たまりば

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2011年03月29日

話さない生徒




久しぶりに、美容室に行ってきました。去年の夏以来ですから、半年ぶりです。あんまり余計なことにお金を使いたくないけれど、身だしなみにも気をつかわないといけない仕事。美容室には、もう少し頻繁に行ったほうがいいかもしれません。

東京の客は、髪を洗ってもらうとき、「かゆいところありませんか」と問われても、「ないです」と答える。
大阪の客は、どこがかゆいか伝えることが多い。
先日、そんな実験をテレビで見て、なるほどなあと思いました。
もちろん、私も、かゆいところを伝えたことがありません。
これからも、たぶん、伝えないと思います。
そんなものは、後で自分でかきむしればいい。
いや、違うかな。

髪型のイメージは、正確に伝えないといけない。
これをきちんと説明するのはこちらの責任なので、一生懸命しゃべりますが、切ってもらっている間は、黙って雑誌を読んでいることが多いです。
例によって人見知り。
もう長く通っている美容室なので、美容師さんもほとんど話しかけてきません。
私のカルテには、「話さない客」と書いてあるかもしれません。

昔、個別指導塾で教えていた頃、ひと言も話さない小学6年生の男の子を教えたことがあります。
大手の集団指導塾に通っていて、算数の宿題の、わからないところだけ教えてほしい。
そういう依頼の、体験授業でした。
テキストは、応用問題のページの、しかも後ろのほうの超応用問題にばかりチェックが入っていました。
解けと言われれば解きますが、他の塾のテキストですから、こちらで教材研究や準備はできず、その場で、ホワイトボードに向かって、全力で解いていくだけです。
何をやっているかは語りながら解きますが、自然、言葉は少なくなりました。
「・・・という答えになったけど、あってますか?計算ミスとか、ありませんか」
私が質問すると、彼は、カバンから解答集を取り出しました。
持っているのなら、見せてくれと言いたいところですが、まあ最初の授業なので、私の力を試したい気持ちもあったのでしよう。
幸い、答えはあっていました。
それを確認すると、彼は、私が書いた図や途中式を黙ってじっと見ていました。
「何か、わからないところ、ありますか」
そう訊いても、彼は、黙ってじっと見ています。
やがて、ああそうか、わかった、という顔になり、ノートに書きだしました。
ノートを取り終わった彼に、
「・・・で、次は、どれですか」
私が訊くと、次の問題を指さします。
私は、ホワイトボードに向かって解き始めました。

こんな授業でいいんだろうか。
というより、これは、そもそも授業なのか?
私なりに疑問はありましたが、そのまま、彼は入会し、私を講師として指名し、そんな授業が続きました。
ふた月ほどして、彼のお母さんと会う機会がありました。
笑顔でお礼を言われました。
「スピーディーな授業で、息子は、先生のこと、とても気に入っております」
「・・・はあ」
「おかげで、塾の成績も上がって」
「・・・そうですか」
スピーディーも何も、ただ私が解いているだけで、解説も余談も何もないですから、そりゃ、速いですが。
しかし、このスタイルが気に入っている様子らしいので、もう変えることもできない。
そのまま、約1年、口数の少ない授業が続きました。
彼の譲歩としては、最初から、私に解答集を渡してくれるようになったことくらいです。
無言は、変わりません。
それでも、表情をみれば、おおよそのことはわかります。
無言でホワイトボードを見ている彼の表情は、コンピュータが砂時計を表示して沈黙している状態を連想させました。
理解できると、目に光が宿る。ぱっと顔が輝きます。
書いているノートを見ていても、彼の理解の程度はわかりました。
私の式を彼なりに少し書き変えていることがあり、そこは、私が、わかりやすいよう、くどいほど丁寧に解いたところである場合が多く、彼の省略の仕方は理にかなったものでした。
間違えているときは、私は、そこを指さします。
彼は、手を止めて考え込み、理解できると消しゴムで消して、正しく直しました。
図は、決して省略しません。
私の描いた図を完璧に模写していました。

ほとんどの授業では、生徒のほうがよくしゃべります。
小5・小6は、反抗期まっただ中。
「算数うぜー」
「学校うぜー」
「塾うぜー」
「親うぜー」
といったおしゃべりの洪水をかきわけながら、
「まあまあ、そう言わずに、これ解いてみましょう」
と、何とか解かせ、何とか解き方を理解させ、身につけてもらい、よし、今日も頑張ったね、という授業のほうが、あの頃は、むしろ多かったかもしれません。
そんな中で、週に1度ある、沈黙の授業。
何も語っていないのに、私のテクニックは、確実に彼に伝わっていると感じました。

彼は、通っていた塾内でクラスを上げ、上位クラスでも頭角をあらわし、志望校に合格しました。

あのやり方が正しかったのかどうか、今もわかりません。
他のやり方があったのかもしれません。
他の講師ならば、他のやり方をしたでしょう。
彼がそれを受け入れたかどうか、それで成績が上がったかどうか、今となっては、わかるはずもありません。

ただ、お望みならば、私は、そんな授業もやります。


写真は、神津島のウラシマソウ。2006年春撮影。
















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    この記事へのコメント
    名文と緊迫した授業風景。

    僕はそういう秀才タイプに出会ったことがないし、多分教える立場だったら僕は合わないので断ります。

    彼の将来が危ぶまれますね。
    Posted by ごめんね、岡ちゃん at 2011年04月10日 10:36
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