人が理解できるまで説明しないと、いつまでもいつまでも受験算数の解き方で中学の数学を解こうとするのです。
「受験算数で解くより、方程式のほうが簡単でしょう?」
と説明しても、
「いや、自分はそうは思わない」
と言って、正解が出せないのに受験算数でなおも解こうとする子もいました。
もう新しいことは習得したくない。
今まで身につけたことだけでやっていきたい。
そういうことだったのかもしれません。

幾何はもっと惨状を極めている場合がありました。
学校の授業で何をやっているのか、全くわからないと言うのです。
面積や体積を求める問題だけは意味がわかるけれど、他は、何のために何をやっているのか、本当に何もわからない。
テストにどういう問題が出るのかわからないから、勉強の仕方がわからない。
そう言う子もいました。
これは、学校の独自テキストも影響しているのでしょう。
教科書会社が作っている教科書ならば、全国一律の安心感があります。
それが例え中高一貫校向けの難度の高い教科書であっても。
学校の独自テキストは、自分の学校だけ特別なことをやっているという誤解を生徒に与えます。
凄く凄く特別なので、学校の授業がわからない以上、もう勉強のしようがないと本人が誤解していることがあります。

いや、実は、それほど特別ではないんです。
教えていることは、公立の中学と順番は同じです。
幾何の学習を基礎の基礎から行うのなら、自ずと学習する順番があります。
突飛な順番で学習することはできません。

確かに独自の表現もあります。
「公理」という言葉は、今、普通の中学高校の教科書で見ることはありません。
三角形の合同条件を「3辺相等」「2辺夾角相等」「2角夾辺相等」と表現をするのは、今は私立の学校だけです。
易しいことを難しい言葉遣いで教えてわからなくする呪いでもかけているのか?
そうも思いますが、最初からその言葉で教わればそのほうがわかりやすいという子もいます。

普通の順番で、ただし進度は速く、応用問題を多めに勉強しているのが中高一貫校の幾何です。
幾何は、何のために何をやっているのか、そもそもわかりにくい。
直線ℓと直線mが垂直、直線ℓと直線nが垂直であるとき、直線mと直線nは平行であるかどうか、なんてところから学習が始まると、「意味不明・・・」と思うのもわからなくはないのです。
あさっての方向から学習が始まった違和感をぬぐいがたいのは幾何という学習の特徴なのですが、それを学校の独自テキストや独自カリキュラムのせいと誤解している子が多いのです。

とはいえ、そうした疑問は、個別指導で教われば解決することです。
彼らに欠けるのは、何よりも学習習慣です。
家庭学習をする習慣がありません。
週1回の塾に来る直前に慌てて宿題を数問解いて、やった形跡を残してお茶を濁そうとします。
これをどうにかするのは、理解は遅いけれど意欲のある子を指導し、問題を解けるようにすることよりも難しいのです。
困難を極め、時間がかかります。


彼らには、同情できる面もあるのです。
中学に合格すれば、高校受験・大学受験の苦労はなくなる。
勉強・勉強と追い込まれることなく、楽しい学園生活を満喫できる。
そう思っていた子が多かったのではないでしょうか。

楽ができると思っていたのに、むしろ勉強は大変になった。
勉強しなさいと親は言うが、何を言っているのか?
苦しい思いをして中学受験をしたのは何のためか?
中学・高校で楽ができるから。
そうだったんじゃないの?

・・・中学・高校で楽ができる。
保護者の方に実際にそう言われたのでしょうか?
何となく自分でそう思い込んでしまったのでしょうか?
小学生のうちに勉強でこんなに苦労するのだから、後は楽になる。
そう思いたい気持ちは、わからなくはありません。

しかし、大多数の中学受験生は、中高一貫校に入学後、さらに大学受験をするのです。
大学進学実績で定評のある中高一貫校だから受験したのです。
あるいは、大学までエスカレーターで進める中学を第一志望とはしたものの、そこには合格できなかった。
志望校を変更せざるを得なかった。
結果、また、大学は受験しなければならない。
そういうこともあるでしょう。

