たまりば

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2015年08月04日

塚本晋也監督『野火』を見てきました。


『野火』という映画が作られた。
『六月の蛇』や『KOTOKO』などで国際的な評価の高い、世界のツカモトが、私財をなげうってほぼ自主製作の形で『野火』を撮った。
その激しい描写に、見る者は衝撃を受け、嗚咽が止まらない。

・・・・・・との噂を聞き、渋谷まで映画『野火』を見に行ってきました。
平日のせいか、高齢者が目立ちました。
あとは大学生かな。
でも、考えてみたらそれは凄い話で、高齢者はいくらシルバー料金だからと言っても、そんなに気安く映画は見に行かないと思うんです。
しかも、平日の昼間の回でほぼ満席。
戦後70年。
どうしても、この映画は見なければ。
我々が幼い頃からその気配をよく知っている戦争を、この年下の監督は映像化できているのか?
それを確かめなければ。
そんな使命感が漂っているようにも感じました。


大岡昇平『野火』。
高校の現代国語の教科書に載っていました。
勿論、全文のわけはなく、冒頭からある程度までですが。
結核に冒された主人公が、本隊を追われ、野火を眺め、原生林を彷徨う描写は何となく覚えていました。
夏休みの国語の宿題が、この『野火』を全部読んで感想文を書くことで、これが物凄く厄介だった記憶があります。
確か高校1年生のときだったと思うのですが、高1の私には、読解力と呼べるほどのものはありませんでした。
『野火』は、高校生の私には、正直、難し過ぎました。
何が書いてあるのか、本当にわからなかったのです。
( 一一)

でも、感想文は書かねばなりません。
そこで、私は、自分の読解力でもよくわかる『ビルマの竪琴』との比較感想文を書きました。
『野火』に書いてあることは、おそらく史実だ。
一方、『ビルマの竪琴』の作者は、ビルマに行ったことはない。
玉砕せず全員で投降した「歌う小隊」なんて存在しない。
現実の帝国陸軍は、『ビルマの竪琴』のような呑気なものではなかったと思う。
しかし、戦争で傷ついた日本人の心に、あの夢物語は必要だったのではないか。
1人の日本人の青年が戦地に残り、日本兵の遺骨を弔うことに生涯を捧げるというイメージは救いになったのではないか。
あの物語にこめられた、戦争は嫌だ、戦争だけはもう嫌だという気持ちには、嘘はないのではないか。
・・・・と、おおよそそんなことを感想文に書いたと思います。
それは、ほとんど、『ビルマの竪琴』の感想文じゃないか。
しかも、『野火』も読みこなせなかったくせに、どんだけ視点が高いんだ。
でも、その感想文、国語の先生に絶賛されました。
すいません。今更ですが、謝ります。
( 一一)

塚本晋也監督が小説『野火』と出会ったのも、高校生のときだったそうです。
まるで自分が戦争に行っているような気持ちになったといいます。
そして、『野火』の映画化をずっと願って来たそうです。
戦争体験者の高齢化を心配し、早くから話を聞き、2005年には、フィリピン戦友会の方たちに同行し、遺骨収集事業にも参加されたそうです。
「戦後70年経って戦争体験者がいなくなり、肉体的な実感を持って痛みや恐怖を語る人が少なくなると、国が戦争に傾いていく恐怖を感じています」
と、塚本監督は語っています。
ただし、この映画は、どんなイデオロギーにも染まっていません。
ただただ、本当の戦場を描いているんです。

レイテ島での日本人戦没者は8万人。
フィリピン全体では50万人。
そのうちの8割が飢餓や病気による戦病死だったと、映画パンフレットに書いてあります。

映画の内容については、ここで多くを語る必要はないと思います。
私の感覚では、ほぼ原作通りです。
映画を見た後、原作を読んでみたら、ああ、そういうことかと、スルスルと読み通せました。
そうだ、こんなにはっきり描いてある。
なぜ、私は、これを読めなかったんだろう。

この映画は体験する映画。
画面が大きければ大きいほど、1時間30分、主人公とともにレイテ島を彷徨う映画です。
どんな絶望よりも深い絶望に、ともに呻き、戦慄する映画です。
でも、グロテスクな描写というのではありません。
映像は、むしろ美しい。
美しい原生林の中で、人間は疲弊し、殺しあいます。
美しいから戦慄します。

原作の終わり近くにはこうあります。
「この田舎にも朝夕配られて来る新聞紙の報道は、私の最も欲しないこと、つまり戦争をさせようとしているらしい。現代の戦争を操る少数の紳士諸君は、それが利益なのだから別として、再び彼等に欺されたいらしい人達を私は理解出来ない。恐らく彼等は私が比島の山中で遇ったような目に遇うほかはあるまい。その時彼等は思い知るであろう。戦争を知らない人間は、半分は子供である。」
これが、昭和27年に刊行された小説の一節であることにも、私は戦慄します。





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