たまりば

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2018年04月11日

英語教育改革はどこまで有効か。


中学生の好きな科目第1位は、保健体育。
嫌いな科目第1位は、英語。
ある通信教育会社の調査結果だそうです。

嫌いな科目第1位は、数学ではないのですね。
数学は、案外固定ファンがいるからかなあ。ヽ(^。^)ノ
などと吞気なことを言っている場合ではなさそうです。
英語という科目が、中学生にそんなに嫌われていたとは。

昨年の都立入試の社会科で、日本・中国・韓国の世界競争力順位、英語力のアジア内順位、海外への留学者数を比較して記述をする問題がありました。
2005年と2011年のデータを比較すると、
◎世界競争力の順位
日本は19位から26位へ。
中国は29位から19位へ。
韓国は27位から22位へ。
◎英語力のアジア内順位
日本は28位から28位へと変わらず。
中国は15位から14位へ。
韓国は20位から7位へ。
◎海外への留学者数
日本は64,273人から35,731人へ。
中国は403,527人から650,632人へ。
韓国は100,800人から127,832人へ。

2011年のデータではもう古いのかもしれませんが、最新のデータがそれほど改善されている期待も持てないのが現状でしょうか。
こうしたことを踏まえ、今、英語教育に大ナタが振るわれようとしています。

とはいえ、このデータを示されてさえ、
「国がグローバル人材育成戦略を発表した理由を述べよ」
という記述問題で、
「日本人は、中国・韓国人よりも英語能力が高く、国際的に活躍している」
という記述をしてしまう子もいて、ちょっと待て、英語教育より日本語で書かれたデータを正確に読める教育のほうがまず必要だ、と焦ってしまうのですが。
このデータのどこをどう読むとそういう記述になるの?( ;∀;)


ともあれ、なぜ中学生は英語が嫌いなのでしょうか?
小学生では、「外国語活動」は好きな科目・活動の第3位なのだそうです。
ちなみに、小学生の好きな科目第1位は体育で、これは小学生も中学生も変わりません。

理由は想像できます。
小学生の「外国語活動」は、昨年度までは評価の対象ではありませんでした。
英語で楽しくゲームをしたり会話をしたり歌ったり踊ったりする授業で、特に評価はされません。
書いたり覚えたり、それをテストされたりすることはなく、「勉強らしさ」がない。
だから好きなのでしょう。
しかし、中学に入り、英語は「主要5科目」に位置付けられ、ペーパーテストがあり、評価されます。
そうすると途端に英語が嫌いな子が激増する・・・。

英語が小学校高学年で正式科目となり、評価もされる今後は、小学生も英語が嫌いになるかもしれません。
とりあえず、単語のスペルや簡単な文を覚えることが課せられ、そのペーパーテストが実施されるようになれば、英語が好きな小学生は今よりも減るだろうと予想されます。


今回の英語の教育改革の目玉は「読む・聴く・話す・書く」の4技能で英語力を測定するという新しい基準が打ち出されたことです。
それで大学入試も大きく変わると言われています。
今までのような英語教育は全否定されている風潮すらあります。

しかし、蓋を開けてみれば、2023年度まではセンター試験に代わる共通テストは相変わらず必須で、民間試験の活用は英語の得点の1割程度に抑える方向とのこと。
さらに、東大は民間試験を利用しないことを発表しました。
「聴く」に関しては、もう既に20年以上前からセンター試験には「リスニング」が課せられていますから、教育システムに組み込まれています。
「読む」「書く」は筆記試験主体の英語教育にとってはむしろ得意とするところ。
問題は「話す」技能が今後の入試にどう影響していくのか、です。

これはさすがにネイティブの講師のいる英会話教室の指導が効果的ではないか?
そういう大宣伝がなされている現状がありますが、大学入試における民間試験の活用が1割未満で、しかも4技能のうち「話す」はその4分の1ですから、「話す」能力が大学入試で問われる比率は、2.5%未満。
うん
結局、英語教育改革は、今の小学生は気にしなければならないけれど、中学生・高校生は、あまりそれに踊らされて先走り、読むことを軽視したりすると、むしろ不利になるかもしれません。

