たまりば

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2014年09月11日

ニュートン算と連立方程式



連立方程式の利用、すなわち文章題は、文字を2つ使えるので、1次方程式や2次方程式よりも解きやすいと感じる子のほうが多いです。
室際、1次方程式でかなり苦戦した子も、「個数に関する問題」、「速さに関する問題」、「売買の問題」、「食塩水の問題」などの典型題に関しては、連立方程式の文章題は、ある程度解けるようになることが多いです。
ただし、レベルが上がると、やはり難しいのが文章題。
特に難しいのが、増減に関する問題かもしれません。
たとえば、こんな問題です。

問題 ある牧場では、80頭の牛を放すと21週間で草を食べつくし、93頭の牛を放すと18週間で食べつくす。
1週間で生える草の量は一定とし、またどの牛も1週間で食べる草の量は同じであるとする。
この牧場で、100頭の牛を10週間放したのち、さらに何頭の牛を加えて放牧したら、2週間で草を食べつくすか。

受験算数を知っていらっしゃる方は、よくご存じ。
これはニュートン算と呼ばれるものです。

なぜ、ニュートン算と呼ぶのか。
このタイプの問題を、ニュートンが、「プリンピキア」という著作の中で発表したからです。
昔は、哲学も数学も物理学も、ごった煮的に、一人の人が研究していました。
今のように、科学が細分化・専門家されていなかった時代は、一人の天才が多くの分野で発言していたんですね。

ニュートンは、「こういう問題は、算数では解けないだろう。数学の方程式だから解けるのだ」ということを示す例としてこの問題を作ったらしいです。
しかし、その問題を算数で解いてしまうのが受験算数です。
線分図を描き、比を利用して解きます。
もっとも、ニュートン算は、受験算数の特殊算の中でも、なかなか理解できないものの1つで、これを解ける子は受験生の中でも限られてくるのですが。


私自身も、中学受験をしたのですが、このニュートン算の印象は鮮烈でした。
牛がバクバク草を食べる。
しかし、それにも負けずに、ワッサワサと生え続ける牧草がある。
どう考えても、草の生え方が尋常じゃない。
こんなの嘘じゃないの、と思っていました。

大人になって、私は山歩きをするようになりました。
あるとき、山小屋で相部屋になった方から、面白い話をうかがいました。
その方は、アルプスのトレッキング・ツアーに参加したのです。
憧れのマッターホルンを眺めながらの、楽しいヨーロッパ・アルプスのトレッキング。
その旅の思い出に、足元に生えていたクローバーをこっそり摘んで、土ごと、カメラのフィルム・ケースにしのばせたそうです。
空港の荷物検査でも、その程度のことなら引っかかるはずもなく、その人は、アルプスのクローバーを日本に持ち帰り、自分の庭に植えました。
芝生の隅にそっと。

ひと月もたたないうちに、クローバーは、庭の芝生を駆逐し、庭を埋め尽くして大繁殖したそうです。
外来種の中には、日本の在来種にはない繁殖力をもつものがいます。
そのクローバーもそういうものだったのでしょう。
あまりのことに蒼白になり、その人は、クローバーをすべてむしり取り、燃やしたそうです。
ヨーロッパのクローバー、恐るべし。

私は、ニュートン算の中で生え続ける牧草を、この話で実感しました。
牛が食べても食べても、ワッサワッサ生え続ける牧草は、ニュートンの目の前に実在したのでしょう。

さて、イメージを抱くことができました。
まずは、ニュートン算らしく、受験算数の解き方で解いてみましょう。

問題 ある牧場では、80頭の牛を放すと21週間で草を食べつくし、93頭の牛を放すと18週間で食べつくす。
1週間で生える草の量は一定とし、またどの牛も1週間で食べる草の量は同じであるとする。
この牧場で、100頭の牛を10週間放したのち、さらに何頭の牛を加えて放牧したら、2週間で草を食べつくすか。

線分図を2本描きます。
1本目は、まず左端にもとから生えていた草の量を線分で描きます。
その右に、新たに生える草の分の線分を加えます。
1週間で生える草の量を①としましょう。
21週間で生える草は、①が21個分です。
同じ量の草を、牛は食べ尽くしました。
1頭の牛が1週間で食べる草の量を☐の1とします。
80頭の牛が、21週間で食べ尽くしたので、この線分図の総量は、☐×80×21で、☐の1680個分となります。

1本目の線分図の真下に、左端をそろえて、もう1本、線分図を描きます。
左端にもとから生えていた草の量を描きます。
当然、上の線分図と同じ長さです。
その右に、今回は、18週間で生えた草の量を書き加えます。
①が18個分です。
その量の草を、牛は食べ尽くしました。
93頭の牛が、18週間で食べ尽くしたので、この線分図の総量は、☐×93×18で、☐の1674個分となります。

