たまりば

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2014年03月30日

個別指導の利用法

個別指導の利用法

春期講習中の春の嵐の日曜日、3月分の指導レポートを何とか書きあげて、ほっとしております。
明日発送いたしますので、数日しても未着の場合、お問合せください。

さて、本日は、個別指導の利用法について。
個別指導は、その子に必要な指導が可能という点で大変能率の良い授業形態なのですが、それゆえに、目的が明確でないと授業が迷走する場合もないわけではありません。

何年か前、大手の個別指導塾に勤めていた頃のことです。
高校2年生の男子が、入塾してきました。
ある程度の偏差値の私立高校生です。
しかし、内部進学できる大学は偏差値は高くなく、附属高校の生徒の大半は、外部受験をします。
つまり、通塾の目的は、大学受験に合格すること。

かなり明確なように見えて、高校1年か2年くらいですと、この目的だけでは、ブレが生じがちです。
大学合格が目的なのは良いのですが、それでは当面、塾で何をどう学習するのかが明確ではないのです。

私はその子の英語を担当することになりました。
塾には高校英文法の通年テキストがありましたので、それを渡しました。
普段は文法の学習をし、テスト前は、学校の英語Ⅱ(リーダー)の対策もするのが、標準的なカリキュラムでした。
体験授業でもそれでOKでしたし、特にそれ以外の要望もなかったので、文法テキストで、学校の進度に合わせて学習を始めました。
かなり英語が苦手なことは、教えてすぐにわかりました。
中学英語も怪しいのです。
学校の進度に合わせた内容だけではなく、さかのぼって、テキストの最初から復習し、それも宿題に加えるようにしました。

しかし、2回目の授業で、その子は言いました。
「宿題の答え合わせは家でやってきますから、解答をください」
「そう?」
答え合わせを家でやってきて、わからないところだけ質問するというのは、高校生ならばあって良いことです。
教務にも確認し、許可を得て、その子に解答を渡しました。

次の授業で、その子は、塾の文法テキストを持ってきませんでした。
「忘れてきました」
「え。宿題は?」
「あ。やりましたよ。答え合わせもしました」
「ああ。じゃあ、ノートを見せて」
「持ってきてませんよ」
「え」
「必要でしたか?」
「・・・・・・・・」

その日は、次にやる予定だったページを急いでコピーして渡し、授業を続けました。
何が理解できていないか確認し今後の授業の指針にしたいから、テキストと宿題をやったノートは必ず持ってきて見せてね、と告げました。

しかし、その次の週も、その子は、テキストもノートも持ってきませんでした。
訊けば、「やった」というのですが、証拠は何もありません。
そして、妙なことを言い出しました。
「解答があるんで、あれは自分で勉強できるから、他のことをやりたいんですけど」
「・・・・・・他のこと?どんなことを?」
「学校の教科書を持ってきたんで、それをやってもらえませんか」
「はあ・・・・・・・」

学校の文法の教科書は、左側が解説、右側に練習問題が並ぶ、よく見るタイプのものでした。
それで授業をしろと言われたらできないわけでもなく、解説をし、問題をその子に解いてもらいました。
しかし、ほとんど答えられません。
その文法事項はわかっても、英語は積み上げ教科なので、それ以前のことがわからず、まして単語力がないとなると、何も書けません。
結局、大半は私が答えを教えることになりました。
教えてもらえるとなると、その子は、とにかく早く正答だけ教えてほしいという様子を態度に見せるようになりました。
最初は考えるふりもしていましたが、私が解説している間やヒントを出している間は、うつむいて、ぼんやりしています。
仕方なく私が答を言うと、
「あ、もう1回言ってください」
そう言って、教科書に答えを書きこんでいきます。

予習の手間を省きたかったのかもしれません。
自分で考えたり調べたりするのが面倒なので、答えだけ教えてほしいのでしょう。

そんな調子で、90分で、1か月分くらいの予習が進みました。
授業の終わりに私は言いました。
「今日やったところの文法練習を塾のテキストでやってね。それを宿題にするから、必ずノートに解いて、持って来て」
「わかりましたー」
上機嫌で帰っていきました。

その翌週。
やはり、テキストもノートも、持ってきませんでした。
「えーと・・・・・。じゃあ、今日は、何をやればいいんだろう」
「実はですねー」
その子は、嬉しそうに、通信添削の課題をカバンから取り出しました。
「これ、やってるんですけど、全然わかんないんですよ。ここで、教わりながら解きたいんですけど」
「はあ・・・・・・」
本人の実力で解けるレベルの問題ではなく、これも、教わりながら解くというより、私が解き、その答えを本人が解答欄に書くというだけの作業になりました。
解説しても、聞いているふりだけです。
私が答えを言うと、それだけは、ウキウキと書きとめるのです。