英語の授業の評価基準に「話すこと」がどの程度影響するのかは、推薦入試を目指している人にとっては大切でしょう。
話す能力が具体的にどのようにテストされ、それが成績にどの程度のウエイトを占めるか。
高校英語教科書は、今年度から前倒しで新指導要領を踏まえた内容に修正されています。
とりあえず、新しい「英語表現」の教科書は、過度に文法を強調することを避けるよう文科省から指導されているため、文法事項がまとめられていず散漫で、ゾッとするほど勉強しにくい構成になっています。
進学校の英語の先生たちがこの教科書をどう扱うか、注目されます。
今の大学入試は文法事項の重箱の隅をつつく問題は減りつつあり、実用的な英文や現代の評論を速読する能力を問われるものになっています。
それにあわせ、高校も読解に必要な英文法を教えるようになってきました。
日常会話レベルではない内容の英文を読み通すには、文法的把握をするほうが速く楽に読めるからです。
まして、知らない単語がかなり含まれている英文を読むような場合は。
高校英語の科目の名称が、今の「コミュニケーション英語」「英語表現」と変わったときも、リスニングと英作文で構成される「英語表現」の教科書を真面目にやっていたのは偏差値のそんなに高くない高校が多く、進学校は「英語表現」という名称の英文法の授業を行っていました。
科目を細分化し、週に1回は「英語表現」の教科書を使ったリスニングと英作文の授業を行い、英文法の授業も独立して行う高校も多かったです。
読むためにも話すためにも文法は必要だからです。
入試問題を解くためにも。
結局、今回も、浮わつかずに文法をしっかり教える高校が進学実績を伸ばすでしょう。
「話すこと」を学習に加えるのに異論はないのですが。


以前にもこのブログで書いたことですが、昔、勤めていた集団指導塾では3月に新中1英語準備講座を行っていました。
10人ほどのクラスでしたが、それでも参加者の英語力はバラバラでした。
中学受験の勉強に忙しく、英語は小学校の授業で少しやっただけの子。
中学受験はしなかったけれど、英会話教室に通っていた子。
中学受験はしなかったし、英会話教室にも通っていなかった子。
既に身についている能力と、教わったことをすぐに習得できる能力とが、バラバラなのでした。

当時、小学校の英語は書くことは全くやりませんでした。
中学入学に際し、最も不安な点はそこです。
だから、新中1準備講座は、とにかく英語を書いてみることが中心でした。
まず、アルファベットの大文字を書いてもらいます。
大文字を正しく書けない学力の子が、存在します。
次に、アルファベットの小文字を書いてもらいます。
中学受験生の中にも、小文字があやふやな子は存在しました。
しかし、彼らは、覚える勉強には慣れていますので、翌週には身につけてきます。
厄介だったのは、英会話教室に通っていて、英語には得意意識があるのに、小文字を書けない子が一定数いたことでした。
しかも、そういう子は、書けない文字は翌週も書けないままであることが多かったのです。

さらに単語のスペルの学習に進みます。
CDから流れる単語を聴き取って、そのスペルを書く学習でした。
「トマト」や「ピアノ」ならば、正しく書くことができても、「椅子」や「鳥」は正しく書くことができるようにならない子が存在しました。
幾度練習しても、スペルを覚えることができないのです。

中学受験生には、
「スペルは、本当は規則があるんだけど、その規則自体が複雑だし例外も多いので、今のうちは、1つ1つの単語のスペルをいちいち覚えたほうが早いよ。漢字を覚えるようなつもりで覚えよう」
と声をかけると、私の言いたいことをすぐ理解してくれて、子どもには不規則に感じるだろうスペルもどんどん書けるようになりました。
一方、英会話教室に通っていた子たちの表情は、このあたりから暗くなっていきました。
さらに授業が進み、「これは〇〇です」の文の練習になると、中学受験生は、もう英語学習の流れをつかんだ様子で、楽々と問題を解いていくようになります。
しかし、英会話教室に通っていた子たちの中には、幾度説明しても冠詞aを書くことが身につかない子が現れます。
音として聞き取れなくても、冠詞aは確実に言っているのです。
しかし、そういう無音のタイミングを聴き取れない様子です。
彼らには文法的にaが存在するはずという視点もありません。
さらには、「これ」と「あれ」の使い分けができないという問題も発生します。
英会話教室に3年間も通ったのに、確認テストで0点を取る子もいました・・・。

そして、新学期。
学力によって、クラスは2つに分かれます。
中学受験生は、全員、上位クラスに入りました。
英会話教室に通っていた子は、上のクラスに入る子もいますが、下のクラスに分けざるを得ない子もいます。
そして、下のクラスに分けられた子の中には、塾を退会したいと言い出す子が現れます・・・・。
結局、無理に上のクラスに置くことで退会を思いとどまってもらうしか引き留める方法がありませんでした。

勉強が上手な子が英会話教室に通っていたのなら、問題ないのです。
そのまま、中学のペーパーテストでも高得点を取り、発音がいいので英語の先生にほめられ、ALTの先生とも会話が弾みます。
ますます英語が好きになります。

