たまりば

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2012年03月08日

山が見える



「日本のとある町で」となっている、ダイハツ「第3のエコカー」のCM撮影地は、山梨県だそうです。
最新CMでは、高台にドライブしているので、ああ、本当だ、甲府盆地だとわかります。
カメラが少し横に振れたら、南アルプスや、富士山や、金峰山が見えるでしょう。
それでも、一番地味な山塊を気持ちよさそうに眺める登場人物たち。
彼らが見ているのは、大蔵経寺山かな?
上の画像は、甲府盆地から見上げた、南アルプス北岳です。
実際は、こんな山が見えるのに、CMに映っているのは、あれです。
ある意味、贅沢です。

CMといえば、もう5年ほど前になりますが、クリームシチューにサツマイモを入れるのもいいんじゃないか、と提案するCMがありました。
サツマイモ農家の方が、広大なサツマイモ畑から、そのようにおっしゃるわけですが、その背景に映っていたのが、見事な円錐形の山でした。
うわあ、開聞岳だ、かっこいー、と私はいたく感激しました。
サツマイモ。
開聞岳。
それでは、あの撮影地は、鹿児島県。
知識として頭の中にあることが、見事に1つの映像の中でつながる。

サツマイモ・・・・鹿児島県

この無味乾燥に思える知識の断片が、生きているものであることを実感する瞬間です。

その前年には、たしか、クリームシチューにキャベツを入れたらいいんじゃないかという提案がされたんです。
広大なキャベツ畑。
その後ろにも、山が映っていたはず。
その山は、浅間山だったのか。八ヶ岳だったのか。
うーん、そのときは、きちんと確認しなかった。
悔やまれます。

当時、中3に社会科を教えていた私は、早速生徒たちにこの話をしました。
でも、まあ、反応の薄いこと、薄いこと。
この先生、いったい何にそんなに感動しているわけ?
シチューのCMの後ろの山なんかどうでもいいよー。
声なき声が聞こえてきました。(^_^;)

問題は山ではないんです。
山はその土地がどこかを確認するためのもので、要するに、サツマイモは鹿児島だし、キャベツは群馬・長野。
教科書に書いてあることは、本当にそうなんだということ。
教科書に堂々と書いてあるほどの産業が、どれほどのパワーを持っているものか。
そこまで突出するには、どれほどの時間がかかったか。
どれほど多くの人の労苦があったか。
それに感動しないから、地理の重要事項を覚えられないんだよー。

スーパーに行けば、高知のナスやピーマンを売っている。
和歌山や愛媛のミカンを売っている。
本当にそうなんだということ。
教科書に書いてあることは、本当なんだということ。
教室で勉強していることが、日本中と、世界中と、つながっているということ。

それが地理を学ぶ喜びだと思うんです。
しかし、何だか漠然と生きている中学生たちには、これはなかなか伝わりません。
暗記すべき重要事項や知識の断片に興味を持てず、覚えられない、覚えられない、とこぼします。
フカフカのタオルで顔をふいて、いいタオルだなあと思い、ふとタグを見ると、「今治」と書いてある。
「タオル・・・今治」を覚えていれば、その瞬間の感動を共有できるのに。

教科書や参考書は、この世界を知るガイドブック。
「教科書に載っていないこと」を知ろうとするのもいいけれど、まず、「教科書に載っていること」を知ってほしいと思います。
それは、本当のことで、現実とつながっている。
ここに、リアルがある。
社会科を学ぶ意味も、社会科を学ぶ喜びも、そこにあるんだと思います。
  


  • Posted by セギ at 12:21Comments(0)講師日記