たまりば

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2012年10月04日

大脳の消費カロリー 


集団指導塾に勤めていた頃、生徒たちが塾にお菓子を持ち込むのが悩みの種でした。
塾は飲食禁止と注意しても、なかなか言うことを聞きません。

「センセイ、知らないの?大脳は、すごくカロリーを消費するんだよ。お菓子を食べながら勉強すると、頭が良くなるんだよ」
そんなことを言います。

・・・・・何だ、それ?

複数の生徒から情報を入手してわかったことは、その当時流行していた『デス・ノート』の登場人物に、お菓子ばかり食べている天才がいる、ということでした。

『デス・ノート』って・・・・・。
『デス・ノート』って、マンガでしょう?
フィクションでしょう?
キャラクターを際立たせるために、そういう設定にしてあるだけでしょう。
なんで、そんな話を鵜呑みにしているんだろう。

「大脳はすごくカロリーを消費する」

その「すごく」が曲者です。
何と比べ、どのくらい「すごく」なのか、子どもたちは、実は何も確認していませんでした。
ただ、「すごく」消費する。
頭からそれを信じているのでした。
・・・・・・そんなふうだから、あなたたちは、勉強ができるようにならないんだよー。
心の中で絶叫しました、私は。
何でも鵜呑みにせず、本当かどうか、確認しようよー。

勉強をすると、大脳は、それ以外のことをしているときと比べて、どれくらいカロリーを多く消費するのか。
そのことに関しての、明確なデータはないようです。
それは、そうですよね。
身体の全ての器官をコントロールしているのが大脳。
多岐にわたる仕事を同時にこなし、常に機能しています。
勉強している分の消費カロリーなんて、どう区別していいかわかりません。
大脳は、もともと多くの仕事をこなしている器官ですから、消費カロリーが多いのは、当たり前の話。
逆に言えば、勉強したからといって、そんなに過剰に消費カロリーが増えるものではないと感じますが。

運動部を引退した中3男子は、多くの場合、入試までに5㎏程度は体重が増えます。
あんなに一所懸命勉強していても、太ります。
体重は増える一方です。
運動不足には勝てないんです。
女子は体重を気にしますから、それほどの増減はありませんが、男子は、食べ盛りですし、高校に入ったらまた運動部に入って身体をしぼるつもりでいるので、体重増加に無頓着なことが多いです。
毎年、そういう実例を多数見ている私には、大脳がカロリーを「すごく」消費するなんてのは、実感からは遠い話です。
そもそも、頭を使えば痩せるなら、私だってもう少しは痩せていますよ。

勉強するしないはともかく、一説によれば、大脳は、身体が消費する全カロリーの20%程度を消費するとのことです。
ということは、1日に500kcal程度ということでしょうか?
確かに、少なくはないですよね。
大脳1つがそんなに消費するというのは、「すごく」消費する、と言えなくはない。
だけど、頭を使えば使うだけ、無限に何千kcalと消費するというのは幻想でしょう。
チョコレート1箱は600kcal以上。
大脳のような精密な器官が、チョコレート1箱で1日動くのだと思うと、逆に、すごく燃費がいい気もします。

そういう話を生徒にしますと、
「でもでも、センセイ、大脳は、ブトウ糖しか消費しない、贅沢な器官なんだよ」
と、一応知識の裏付けのあることを言う子もいました。
「血糖値が下がると、だから、勉強できなくなるんだよ」

・・・・・・・へえ。

確かに、大脳は、「ブトウ糖しか消費しない」でしょうが、ブトウ糖というのは、別に、そんなに珍しく貴重なものではなく、身体中に普通に存在するものです。
ご飯もパンも麺類も、炭水化物は、消化・吸収されて、血液中のブトウ糖になる。
そして、血液中の余分なブドウ糖は、肝臓がたくわえる。
だから、血糖値が下がれば、また肝臓からブトウ糖は放出される。
健康体である限り、そんなに心配しなくても、血糖値は正常に保たれます。
勉強している間、お菓子を食べ続けて、糖分を補給し続けなくてはならない、というほど、健康な人間の身体は、自転車操業的なものではないでしょう。
普通に規則正しく食事をとっていれば、血糖値は安定し、大脳に必要なブドウ糖は、いきわたりますよ。
むしろ、お菓子ばかり食べて、血糖値をドカンと上げたら、肝臓が急いで血糖値を下げるので、逆に頭がぼんやりしてしまう可能性だってあると思います。

そういえば、私は『3月のライオン』というマンガが好きなのですが、あのマンガに出てくる天才棋士も、対局中にブトウ糖をガバガバ摂取するという設定です。
でも、そのコミックスに掲載されている、本職の棋士のエッセイによれば、対局中は食欲がわかないし、そんな余裕もないので、あまり食べない棋士のほうが多いらしいです。
現実は、そういうものですよね。

天才の脳が、どれくらいのカロリーを消費するかは知りません。
しかし、糖分をたくさん摂ったからといって、そもそも、我々の脳が、天才のように動くわけではない。
私たちの脳は、私たちが普段使うようにしか動かない。
糖分を摂ったからといって、頭が良くなるわけではないです。

かえって心配なのは、朝食を食べない子。
夕食を食べた後、朝食を抜いて、昼食まで何も食べないとなると、18時間くらい経ってしまいます。
さすがに血糖値が下がるでしょう。
だから、朝食を抜いたら、午前中はぼんやりして、学校の授業が頭に入りません。
そういうことのほうを心配してほしいです。
お菓子より、普通のご飯を、バランスよく、きちんと食べましょう。


塾業界で伝わってきた、風の噂があります。
埼玉のある予備校が、自習室に無料のドリンク・バーを設置し、勉強しながら、コーヒーやジュースを自由に飲めるようにしました。
もちろん、お菓子の持ち込みも自由。
しかし、無料になると、扱いが雑になるのが、子どもの常です。
好き勝手に飲み、飲み残し、こぼす。
自習室は、たちまち荒れました。
そして、その予備校の生徒たちの学力は、目に見えて落ちていったそうです。

頭が疲れたとき、甘いものを食べると、確かに、少しすっきりします。
しかし、それは、節度を保って、ほんの少量摂れば済むこと。
食糧事情の悪かった戦中・戦後の人たちが、私たちより頭が悪かったとも思えません。
気力で補えるレベルのことを、大げさに言いたてたり、あやふやな情報を鵜呑みにすることを、むしろ反省したほうが良いように思います。
  


  • Posted by セギ at 14:34Comments(0)講師日記