たまりば

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2013年07月18日

言語における新しさとは



さて、来週からの夏期講習に向けて、準備に忙しいこの頃、皆様は、いかがお過ごしでしょうか。
少し前に書きました、「仮定法」を理解する意欲を示さない高校生も、期末テストが返却されました。
「仮定法」の問題は全問正解できたと嬉しそうです。
80点には届きませんでしたが、中間テストと比べれば、得点が激増しました。
そうなると急に学習意欲がわくのが、子どもの常。
学校の教科書とノートをきっちり持ってきたりするのですが、こちらは、期末テストが終わったので、ようやく学校の縛りから解法され、前からやりたいと思っていた文法の総復習に着手できると、てぐすねひいています。
「いや、教科書は、しばらくやらないから」
「なんで?教科書やりたい」
「だから、テストの点数が上がったら、今度は教科書の勉強しかやりたくないとか、そういうの、やめようよ」
「教科書やりたい」
「・・・・・受験勉強しようね。指定校推薦で大学行くんじゃないんだから、受験勉強しよう」
点数が上がっても、会話は若干不毛です。
(^_^;)


自分の思うようにならなかったからか、彼は、それまで言わなかったことを言い出しました。
それがちょっと興味深い内容でした。

仮定法の基本は理解できたようなので、「仮定法未来」の解説をしている途中で。
「そうだ。学校の先生が、言ってた。今は、もう were とか使わないんだって」
「・・・・は?」
「だから、仮定法で、were とか使わなくて、was のほうが正しいんだって」
「なんで?」
「were なんて、古い言い方なんだって」
「・・・・・・学校の先生が、そう言う根拠は、何なのかな」
「だから、古いんだって」
「・・・・古い新しいは、根拠じゃないよ。古いとする根拠は、何だ?文献を読んだのか?読んだとしたら、何年に誰が書いた、何というタイトルの文献だ?それとも、ネイティブから聞いたのか?どんな教養の、どんな年齢の、どういう立場のネイティブだ?根拠というのは、そういうものだよ」
「・・・・・知らね」

「古い・新しい」という言い方が絶対だと思っている生徒は、常に一定の割合で存在します。
子どもは、経験でも知識でも、大人に勝てないです。
唯一の長所は、若いこと。
新しいこと。
だから、自分たちの強みを過大評価します。
新しいことが常に正しいと思いがちです。
それは、強い自己肯定の気持ちからきているので、仕方がない側面もあるのですが、危険もあります。
「こっちのほうが新しいんだ」と断定されると、根拠も確かめず、信じ込んでしまうことがあります。


数年前にも、ありました。
ある市立中学の英語の先生が、関係代名詞の授業のときに、生徒に向かって、
「whom なんて古い。whom なんて、今はもう使わない」
と断定したんです。
ゆとり教育になって、中学英語の教科書からは、関係代名詞 whom が消えました。
先行詞が人である場合の目的格の関係代名詞は、that で学習します。

「関係代名詞」は、中3の2学期の学習内容ですが、たいていの子は、塾の夏期講習で学習します。
教科書から whom は消えましたが、私立高校の入試から whom が消えたわけではありません。
当然、塾では、whom を教えます。
そんなわけで、自分は教えていないのに、生徒が知っている、whom。
その学校の先生は、それが気に入らなかったのかもしれません。
でも、塾生からそれを初めて聞かされたときは、唖然としました。
生徒の多くは、「古い」という言葉にだまされ、その先生の言うことをほぼ信じていましたから。

はたして、whom は古いのか?
古いから、教科書から消えたのか?
今は、もう使わないのか?

そんなことは、ないでしょう。
こちらは入試問題に出てくるから教えているんです。
易しい英会話で whom を使う機会は少ないかもしれない。
whom は、省略可能、というより、たいてい省略してしまうでしょう。
でも、書き言葉として、whom は、そう簡単には消えません。
使ってあるほうが、読み取り易い場合は多いからです。
しかも、これは高校英語ですが、to whom 、 with whom 、by whom などの、「前置詞+関係代名詞」という用法があり、これは、who や that では代用できません。
「その言い方が、堅苦しくて、古い」
と言われても、論理的で複雑な文章ほど、この書き方をされたほうが読み取り易いことがあります。
だから、実際に使われています。
それは、「古い」のではなく、「言語レベルが高い」ということではないでしょうか?