その翌週は、学校の英語Ⅱの予習。
そして、また学校の教科書で英文法の予習。
添削課題。

本人は上機嫌ですが、全て、私が解き、それをその子が書き写しているだけでした。

そして、テスト前。
学力は何1つ伸びていませんから、テスト対策用の課題を本人に解かせると全く解けません。
解けないとむっとして機嫌が悪くなっていきました。
「こういうのじゃなくて、もっと他のことがやりたい」
「どんなことを?」
「テストに何が出るのかだけ、教えてもらえませんか」
「だから、こういうことが出るんだけど」
「・・・・・・・・」

そして、テストの結果は、惨憺たるものだったようです。
ようだというのは、本人が、結果を教えてくれなかったのです。
テストの点数は報告してもらわないと困るんだよと言っても、得点一覧表に書こうとしません。
「かなり悪かったのかな?」
と訊くと、それには素直にうなずきました。
私は、説得しようとしました。
「今までのような授業のやり方は、変えたほうがいいよね」
「じゃあ、何をやるんですか?」
「最初に戻って、塾のテキストと、それを解いた宿題のノートを持ってきてほしいんだけど」
「・・・・・・・わかりました」

理解してくれたのかと思ったのですが、翌週はまたしれっとして、通信添削課題を持ってきました。
締め切りが近いから、これだけやりたい、と笑顔で言うのです。
塾のテキストとノートは、無論、持ってきません。

教務に相談したのですが、私の報告を聞くだけ聞いて、「わかった」というだけでした。
何も変わりません。
講師の私は、保護者と直接連絡をとる方法がありません。
高校生の男子ですから、保護者と連絡をとっても、あまり効果はなかったかもしれません。

授業料が高いのに、何て無駄なことをしているんだろう。
こんなことやっていても、絶対、成績なんか上がらないのに。
でも、仕方ないのかなあ。
本人が悪いんだから。
私は、私にできることはやったよー。
私の立場で言えることは、言ったよー。
心の中で、そんな言い訳をしていました。

本人が、そういう授業を望んでいる。
そういう意味では、オンデマンドでした。
だから、講師の考え方によっては、こういう授業のあり方に疑問を感じません。
でも、私は、効果のない授業をするのは嫌でした。
嫌でしたが、組織の一員として、勝手なこともできないのでした。
クレームもきていないのにあれこれ騒ぎ立てては「我の強い、使いにくい講師」と思われてしまうという弱みが、私にはありました。

2か月ほどして、その子は嬉しそうに、通信添削のテキストを持ってきました。
巻末の成績優秀者一覧に、自分の名前が載ったというのです。
「へえ・・・・・・」
ほとんど全部私が解いたのですから、それは載るでしょうが、そのことに、何の意味があるのでしょう。
その子も、それは自覚していたのかもしれません。
こんな言葉をつけ加えました。
「でも、満点じゃなかったですね」
「・・・・・・・・・」

その子には、その後も、同じような授業を続けました。
本人の望む通りの授業をしているので、結果は出なくても、クレームはないのです。
その子が高校3年生になるとき、予備校に行くからと退会してくれたときは、正直ほっとしました。
嫌な思い出です。
あんなことは、あってはならないこと。
でも、個別指導では起こり得ることです。

講師と生徒、そして教務との力関係が微妙なことも一因でしょう。
生徒が主導権を握ると、こんなことになってしまう可能性があるのです。
苦手な科目だから教わりに来ているのに、それでも主導権を握ろうとする子はいます。
苦手科目は、本人は、俯瞰で見ることはできません。
結局、自分でやるべき予習の手間の省ける授業を望んでしまったりします。
解き方を教わるのではなく、答えを教わって、それで満足してしまいます。
それで、勉強した気になってしまいます。

そういう意味で、どんな課題でどう勉強するかは、プロに任せたほうがいいと思います。
いったん任せて、それで効果がなかったら、講師を替える、塾を変える。
その権利は、生徒にあります。

現在、私は、通信添削を個別指導で教えることは、特別な例外を除いて行いません。
学校の教科書の問題の答えを教えるような形の授業も行いません。
そういうことを、もしやってあげたら、生徒はとても喜ぶのですが、学力は下がっていくばかりです。
私が教える時間はできるだけ短く、生徒が演習する時間をできるだけ長く。
1人では解くことができない問題を解けるように補助を加えながら、やがてそれも1人で解けるように。
問題を自力で解く力が身につくように。

そのために、個別指導は存在します。


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    Posted by セギ at 16:48│Comments(0)塾選び
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