大事なのは、ここで、2本の線分図の差を見ることです。
この発想が持てず、描いた線分図を眺めたままで終わってしまう子がいます。
線分図は、差を読み取るのが基本的な使い方です。
もとから生えていた草の量は同じですから、2本の線分図の差は、①で言えば、21-18で①が3個分。
同じ差を☐で見ると、1680-1674=6 で、☐の6個分となります。
〇3個分が、☐6個分。
つまり、①が、☐2個分にあたります。
そこで、線分図の〇を全て☐の数字で表しましょう。
どちらに線分図を使っても同じですが、今回は、上の線分図を使いましょうか。
〇21個分は、☐42個分。
全体の長さは☐1680個分でしたから、もとから生えていた草は、
1680-42=1638 で、☐1638個分となります。

これがわかれば、もう何でも解けます。
「この牧場で、100頭の牛を10週間放したのち、さらに何頭の牛を加えて放牧したら、2週間で草を食べつくすか」
求めるものは、これでしたね。
こうした問題では、「新しく生える草担当の牛」を任命します。
1週間で生える草は、牛2頭分でした。
生えたそばから食べるのが担当の牛が、2頭。
100頭のうち、2頭が新しい草にかかりきりになります。
残る98頭で、もとから生えていた草を攻略します。
まず、10週間で、98×10=980の草を食べました。
残りの草は、1638-980=658
この草を2週間で食べ尽くします。
658÷2=329
これに、「新しく生える草担当の牛」2頭を加えて、必要な牛の数は、331。
100頭は最初からいましたから、
331-100=231
答は、231頭 です。


さて、同じ問題を、方程式で使って解きましょう。

1週間に生える草の量をxとする。
1週間に1頭の牛が食べる草の量をyとする。
あとは、何を表す式を立てるか、です。

文章題の立式が苦手な子は、方程式が何かの数量を表すものであるという発想がありません。
何か足したり引いたりした変な式を立てているので、
「この方程式は、何の量を表しているの?」
と私が質問すると、きょとんとする子がいます。
このセンセイ、何か変なことを訊いてくるけど、何だ?みたいな顔です。
「方程式は、文章の中の何かの数量を表しているんだよ」
と説明しても、まだきょとんとしています。
「え。何か同じ関係を表せばいいんじゃないの?」
「だからね、『等しい関係』というときの、その等しさは、何の数量だから等しいんだろう?」

この話が通じるかどうかは、ニュートン算に限らず、方程式の文章題を解けるかどうかの分かれ目です。

牧場には、もともと生えている草がある。
もともと生えている草の量は、どの場合も等しい。
さらに、新たに毎日生え続ける草がある。
そして、生えた草の総量は、見方を変えれば、牛が食べつくした草の総量である。
そうしたことを把握していることが、ニュートン算を解く場合に欠かせません。

1週間に生える草の量をxとする。
1週間に1頭の牛が食べる草の量をyとする。
もともと生えていた草の量を左辺と右辺、それぞれで表すと、

80y×21-21x=93y×18-18x ・・・①
これを整理しましょう。
1680y-21x=1674y-18x
-3x=-6y
x=2y

これを①の左辺に代入すると、
1680y-41y=1638y となります。
もともと生えていた草は、1638y と表すことができます。
これを用いて、
「この牧場で、100頭の牛を10週間放したのち、さらに何頭の牛を加えて放牧したら、2週間で草を食べつくすか」
という内容を方程式にしてみましょう。
新しく加える牛をz頭とします。
牛が食べ尽くした草の総量を表す式は、
100y×10+2(100+z)y=1638y+12x
x=2yですから、これを代入すると、
1000y+200y+2yz=1638y+24y
1200y+2yz=1662y
両辺をyで割って、
1200+2z=1662
2z=462
z=231
答は、231頭 です。

中学の定期テストにニュートン算が出るかといったら、ほとんど出ないんです。
かなり学力の高い私立中学でも、出るかどうか。
公立中学の場合、「普通の秀才」と「超秀才」とを識別するために、最後に正答させるつもりのない難問として1題出す主義の先生もいます。
そうした場合、配点は低いことが多いです。

それでも、発展的なテキストには載っています。
私も、ある程度の学力のある子には宿題に出して、解かせてみます。
完全にマスターすることは求めていません。
むしろ、本人がどこまで善戦するのかを見ています。
正解は出ないかもしれません。
でも、どの程度まで正解に肉薄できるのか。

「わかりませんでしたー。教えてくださーい」
と、あっさりギブアップする子は、まあ、それでいいのです。
しかし、間違った式であっても、ある程度の関係を把握して立式している場合、現在の成績がどうであれ、これは伸びる可能性があります。
これは伸ばさなければなりません。
と、こちらも背筋が伸びるんです。

  


  • Posted by セギ at 14:31Comments(0)算数・数学