でも、どこにでも、不器用な子はいます。

英会話教室は楽しいのです。
英語のあいさつ。英語の歌。英語のクイズ。英語のリズム体操。
デジタルデバイスも沢山触われる。
英語の動画。
英語のゲーム。
とても楽しい。
ああいうのが、英語。
楽しいのが、英語。
小学校の英語の時間も楽しかった。
クイズやゲームがいっぱいあった。
ああいうのが英語。
中学の英語は楽しくない・・・。

中学校の英語も、勿論、授業中に音読したり聴いたり話したりということは盛り込まれています。
しかし、テストは筆記試験とリスニングです。
リスニングの割合は多くて2割。
8割は筆記試験です。
単語のスペルが覚えられないようでは、中学の定期テストで良い点は取れません。

一方、中学校の英語の授業で話すことに力を入れて、「Show and Tell」の授業などをやることもあるのですが、全員にスピーチ原稿を書かせ、その発表会を行っていたら、たちまち1か月経ってしまいます。
2か月進度に動きのなかった学校もあります。
結果、学習進度が大幅に遅れ、中3の12月なのに教科書は半分も進んでいなかった学校も昨年度ありました。
12月なのに、分詞も関係代名詞も学習していない。
塾に通っている子は、もう夏期講習の頃には中学で学習する英語は終わっていますからいいですけれど、塾に行かずに勉強している子は、12月の段階で入試の英語長文を読むための重要な文法事項を知らないのでした。
やり方にも問題があるのでしょうが、あれもこれもと「4技能」を詰め込まれても、学校の授業時間数には限りがあります。
これでは、筆記試験が主体の現在の高校受験で良い結果が出せなくなるかもしれません。
「話すこと」に踊らされず、それはそれとして、読解と筆記試験の学習をコツコツと深めていく子が高い成績を維持することは変わらないと思います。

学校の5段階評定に「話すこと」のテストが大きく影響するようになればまた別なのです。
しかし、実技系4教科のように、英語もペーパーテストよりも実技点のほうが大きく影響するようになるとは想像しにくい。
「話すこと」の実技テストが加わるとしても、そこで点差が大きく開くことはないでしょう。
現在の英検の1次試験に合格する子の大半は、2次試験に合格します。
「話すこと」の評価基準が低いからでしょう。
あるいは、「読む」「聴く」「書く」がそこそこ出来る子は、少し練習すれば「話す」テストに合格する実力は育っているということでもあります。
リスニングも、高校受験レベルでは、余程不得意な子を除いて、点差の開かない分野です。
全体に易しいですから。
結局、点差が開くのはペーパーテストで、勝負どころはそこです。

都立高校の英語入試に「スピーキング」が加えられるという情報はありますが、具体的な話はまだ一切見えてきません。
どのように形で試験するのか、これから議論するという段階です。
試験的実施すら何年先の話になるのか見当もつきません。
5年後もまだ完全実施には至っていないかもしれません。
今の小学生は気にしたほう良いですが、今の中学生・高校生は「4技能」という情報に惑わされて勉強の方向を間違えると、むしろ英語の成績が下がる結果になりかねません。
今まで通り、英語を読んだり書いたり聴いたりする勉強をコツコツ続けることに加えて、スピーキングも視野に入れていく勉強をしていく必要があると思います。

時代は変わりました。
子ども向け英会話教室も、お遊び教室ではなくなっています。
英検に合格できる英会話教室であることが1つの指標になった感があります。
英検3級ですらライティングのある時代です。
英会話教室も、「聴く」「話す」だけでなく、「読む」「書く」の学習に力を入れるようになりました。
それでも、
「週2回も英会話教室に通っているのに、成績は4止まり。やっぱり筆記試験に弱い」
「英検タイプの問題には強いけれど、それに特化しすぎて、学校の定期テストで高い得点が取れない」
と、今もうちの塾に問い合わせがあります。
一方、学習塾も、「読む」「聴く」「書く」だけでなく、「話す」学習の強化を行っています。
うちの塾も、毎回90分の中の一部として、英検の模擬面接を本人の実力にあわせて行っていきます。
英検受検時には、ライティング対策にも時間をかけています。


いつから英語を学ぶのか。
どこで学ぶのか。
正解は1つではないと思います。

ただ1つ言えることがあります。
勉強が好きな子は、英語教育がどう変わろうと今も昔もあまり問題がないのです。
「先生、英語って簡単じゃね?」
そんなふうに言います。
「まあねえ。でも、じきに、泣くほど難しくなるよ」
「・・・・泣くほどか」
そう言って、笑っています。

難しいことは、難しいから、面白い。
勉強は、勉強すること自体が面白い。
それを知っている子は、もう、一生大丈夫なんです。
  


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