保護者の方は、すぐに気持ちを切り替えて、大学受験のためにも、この中高一貫校に通うことは意味がある、と考えるでしょう。
けれど、子どもはそうはいかないのかもしれません。
3年も受験勉強で苦労したのです。
小学生のときの3年は、長いです。

それまで生きていた人生の中の何分の1であるかが「時間」というものの実感を生むとする説があります。
子どもの頃は、1日が長く、1年もとてつもなく長かった記憶があります。
年をとればとるほど、年月の過ぎるのがあまりにも早い。
その実感は、例えば、40歳の人にとって、この1年は、人生の40分の1に過ぎない、といった時間感覚から来ているというのです。
その考えでいくと、小学生のときの3年間は、3/12=1/4。
人生の1/4を受験勉強してきたのです。
それは、40歳の人にとって10年にあたります。
小学生は、体感としては、大人の感じる10年間、受験勉強をしてきたのです。
燃え尽きてしまう子が多くても不思議はありません。
中学に合格したらもう勉強しなくていいはずだと思ってしまう子がいてもおかしくありません。
少なくとも、まさか受験勉強していた頃よりも、中学入学後のほうが勉強しなければならないとは予想していなかったでしょう。

実際は、中学受験のための受験勉強なんて、中学や高校の勉強と比べれば、易しいのです。
特に今は、詰め込み型の受験塾は子どもを潰してしまうからと敬遠される傾向があり、宿題も少ない塾が多いです。
昔と比べると、受験勉強が「ぬるくなった」感は否めません。
それですら、小学生にとっては、辛く苦しい受験勉強です。

繰り返しますが、中高一貫校に入学すると、最初の2年間で中学の学習内容を終え、中3からは高校の学習内容に入ります。
その「中学の学習内容」も、発展的なテキストで難しい内容を2年間で習得します。
想像を絶するボリュームと難度の学習内容を課せられるという覚悟が必要です。
中学に合格すれば楽になる?
・・・いえ、公立中学に通ったほうが勉強は楽だと思います。
基本を丁寧に学習できますから。

中学に合格すれば楽になる。
このことを、大人と子どもは別の意味にとらえています。
大人は、「大学進学の可能性が高まる」「将来の可能性が広がる」といった意味で、「楽になる」と言います。
しかし、子どもは、中学に合格すればもう今みたいに勉強しなくてもいいと誤解してしまうことがあります。
そして、大人は、子どものその誤解に気づいていて、あえてその誤解を解かないこともあります。
中学に合格したら、より大変な勉強が始まる。
そんなことがわかったら、中学受験のモチベーションを維持できないと考えてしまうからかもしれません。
小学生の今でさえ勉強が嫌いな様子の子に、中学受験のモチベーションを維持させるには、「中学に入れば、勉強しなくて済む」といった誤解をそのままにしておくほうがいいのではないか・・・。
そう思ってしまう気持ちもわかります。
しかし、それはまずいです。

体感では10年に及ぶ長い受験勉強に耐え、合格したのです。
もう勉強はしたくない。
そのために頑張ったのだから。
中学に入った後まで勉強しろと言われても、意味がわからない。
中学の勉強がこんなに難しいなんて聞いていなかった。
合格さえすれば、中学の勉強はもっと簡単だと思っていた。
いや、そんな理屈をこねるつもりもない。
ただ、もう勉強はしたくない。
勉強はしたくない・・・。
大学受験が近づいたら、また考えるかもしれないけれど、今は勉強はしたくない・・・。

そんな様子の子を何人も何人も見てきました。

中学受験をしても、勉強は楽になりません。
むしろ、より難しく、より大変になります。
せめて、保護者の方は、それを知っていてください。
「中学さえ受かれば」
と言葉にしなくても、保護者の方が内心でそう思っていれば、子どもは必ずそれを察します。
中学入学後に「勉強しなさい」という親に、不信感を抱きます。
より難しく、より大変で、より深く面白いことを学ぶために、中学を受験するのです。
楽をするために中学を受けるわけではありません。
そのことを理解していないと、入学後の現実に耐えられないと思います。

  


  • Posted by セギ at 16:03Comments(0)講師日記