たまりば

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2011年12月15日

田中角栄からのお歳暮


このシーズンになると思い出すのは、高校生の頃のこと。
学校から帰ると、台所のテーブルの上に、直径1メートルほどもある薄い円盤状のプラスチック容器が置いてありました。
中身は、各種の味噌漬けがぎっしり。
脇には、ビニールの風呂敷が畳まれてあり、その上に、名刺が1枚。
「衆議院議員 田中角栄」と書いてありました。

私の実家は、新潟1区。
田中角栄は、新潟3区の議員。
なんで田中角栄からお歳暮が舞い込んだかというと、うちの父が越山会の会員の息子の就職の世話をしたかららしいです。

それにしても、このお歳暮、今思い返しても、なるほどなあ、と感じるものでした。

父へのお歳暮ですから、酒でも良いでしょう。
しかし、洋酒など贈ると、「あーあ、気取っちゃって。田中角栄はもう、わしらのセンセイではないんだなあ。東京行って、変わっちゃった」と思う人もいるかもしれない。

では、日本酒ならば良いのかというと、そもそも酒は、危険です。
男衆ばかりが楽しみ、女性は楽しめない。
今とは、少し時代が違いますから。
しかも、それだけではありません。
万が一、酒癖の悪い男に酒など贈ったら、その妻に、どれほど恨まれるか。
有権者は、半分は女性。
酒は、ダメです。

かといって、女性受けだけ狙った甘い物もダメでしょう。
こじゃれたものは、ダメ。
単なる消耗品・生活必需品では、印象が薄い。
そこで、絶妙な選択として浮上するのが、味噌漬けなのかもしれません。
味噌漬けは、新潟が特産というわけではなく、これがなくては新潟の食卓が成立しないというものでもありません。
しかし、味噌漬けを、特に嫌う理由はない。
むしろ、年齢を重ねるほどに好きになっていくもののように感じます。

田中角栄が狙っていたのは、これでしょうか。
大人は、味噌漬けが好きです。
肉厚でジューシーな味噌漬け。
しかも、味噌漬けならば、もらっても、心の負担は少ない。
その一方、あれだけ大きい容器だと、実は値段がかなり張ることも想像がつきます。
田舎くさくて、庶民的で、でも、もらうと嬉しい、皆が満足するお歳暮。
田中角栄への好意を誘導する品物。
純粋な好意や善意を感じる普通のお歳暮とは違う、何か異様なもの。

もっとも、うちへのお歳暮なんて、田中角栄本人の耳に入っているレベルのことではなく、地元の秘書か書生が片づけていた仕事と思います。
そういう末端まで、仕事は徹底していたということでしょう。
人心掌握の技術。
それは技術で、田中角栄が本当に大衆を愛していた根拠にはなりません。


もう1つ印象深かったのが、その名刺。

 衆議院議員  田中角栄

総理大臣だったのは、その数年前。
一度は逮捕されながらも、なお議員に当選し、しぶとく生き延びて、政界のドンと呼ばれていた時代の田中角栄です。
名刺は、何種類もあったのかもしれません。
けれど、このシンプルな1枚は、ドスが効いていました。

遊びの名刺なら、肩書きはたくさん並んでいていい。
渡した人と、それで会話を楽しむツールになりますし。

だけど、仕事で使う名刺は、これが、最強でしょう。
たった1つの肩書きに、この人を語る全てがある。
高校生の私は、その迫力に、正直、ぞっとしました。

近年、田中角栄を再評価する動きがあります。
良くも悪くも、今、あのような政治家がいない、ということなのでしょう。
いなくて結構、と私は思います。

田中角栄の周囲では、人が死んでいます。
自殺という形ですが。
その利権を守り、口を閉ざすために。
皆、そのことを忘れてしまったのでしょうか。
周囲で人が死ぬような権力。
そのようなものは復活しないほうがいいのです。

政治家がダメだ。官僚が悪い。情けない。
そう言えるほどに情報が公開されている現代。
それは、口封じできるほどの権力が存在しなくなった証拠かもしれません。
圧倒的な権力など、誰も持たないほうがいい。
皆で考えて、1つ1つ解決する。
だから、田中角栄的なるものは、二度と復活しませんように。

その一方で、なぜ、あのような政治家が出現したのか、その土壌を知っておきたいと思います。
新潟三区がもっと豊かだったなら、あのような政治家は、必要なかったはずなのですから。
東京で便利に暮らして、わかったようなことを言っても、何も通じないことがあるでしょう。

表面的な評価でなく、何がどう良くないのか知っておきたくて、田中角栄関係の面白そうな本を見つけると、今でも買って読みます。
最近読んでいるのが、これ。
面白いです。
本を読む時間がめっきり減り、毎晩、3分で眠くなるため、なかなか読み終わりませんが。
しかも、何冊も同時進行で読む習慣があり、ますます読み終わりません。
でも、面白いです。

まるで説得力がないですかね。
(*^_^*)

  


  • Posted by セギ at 15:19Comments(0)講師日記