日本語に置き換えてみると、わかりやすいです。
「君は、何をもって、そのように断言するのか?」
この言い方、新しいか古いかと言われたら、古い、でしょう。
では、通じないのか?
使うと違和感があるのか?

でも、国語の苦手な、ちょっとおバカさんな若い子は、言うかもしれません。
「えー、意味わかんないー。そんな言い方、今しないしー」
本人が国内でそんなことを言っているだけならいいですが、それを外国に向けて発信されたらたまらない。
後ろから羽交い絞めにして、口を塞がないと。

そして、「whom は古い」「仮定法の were は古い」という情報が、もしもそのレベルの情報であるなら、そんなものを鵜呑みにするわけにはいきません。

言語には、レベルがあります。
それは、日本語でも、英語でも。
書き言葉なのか話し言葉なのかにもよりますが、一番大きいのは、話し手・書き手の教養です。
日本語の「らぬき言葉」は、許容の範囲ではありますが、しかし、使っている人が若干無教養に見えることは、今も否定できません。
生徒の多くは助詞を使わない話し方をしますが、それが新しく正しい日本語なのではなく、本人たちが助詞の使い分けができないだけです。

英語にも、そういうことは、あるでしょう。
英語を使う国は、日本よりも格差社会であり、階級社会であることが多いです。
そのことは、使用する英語に、どう影響しているのか。
外国語として英語を学ぶ者に、そのニュアンスは、どの程度理解できるのか。

私たちの多くが、使えるようになりたいと思い、生徒に使えるようになってほしいと思う英語は、例えば、アメリカの大都市で有能なビジネスマンが使用する英語ではないでしょうか。
彼らが話し、書き、聞き、読む英語。
彼らが、whom をどう使い、were をどう使うか。
ファンキーでおバカちゃんな若い子たちの使う「新しい英語」を学びたいわけではありません。

そして、その手前として、生徒たちは受験英語を身につけなくてはなりません。
アメリカの「今の英語」よりも、入試でその文法事項がどう扱われるかを意識しないと。


whom の件は、
「〇〇中学の英語の先生に、whom は今は使わないと言う先生がいるそうですが、それは誤りです」
と生徒に伝え、実際に whom が文法問題や長文問題に使用されている近年の例を1つ2つ挙げることで、解決しました。
「ただ、学校で習っていないのだから、学校のテストでは、whom は使用しないこと」
世の中には裏と表があることを中学生に語るような、あまり好ましくない状況ですが、仕方ありません。
他の学校の先生の中には、教科書には載っていなくても積極的に whom を教える先生もいて、そうなると、生徒たちは、whom を教える先生のほうが上なんじゃないかなあ、いいなあと言い出しました。
whom を否定した先生を、むしろバカにする動きが生まれました。
あまり極端なことを言うと、揺り戻しがあって、かえって損をするという例かもしれません。

その先生の言いたかったことは、実は、方向として間違っていたわけではないとも思います。
ただ、断定は避けたほうが良かったですね。

英語も、日本語と同じように揺れています。
言語の変化は、常に誤用から始まります。
最初は間違った表現だったものが、使う人が増えれば、それも許容されます。
whom と who の使い分けのできない人が増えてくれば、目的格でも who を使って良いことになっていきます。
whom を使う機会は、ますます減っていきます。
実際、高校英語の教科書の中には、whom の代わりに who を用いても良いとされている教科書が増えてきました。

仮定法の場合、were の代わりに was を用いても良いということは、これはかなり以前から、ほぼ全ての教科書に書かれてあります。
今後、ますますwas に傾いていくことは、容易に想像できます。
しかし、「was を使っても良い」と「was を使わなければならない」の間の距離は、そう簡単に飛び越せるものではないと思います。
あるいは、話し言葉としては、もうかなり was に傾いているとしても、文章というものは、長期的に残るものです。
当然、were が使われています。
目に触れる英語として、were は、消えていません。
そのような状況下で、なぜ、その先生は、そんな断言をしたのでしょう。
根拠が知りたいです。

上のようなことをいろいろ話した上で、
「根拠を聞いてきてよ」
とその子に言うと、
「嫌だ」
と言われてしまいました。
「なんで?」
「根拠はなんだと食い下がって、怒らせたら、成績を下げられる」

おいおい。
そんなことをやりかねない印象のある先生の言うことなんか、最初から信じるなー。



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